2009年4月27日

光と影のスプリング・ソング:Spring Can Really Hang You Up the Most

寺井珠重の対訳ノート(15)

 皆さん、ゴールデン・ウィークのプランは立てましたか?OverSeasは4/29(水)と、5/5(火),6(水)はお休み、それ以外は通常営業です。大阪にいらっしゃるなら、ぜひお立ち寄りくださいませ!

 実を言うと、私の連休はゴールドじゃなくてブルーです。講座本の次号に掲載する対訳の整理など、今まで先送りにして来たタスクが山積み... そんな私には、先週、The Mainstemが聴かせてくれたバラード、『Spring Can Really Hang You Up the Most』が胸に沁みました。

 講座と違いライブでは殆ど何もおしゃべりしない寺井尚之がボソボソ紹介した"スプリング・キャン・リアリー・ハング・ユー・アップ・ザ・モスト"というタイトルは、よく聞こえなかったかも...逆に演奏はボソボソどころか、三人の音色がクリアで気持ちがよかった!

 日本人の私には長たらしく意味不明のタイトルが憂鬱!"Hang ~ up"というのは、「いやな気持ちにさせる」とか「気を滅入らせる」と言う時のインフォーマルな表現なんです。
   そこで、日本語で説明を試みるが、やっぱり長たらしくなっちゃう...
「(一般的に楽しい季節とされている)春は、状況次第で、最も滅入り、打ちのめされた気分になる場合もある。」 ほらねっ。

<ビートニク系作詞家 フラン・ランズマン>
franhag.jpgピアノの前に座っているのがTウルフ、ピアノの上に座っているのがFランズマン

 作曲はトミー・ウルフ('25~'79)、作詞はフラン・ランズマン('27~)、ジャズ講座対訳係りにとっては、むしろこの歌詞の方が「気が滅入り打ちのめされる」悩ましいものです。ランズマンはNYのアッパー・ウエスト・サイドの都会育ち、結婚後移り住んだ街セント・ルイスで、NYのセンスを生かし、夫の一族とキャバレー経営をして成功しました。作曲者のウルフは、ランズマンのキャバレー"クリスタル・パレス"でピアニストとして演奏する傍ら、せっせと曲を共作し、店の演目にして人気を博したそうです。"クリスタル・パレス"には、ウディ・アレンやバーブラ・ストライザンドなどNYの一流エンタテイナーが出演し、客席にはジャック・ケルロアックやアレン・ギンズバーグといった、ビートニク詩人達や映画スターなどセレブが集う、ポップ・カルチャー最前線のナイトスポットでした。

Fran_landesman.jpgランズマンはその後、英国に渡り作詞家、詩人、歌手、タレントとして長年活躍。アルコールやドラッグに浸るビート的私生活を暴露した息子の本も話題に。

<それはシアリングのクチコミから始まった>

george_shearing.jpeg  この曲をNYのジャズ・シーンに広めたのは、寺井尚之のセカンド・アイドル、ジョージ・シアリング(p)でした。彼が"クリスタル・パレス"に出演した際、この曲をすっかり気に入ってテープに録り持ち帰り、「ヒップなネタがある」と、NYの仲間にせっせと聴かせた結果、都会派の"ジャッキー&ロイ"やボブ・ドローといった白人アーティストたちがこぞってレパートリーに加えました。'59年にはブロードウェイの『ザ・ナーバス・セット』というショウに、この曲がフィーチュアされました。その時演奏に参加していたギタリストがなんとケニー・バレルです。ショウはあっという間にコケましたが、この曲はスタンダードとして残り、ケニー・バレルのコンサートで聴いたことを覚えています。

<T.S.エリオット、ビートニク風味?>
 ランズマンが語るところによれば、"Spring Can~"は大詩人、T.S.エリオットの代表作「荒地」に出てくる極めて有名なフレーズ「四月は最も残酷な月(April is the cruelest month)」のヒップな解釈とあります。確かに、「冬」を「死」のメタファーとして使ったりするところは、そうなのかもしれませんが、同じポップ畑のリチャード・ロジャーズ+ロレンツ・ハートの名曲、"Spring Is Here"(これも先週The Mainstemが演りました。)を引き合いにするよりも、セントルイスから英国に渡り、文豪となったT.S.エリオットの方が、ずっと「付加価値」が付くと計算したのかも...
<サムライ、ビート詞を斬る>

 ランズマンの歌詞は、ヴァースの後にたっぷり2コーラス、たしかに都会的だしウィットもあるけど、歌詞だけだと、ヴィレッジ・ヴォイスに載ってるエッセーみたいに「喋りすぎ」の感じがします。でもそこにトミー・ウルフのメロディとハーモニーが加わると、春の陽光と影がうつろう極上のバラードになるのが、「詩」でなく「詞」のいいところですよね。

 The Mainstemはヴァースからテーマを1コーラス、聴く者の心をわし掴みにしたままアドリブに入ってサビの途中からエンディングまで2コーラス!ほんとに息を呑む仕上がりでした。

 その基になっているのが『サンタモニカ・シヴィック』の名演。ここでエラ&トミーは、上等の鮨屋さんが天然鯛をさばくように、歌詞の無駄をバッサリ切り捨て、エラのサウンドがさらに良くなるよう、言葉を大幅にデフォルメしています。最初私は、ライブ音源なので、「エラはまた歌詞を忘れちゃった!」と思ったのですが、Youtubeにあったオランダのコンサート('74)でも全く同じ歌詞で歌っているので確信犯だった。その結果、春の陽光と心の影の対比が一層はっきり浮き彫りになる。

  エラ流の斬新な歌詞は講座本次号に掲載するとして、ここはオリジナル詞に四苦八苦しながら訳をつけてみました。原詞はだいたいこんな感じ

『Spring Can Really Hang You Up the Most』
ヴァース
どこにもいるような多感な女の子だった頃、
春は恋の季節で、
私も心を燃やしたもの。
でも今年は違う、
春のロマンスなんてありえない。
実らぬ相手と契りを結んだその挙句、
すぐに壊れた恋の破片が心にささり、
春の季節が巡って来たの...

コーラス①
今年の春の気分は、
出走できない競走馬みたい!
私は寝転がり、
ぼうーっと天井を眺めるだけ、
春って最悪な季節!

そよ吹く風は、
新緑や花のつぼみに、
お目覚めのキスを送る。
そんな自然に乾杯!
私は公園を散歩して、
独りぼっちの時間をつぶす。
春が一番辛い人もいるの!

午後はずっと、
小鳥がさえずるラブ・ソング、
この歌は知っている:
「これぞ真実の愛!」と歌っているのよ。
私も聴いたことがある。
だけどこの歌には裏がある!
だから私は春がつくづくいやなのよ!

一月は恋が実ると信じていた。
四月の今、恋はユーレイ同然。
春はちゃんと巡ってきたけれど、
これほど辛い季節もない!

コーラス②

間違いなく春が来た!
至る所でコマドリが愛の巣作り、
私の心も春を謳歌しようと努力する、
歌えば心の傷も悟られまいと。
春は本当に居心地悪い。

学生達は「甘い情熱」にかられ
一心不乱に詩の創作、
それが春というものね。
だけど私は去年のイースター帽と一緒、
埃だらけの放ったらかし。
春っていやな季節なの。

あの時私は恋をした、
「いつまでもこのままで」と願いながら、
あの人と最高の時を過ごした...
もう昔話だけど...

そして春がやってきた。
春な甘い約束の歌で溢れる、
でも私の場合は、
何か違う!

お医者様は元気がつくように、、
「サルファ剤と黒蜜」を処方してくれた。
何の効き目もなかったわ。
きっと慢性的な病気よね。
こんな私にとって
春はほんとにいやな季節!


 恋の痛手を負った人だけでなく、花粉症や黄砂アレルギーに悩む寺井尚之にとっても、この季節は、Really Hang You Up the Most!

   それでは、楽しいゴールデン・ウィークを!

CU

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コメント(6)


珠重さん、Spring Can Really Hang You Up The Mostの解説、本当にありがとうございます!!
春という季節は、冬の寒さから暖かくなっていく陽気なイメージが強かった
ので、珠重さんの解説、歌詞を読ませていただいて、またひとつ、好きな曲の事が詳しくわかってとても嬉しいです!
本当にありがとうございます!!

この曲は、ライブで演奏して下さった時初めて知りましたが、師匠のピアノのとてもきれいなハーモニーや音の響きにすごく感動し、特に印象に残っていた曲です。
歌詞がある事も今日初めて知りました。
これからもいろんな曲の意味などを判るようになって、いつか、曲を聴いたときいろんな事をイメージできるようになりたいなあと思いました。
またいろいろ教えて下さい。
よろしくお願いします。
この曲の事もとてもていねいに詳しく教えて下さって本当にありがとうございました。

みゆきさん、長いの読んでくださってありがとうございます。

 お料理もそうですが、おいしいものに出会うと、素材や味付けが知りたくなって、産地を訪問してみたくなりますよね。子供の頃から探検好きなだけです。

 私のブログは、「人に教える」なんてとんでもない!個人的な音楽探検記です。

 また一緒に探検してください!

MIXIのトピックで使わさせていただきました。
ありがとうございます。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=73324725&comm_id=6028752

#328 です。

 ネイスミスさま、コメントありがとうございます!
雑事に追われて、なかなかゆっくりMIXIすることができないのですが、スタンダード・ページ大盛況で、いいかんじですね!

 こんごとも、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

Spring Can Really Hang You Up The Most の歌詞並びに 和訳が知りたくて ここにたどり着きました

近年ではバーブラのバージョン、古くは寺井さんも仰っているエラのサンタモニカバージョン それよりも前ならマーク・マーフィー

自分はティンパン系スタンダードが好きなのですが、このちょっと変わったメロディの、ティンパン系のスタンダードとはちょっと違う、トミーウルフと言う作曲家の名前だけは知っていたのですが、あまり有名じゃないこの曲がとても耳に残ってました

寺井さんも仰っていた通り このちょっとひねくれた女心をうたった歌詞はやはり自分もローレンツ・ハートが書くような歌詞にも思えました (いや、「But Not for Me」のアイラに近い歌詞なのかな)

そう思うと、しんみり歌うバラードナンバーのこの曲の中でも、自分としては一風変わった歌い方のリッキー・リー・ジョーンズの異色なバージョンがより女心に近い歌い方って感じがします

それにしても作詞家のフラン・ランズマンのことをはじめとして、画像や曲解説と和訳の資料等

大変参考になりました!

これから時間を見ながら 寺井さんの過去のページも見させて頂き、色々と勉強させて頂きたいと思います 

No.20926の細野ティンパンさんのコメントへの返信

細野様、コメントありがとうございました。
勉強なんてとんでもないです!こちらこそ色々教えて下さいね!
当店のトミー・フラナガンジャズ講座でエラ・フィッツジェラルド時代が始まったら、また対訳ノート復活することと存じます。
どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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