2011年5月26日

"Let's" Talk about Thad Jones(1)

 大阪も入梅です。ピアノに悩ましい季節到来。皆様いかがお過ごしですか?

 来月6月11日(土)の講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」に、トミー・フラナガンのサド・ジョーンズ作品集"Let's"が登場します。

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 このアルバムは、デンマークの「ジャズパー賞」で頂いた賞金3万ドルでフラナガンが自費制作したもの、録音もデンマークです。スタンダード集ならいいけれど、レコード会社はなかなかサド・ジョーンズ作品集という企画を通してくれなかったのでしょうね。トミー・フラナガンのファンなら、どなたも大好きなアルバムだと思います。

21.jpgThad Jonesコルネット奏者、作編曲家、バンドリーダー(1924-86)





 スリル一杯で、エンディングまでドキドキしっぱなしの"Let's""Elusive"は"クール"でも"ホット"でもない悪魔的な魅力を感じるし、"To You"のようなバラードを聴くと、Mellowってこういうことなのかな?かと思います。とにかくサド・ジョーンズの作品はどれもこれも、軽やかなのに力強い!まるでトミー・フラナガンのマッスルみたいです。

 ではサド・ジョーンズとはどんな人なのか??

 サド・ジョーンズを身近に知るミュージシャンは、ハンク、エルヴィンのジョーンズ兄弟の一員である以上に、皆が口を極めて「天才」と言う。どれほどの天才かというと、モーツアルトやデューク・エリントンと比較して、「どっちの方が天才か?」という議論になるのです。そして、NYの仲間にサヨナラも言わず移住して、デンマークで客死したことを嘆く。(サドのお墓は故郷のポンティアックでなくコペンハーゲンにあるらしい。)

 ビッグバンド・ファンにとっては、朗々とした高揚感のあるコルネットでカウント・ベイシー楽団の忘れがたいソリストでありアレンジャー、そして伝説のビッグバンド、サド・メルOrch.のリーダーだ。ベイシー楽団時代に「複雑すぎて楽団のカラーに合わない」とお蔵入りになっていたアレンジを、サドメルでモダンに復活させて聴く者の心を根こそぎ掴んだ。

 ところがジャズ系ブログを閲覧すると、「愛すべきB級」なんて呼ぶ人もいる。きっと人気投票やブルーノート盤の売り上げ枚数のことを言ってるのかな?

 私の手元にはダウンビート誌のバックナンバーなど様々な資料が手元にあるのですが、どれもこれも、サド・ジョーンズの一側面だけクローズアップしたものばかり。

 これから講座まで少しずつ資料を整理して、公開しようと思っています。

thad-jones-77.jpg

 今日はとりあえず、予告編として、トミー・フラナガンが'96年にコロンビア大のFM番組で語ったコメントを和訳しておきます。

『サド・ジョーンズの作風は、メロディがシンコペートしているという点で、セロニアス・モンクと似ている。

 もしサドの曲を演奏することができるなら、プレイヤーとして自分のスタイルを構築する道のりを順調に歩めているということだ。

 彼の作品自体に大きな力強さがあり、演奏すると、自然にその力が表れてくる。

 例えば、ビリー・ストレイホーンの"ラッシュライフ"は、テーマ1コーラスに全てが完結しているだろう。アドリブの必要なんてない。曲の中に必要なファクターが全部組み込まれているのだ。サドの作品も同じだ。だが逆に、リズミックな作品は、演奏するほどリズムに引き込まれてしまう。「もっとソロを取れよ!」と曲が誘いかけてくるんだ!ともあれ、サドの曲はどれも奥深く、全体を把握するのは大仕事だ。サドの曲に秘められた全ての音を理解するのは大変なんだよ。』

Tommy+Flanagan+TommyFlanagan.jpg ジャズ講座、『Let's』は6月11日です。ぜひお越しくださいね!

CU!

2011年5月12日

対訳ノート(31)Don't Explain

 皆様、お元気ですか?先週はGW講座で連日名唱を聴きました!ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエ、のべ100曲が登場したことになります!

 スタンダード曲やブルースは言うに及ばず、ビバップ、シャンソン、ボサノバ、ステファン・ソンドハイムまで!ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエという3人の歌手を取り上げて、寺井尚之が絶好調の解説を聞かせました。(解説書があります。

 3人ともデビュー当時は美人歌手、でもきれいなだけでは終わらない。年齢を重ねるにつれ、それぞれのスタンスで、歌に新しい命を吹き込む姿に感動!聴きながら目を真っ赤にしているお客様が多く、私もウルウル・・・やっぱり皆で一緒に聴くといいなあ。講座やってよかった!

 今も、私の頭の中では、GWに聴いた色んな歌が響いています。「幸せ」にも「不幸せ」にも、本当に色んな切り口や表情があるんだ!

 今日は、講座で聴いた歌の中で、日本の歌謡曲と一番似ていた歌、ビリー・ホリディとカーメン・マクレエで聴いた"Don't Explain"のことを書いてみたいと思います。


<私小説的ソング>

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  レディ・デイは、僅か44年間の壮絶な人生と歌が同一視されることによって、カリスマ化された。"My Man"では「何人もの女を操り、金を絞り上げ、時には殴るヒモ男でも、抱かれるだけで苦労を忘れる」可愛い女、"Fine and Mellow"では「恋をすると、賭け事や深酒に溺れる」破滅型の女・・・ビリー・ホリディには、歌の主人公と実像の境目が見つけられません。現実は必ずしもか弱い女性ではなかったとしても、それが名人芸!

 "Don't Explain"は、男運に恵まれなかったホリデイを象徴する歌。ホリディの夫、ジミー・モンローが帰宅すると、ワイシャツの襟に口紅がついていたという実際の出来事を元にしてビリー・ホリディ自身が作った歌です。

 ホリディは"Don't Explain"誕生秘話についてこんな風に語っています。
 「夫の襟についた口紅が目にとまった。すると夫が私の視線に気づき、延々と弁解を始めたの。私が最も耐え難いのは"嘘"、嘘をつかれるくらいなら、浮気されるほうがずっとまし!だから「風呂にお入んなさい!」と話をさえぎって言ったのよ。「Don't Explain(言い訳はやめなさい)」って。

 その言葉(Don't Explain)が、ずっと私のへっぽこ頭の中で響き続けていた・・・何とかこのいやな科白を忘れてしまいたい!そう思いつめるうち、醜い思い出が悲しい歌に変身して、知らず知らずに口づさんでいた。あっという間に歌が出来上がったのよ。それから、作曲家でブレーンだったアーサー・ヘルツォグが、私の歌うのを聴きながら、ピアノで音を拾い、歌詞を書きとめた。そして2,3箇所のフレーズを修正して、ソフトな感じに仕上げてくれた。」

 こういう現象を哲学者は「昇華」と呼ぶんですね!

HolidayMonroe.jpg ビリー・ホリディとジミー・モンローは1941年から44年まで結婚しています。モンローはトロンボーン奏者で、兄はハーレムのクラブ、ビバップの生地、"モンローズ"の経営者、クラーク・モンロー。ジミーは兄の店で演奏活動をしていましたが、ヘロインの密売容疑で逮捕され、ホリデイが多額の弁護費用を払う羽目になりました。男で苦労する彼女の姿と歌がシンクロして、この歌も大ヒットしたんですね。森進一の「おふくろさん」とか、昭和の歌謡曲もそういうのが多かった・・・


 「女を作ってもいい、一緒にいてくれるなら・・・」という切ない切ない歌、ホリディの歌には、男なしには生きていけない女の弱さや哀しさが漂います。

 「いい、悪いはどうでもいい。私にはあなたしかいない。」殿方は、そう言うホリデイに観音菩薩を観る。男性でなくても、「赦し」を感じるのは、私だけではないでしょう。歌詞はいくつかヴァージョンがありますが、要約するとこんな感じ。原歌詞を読みたい方はこちらをご参照ください。
ネット上で聴くことも出来ます。

<Don't Explain>

Billie Holiday, Arthur Herzog

言い訳はいいの、

ただ、このまま一緒と言って。

帰ってくれて嬉しいの、

だから言い訳は止めて。

静かにして、

言い訳しても何もならない、

口紅の話はよしましょう、

言い訳は止めて。


人の噂に泣かされて、

あなたの浮気はお見通し、

いい悪いはどうでもいい!

一緒に居てさえくれるなら。

・・・
あなたは私の喜び、そして苦しみ

私の命はあなたのもの、

だから言い訳はやめて。




 しかし現実は違っていて、ビリー・ホリディ自身、夫がありながら、トランペット奏者のジョー・ガイと関係していた。この彼氏もモンロー同様、ヘロイン中毒、ホリディ自身がヘロインの虜になったのもこの時期でした。

 ビリー・ホリディは、トラブルを起こすホットな男ばかりを選んで付き合ってた。相手をわざと挑発して、自分からなぐられるような状況を作り出す癖があったと、伝記では言われています。

「恋すると、いけないことと、判っているのにしてしまう・・・」"Fine and Mellow"より。

<マクレエの凄み>
Carmen+McRae.jpg

 一方、カーメン・マクレエ晩年の"Don't Explain"は、歌の印象が激変します。NYブルーノートのライブ盤"For Lady Day Vol1,2"はマクレエの最高作と言えるかもしれません。

 63歳のマクレエが歌う"Don't Explain"に「女性のか弱さ」や「菩薩」の姿は、これっぽっちも感じられません。淡々としながら、恋に命を賭けた「覚悟」というか「凄み」が出ています。この歌が終わったら、主人公は夫をズドンと一発で殺して、自分も一緒に死のうとしているんだ!と、聞き手に確信させる瀬戸際の迫力があります。殆ど同じ歌詞を歌っているのに「女の性」が影を潜めて、人生の「覚悟」がクローズアップされるんです。

 マクレエはビリー・ホリディを愛して尊敬して、一挙一動をみつめながら成長した歌手、その結果、全く違う歌の世界を作り出した。本当に凄いことです。

 寺井尚之がトミー・フラナガンを見つめ続け、自分のスタイルで演奏していることを思うと、二つの『言い訳しないで』は、とても興味深く思えて仕方がありません。

CU

2011年5月 3日

GW講座:Billie Holiday

 GW講座初日、初めてのお客様や常連様、ふらりとお立ち寄りくださったお客様、ビリー・ホリディの名唱を、一緒に聴けて幸せでした~!

 寺井尚之がいとおしむビリー・ホリディ像、トミー・フラナガンがこよなく愛したビリー・ホリディ、色んな姿、色んな歌の表情が見れました。

 トミー・フラナガンのハートをバクバクさせた美女、レディ・デイ、ライブはどんなんやったんやろう・・・昨日、ダグ・ラムゼイという米国のジャズ評論家のブログを数ヶ月ぶりに覗いてみたら、亡くなる直前の動画が紹介されていました。滅多にラムゼイのブログは観ないのに、とても不思議です。

 ホリディの十八番のひとつ"Travelin' Light"は、今日も色々聴き比べましたね!このレディ・デイはとても美しい!国民的美少女、後藤久美子さんに少し似てるなあ。亡くなった年1959年、パリで撮影された映像です。ピアノは残念ながら、今日聴いたウィントン・ケリーではありません。

 明日のGW講座はサラ・ヴォーン!寺井尚之の解説にご期待ください!不肖私は、給食係&指し棒でお待ちしています。

CU