2009年3月16日

ジャズ講座こぼれ話:Something Borrowed, Something Blue

 
 先週のジャズ講座も楽しかったですね!
 裏話の数々や、スタジオ内のミュージシャンたちのプレイ上のやりとりから判る様々な事実・・・身振り手振りもつけながら、寺井尚之が見事に大阪弁に通訳してしまうので、お店の中は大爆笑!ホワイトデーにも拘わらず駆けつけてくださったみなさま、どうもありがとうございました!

借りものと青いもの は花嫁の父の歌?>

 講座発起人で、音楽をすごくよく判っている男、ダラーナ氏から、『サムシングボロウド~はエレピということもあり、あんまり聞かなかったんですが、やはり名盤!(dsは別にしても・・・) また、ジックリ聴きます。』 とメールを頂戴♪ 確かに、今回登場した『Something Borrowed, Something Blue』はトミー・フラナガン・リーダー作のうちで最も売れなかった作品だそうです。原因は、パームツリーのジャケットや、エレクトリック・ピアノでの演奏が2曲入っているのが、正統派ピアニストのイメージにそぐわなかったからかも知れません。アルバムはオリン・キープニュースとエド・マイケルの共同プロデュースなっています。エド・マイケルは同じギャラクシー・レーベルで、スタンリー・カウエルのアルバム"Waiting for the Moment"をプロデュースしていて、やはりピアノだけでなくフェンダー・ローズやシンセサイザーなどをカウエルに弾かせているからエド流なのかも・・・


grover_washington_then_and_now.jpg 寺井尚之が解説していたように、エレピで演奏したフラナガンのオリジナル曲、"Something Borrowed, Something Blue"は、後にグローヴァー・ワシントンJr.が『Then and Now』というヒット・アルバムでフラナガンと演奏したおかげで、思いがけない多額の印税をもたらしてくれたそうです。 「借りものに青いもの」とは、英国の格言で花嫁さんが幸せになれるよう、嫁入り道具として持っていくものなんです。

old_new_box_large.jpg

Something old, something new
Something borrowed, something blue
And a silver sixpence in her shoe.





 講座のOHPにも使った上の写真は、英国の婚礼用品サイトから拝借しました。欧米では、花嫁さんに、古いものと新しいもの、借りものと、青いもの、そして靴の中に銀貨を入れて嫁入りすると幸せになれる。という言い伝えがあるそうです。つまり、嫁入りしても、実家の歴史や家風を忘れるな(Old)、初心を保ち未来への志を持て(New)、困った時には、人生の先輩達の知恵を借りろ(Borrowed)というわけです。そして、ブルーという色は処女と貞節の象徴、夫に貞節であれ。靴の中の銀貨は、嫁入りしてもお金の苦労をせぬようにという親心ですね。

 寺井尚之が推測するように、トミーの娘さんが嫁入りしたときに作曲したのかも知れないし、当時流行のソウルフルな雰囲気を取り入れて作ってみた実験的作品なのかも知れません。講座で、皆と一緒に改めて聴くと、ダラーナ氏の言うとおりフラナガンは、スイッチがどこにあるかも全くチンプンカンプンなフェンダー・ローズでも、ピアノと変わらない歌い上げ方で、心に沁みたなあ・・・

<「偶然の旅人」を産んだPeace>
 同アルバムに収録されたバラード、"Peace"では、フラナガンの意図を汲むことが出来なかったジミー・スミス(ds)のおかげで、思わぬ演奏展開になってしまったことが手に取るように判りました。そして2月29日(金)のThe Mainstemのライブでは、その時にフラナガンの意図していたアレンジで演奏したことを種明かしされて、ナルホド!と思ったお客様も多かったのではないでしょうか?

Eric_Jackson.jpg  有体に言えばミス・テイクであったはずの"Peace"ですが、このトラックは米国ニューイングランドでは非常にポピュラーなんです。というのも、ボストン地域のラジオ局、WGBHの人気ジャズ番組、"Jazz with Eric in the Evening"という番組のテーマソングとして、1981年から現在に至るまで、ウイークデイの午後8時から毎日放送されているんです。番組のサイトを見ると、様々な企画やゲストのインタビューがあり充実した内容です。ホストのエリック・ジャクソンはニューイングランド地域のジャズコミュニティのボス的存在で、ジャズ・アナウンサーとしても、プロモーターとしても非常に有名な人です。トミー・フラナガンが、ケンブリッジのチャールズ・ホテルにあるレガッタ・バーで頻繁に演奏していたのも、この番組に効用があったのかも知れません。やがて、90年代にケンブリッジに客員教授として滞在していた村上春樹が、そこでトミーのライブを聴き、名作「偶然の旅人」が生まれたんですね!

 そういえば、トミーはレガッタ・バーで、必ず"Peace"を演奏していたと、ダイアナも言っていたっけ・・・
   今回、トミー・フラナガンの"Peace"をネット検索してみると、ボストン方面の色んなブログに言及されていました。政治経済を主なテーマにしているブログにも、「トミー・フラナガンの演奏するテーマソングは、上質のワインの最初のひとくちのように心地よい」と書かれていて嬉しかった。

 決してトミー・フラナガン屈指の名演ではなかった"Peace"ですが、今でもレッドソックスのお膝元で親しまれているのは嬉しいことですね。

 トミー・フラナガンの誕生日に心をこめて!
birthday-cake.gif

 CU