2008年10月17日

タッド・ダメロンについて話そう!(1)

   Tadd Dameron (1917-'65)

 

  OverSeasで拍手を沢山いただけるスタンダード曲、そしてトミー・フラナガンの名演目の作曲者の一人にタッド・ダメロンがいます。ダメロンはビバップ時代を代表する作編曲家…とは言うものの、ダメロンに関する情報はネット上では凄く少ない。「ああ、Hot House 作った人か、ジョン・コルトレーンと共演してたバッパーや。麻薬中毒やろ、ピアノは下手やな。」と、なんかBクラスの格付けが多いような気がする。


  トリビュート・コンサートまでに、少しタッド・ダメロンとその作品の話をしておこう!今夜はまずプロローグ。

 タッド・ダメロンといえば、デトロイト出身ということで、フラナガン、ハンク・ジョーンズと共に一くくりにされがちなピアニスト、バリー・ハリス(p)がタッド・ダメロン集、『Barry Harris Plays Tadd Dameron』(Xanadu '75)を録っていて、リリース時には私も愛聴しました。ここでバリー・ハリスが表現したタッド・ダメロンは、絵画で言えばモディリアーニ、女性の肢体に、彫刻刀でゴリゴリ削ったような陰影と質感を付け、カンバスに命を吹き込むのと同じような手法のプレイには、洗練された楽曲とビバップ的な硬質さの渋いコントラストを感じていました。

Barry_Harris_Dameron.jpg

 一方、トミー・フラナガンが描き出すダメロンは、同じ「デトロイト」のカテゴリーに関わらず、バリー・ハリスとはかなり違う。
 最近、ジャズ講座で聴いた、<A Blue Time>、や、<Smooth As the Wind>、極めつけの<Our Delight>…どれもこれもすっきり垢抜け、金箔輝く尾形光琳の屏風のように華やかなれどケバくなく、ビバップならではの手に汗握るスリルがある。
 きっちりと襟を正しているんだけど、どこかにゆるみのある、芸者さんの着物の着方みたい!色気があって粋なんです。…とかなんとか言ったって、百聞は一見にしかず!

 下のYoutube動画は、寺井の生徒達が何百回も観ているヒット画像、トミー・フラナガンが<Smooth As the Wind>をソロで演っています。ホストは、これまた巨匠ビリー・テイラー(p)、<アクターズ・スタジオ・インタビュー>など、ユニークな教育番組で知られるCATV、『Bravo TV』のジャズ番組からの映像。これを観るとタッド・ダメロン作品の良さが判ってもらえるはず!

 ねっ!はじめはシンプルなメロディ、ひとつひとつの音が、扇のように次々とハーモニーの花を開いて、思いがけなく大きく分厚い模様になる。スイング感も倍増し、沢山の扇が大輪の花になったと思うと、最後に全ての扇があっと言う間に畳まれて元通りになる。まるで手品みたい!なんと華麗で優美な曲でしょう!

   この映像の冒頭で、ホスト役のビリー・テイラーはこう言っています。
「エラやコルトレーンとの共演も有名ですが、トミーはなんと言っても、立派なソロイストです。今日はぜひともソロ・ピアノを弾いてもらって、トミーならではのコード・ヴォイシングの素晴らしさを見せて欲しいのですが…」

それに対してフラナガンはこう答える。

「子供のときから、バンド・ミュージックを聴きながら育つと、楽団の演奏が、そのままピアノで弾けてしまうものでね… そうすると今度はちょっとピアノ向きに変えてみたりするんです。これから演るタッド・ダメロンのSmooth As The Windは、バンドのアレンジをそのままソロ・ピアノに使いました。…まずはフレンチホルンのイントロから…」

 フラナガンより10歳近く上の大先輩、ビリー・テイラーに対するフラナガンの話し方はとっても謙虚!「私は腕があるから、何人ものバンド演奏をピアノ一台でやってしまえる」という一人称でなく、「子供のときから楽団を聴いていれば、どんなピアニストだってそれ位のことは出来ますよ。」と、二人称を使っているところが、英語の勉強にもなります。

Smooth As The Windを日本語にするのは、簡単なようで難しい。「風のように、肌触り良く、淀みなく疾走する」という感じかな?快適なヨット・セイリングや、新車のステアリングなどにぴったりなことばです。

 <嵐の中の『そよ風』>
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  Smooth As the Windは、寺井尚之にとっても、大変思い出深い曲です。フラナガンが丁度『Jazz Poet』を録音した'89年、8月末にジョージ・ムラーツ(b)、ケニー・ワシントン(ds)との黄金トリオでOverSeasに出演した後、フラナガン夫妻が郊外の香里園という住宅地にあった自宅に泊りに来たことがありました。丁度台風が大阪に接近していて、外は土砂降り、翌日の飛行機が飛ぶかどうか判らないような状況でしたが、コンサートは大盛況。大雨の中、第二部の当日券が出るのを期待して、漏れてくるフラナガン3のプレイを聴きながら、ジーン・ケリーみたいに傘をさして踊っているファンの方々がおられました。今でもお元気でしょうか?

   その頃のトミーは、渾身のプレイの後でも元気溌剌!夜食にそうめんを食べてから、ダイアナがお風呂に入ったり、荷解きしている隙に、深夜の地下のピアノ室で「ヒサユキ、何か教えてやろう!」と、急に稽古を付け始めました。
「何を教えたろかなあ…よし!今日はタイフーンだから(!?)、Smooth As the Windにしよう!」そう言うと、こんな風にソロ・ピアノを弾き始めたんです。
 トミー・フラナガンらしいウィットだなあ!

 沢山開いた扇が次々と畳まれて行くようなこの鮮やかなエンディングも、その夜から寺井が完全に身に付けて覚えたものです。

 私以外には誰も外野の居ないピアノ室で、師匠の一言一句、一挙一動にかじりつかんばかりにしていた寺井尚之の姿に思わずシャッターを押したのがこの写真です。この師弟の緊張感は、長年の師弟の歳月の間にも、緩んだり色褪せたりすることはなかった。だから、今でもトリビュート・コンサートの為に骨身を削って稽古できるのかな?

 さて、タッド・ダメロンの作品がどんなのか、ほんの少し聴いたので、来週はタッド・ダメロン自身のことを少し書いてみようと思います。
 ダメロンの名曲はOverSeasにお越しになればいつでも聴いていただけるんですけど…
CU

2008年10月13日

「Eclypso」 ジャズ講座:片隅感想文

一昨日は『Eclypso』ジャズ講座!お越し下さった皆さん、本当にありがとうございました。
 
 録音スタジオに煙るパイプ煙草の香りが伝わるような解説に、大笑いしたり頷いたり…、楽しい気分がOverSeasの中に溢れると、パイプをくわえたトミーの大きな瞳がギョロっと動いた。あれは幻覚だったのか?
 
 勤務先の北京からは常連KD氏から、ボストンからは鷲見和広(b)さんの一番弟子しょうたんちゃんから、「僕も参加したかった…」とメールを頂戴しました。いずれ講座本シリーズに収録されますので、どうぞお楽しみに!

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講座の当日はパ・リーグ・クライマックス初戦と重なって、オリックス応援と講座ダブルヘッダーのツワモノも!


 OverSeasのBBSには、若きピアニスト達から詳細な感想が数多く書き込まれているし、今さら片隅から私が書くのも何ですが、ちょっと一筆書いておこう。

 『Eclypso』が録音された1977年当時、トミー・フラナガンは、まだエラ・フィッツジェラルドの音楽監督時代で、録音直前にトミーがジョージ・ムラーツ、エルヴィン・ジョーンズと組んでギグをした記録もない。恐らくリハーサルも当日スタジオ入りしてからやったのではないだろうか? 

 リリース時に、ジャズ・ベーシスト達がこぞってコピーした歴史的名演、“Denzil's Best”は、なんと当日トミーから渡された譜面を初見で演ったのだと、ムラーツ兄さん本人から聞きました。初見であれほど輝きのあるプレイをするムラーツ(当時32歳)の凄さは当然ですが、共演者の資質を看破し初見の曲でフィーチュアしたフラナガンの「眼力」の凄さ!アルバム・カヴァーのパイプをくゆらすポートレートそのままですね。
ジョージ・ムラーツ公式HPギャラリーより

   ところで、最近、TVで黒澤明の『七人の侍』を数十年ぶりで観ました。日本人であることを幸せに思わせてくれる映画史上に残る傑作だから、皆さんもご存知でしょうが、島田勘兵衛という初老の浪人が、自分を含めてたった七人のチームを急ごしらえし、綿密な作戦を立てて、農民を脅かす野武士集団を退治する時代劇です。
 20世紀を代表する名優、志村喬演じる島田勘兵衛の、温厚さと厳しさを併せ持つ奥の深い人格や、まなざしの輝き、ふと見せる雄弁な表情が、トミー・フラナガンの思い出と重なりました。レギュラー・トリオでなく、限定された条件で録音した『エクリプソ』の仕上がりを鑑賞していると、何度も『七人の侍』の名シーンを思い出してしまいました。

 G先生によれば、プロデュース側のアイデアは、「トミー・フラナガンとエルヴィン・ジョーンズのリユニオン」であったそうですから、“Relaxin' at Camarillo”は、プロデューサーのリクエストであったのかも知れません。それに対して、ジャズ・スタンダードと言うには知名度の低い“Cup Beares”(トム・マッキントッシュ)、“A Blue Time”(タッド・ダメロン)といったあたりは、明らかにトミー・フラナガン自身の選曲に違いない。

 次回、11月8日(土)のジャズ講座には、キーター・ベッツ(b)、ボビー・ダーハム(ds)からなる当時のレギュラー・トリオのライブ録音、『Montreux '77』で『Eclypso』と好対照を成します。

 トム・マッキントッシュ、タッド・ダメロン、サド・ジョーンズ、デューク・エリントン、トミー・フラナガンのレパートリーの源流(mainstem)を作った作曲家たちのことは、トリビュート・コンサートまでに、少しでも書きたいなと思っています。

 CU