2015年5月14日

対訳ノート(46)Until the Real Thing Comes Along

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 月例「トミー・フラナガンの足跡を辿る」に今月、来月にまたがって登場するケニー・バレburelld0d0eb87.jpgルの弾き語りアルバム『Weaver of Dreams』、名ギタリスト、バレルの歌うスタンダード・ナンバーは、どれもミュージシャンならではの音選び、正確無比な音程、それにミュージシャンらしくない男性的な甘い声は、ジャケットの姿に相応しいハンサム。バレルとフラナガンが若かりし頃、デトロイトで人気だったナット・キング・コール・スタイルの演奏活動の延長線上にあることでも意義深いこのアルバムの収録曲 "Until the Real Thing Comes Along"も、キング・コールの演目です。この歌には、「本当のことがわかるまで」という邦題もついているのですが、講座で映写する対訳作りでは、歌詞の肝心要になる英語のシンプルな言い回しをどう訳せばいいか、ほとほと困りました。

<歌のお里>

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  この歌のお里は『ラプソディ・イン・ブラック』(1931)というブロードウェイのレヴュー、ハーレム・ルネサンスの華、エセル・ウォーターズが唄った。当時の時の曲名は"Till the Real Thing Comes Along"で、おしどりコンビ、アルバータ・ニコルス(曲)、マン・ホリナーRhapsody-in-Black-05-31-1.jpg(詞)の作と記載されている。5年後、この曲はリニューアルされ"(It Will Have to do) Until the Real Thing Comes Along"と改題、サミー・カーンやソール・チャップリンといった3人の共作者の名前がドドっと付け加えられた。歌の中身に、どれほどの改訂がなされたのか?あるいは版権の分配先が増えただけなのか、全く不明。とにかく、リメイクされた1936年、アンディ・カーク楽団で大ヒット!以来、ファッツ・ウォーラー、ビリー・ホリディ、デクスター・ゴードン、ソニー・クリス、アレサ・フランクリン、そしてケニー・バレルなどなど...ジャンルを問わず多くの音楽家に愛奏された。因みにアンディ・カーク楽団は、チャーリー・パーカーやファッツ・ナヴァロが在籍した名門バンドで、ビバップ誕生のゆりかごとされる楽団です。

<ちょっと英語の話>

 けっこうな有名曲にもかかわらず、日本の対訳サイトにほとんど紹介されないのは、私も手こずった肝心要の複文パンチライン "It will have to do until the real thing comes along"の意味が、イマイチ釈然としないせいかも...

 英語を母国語としない私たちにとって、DoGetと並ぶ厄介者、「ソレハスベキデアロウ」って何だろう... 謎解きのために、まずは、このフレーズからHave toを省き更にシンプルにして、"It will do." の意味を考える。これはスラングでもなんでもない、とても英語らしい一般的な表現。英語学習者には非常に重宝なBBC放送のポドキャストに紹介されています。使い勝手のある多様な言葉ですが、歌詞のwill doは、satisfactory, or acceptableと言い換えられる。ここでの"will do"は「必要な要件を満たしていること、許容範囲内であること」なのでした。

 例えば、週末のデートのために、デパートでとびきり可愛くてセクシーなピンクの口紅を見つけたら"It will do!"とほくそ笑む。或いは、区役所や郵便局で「身分を証明する物を提示してください。」と言われた時、「運転免許証でいいですか?」と言ったとします。窓口の人が「はい、いいですよ」という言葉に当たる英語が"will do"です。

  じゃあ"It will have to do"となるとどうなるの?

 前述のデートの当日、勝負服を着て、そのリップをつけてみた。そしたら、リップの香りが、今吹きかけたシャネル#19とはずいぶん違う。しまった!でも、そんなに強い香りじゃないし、きっと彼はそんなところまで気にしないはず。このリップで大丈夫、と自分に言い聞かせる。こういう場合の女心が"It will have to do"。つまり、100%完璧とはいえないまでも、「これで大丈夫でしょう。」という意味なんです。大阪弁なら「まあ、いけるやろ」って感じ。

 この歌のヴァースを読むと判るように、主人公は、自分がどれほど愛しているかを、いろいろ説明するけど、相手には納得してもらえない。それで、「本当のことがわかるまで(つまり、自分の愛を納得してもらえる時がきっと来るから)、それまでは、私の説明でよしとしておいてくださいな。」という歌なんです。

 この「当座しのぎ」の言い回しが、奥深い音楽表現につながることから、長らく愛奏、愛唄されているのかも。バレルのハンサムな歌を聴けば、こんな風に告白されたいと思うだろうし、ビリー・ホリディの歌を聴くと、色んな男を相手にしてきた商売女が命を賭けたラブストーリーになっている。

<Until the Real Thing Comes Along>

原歌詞はこちら

Mann Holiner, Sammy Cahn, Alberta Nichols, Saul Chaplin, L.E. Freeman

=Verse=

あなたは私にとってこの世の天国、

それをうまく説明できないの。

だって愛や、愛の深さは言葉にできないものだから、

でも本当よ、

あなたはたった一人の恋人・・・・

 

Chorus

あなたに仕え、

身を粉にして働くわ。

物乞い、悪行してみせる、

それがあなたのためならば。

それは違うと言われても、

それほど違いはないはずだから、

どうぞ愛だと思っておいて、

本当の事が判るまで。

 

愛の証になるのなら、

大地を動かすのも厭わない、

それが愛ではないにせよ、

大して変わりはないはずだから、

愛だと思って受け入れて、

本当の事が判るまで。

 

言葉を尽くして説得しても、

どうにも判ってもらえない。

たとえ何が起ころうと、

いつでも愛しているのにさ、

私の心はあなたのもの!

この上、何を言えばいい?

 

あなたに焦がれため息ついて、

あなたを思い涙する、

空の星さえ取って来る。

それが愛ではないにせよ、

ほとんど変わりはないでしょう、

だから思いを受け入れて、

本当だと判るその日まで。

 

 えっ?私のような者に、英語の意味について講釈されても納得出来ないって?そんな事言わずに、まあ、これでよしとしておいてくださいな。本当のことが判るまで、ねっ!

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