2008年1月25日

サー・ローランド・ハナ (その1)

ぼくの叔父さん:Sir Roland Hanna (1932 2.10- 2002 11.13)

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OverSeasの壁に飾ってあるサイン入り譜面&写真

《ハナさん》
 寺井尚之ジャズピアノ教室の発表会が目前に迫り、色々準備に追われているうちに、むしょうにハナさんのことを書きたくなってしまいました。ハナさんというのは、デトロイトが生んだ屈指のピアニスト、サー・ローランド・ハナのことです。
 ちなみに、寺井尚之はいつも「ハナさん」と呼び、ハナさんは「ヒサユキちゃん」と呼んだ。私は「Sir Roland」と呼び、Sir Rolandは「タマエ」に「ちゃん」はつけてくれなかった...

  生前のハナさんは、ジャズを懸命に学ぼうとする寺井の生徒達に、強いシンパシーを感じてくれていた。
 「来年ここに来る時には、ヒサユキちゃんの生徒たちのために、絶対に講演会をする!私はピアノ奏法でなく、音楽の精神について語りたい。ちゃんとセッティングをするように!」と申し渡されましたのですが、同じ年の秋、中山英二(b)さんとの日本ツアー中、体調を崩し、そのまま帰らぬ人となった。だから発表会の時期になるとハナさんのことを一層強く想う。

《プロフェッサー》 
  ハナさんは壮年期にNYクイーンズ・カレッジで精力的に教鞭を取り多くの音楽家を育成した。ジェブ・パットン(p)、YAS竹田(b)もクイーンズ大出身だ。
教室のハナさん大学教室でのハナさん。

 ハナさんは中山英二(b)さんや青森義雄(b)さんと言った日本人ベーシスト達を深く愛した。お二人にとって、サー・ローランド・ハナは"父"のような存在だったろう。一方、トミー・フラナガンを"父"とする寺井尚之にとって、ハナさんは、文字通り"叔父さん"で、ハナさんも"甥っ子のヒサユキちゃん"として寺井尚之を見守ってくれた。トミーの身辺に何か事件が起こった時、ニュースはしばしばハナさんからもたらされた。トミーの心の秘密を教えてくれたのもハナさんだった。ただし、寺井がピアノを教えてくださいと頼んでも、「私から君に教えることはもうない。」と言ってレッスンをしてくれることはなかった。その代わりに、音楽家としてあるべき姿勢、人間として人生に立ち向かう姿勢というものを、身をもって示した巨匠だと思う。

  サー・ローランド・ハナ=ハナさんは、デトロイトの公立高校、ノーザン・ハイスクールでトミー・フラナガンの2年後輩だ。クラシック一辺倒からジャズの道に入ったきっかけは、学校の講堂にあるグランド・ピアノで、アート・テイタムやバド・パウエルそのまま(!)に弾くトミー・フラナガンだった。卒業後、フラナガンがジャズの現場で"ミーン・ストリート"として名を成した"叩き上げ"派であったのに対し、ハナさんはノーザン高からカス・テックと呼ばれる専門学校に編入、2年の兵役の後、NYの名門ジュリアード音楽院でクラシックを勉強しながら、夜はクラブでジャズをプレイした"学究派"だった。
hanna-1.jpg

《いらち》
  ハナさんの性格を関西弁で言うなら"いらち=苛ち"の一言。標準語なら"せっかち"です。何でもさっさとする。ごちゃごちゃ言わない。時間に正確で、規律を重んじる。来日ツアーにラモナ夫人を同行した時、夫人が送迎車を待たせ、少女のように周りの風景を見回っていると、ハナさんは、あの特徴のある眉を曇らせ、俳優の志村喬のように低い声で、送迎スタッフ全員に丁寧に詫びた。
 「皆さん、どうかラモナを許してやって下さい。あれは一般人で、団体行動というものを知らんのです。」ラモナさんは、ただ2-3分そこら辺を見回っていただけなのに...。
  トミーは対照的に、常に些細な問題には超然としていた。ダイアナが誰にケンカを吹っかけようと、何を落として割ろうとも、「良きにはからえ」と知らん顔。
  だけど、二人とも、一旦「No!」と言ったらテコでも動かない頑固なところはそっくり!

  音楽について何か質問すると、トミーは、ボソッと一言答える。こっちはずーっとその意味を考えて、数年後に「ああ!こう言うことやったんか!」と膝を打つ。ハナさんは即答!徹底的に詳しく回答してくれたので、私はハナさんに何か尋ねる際はノートとペンを横に置いておく習慣を身に着けたほどです。だけど、二人の答えはどちらも、当たり障りのないものでなく、奥が深かった。

《ピアノ・タッチ》
  ピアノのアプローチも然り、ハナさんはフラナガンに比べて、胸がキュンとなるようなエモーショナルな表出をした。寺井尚之はこれを、"デトロイト・バップ・ロマン派"と呼ぶのだけど、タッチの美しさとほとばしるパッセージには、圧倒的な美しさがある。
  ハナさんとトミーがOverSeasのピアノを弾いた後は、異様にピアノの鳴りがよくなって、川端名調律師と寺井尚之が愕然とする。私には、ピアノがハナさんやトミーが鳴らしてくれた音色の快感を覚えていて、自分で、その歌をもう一度歌おうとしているようで、いじらしい。
 寺井+川端さんチームの科学的な分析によれば、二人ともタッチが研ぎ澄まされていて、常に鍵盤上で一番良くサウンドするツボに指がヒットする。おまけに、88鍵をフルに使う為、ピアノの弦を叩くフェルトの全ての溝が非常にクリアになっている為なのだそうです。

《クラシカル》

  デトロイトの豊穣な音楽的環境を背景に、フラナガンの音楽のキーワードが"Black"であったのに対し、ハナさんはジョン・ルイス(p)のようにクラシックとジャズの境界線取り払うアプローチをした。ハナさんにとって、アート・テイタムとアルトゥール・ルービンシュタインは、同一線上のアイドルだ。日本の大プロデューサー、石塚孝夫氏の製作した"24のプレリュード集"(bass:George Mraz '76/ CTI)は、その意味で歴史的名盤なのに、今は廃盤になっているらしい。信じられません。

《Soul Brothers》
   大きな共通点と対照的な面を併せ持っていた二人は、終生、兄弟のように付き合った。勿論トミーが兄で、ハナさんが兄想いの弟だ。フラナガンの出演するジャズクラブで、騒々しい酔っ払いに激怒するダイアナをなだめるのも、最高の掛け声でプレイを盛り上げるのもハナさんだ。
 「ジョージ・ムラーツ(b)やルイス・ナッシュ(ds)、私が良い若手を見出して育てたら、トミーがいつも横から持っていっちゃうんだよ。」ハナさんはボヤいていた。まるで、お気に入りの野球のグラブを兄に横取りされた弟みたいに。


Reflections On Tommy Flanaganハナさんがトミーの死後作ったトリビュート盤、Reflections On Tommy Flanagan "Cup Bearers"で寺井尚之が使うリフを入れてくれている。

 トミーの未亡人、ダイアナ・フラナガンはハナさんが亡くなった時に、ふとこんな風につぶやいたのが忘れられない。
 「あの二人には、何か尋常でない深いつながりがあったのよねえ。生まれ月も命日も近いし。おまけに、直接の死因も心臓疾患だったってラモナ(ハナさんの奥さん)が言ってたのよ。私には、それがどうしても偶然だとは思えないの...」(トミーは'30 3.16-'01 11.16)

  ハナさんが亡くなって早6年、仏教なら今年が七回忌。うちの教室もハナさんを知らない生徒達が大半となっている。ダイアナの希望で、3月と11月の年2回、トミー・フラナガン・トリビュート・コンサートを開催しているために、現実的にハナさんへのトリビュート・コンサートが出来ないことや、ハナさんが遺した名盤の殆ど廃盤になっていることも一因だろう。ハナさんのことを覚えておいてほしい!忘れて欲しくない!!

  次回のハナさんの章では、ハナさんに馴染みのない皆さんに、私が書き留めたハナさん語録も交えつつ、どんな人生を歩んだ人だったかを紹介しようと思ってます。

CU

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コメント(4)

ごきげんよろしゅう

いつもながら、tamaeさんの書かれる文章は素晴らしいです。フラナガン氏にもハナ氏にも、深い尊敬と情愛のようなものが伝わってきます。

男の隠れ家「ジャズを巡る旅」にて、overseasの店内を拝見させて頂きました。天井が高くて、明るくて、とても素敵な空間ですね。

今年こそ、JAZZ仲間を連れてoverseasで寺井さんのピアノを聞きたいです。(やはり、名古屋のジャズ文化は希薄です… トオホ)

 ヤッホー! あきじんさま

 こんなところにお越しいただき光栄でございます!

 名古屋のお客様は、ライブや講座でも昔から常連様が多いですし、かなりジャズ人口が多いのではないでしょうか。

 むさくるしいところではございますが、ぜひぜひ一度いらしてください。道順はNaimaさんがよくごぞんじです。心からお待ち申しあげます。

私が最も聴き親しんでいるハナさんの演奏と言えば、サラ・ボーンの「Crazy and mixed up」です。とくに好きなのが「That's all」でのわくわくするようなソロ。私にJazzの楽しさをストレートに教えてくれた1曲です。

次回のお話も楽しみにしております!!

 レゲエ派のtubbyさんが、ハナさん好きとは知りませんでした。
 「Crazy and mixed up」は、私も大好きなアルバムです。竹を割ったようなスカっとしたソロですよね!

 ハナさんは旧店舗のOverSeasのランチタイムに何度も来られています。ロン・カーターや、ジミー・ヒースのビッグバンドのメンバーを10人くらい引き連れて来たこともありましたが、遭遇されませんでしたか?

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