2010年7月 8日

対訳ノート(28) 「あめりか物語」とIndian Summer

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 梅雨と言えない豪雨、大阪も暑いけどNYは記録的猛暑とか...皆様いかがお過ごしですか? ライブだけでなく発表会や講座の予定が一杯でアップアップですが、なんとか達者に暮らしております。

 今週のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」では、ザ・マスター・トリオ:『Blues in the Closet』のほかに、講座本第7巻収録の超名盤、Jazz at Santa Monica Civic '72の未発表テイクで、エラ・フィッツジェラルドの最強の歌声が花火のように炸裂しますので乞ご期待!

 その中に"Indian Summer"という名曲があります。インデアン・サマーは夏じゃない。日本語訳すれば「小春日和」ということになっているけど、カウント・ベイシー楽団をバックに歌い上げるエラの歌唱は壮大で、私達日本人が持つ「小春日和」のイメージとは、なかなかつながりませんね。

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Indian Summerって何ですか?>

 ウィキペディアで調べてみたらこんな感じでした。

 ;Indian Summerは18世紀に作られた北米の言葉:北半球で通常10月下旬~11月上旬の間の短い温暖な時期、「初霜と紅葉の後、初雪の前」で、温度は21℃以上。

 何故「インディアンの夏」なのか?は諸説あるようです。

「ヨーロッパからの開拓者に対するネイティブ・インディアンの襲撃が、春と夏に限定されており、秋の温暖な気候にインディアンの脅威を感じるため。」とか、「"Indian"という言葉自体に"偽の、いつわりの"という意味があるから」とか言われているらしい。白人が勝手にインディアン(インド人)と呼んだだけなのに、"ニセモノ"と言われるのも迷惑な話ですね。

 夏の一番暑い時期を"Indian Summer"という地方もあるらしいけど、歌には余り関係ないですね。

 というわけで、歌を楽しむという視点からは、Wiki諸情報はSo What?なものが多かった。一番上の写真はエラの壮大な歌に似つかわしいと思うのですが、対訳を作る際に参考になったとは言い難い。

<昔の日本人は偉かった!>

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 そんな時はやはり書物です!最近読んだ永井荷風の紀行文的短編小説集「あめりか物
語」に、季節に敏感な日本人の感性でインディアン・サマーを端的に捉えた記述がありました。

岩波文庫:あめりか物語 「春と秋」より抜粋。p.104

「11月の第2日曜の頃・・・この国では、インデアン、サンマーともいうべく、空は限りなく晴れ、午後の日光(ひかげ)はきらきら輝きわたっていたけれど、しかし野面(のもせ)を渡る風は、静かながらに、もう何となく冷たい。裏手の小山から、処々に風車の立っている村のほうを観ると、樫(オーク)の森が一帯に紅葉していて、その間から見える農家の高い屋根には、無数の渡り鳥が群れを成して、時々一団、一団に空高く舞い上がる。程なく来るべき冬を予知して、南の暖かい地方に帰って行くつもりなのであろう。...」

 「インデアン、サンマー」というのが発音そのまんまでええ感じ!「あめりか物語」は明治41年(1908年)の短編小説集で、インディアン・サマーの日本文学にデビューの書かも。短編 「春と秋」は、ミシガン州南部の神学校に留学した日本人学生が、異国という特殊な状況で織り成す物語。

 「あめりか物語」は、荷風が実際に米国に洋行した経験を元に書かれた作品で、海外旅行など不可能で、TVもなかった明治時代に大好評を博したそうです。あちらの気候風土だけでなく、当時のブロードウェイや、娼館の様子などもリアルに描かれていて、今読んでもすごく面白い。現在のアメリカを扱った紀行文やTV番組より面白いかもしれない。何しろ、書物でしか知らない異国の地に渡った荷風の興奮や驚きが、よく伝わってきます。ジャズ・スタンダード曲も明治時代に作られたものが多いし、対訳作るのにとても参考になりました。 娼婦が歌う唄(ブルース)の歌詞が英語で記述されてる箇所もありました。温故知新!昔の日本人は凄いね!

<歌の空気>

 荷風の文章を読むと、歌の空気がよく判る。初夏に「わたし」は失恋する、傷心を抱え季節は冬へと向かい、木々の葉は赤く色づき風は冷たい。そんな物悲しい晩秋に訪れる暖かなインディアン・サマーの青空と輝く太陽に、失われた恋が甦る。厳寒の冬に向かう暗い心に、優しく灯される一条の光のような短い季節インディアン・サマー・・・エラの歌唱を聴くと、たとえ2コーラス目に歌詞を間違えようと、ワインレッドの樫の森や青い空、紅葉を照らす日光や、美しい風景を映す湖の情景、失恋の痛手から立ち直り、厳寒の冬に立ち向かおうとする心情がしっかりと現れます。こういうのを「音楽的真実」というのでしょうか?

インディアン・サマー (Al Dubin/ Victor Herbert)

懐かしのインディアン・サマー、
お前は6月の笑顔の後に
やって来る涙、

お前は幾多の夢を観る。
私とあの人の叶わぬ夢、
二人で夏の始めに観た夢を。

大事な言葉を言われぬままに、
終わった恋の心の傷を
見守る為に来たんだね。

お前は、はかなく消えた6月の恋の亡霊、
だから私は呼びかける、
「さようなら、インディアン・サマー」と。

 エラの歌うIndian Summerを土曜日のジャズ講座で、寺井尚之の解説で、ご一緒に聴きませんか?

 お勧め料理はジンジャーやワイン・ヴィネカーを利かせて、暑い季節にぴったりの、ビーフストロガノフにします。

CU

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