2009年11月30日

寺井尚之より:「トリビュート」御礼

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 トリビュート・コンサートに多数来ていただいて、誠にありがとうございました。

 師匠が亡くなった悲しみが先に立った第一回から、師匠の偉大な業績を讃え、後世に伝えようとがんばってきて、十五回目のトリビュートを演ることができました。

 これも、常に満席になるほどの多くのお客様の応援があるからこそと感謝しています。

 次回、第十六回目のトリビュート・コンサートは2010年3月27日(土)です。万障繰り合わせてご参加ください。

ありがとうございました。

寺井尚之

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速報:第15回トリビュート・コンサート

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 3月と11月にお送りする"Tribute to Tommy Flanagan"を11月28日(土)に開催しました。

 お忙しい中駆けつけてくださった常連様、初めてのお客様、2時間半の長丁場、最後までお付き合い下さってありがとうございます!それに沢山の激励メールや、差し入れ、お供えなどなど、心より感謝しています!

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第15回トリビュート・コンサート曲目
<1部>
1. Out of This World (Johnny Mercer / Harold Arlen) 
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. Embraceable You(Ira& George Gershwin)~Quasimodo(Charlie Parker)
5. Easy Living ( Ralph Rainger /Leo Robin)
6. Rachel's Rondo(Tommy Flanagan)
7. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)


<2部>曲説
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
3. Mean What You Say (Thad Jones)
4. Thelonica (Tommy Flanagan) ~Mean Streets (Tommy Flanagan)
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Our Delight (Tadd Dameron)


Come Sunday (Duke Ellington) ~With Malice Towards None (Tom McIntosh)

Ellingtonia: エリントン・メドレー
 Warm Valley (Duke Ellington)
 ~Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
 ~Passion Flower (Billy Strayhorn)
 ~Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)

 トリビュート・コンサートのプログラムは、生前フラナガンがライブで聴かせた名曲、名メドレーを集めた特別なもの。いわば「歌舞伎十八番」!今回もデトロイト・ハード・バップの根幹(Mainstem)を象徴するようなレパートリーが並びました。フラナガン音楽をよく知っている方も、初めてジャズを聴かれる方も、お楽しみいただけたようで、とても嬉しいです。HP掲示板にも沢山メッセージありがとうございました。

teraiP1020916.JPG  コンサートのひと月前から、猛稽古に明け暮れた寺井尚之(p)、その気迫を真正面から受け止めて、同じテンションで、しっかり支えてくれた宮本在浩(b)、菅一平(ds)のThe Mainstemの演奏は、これまでのトリビュート史上、最高だったのではないかな。

 お客様の掛け声も最高!アンコールのメドレーで、「With Malice・・・」や「チェルシー・ブリッジ」が始まると、拍手が湧いて、OverSeasのお客様ってすごいな!と今更ながら誇りに思いました。

 演奏後、寺井尚之は「師匠へのリスペクトがあるからこそ・・・」と言っていた。口で言うのは簡単だけど、人生を賭けて「リスペクト」を貫こうとすると、多くの犠牲を伴う。トミー・フラナガンが亡くなった夜、涙で奏した"Easy Living"は、10年の歳月を経て、いっそう優しく切ない。現在は寺井の人生を象徴するレパートリーになったのかもしれません。

 年2回のトリビュート・コンサートは私にとっても「節目」の行事、想いは一杯ですが、お客様には、「楽しかった!」と思ってもらえれば、すごく幸せです。そして、トリビュートをきっかけにトミー・フラナガンや寺井尚之の演奏に一層興味を持っていただければ、もう最高です。

 次回のトリビュート・コンサートは、来年、3月27日(土)予定。誕生月のトリビュートは、きっと、また違った色合いになるでしょう。

 明日からトリビュート曲目解説に取り掛かりますので、出来上がったらお知らせします。

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BRAVO!

CU

2009年11月26日

トミー・フラナガンの思い出:「七つの子」

musculine_fingers_tribute.JPG  土曜日はいよいよ15回目のトリビュート・コンサート!
寺井尚之はトリビュート・コンサートに向けてAll Day Longの稽古・・・指先の筋肉が膨れ上がってます。

zaiko_ippei.JPG The Mainstem、ベースのザイコウさんは、今週はOverSeasにフル出場!万全のコンディションを期します。

 ドラムの一平さんは、火曜日に、元トミー・フラナガン3のメンバー、ピーター・ワシントン(b)、ケニー・ワシントン(ds)のコンサート(ベニー・グリーン4)に行き、トリビュートのチラシを見せて二人に「おひかえなすって!」と仁義を切って来ました。

 ケニーとピーターは、現在ジャズ界最高のリズム・チーム、二人とも若い時から物凄い勉強家でした。今は押しも押されもしない巨匠ですね!

 トリビュート・コンサートは、大変込み合っていますが、現在少しだけ残席があります。来ようかなと思って下さったらまずお電話で残席をお確かめください。(OverSeas TEL 06-6262-3940)
 お薦めメニューは、「黒毛和牛の赤ワイン煮」と、冬の限定メニュー、「ポーク・ビーンズ」、黒豚と北海道の大きくておいしい白花豆を柔らかく煮込んだアメリカの家庭料理です。演奏を聴きながら、ぜひご賞味ください。

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<私が観たフラナガンの稽古>

 トミー・フラナガンは、インタビューで「私はもう稽古(practice)はしていない。」と語っていました。でもそれは、「指を動かす」プラクティスなのでは?例えば、「指慣らしに、バルトークのミクロコスモスを弾く。」と言ったりするのは「粋じゃない」と思っていたからでしょう。

 自宅の居間にあるスタインウエイと、その周りにも「稽古三昧」の状況証拠が一杯あった。寺井尚之には、「稽古は『頭』でするもんや。」と常々言ってましたし、先輩のハンク・ジョーンズさえ、ツアーに折りたたみ式のキーボードを携行し、ホテルの部屋で稽古していると言っていたのを覚えています。

 フラナガンが「頭」でやるという稽古がどういうものなのか?今日は、滅多に見れないその姿についてお話したいと思います。

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 それは '97年、10人のピアニストが集まる楽しいコンサート「100Gold Fingers」のツアー中、ラッキーなことに、オフ日を大阪公演の前日に設定してもらい、OverSeasでトミーのソロ・コンサートをした夜のことでした。

 その日、トミーは寺井にこんな相談をしました。
 "今回の「Gold Fingers」では、出演者が順番で、何か日本の曲を一曲演奏する企画になっていて、明日が私の番なんだ。「五木の子守唄」を演ったらどうかと言われているんだが、日本の曲はよく知らない。ヒサユキ、譜面を書いてくれないか・・・"

 寺井は即座に言いました。
 "師匠、五木の子守唄もええけど、ヘレン・メリルがもう歌ってるし、マイナー・チューンやし、大阪の土地柄に合わんのちゃいますか?師匠が演るならジャズで先例がなく、しかも、皆が知ってる曲がええわ。そうや!"七つの子"はどやろ?絶対、お客さんは大喜びですわ!」

 OverSeasコンサートの終演後、トミーは晩御飯を食べながら、ヒサユキの書いた「七つの子」の譜面を見て、山に残した可愛い子供を想って鳴くカラスの歌詞の意味を頭に入れています。元グリークラブのG先生がボーイソプラノ(?)で「カ~ラ~ス、なぜ鳴くの~♪」歌うと、目を丸くしてたっけ・・・

photo6.jpg そしてデザートを楽しんで一段落してから、トミーは譜面と共に、ピアノに向いました。初めて弾く「七つの子」に寺井尚之も興味津々!

 フラナガンはまずイントロから弾き始めました。子供がいる山に戻ろうとするカラスの大きな羽ばたきを思わせるオーケストラ的な前奏です。テーマに入ると、何人ものストリングスに負けない左手の分厚いパターン、初めて弾いてみる曲なんて信じられません。トミー・フラナガンの頭の中には、画家のデッサンのようなものが、すでに何パターンも出来ていたんです!虹色に変幻するヴォイシングは、ブルージーになったり、印象派的になったり、・・・色んなヴァージョンの「七つの子」が、あっという間に出来上がっていきました。途中で、"バイバイ・ブラックバード"を入れてみたりして、「七つの子」と遊ぶトミーの顔つきは「芸術家の産みの苦しみ」なんてどこ吹く風のポーカーフェイス。ただ、たくさんのヴァージョンを作るだけでなく、どの演奏解釈にも、大きな夕空や、鳥の羽ばたき、家族や故郷への憧憬が色んな形で表現されているのが、何よりすごいことでした。


 深夜、ホテルまでの車中、ゴキゲンで鼻歌を歌ってる巨匠に、私は思わず言いました。「トミー、さっき私は『神の御業(The works of God)』を観ました。あなたは天才です!」

 トミーは少し鼻を膨らませてから、いつもと変わらない淡々とした口調でつぶやいたのを覚えてます。「わたしは常にそうあるよう努力してる。」って。

 さて、翌日の大阪公演はシンフォニー・ホール、寺井が楽屋見舞に行くと、トミーはピアノ付きの一番大きい楽屋で「七つの子」を練習中、傍らにはジュニア・マンスがいました。ピアノの上に何があったと思います?森永のチョコボールが、譜面の上に、ちょこんと置いてあったんですって!

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では、トリビュート・コンサートでCU!

2009年11月19日

トリビュートの前にトミー・フラナガン・インタビューを読もう!

 大阪も寒くなりました!来週末はいよいよトリビュート・コンサート、日々稽古、寺井尚之の指先はパンパンに弾け、ピアノにも気合が入ってきたのか、音色もさらに研ぎ澄まされてきました。

 トリビュート・コンサートの回数を重ねるにつれ、トミー・フラナガンを「生」で聴いたことのないお客様の割合が増えてきて、演奏する寺井尚之The Mainstemの責任も大きくなってます。

 トミー・フラナガンってどんな人なんやろう?と興味を持つ皆さんのために、米ジャズ月刊誌、「Jazz Times」のサイトに掲載されているトミー・フラナガン・インタビューを日本語にしてみました。

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 聴き手はジャズライター、ジャック・ロウ、NYの自宅を訪問して話を聞いています。スター・インタビューみたいに一般的な話題が多くて、質問によっては、えー!?っていう答えをしているのが却って面白い。(たとえば趣味がカメラとか・・・フイルムの入れ方も知らなかったのに・・・)

 2001年1~2月掲載、最後にOverSeasを訪問する半年ほど前のインタビューです。どうぞ!

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JazzTimes
January/February 2001
Tommy Flanagan Interview
聴き手Jacques Lowe

  トミー・フラナガンとダイアナ夫人は、マンハッタンのアッパー・イーストサイド(本当はアッパー・ウエストサイド)にある、居心地の良いアパートメントに住んでいる。そこは、訪問する者を迎える温かい心づくしと、長年の幸せな結婚生活の香りに満ちた住まいだ。アパートの壁一面にある本棚に本があふれ、棚やテーブルには、世界中の楽旅の思い出の品々といくつかのフラワーアレンジが、そして、居間にはグランドピアノがでんと鎮座している。

  70歳で未だにスリムな体型を保つトミーは、自分を吹聴することを好まない控え目な人柄だ。それに対してダイアナ夫人は、夫の寡黙さを、熱っぽくに讃美することを厭わない。エラ・フィッツジェラルドとの長年に渡る忘れ難い名演の数々や、ジャズ・ピアノのパイオニアとしての業績は、過去の膨大な書籍や譜面を含め、語り尽くすことはできない。


 私が彼に、コンピューターや最新のオーディオ機器について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「私は昔風の人間でね、シンプルが一番という信念を持っているんだ。いまだにダイヤル式電話機を使っているくらいだから。」

 トミーは車も持っていないし、運転すらしない。だがダイアナは運転好きだ。海外にツアーしたときには、レンタカーで地方をドライブすることもあるという。

 「私たちは二人ともフランスが大好きで、何度かドライブ旅行したことがある。シャトーに泊まって、ワインのテイスティングをしながら、土地のおいしい料理を楽しんだり、歴史を辿ったりするのが好きでね。ヨーロッパ・ツアーの時は、フランスを旅行できるよう日程を調整するんだ。アイルランドも好きで、楽旅のついでに観光したことがある。」

  NYの街をこよなく愛するトミーは、NYという大都市の機能を満喫している。美術館通いをして、芸術を楽しむ。メトロポリタン美術館では古典芸術に、MOMA(NY近代美術館)では、印象派の作品に心奪われる。観劇も大好きで、一番最近観た"For Colored Girls Who Have Considered Suicide/When the Rainbow Is Enuf."を今も絶賛している。 それに、セントラル・パークの散歩は欠かさない。

for_colored_girls_who_have_considered.jpg  "For Colored Girls・・・"(虹にうんざりしたとき/自殺を考えたことのある有色人種の女の子たちの為に/)は、オール黒人キャスト、7人の有色人種の女性たちが21篇の詩の朗誦し音楽やダンスをコラボさせたミュージカルでトニー賞を受賞した。来年、ハル・ベリーやアンジェラ・バセット主演の映画が公開されるらしいから、私も観ようっと!

   海外ツアー中も、暇を見つけては美術館めぐりをする。なかでもゴッホの名作を多数所蔵するオランダ・アムステルダム国立美術館がお気に入りだという。

  さて、本業の音楽では、'50年代のジャズの巨人たちがトミー・フラナガンのヒーローだ。コールマン・ホーキンス(ts)、デューク・エリントン、ディジー・ガレスピー(tp)、アート・テイタム(p)、ベン・ウェブスター(ts)、チャーリー・パーカー(as)、テディ・ウイルソン(p)と言った人たちである。ごく最近、ルイ・アームストロング(tp,vo)の良さがやっと判ってきたと言う。ジャズだけでなく、ショパン、ラヴェル、バッハ、ベートーベンなども好む。

 滅多にない休暇は、ニューイングランドのリゾート、ケープ・コッドや、カリフォルニアでは孫たちと過ごす。「やんちゃで、ヘトヘトになる」と言いながら、孫たちをレドンド・ビーチや野球観戦に連れていくことにしている。野球も好きで、贔屓チームはオークランド・アスレチックス。ありとあらゆるスポーツをTV観戦し、しばしば生でも楽しんでいる。「ひょっとしたら、陸上の長距離選手になればいい線行っていたかも知れないが、今はもっぱら長距離散歩だ。」と、彼は言う。(訳注:トミーは、スポーツのことは全然詳しくなかったです。私がアトランティック・シティのバスケチームのキャップをかぶってたら、「どこの野球チームのんや?」と訊いてはりました。)

 トミーの生活は多忙だ。もうすぐ日本やミラノのブルーノートでの公演を控えているし、ビリー・ストレイホーン集アルバムを準備中だ。行ってみたい場所はギリシャの古代神殿やキューバ、それに、ローマを再訪して、古代美術への尽きせぬ興味を満たしたいとも思っている。

 そんなトミー・フラナガンの思い出の品は、ロレックスのゴールド・オイスターと純金のIDブレスレット、どちらもエラ・フィッツジェラルドからの贈り物だ。(トミーは、いつも左手にロレックス、右手にブレスをはめていました。因みにジョージ・ムラーツはホワイト・ゴールドのオイスターを愛用しています。)


<トミー・フラナガン・パーソナル・ファイル>

Q:服装のポリシーは?
A: ずっと上品なものが好きで、今はツアー中に服を買うことにしている。フランスで上着、イタリアでセーター、といった具合にね。

Q:好きな食べ物?
A: フレンチとイタリアン。

Q:好きな飲み物?
A:ライム入りのウォッカ・ソーダだが、今はフランス・ワイン、赤でも白でも飲んでいる。(訳注:この頃からほとんどお酒は飲まなくなっていました。でも体調が悪いことは話したくなかったのでしょう。)

Q:一番最近読んだ本は?
A: ビリー・ストレイホーンの伝記、「Lush Life」(デヴィッド・ハジュ著)(訳注:伝記を読んでいたのなら、本当にストレイホーン集を録音するつもりだったんでしょうね!「Tokyo Ricital」から20数年ぶりの演奏解釈をレコードにしておいてほしかったのに!)lush_life_book.jpg

Q:好きな本?
A:聖書

Q:一番最近観た映画?
A:エリン・ブロコビッチ (2000年 ジュリア・ロバーツ主演、スティーブン・ソダーバーグ監督作品: 実在した社会活動家の痛快映画)


Q: 趣味は?
A: 写真が好きで、ライカのカメラを持っている。

Q: ペットは?
A: 犬が好きだ。昔、アイリッシュ・セッターを飼っていたが、NYでペットを飼うと面倒がいっぱいなのでね。

Q: 都会で暮らすのと、田舎暮らしではどちらが好きですか?
A: このNYと、街にある色々なものが大好きだよ。(訳注:トミーは、「本当は田舎で暮らしたい。植物を育てる天性の才能があるので、庭いじりをして暮らしたい。」と、よく言っていた。でもジャズクラブは田舎にはないし、ダイアナはNY至上主義でした。トミーは引退したら、子どもたちがいるカリフォルニアに住みたかったようです。)

(了)

2009年11月12日

さよなら、ディック・カッツさん (1924-2009)

 11月はトリビュートの月、トミー・フラナガンは2001年11月16日に亡くなった。これまで11月には沢山の別れがあったから、もう悲しいニュースは聞きたくない。

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 そう思っていた矢先、昨日、G先生からディック・カッツ(p)さんの訃報が届きました。

 数か月前から、入退院を繰り返されている噂を聞いていて、先週ダイアナにお見舞いメッセージを託した直後のことでした。85歳という高齢で天寿をまっとうされたわけですが、やっぱりとても寂しい・・・さっきダイアナに電話したのですが、お亡くなりになったのが8日だったのか10日だったのかも、告別式がいつなのかも、まだよく分からないと言っていました。ダイアナとは歌手時代に伴奏してもらっていた20代からの友人で、夫のトミーよりもずっと長いお付き合いだったんです。

NewmanReigBasie.jpg若き日のカッツさんは左から二人目。左隣はジョー・ニューマン(tp)、右端はカウント・ベイシー(p)

 ピアノの巨匠、批評界屈指のジャズ・ライター、プロデューサー、教育者、作編曲家、ディック・カッツの本名は、Richard Aaron Katz、メリーランド州ボルチモア生、トミーや私と同じうお座で、誕生日は1924年3月13日。いくつかの大学を卒業しているけれど、ジュリアード音楽院ではテディ・ウイルソン(p)に師事し、美しいタッチ、趣味の良いプレイと、既成価値に捉われない広い見識を受け継いだ。ジャズ界へのメジャー・デビューは24歳、ベン・ウェブスター(ts)のバンドで、マンハッタン・スクール・オブ・ミュージック在籍中'48年の大晦日のことだったらしい。

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 J.J.ジョンソン(tb)がカイ・ウィンディング(tb)とコンビを組んでいた時代のレギュラー・ピアニストで、トミー・フラナガンはカッツさんの後任としてJJのバンドに参加した。パパ・ジョー・ジョーンズ(ds)、ケニー・ド-ハム(tp)、オスカー・ペティフォード(b)など多くの巨匠たちのバンドで活動しているけど、カッツさんが一番誇りにしていたのは、ベニー・カーター(as, tp, etc)のレギュラー・ピアニストだったこと。歌伴の名手として、カーメン・マクレエやヘレン・メリルと何枚もレコーディングしている。

 '70年代に一度だけ、リー・コニッツと来日したことがあり、大阪の宿泊先リーガ・ロイヤルホテルのラウンジで、和服の女性にお抹茶のサービスをしてもらったのがいい思い出になったそうです。

katz_merrill026.jpgヘレン・メリルは昔から伴奏陣のセレクションがすごい!左からロン・カーター(b)、ジム・ホール(g)、ディック・カッツ、ヘレン・メリル、サド・ジョーンズ(cor)

 レコード業界では、オリン・キープニュースと共に「Milestone Records」を設立、良心的なプロデューサーとしても知られているし、ミュージシャンならではの切り口と音楽への愛情にあふれる卓越した文章でも、グラミー賞にノミネートされた。

 ダイアナはディックを「ジャズ界で最も過小評価されているピアニスト」と言う。一説によれば、富裕な一族の人なので、ガツガツ仕事をするより、フリーランスでいることを選んだとも噂されている。なるほど、演奏も人柄もほんとに品がいい。だからと言って偉ぶらず、都会的だけど、ガサガサしたところや社交辞令がなく、話していてほんとに気持のよい楽しい人だった。ああいうのをHipって言うのかな?WNYCの追悼文には彼のことを「根っからのヒップスター」と書いてあった。

 "Sweet"という言葉がぴったりなカッツさんの人生も、辛いことは沢山あったらしい。ジャズ界で、"White Boy"と揶揄され、白人ミュージシャンの悲哀を味わったことも問わず語りに聞いたことがあるけれど、だからといってカッツさんのフェアな視点がゆがむことはなかった。

 カッツさんは、ジャズの色んな知識を分け与えてくれたけど、中でも印象的なのは、こんなセリフだ。「今でも上手いミュージシャンは沢山いるが、一番売れている何某の20コーラスのソロを聴いても、終われば何も残らない。だがね、何十年も前に聴いたレスター・ヤングのたった2小節のフレーズは、ずーっと私の心の中で響き続けているんだ。」その言葉には「いまどきの人」に対する意地悪な感情は微塵も感じられない。ただ、カッツさんがすごく大切にしている宝物を見せてもらったような気持ちになったのだった。

 今日はカッツさんが昔プレゼントしてくれたブルーのマフラーを巻いてきました。カッツ夫妻は、ことあるごとに、本や人形や、ゼリービーンズやキャンディーや、息子さんのロックCDや、ヨガ瞑想用のテープまで、あるとあらゆるものを贈ってくれたけど、一番大切なものは、心の中に宝物としてしまってあります。

Ev'ry time we say goodbye
I die a little
Ev'ry time we say goodbye
I wonder why a little...

Goodbye Dick Katz

2009年11月10日

北国からの贈り物:Super Potato!

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 トリビュート・コンサートが近くなり、寺井尚之は稽古、稽古の毎日です。The Mainstemの宮本在浩(b)さんは一層スリムに、菅一平(ds)さんは禁酒して稽古に励んでいるようです。  私だけ何にも切磋琢磨してなくて申し訳ないなあ・・・そんな中、摩周湖のフラナガン・ファン、寺井ファン、ジャック・フロスト氏から大きな段ボールが届きました。 super_potatoes.JPG  昨年、私のジャガイモ観が一変した黄金色のじゃがいもがどっさり! Mr.ジャック・フロスト、北国のハーベストのお供えをありがとうございます!トミーの写真にも、ジャガイモを見せてあげました。  今週(土)のジャズ講座には、このジャガイモを揚げたり蒸したりして、おいしさを閉じ込めて、スぺシャル・メニューを作ろう!地鶏と合わせて、できるだけシンプルな味付けにしよう!おいしい料理を作ろう! bonne_femme-2.JPG  で、週末のジャズ講座のお薦めにはフランスの田舎料理、「ボン・ファム」("おばちゃん"という意味です。)を作ることにしました。  今日はポテト・サラダにしてみたけど、水分が多いからあっと言う間に茹であがってクリーミー、甘くて最高! heart_to_heart.jpg  今週の講座は、トリビュート・コンサートを聴くと思いだすデトロイトのクラブ"ブルーバード・イン"でレギュラー共演していたテナー奏者、ビリー・ミッチェルとのリユニオン・アルバム『De Lawd's Blues』(Xanadu)、同じく"ブルーバード・イン"時代から、『Overseas』を経て公私ともに、フラナガンが大好きだったドラマー、エルヴィン・ジョーンズ、リチャード・デイヴィス(b)との超ヘヴィー級アルバム、数か月前に再発された『Heart to Heart』(Denon)など、スーパー・ポテトに相応しいラインナップです。  ジャズ講座は、11月14日(土)6:30pm開講、受講料2,500yen ご予約はOverSeasまで。(tel 06-6262-3940) CU

2009年11月 5日

対訳ノート(22):Polka Dots and Moonbeams

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 先週のThe Mainstemには、遠くから近くから、沢山のお客様が駆けつけてくださって、改めてお礼申し上げます。あの晩は、驚くほど黄色く明るい月の夜、月を愛でながら思わずお酒を飲みすぎてしまいました。あの月は十三夜の「栗名月」、前の月の十五夜に対して「後の月」と呼ばれる特別な月だったんです。確かに色も形も「栗」みたい!英語だったら、十三夜は「Waxing Gibbous Moon (背むしのような形で満ちる月)」と情緒なさすぎ!日本人でよかった~!名月に因んで作った「お月見ストロガノフ」は、沢山のお客様に「おいしかった!」と言っていただけて、調理場も大喜びでした!

 この日の2nd セットは、10月のメインステムPart 1と対を成す「お月さまづくし」!中でも素敵だったのは〝Polka Dots and Moonbeams"!前回の"Moonlight Becomes You"と同じJimmy Van Heusen(曲)、Johnny Burke(詞)コンビの1940年作品、元々はトミー・ドーシー楽団の歌手としてデビューしたフランク・シナトラの初ヒット曲でした。

 〝Polka Dots and Moonbeams(水玉模様と月光)"・・・私自身は高校時代に衝撃的だった『インクレディブル・ジャズ・ギター』/ウエス・モンゴメリー(g)で聴いたのが最初です。まもなく誰でもが演る超スタンダードと知りました。緊張感なく演っていて、いつのまにかよく似た〝My One & Only Love〝になっちゃった迷場面に何度か遭遇したこともあります。ヴォーカルでは余り聴く機会がなかったのですが、昨年、ジャズ講座のためにエラ・フィッツジェラルドの歌詞対訳を作って、驚くほど「可愛い」歌詞だったことを知りました。

<20世紀のお伽噺>

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水玉模様のこの人は往年の美人女優、マーナ・ロイ

 この歌の舞台はNYみたいに洗練された都会でなく、アメリカのどこかの田舎町、豪華なジャズバンドやシャンパンもなく、町内会バンドで踊るカントリーダンスのパーティ、ビールにバーベキューやホットドッグの香りが漂ってきます。そんなザワザワしたところで、「僕」は恋をする。相手はパグ・ノーズ(pug-nosed):例えばメグ・ライアンみたいな可愛い女の子、上向きの鼻は日本じゃブサイクみたいだけど、あちらではチャーミングな条件で、ファッション・モデルのプロフィールにも「pug-nose」ってよく書いてあります。その娘のドレスは水玉模様、僕は、彼女の顔と、「お月様」が舞うような水玉模様と、月の光がスパークした一瞬に恋に落ちる。ディズニー的魔法の世界は、12月になったらきっと聴ける「コートにスミレを」と共通していて、デトロイト・ハードバップ・ロマン派を標榜する寺井尚之に打ってつけの素材でした。

 この歌がヒットしたのは真珠湾攻撃の前年ですから、戦争の不安が世の中に影を落とし始めた頃です。戦地に行かずに、愛する人とこのまま幸せに暮らせればどんなにいいだろう・・・そんな人々の想いが、お伽噺のように可愛いバラードを生んだのでしょうか?

 対訳にはヴァースもつけておきました。原歌詞はこちら

<ポルカドッツ&ムーンビームズ:水玉模様と月光>
作詞 Johnny Burke/ 作曲 Jimmy Van Heusen

=Verse=

あり得ないと思うかも知れないけど、

不思議な話を聞いてくれるかい?

こんな映画のシーンを見たら

「ウソに決まってる」と言われるだろうね・・・



=Refrain=

近所の庭でカントリー・ダンスパーティがあったんだ、

不意に誰かがぶつかって、

「まあ、ごめんなさい」と声がした。

突然目に入ったのは、

水玉模様と月光、

照らし出された君は
ツンと上を向いた鼻の女の子、

僕は夢かと思った。



音楽が始まり、

ちょっとまごついたけど、

僕は思い切って、君を誘った、

「次に踊っていただけますか?」

緊張でこわばる僕の腕の中で、

水玉模様と月光が、

君のツンとした鼻先に輝く。



ダンスする他の人達は、

不思議そうな顔で

滑るように踊る僕達を眺める。

皆にとっては疑問でも、

僕は答えを知ってたし、

多分、それ以上のことも判ってたんだ。



今は君と一緒、

ライラックが咲き、笑い溢れる小さな家で、

「ずっと幸せに暮らしましたとさ」、

そんなおとぎ話の文句を実感してる。

これからもずうっと、

水玉と月光が見えるだろうな、

夢みたいに素敵な人

ツンとした鼻の君に

キスするときはいつも。

 私の母は大阪、天満の"こいさん"として生まれた。その頃は何人も女中さんがいたらしい。しかし、戦争で家業は廃業となり、大阪大空襲で実家は全焼した。焼け出された一家は、十代で病死した姉の療養に使っていた浜寺の海辺の別荘に移り住み、母はその町のダンスパーティで父と出会い恋におち、両親の猛反対を押し切って結婚した。"こいさん"から平均的サラリーマン家庭の主婦になり、自分の両親宅の家事まで引き受けていた母の新婚生活がライラックの咲き乱れるものであったかどうかは判らない。でも、The Mainstemの「ポルカドッツ」を聴くと、座敷でビング・クロスビーをかけながらダンスしていた若かりし両親の楽しそうな姿がふと蘇りました。

 21世紀の現在、この歌をそのまま歌っても、当時の共感を客席から得ることは難しいかもしれないけれど、「お伽噺」と同じように、忘れかけている大切なものを思いださせてくれます。

 明日は鉄人デュオ!明日もスタンダード曲に新しい息吹を感じさせてくれることでしょう!一緒に聴こうね!

 水玉バラードと月夜に乾杯!

CU

2009年11月 3日

ジョージ・ムラーツ ニュース (その2:Maestro and B21)

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 こんにちは!休日はゆっくりお過ごしですか?私は「文化の日」ではなく「雑務の日」でおわりそうです。

 今回は、我らのジョージ・ムラーツ(b)が最近購入した新しい愛器についてご紹介したいと思います。

mraz_bass.jpg ジョージ・ムラーツのように世界中を飛び回るベーシストの頭痛のタネは図体の大きな「楽器」!ピアニストなら余程の大物でないかぎり、演奏会場のピアノを使わなければならないので楽器不要だし、ドラマーならシンバルとスティック以外は現地手配が普通。でも、ベースは現地に任せると、どんなひどい楽器が待っているかわかりません。だから、飛行機に積む時はツタンカーメンの棺桶のようなハードケースに格納して運びますが、それでも、クレーンで搬出された時、ネックがポキっと折れちゃって、保険に入っていてもヨーロッパのマエストロにしか治せないので、修理代に全然足りなかったりします。到着地の気温や湿度も心配だし、タキシードやスーツが入った大きな旅行バッグとベースを抱えバスや列車を乗り継ぐのは本当に大変そう。ヨーロッパ諸国の大ホールをワンナイターで駆け抜ける楽旅が多いので、OverSeasみたいに、ムラーツを神と崇める若い衆が、各国どこにでもしっかり待機しているとは限りません。

 そんなムラーツ兄さんにぴったりのベースが見つかったらしいです。

<21世紀のコントラバス>

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 それはフランスの絃楽器製作者、パトリック・シャルトンという名匠が開発した『21世紀のベース』と呼ばれる作品で、『B21』という名前です。B29爆撃機みたいで、日本人には余り気持の良い名前じゃないけど、21世紀のassということなんですね。ネックが着脱可能になっていて、小さなケースに収納出来てしまう画期的なベースで、鳴りも良く音色も弾き心地も素晴らしいらしい。

 ベーシスト系の掲示板サイトで何年か前から話題になっていてとても評判がいいみたい。

 シャルトンは、ジョージ・ムラーツのために、ベースアンプとの相性もよくて、多分彼の愛器で「カナリア」と呼ばれるオールドのイタリアン・ベースを模倣した特別仕様のB21を製作してくれて、その音色は正に「Incredible!」「シャルトンは天才や!」と、珍しく兄さんは口をきわめて誉めちぎっています。

 ベースの運搬に苦労しているベーシストの方、一台いかがですか?因みにスタンダード仕様のB21は、日本円にして430万円位、シャルトンのアトリエは注文が殺到しているらしく、ウエイティング・リストに登録してから出来上がるまで3年くらいはかかるらしいです。

 ネックと本体の着脱は簡単で、着装すると非常にしっかり固定され、ジョージ・ムラーツのようなハイポジションでもノーブロブレム、持ち運びの時はあっと驚くコンパクトパッキングです。シャルトンのサイトにはハードケースも掲載されていましたが、これがまたおしゃれなケースでした。ジョージが持ち歩けば、数年前に起こったOverSeasのiPhoneブームのような現象が世界で頻発するかも・・・(私は携帯もベースも今のところ使ってないけど。)

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 9月のNYでは、久々に「カナリア」を携えて明るい音色のベースサウンドを聴かせたそうですが、今週末からベルリンを皮切りに始まるハンク・ジョーンズ(p)3とのツアーでは、きっとこのB21の音色が聴けることでしょう!近いうちにOverSeasでも聴けるといいな!

CU