2013年9月19日

対訳ノート(39) Old Devil Moon


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石川賢治氏撮影写真集「京都月光浴」より:銀閣寺にて
石川賢治「月光浴」HPより転載しました。


 中秋の名月です!上の写真は「月光写真」の第一人者、石川賢治氏が撮影した京都、銀閣寺の月。美しいですね!(写真集「京都月光浴」より)   9月はOverSeasでも、「月」に因んだたくさんの名曲を寺井尚之(p)がお聴かせします。28日(土)のメインステム・トリオ(piano 寺井尚之、bass 宮本在浩、drums 菅一平)のライブ、きっと素晴らしい「月光浴」ができそうです!今日は、メインステムが演奏を予定しているジャズ・スタンダード、"Old Devil Moon"のお話を!

 <フィニアンの虹>

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 バートン・レイン作曲、E.Y.ハーバーグ作詞、この作品は、1947年から725回というロングラン記録を打ち立てたブロードウェイ・ミュージカル、『フィニアンの虹』の中のラブ・ソング。OverSeasにとっては、名盤、『Dial J.J.5』(J.J.ジョンソン5)のヴァージョンが決定版。

 ABC1, ABC2 48小節と変わった構成で、ブロードウェイの曲なのに、Verseもないユニークな曲。J.J.ジョンソンはラテンと4ビートを絶妙に組み合わせて、アウト・コーラスはCから始まる意表をついた演奏構成!これが、歌詞と曲想にぴったり!

 フランシス・フォード・コッポラの初期督作品『フィニアンの虹』の"Old Devil Moon"は夜空とボサノバのラブ・シーンですが、それよりずっと歌詞にぴったり来る感じがします。

 『フィニアンの虹』は古典的ミュージカルの名作だから、映画をご覧になった方も多いと思います。百万長者を目指し、金の壺をかかえてアイルランドからアメリカの小さな村にやってきた変なオジサン(フレッド・アステア)と美しい娘(ペトゥラ・クラーク)を中心に、壺の妖精の魔法が、村にドタバタ騒ぎを引き起こす。結局、人間の幸せってお金じゃないんだ、愛なんだ!というファンタジー系のお話、でもそのウラには拝金主義や、人種差別に対する強烈な風刺のあり、脚本には作詞のE.Y.ハーバーグが関わっていました。

 <E.Y.Harburg ファンタジーと反骨精神>

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E.Y.Harburg(1896-1981)

 エドガー・イップ・ハーバーグは開拓時代の移民の町、ロウワー・イーストサイド育ちのNYっ子。子供の頃は、夕方に街灯を点灯して回るアルバイトで小遣いを稼ぎ、シティ・カレッジ時代ではアイラ・ガーシュインと同級生でした。ジャーナリストとして活動したり、電気器具の会社を設立してみたり、色々やって、作詞家になったのは30代の後半です。

 作詞家としての最初のブレイクは1939年、ハロルド・アーレンと組んで音楽を担当した『オズの魔法使い』で"Over the Rainbow"はアメリカ準国歌と言えるほどの「みんなの歌」になりました。

 『フィニアンの虹』も『オズの魔法使い』も、子供から大人まで楽しめるファンタジーですが、どちらも、社会に対する強烈な風刺と皮肉を感じます。

 

<オールド・デヴィル・ムーンって何?>

 この"Old Devil Moon"という言葉、とてもひとことの日本語にはしにくいです。私の翻訳パートナー、ジョーイさんに伺ったらこんなアドバイスをいただきました。

「例えば"harvest moon"(中秋の名月)の夜は、魔法のようにロマンチックなムードになるでしょう。この歌の場合、主人公の女性の瞳の中に輝くロマンチックな月が、相手の男性に魔法をかけて虜にする。基本的に「月」というものは良い意味で恋の悪魔のような役割をするんです。」

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 なるほど、Max Wilk著 "They're Playing Our Song"というインタビュー集にはこんな逸話がありました。

 E.Y..ハーバーグが『フィニアンの虹』に取り組んでいるとき、「オズの魔法使い」で一緒に仕事をした友人の作曲家ハロルド・アーレンが家に遊びに来た。イップがバートン・レインと一緒に取り組んでいる「フィニアンの虹」の楽譜を弾いて聴かせると、或る曲についてアーレンが、「これはイマイチだ」とダメを出した。それで、「じゃあこんなのは?」 と、バートン・レインに、彼がいじくっている曲を弾いてもらった。これが"Old Devil Moon"の原型だ。

 他の映画のために、別の歌詞を付けたんだが結局オクラになったものだった。するとアーレンはこの曲を絶賛してくれて、ハーバーグはこれまでの歌詞をボツにして新しいアイデアを探した。

「魔法っぽい感じの歌詞がいい、何となく気味が悪くて、ヴードゥー魔術を暗示するような詞にしよう!」そうして出来たのが"Old Devil Moon"。通常の32小節パターンと違う変わった構成でヴァースもない。でもこの曲は大ヒットした。オリジナルであること。それが名曲の秘密だ。

 

<オールド・デヴィル・ムーン>
原歌詞はこんな感じ
E.Y.Hurburg / Barton Lane

わたしが...

あなたを一目見た途端、

その瞳の奥の何かの、

虜になった。

それは魔法のお月様

あなたが空から盗んできて、

瞳の中にキラキラさせてる

魔法の月。

あなたは、輝く月をチラリとさせて、

私の恋を熱くする。

夜空の星は

ピカピカ光を放つけど

あなたの魅力には

これぽっちも及ばない。

あなたは

魔法の絨毯に私を乗せて

恋の冒険に誘う、

私の心はドッキドキ!

泣きたいよ!歌いたいよ!

バカみたいにヘラヘラ笑いたい!

これはきっと

瞳の月の魔法のせいだ。

私の心が鳩のように

自由、

あなたの瞳の奥に輝く

魔法の月が

恋で私を

盲目にしたから。

 

  ハーバーグがファンタジー系の歌曲を得意としていたのは、現実のアメリカ社会にある格差や人種差別など、資本主義が生む不正に強く憤懣を思えていたからかも。

 1950年には社会主義者としてブラックリストに載せられ、電話だって盗聴されていたかも知れないけれど、うまく世渡りをして、ギリギリの「風刺」で社会の世相を判し続けました。 
 「私がグっと来るのは、本当に危険で根深い問題を、笑いによって突き崩すことが出来た時なんだ。」:E.Y.ハーバーグ。
  泣いて、歌って、笑いたい!今月今夜の中秋の名月を観て、OverSeasで聴きに来てくださいね!
オールド・デヴィル・ムーンを!
CU

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