2012年4月12日

ある常連様のこと

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 やっと桜が咲き、今日の大阪はサングラスをかけたいほどの日差しになりました。皆さま、いかがお過ごしですか?

 今年は寺井尚之も還暦!OverSeasは開店33周年となりました。上の写真は、1983年から2003年まで営業していた旧店舗です。People Come and Go. 思えばずいぶん沢山のお客様に支えられ、今までやって来れました。感謝のことばもありません。

 常連様と気安く呼ばせていただいていても、転居や転職、ご結婚など、色々な理由でお別れがあります。プライベートなことを存じ上げない場合は、たいてい「なんとなく・・・」という感じで、自然にお目にかからなくなるもの。そしてまた「なんとなく」再会することもあります。

<People Come and Go>

 もうずいぶん前の常連様のことです。その方のお名前を、仮に山田さんとしておきます。山田さんがOverSeasに来られるようになったのは1990年代でした。大阪人らしく、ざっくばらんで、恰幅のよい紳士、寺井尚之より少しだけ年上のトミー・フラナガン・ファンで、ラジオで流れていた寺井尚之のCDを気に入って、OverSeasを捜して来てくださったそうです。

 ウィスキーのボトルを傍らに、フライドポテトとチーズを肴に、ライブを聴く山田さんの後姿には、しみじみとくつろいた雰囲気が漂い、私はその背中を観るのが大好きでした。大企業の偉い方と知ったのは、ずっと後になってからです。トミー・フラナガンのライブや、ジャズ講座にも時々来られていたけど、一番お好きだったのは、寺井のピアノをおひとりでしみじみと聴くひとときのようでした。

 私が病気で数週間入院した時は、思いがけなく手紙を頂いた。それは、「お見舞い」というよりは、ご自分の日常の生活を綴ったもので、ペットのハムスターが自宅のピアノの下に隠れてしまい、奥様と大騒ぎしたとか、企業戦士らしくないところが不思議な手紙でした。

 10年来の常連様になった山田さんは、時々は部下の方々や、一度は奥様と一緒に来られたけど、やっぱり一人でしみじみと楽しむのがお好きでした。でも、やがて子会社の社長さんになられ、OverSeasが現在の新トヤマビルに引っ越してからは、ふっつりと来られなくなりました。

 職場が変わって忙しくされているのか、それとも、今の店が好きではないのか、音楽に飽きてしまったのか・・・People come and go しかたないさ、でも頂いた手紙は大切にして、お好きだったWith Malice...やStar Eyesの演奏を聴くと、ときどき山田さんのことを思い出すことがありました。

<再会と別れと>

 先週の金曜日、開店前に通用口から「もうやってますか?」と明るい声がします。「どうぞ、どうぞ!」

 「あの・・・山田というんですけど・・・もう忘れていらっしゃるかも知れませんけど、以前、主人がよくお伺いしていたんです・・・」

 あんなにご贔屓いただいたのに、忘れるもんですか!ご無沙汰しています!山田さん、どうなさってるんですか?

 それから、奥様が教えてくださった。山田さんはOverSeasが移転した頃、亡くなられたと。

 「少々のことではビクともしないタフな人で、病気知らずだったけれど、急にお腹が痛い言うて・・・病院で検査を受けたら末期ガンでした。10か月の闘病生活の間、結婚して初めてずっと一緒に過ごせたという感じでした。

 亡くなってからは、本当にさびしくてねえ・・・でも子供たちもみな独立しました。家に寺井さんのCDがあるから、私もよく聴くんですよ。主人は海外出張やなんやかんや、いつも忙しい人だったから・・・OverSeasでピアノ聴くのが好きや言うてね、くつろげるって言うてね。好きやったんですわ。

 それでね、私もいつか寺井さんのピアノ聴いて、主人の気持ちを味わいたいと思いながら、なかなか来れなくて・・・でも、やっとのことで来れました。」

 奥様は、帰り道が暗くて怖いからと言い、1セット聴いてから、再会を約束して帰られました。その後ろ姿は山田さんのくつろぎの背中ではなかったけれど、やっぱりしみじみとした気持ちが溢れ、私はありがとうと心の中で言い手を合わせずにはいられませんでした。

 10年間音信不通だった常連様に、再会し、同時にお別れをした不思議な夜。山田さんは「僕みたいにがんばりや!」と、私たちに喝を入れたかったのかしら。

 エネルギー注入!土曜日の「トミー・フラナガンの足跡を辿る」は、おいしいナムル&蒸豚の韓国グルメをご用意します!J.J.ジョンソン@アムステルダム『What's New』をしみじみ楽しみましょう!

CU

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コメント(4)

これはお店冥利に尽きる出来事ですね。何か深い味わいが襲ってきました。山田さん、亡くなる前に来たかったことでしよう。ご主人さんのピアノを最後に一回と・・・奥様につながってまた出逢う。ジャズのお店だからというわけではないと思いますが、それは寺井さんのお人柄だと思います。いいお話をありがとう。

植山さま、思いがけずコメントいただき感謝です。私は何にも判らずこの仕事を始めてしまい、お客様から色々教わって長い年月が経ちました。お恥ずかしいことばかりですが、良いお客様にたくさん出会えたのが誇りで財産です。ありがとうございました。

tamae さん、おはようございます。

ジャズを通した出会いと別れ、いいお話ですね。男は背でジャズを聴く、その常連様はそんなお人柄なのでしょう。

本日アップの拙稿で、「Spring Can Really Hang You Up The Most」を話題にするにあたり、tamae さんの「光と影のスプリング・ソング」を参考にさせていただきました。ありがとうございました。

No.8144のdukeさんのコメントへの返信

ジャズ聴く男の背中はいいですね!これは私の役得です。dukeさまもスイング感一杯の「北の後姿」でした!これからOverSeasはスプリング・ソングが一杯の予報です。Spring Can Really Hang You Up The Most、渋いスタンダード取り上げていただき嬉しかったです。ありがとうございました。

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