2011年3月 3日

Evergreen物語(7) :My One & Only Love

 いよいよ大スタンダード登場!今日のテーマは"My One & Only Love"、寺井尚之ジャズピアノ教室ではトニック・マイナーの原理を勉強する課題曲Ⅱでもあります。

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 ミュージシャンが「マイ・ワン」と犬みたいに呼び、時にはアドリブの途中で"Polkadots & Moonbeams"と間違える危険性をはらむ曲、私が出会ったのは、勉強するふりをしてラジオばかり聴いてた高校時代、FMラジオのジャズ番組で聴いたロレツ・アレキサンドリアの『The Great』というアルバムで、ピアノはウィントン・ケリーでした。後にトミー・フラナガン3とリメイクしていることからも、ロレツの十八番であったことが判ります。初めて聴いたロレツ・アレキサンドリアの声は、爽やかでセクシー、当時、英語はまるきり判ってなかったけど、最初の"The very thought of you..."と最後の"My one & only love"だけは聞き取れて、うまい歌手やん!ええ歌や!と、新鮮かつ単純すぎる感動を覚えました。その直後、TVの音楽番組で、司会の藤岡琢也さんが北村英二(cl)さんを紹介した言葉で、ワン&オンリーが「随一無比」を表す決まり文句と知ったけど、受験勉強には何の足しにもならなかった。

lorez_the great.jpg  

<One & Onlyじゃなかった歌詞>

 歌のお里は、映画や演劇ではなく純粋なポップソング、作曲はイギリス出身のソングライターで、バンドリーダー、ガイ・ウッド、最初はジャック・ローレンスが詞をつけた"Music Beyond the Moon"('47)という曲だったんです。バリトン・ヴォイスのヴィック・ダモンが人気の出始めた頃レコーディングしたのですが、ヒットはしなかった。

 それから5年後、ガイ・ウッド同様イギリス出身で、同じように作詞作曲どちらも出来るソングライター、ロバート・メリンが歌詞をリニューアル、フランク・シナトラがレコーディングしたら、あっという間に大ヒット、ジャズ・スタンダードになって、今も歌い継がれているんです。つまりMy One & Only Loveは皮肉にもワン&オンリーではなかったというわけ。

 "Music Beyond the Moon"を"My One & Only Love"にしたらヒットしたのはどうしてなのか?必ずしもヴィック・ダモンよりシナトラの方がずっとスターだったから、だけではないように思えます。シナトラのシングル盤ではB面だったし、今もスタンダードとして、ジャズだけでなく、ロッド・スチュワートなど、多くのシンガー、ミュージシャンに受け継がれているというのは、やっぱり、歌詞とメロディとハーモニーが三位一体の魅力を醸し出すからではないでしょうか?

<ラブ・シーンが見える>

FullScale_17_e98ae.jpg 高名なジャズ評論家ベニー・グリーンに「戦後のバラードのうちで最も精巧に作り上げられたバラード」と言わしめた"My One & Only Love"、形式は一般的なA-A-B-A形式ですが、通常聴かせどころとなるサビ(B)の方が、変化に富んだAのパートよりも控え目で、不思議な緊張感を醸し出すところが、洒落た雰囲気の秘密なのかもしれません。

 同様に歌詞も、A-2のパートがパンチラインになっていて、聴く者の心を掴みます。「四月」とか「そよ風」とかラブソングの定番になっている言葉が並ぶA-1から、A-2に入ると、冒頭の"The shadows fall and spread..."から、一気に歌の情景にリアリティが生まれる仕掛けになっている。ところがネット上を閲覧すると、数多ある訳詩の殆どが、このシンプルな節を「周りの景色に長い影が落ちる」と解釈し、「夕暮れになると」とか「夜の帳が下りると」とか、単に「夕方」として日本語訳化されている。そうしてしまうと、リアリティがしぼんでしまい、ありきたりな印象になってしまうのが少し残念です。

 本当は、自分達のシルエットが、「実物よりも長く大きく広がって、恋の不思議なムードも同じように増幅されている」ということを歌っているんです。

 静かな夜、デートの帰り道に、抱き合う自分たちのシルエットが目に入る、思わず気分がたかまって唇を重ねる恋人達、二人の影は重なって...という映画の1シーンのような情景が、たった2つのシラブルから浮かび上がってくるという仕掛け!うまいな...そう思うと、再びロレツの爽やかな色気のある声を思い出しました。男の歌を女が歌う、その効果が最大限に発揮されていますね。

 寺井尚之にとっては、アート・テイタム&ベン・ウェブスターの名演が一番印象的で、Evergreenでも、その辺りが感じられるので、ぜひ聴いてみてください。楽曲や歌詞の良さが判ると、聴くのも楽しいし、演るのもまた楽しいですよね!演奏者たちのために自筆楽譜もお分けしていますが、マイワンはサンプルとして無料でダウンロードできますので、ぜひこの機会に!そして他の譜面もどうぞ!

<My One & Only Love> 曲: Guy B. Wood/ 詞:Robert Mellin

今回は敢えて原曲の歌詞も日本語の前に掲載しておきました。

Evergreen_cover.JPGのサムネール画像

The very thought of you makes my heart sing

Like an April breeze on the wings of spring

And you appear in all your splendor,

My one and only love.

The shadows fall and spread their mystic charms. 

In the hush of night while you're in my arms,

I feel your lips so warm and tender, 

My one and only love.



The touch of your hand is like heaven, 

A heaven that I've never known.

The blush on your cheek  

Whenever I speak

Tells me that you are my own.



You fill my eager heart with such desire, 

Every kiss you give sets my soul on fire,

I give myself in sweet surrender,

My one and only love.



君への想いに心が躍る、

春の翼に乗って来る四月の風の如く。

やがて輝く君が現れる、

かけがえのない恋人よ。



二人の影は長くなり、

恋の不思議を映し出す、

しんとした夜更け、

君をこの腕に抱き、

交わす唇は温かく優しい、

かけがえのない恋人よ。



その手に触れるだけで夢心地、

初めて知る天国、

話しかけると、

紅く染まる頬が、

君の気持ちを教えてくれる。



君はハートを欲望で満たす、

キスした数だけ心に火がともる。

喜んで降参!

かけがえのない恋人に。


 もうすぐホワイト・デーですね!寺井尚之のEvergreenを聴きながら、二人で影法師を眺めるのはいかがですか?

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コメント(3)

そうなんや!!

てっきりおヒゲジョリジョリが気持ちいいんだと、長年思っていました(恥)

blush : 赤面する
brush : 刷毛

なんですね!
'r' と 'l' が聞き分けられない英語力が…

アハハ!ネイスミスさんってユーモアがあって最高ですね!

先輩の懐の深さに感動いたしました。ありがとうございます。

ジョリジョリ、頬のブラシ・・・父親の頬ずり思い出します。

腕の中にいる人の頬のブラシって、却って今っぽいかも!

お立ち寄りおただけて光栄です。今後とも宜しくお願い申し上げます。

MIXIのトピックで使わせていただきました。
ありがとうございます。

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=73324725&comm_id=6028752

#335 です。

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