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2008年08月22日

My Ship:フロイト的「女心の歌」 

寺井珠重の対訳ノート(12)

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  先週のメインステムのライブは楽しかったですね! フィンガー・シンバルや、オーラ・チャイムという棒状のパーカッションがツボにはまり、OverSeasにミントの香りが溢れ、涼しくなりました。MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)を聴いて寺井がヒントを得たらしいけど、両方ともチベット由来のもので、あの涼しいサウンドで悪いオーラが一掃されるらしい!
 因みに、あの可愛いフィンガー・シンバルは、ヨガ教師である宮本在浩(b)夫人の愛用の品です。
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 ケニー・ド-ハム(tp)の"Lotus Blossom"(睡蓮)や、ホレス・シルヴァー(p)の“Summer in Central Park”など、この季節ならではの筋の通ったハードバップもよかったけれど、私の大好きな唄、"My Ship"が聴けました。

『私のお船』

  寺井尚之のアルバム『Yours truly,』のヴァージョンも大好きですが、今はもっと肩の力が抜け、大海原を表現するグリスもずっとしなやかです。
 
 作詞はアイラ・ガーシュイン、作曲はドイツ生まれのクルト・ワイル、アイラが、弟のジョージ・ガーシュインの死後、2年のブランク後、ブロードウェイにカムバックした最初の大ヒットです。
 歌詞は確かに、幼い女の子のファンタジーのようでありながら、曲想は洗練された大人、まるでベビー・フェイスのグラマー女優みたいに不思議な魅力をかもしだしている。

 だから、歌い手は小娘じゃダメ! サラ・ヴォーンや、アニタ・オデイといった「大人」の歌手がサマになる。アニタ・オデイは、ステージで歌っているのも聴いた事があるし、何度もレコーディングして愛唱している。

何でなんやろう?

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『歌のお里』

 そこで、歌のお里を辿ることにしました。ジャズ・ミュージシャンが演奏するスタンダードのお里は、映画やブロードウェイが多く、街で流行っているものを、どんどん料理してジャズにしたので、お里を辿ると、「えーっ!こんな陳腐な唄だったの!?」とがっかりすることもあります。

  さて、マイ・シップが船出した港を調べたら、1940年、ブロードウェイのアルヴィン劇場で大ヒットした“Lady in the Dark”というミュージカルでした。原作は“ブロードウェイのプリンス”と呼ばれた当代一の劇作家モス・ハート、主演は英国出身の名コメディー女優ガートルード・ローレンス、まだ無名だったダニー・ケイがゲイのフォトグラファー役でブレイクしました。3年後に、ジンジャー・ロジャーズ主演で映画化された。
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『Lady in the Dark』
 ストーリーは、ファッションの世界や、キャリア・ウーマンに、サイコセラピーが絡む都会派トレンディ・ドラマ。    主人公リサは、一流モード雑誌の美人編集長で、妻のいる雑誌社の社長と同棲中。仕事は出来るし、崇拝者も多い。恋人の社長は、妻と離婚の段取りをして、ポロポーズしてくれたのに、何故かリサはうつ状態になる。    そこで彼女は、精神分析医にカウンセリングを受ける。医者は、彼女の深層心理を探るべく、子供の時によく歌った童謡をもう一度歌わせようとするのですが、どうしても途中までしか思い出せない歌がある。実は、リサのノイローゼの原因はそこにあった。「思い出せない歌」の中に彼女の心の秘密が隠されていたのだ…    そうなんです!その歌こそ「マイ・シップ」! サブテーマとして、劇中、何度も断片的に登場します。それはリサが、潜在意識の元で思い出すのをためらっている夢、抑圧されたリサの恋心の象徴だったというのがオチ。    結局、リサは、自分が本当に愛する男性は、社長ではなく、いつもケンカしていた社内のPRディレクターだったことに気がついたとき、その歌は心の中に完全に蘇って、リザが大らかに歌う「マイ・シップ」がフィナーレとなります。


Gertrude_Lawrence_mw70797.jpg  ブロードウェイで主演したガートルード・ローレンスは英国出身の名女優で、映画、演劇を通じて大スターだった。ミュージカル「王様と私」が亡くなる直前の最後の主演作で、当時全く無名だったユル・ブリナーを主役に推したのも彼女だったんです。

○ ○ ○ ○ ○ ○

なるほどね!どうりで、イノセントな詞に、洗練された品格のあるメロディがついていたのだ! 
  「マイ・シップ」の海は、海深層心理の象徴で、船は「本当の自分」だったのですね。
 心待ちにする「私のお船」、宝船の財宝も、「唯一人の恋人」が一緒に船で来なければ、船なんていらないという歌詞は、劇のストーリーが集約されていて、しかも、ストーリーの俗っぽさは消えている。これこそ、アイラ・ガーシュイン!改めてアイラならではの作詞の力を思い知りました。

マイ・シップ
私のお船は絹の帆で、
デッキは金の縁飾り、
船倉は ジャムにスパイス、パラダイス。

私のお船はたくさんの、
真珠でキラキラ光ってる、
宝の箱には、
ルビーがぎっしり詰まってる。
船が港に入る頃、
サファイヤの空に、
陽は沈む。


何年でも待ちましょう
いつかお船がやって来る
うららかな春の、その日まで
でも、もしも一番大事なものが
お船に積まれていなければ
真珠も何もどうでもいい


私の唄うのその船に
もし本当の恋人が
一緒に乗って来ないなら、
船のことなど心配しない、
そんな夢など要らないの。



私の唄うその船が
私だけの本当の恋人を、
一緒に連れて来なければ。

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My ship has sails that are made of silk-
The decks are trimmed with gold-
And of jam and spice
There's a paradise
In the hold.

My ships's aglow with a million pearls,
The rubies fill each bin;
The sun sits high
In a sapphire sky
When my ship comes in.

I can wait the years
Till it appears-
One fine day one Spring.
But the pearls and such,
They won't mean much
If there's missing just one thing:

I do not care if that day arrives-
That dream need never be-
If the ship I sing doesn't also bring
My own true love for me -

If the ship I sing
Doesn't also bring
My own true love for me.


 歌詞を読んで、ぜひ寺井尚之の演奏するMy Shipを聴いてみてください。ピアノなのに歌詞が聴こえて、無垢な心と、大人の洒落っ気が聴こえます。  CDでも!OverSeasのライブでも!

CU
 

 


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