HELLO FROM BERLIN


Walter Norris:1927年生まれ、サド・メルOrch.やジョージ・ムラーツとのコンビで活躍後現在はドイツ在住。
2003年郷のアーカンソー州において、音楽の殿堂入りを果たした。アート・テイタムの流れを汲むピアノの巨匠

2003年にOverSeasの為に来日、コンサートやセミナーを通じ寺井尚之ジャズピアノ教室と交流を深めたウォルター・ノリス氏よりメッセージです。
ヒサユキ&生徒諸君へ
 寺井尚之ジャズピアノ教室、第10回発表会のCDをありがとう!
皆さんの演奏を聴き、非常に意義のあるコンサートと感じました。私を含め演奏者というものは、すべからく、いかに切磋琢磨、精進しているものだと改めて感じました。
 我々は、多年に渡り、たゆまぬ努力を続けていくと、鍵盤に向かう努力が価値あるものとなります。それは、練習を厭わない姿勢があるからなのです。稽古を嫌がらずに精進すれば、上達が判った時、努力は報われるのです。

 皆さんの演奏を聴いていると、42年前の思い出が蘇りました。
 私が学んでいたピアノの演奏クラスに、他のピアニスト達と共に参加していた時のことです。私はベートーベンの二番を演奏したのですが、まだ弾きなれておらず、曲の中盤で、頭の中が真っ白になってしまいました。すると先生は私に、ショパンの死後発見されたFmの作品を続けて弾くよう命じました。
 その時私はもう32歳になっており、いい年をして失敗した恥ずかしさは耐え難いものでした。他の生徒達は皆24歳以下、おまけに、皆私よりも技量がありました。
 ほとんど頭の中は真っ白、私の意識が全くない状態で、ショパンのエチュードを弾き始めると、今度は逆に自分の感情が演奏に表現されていくのをはっきりと意識したのです。次回のレッスンに行くと、その際教室にいた生徒の一人が私の演奏について「今までに聴いたあのエチュードの中で一番繊細な演奏だった。僕の聴いたどのレコードとも全く違った演奏解釈だった。」と言ってくれた事を先生が教えてくれました。そして先生は、私の演奏方法はクラシックの世界では容認されないものだが、音楽的にはとても進歩的なものだから、それを磨きなさい、と微笑みながら付け加えてくれたのです。

 つまり、記憶のない状態で演奏した方がよかったという事を言いたいために私は皆さんにこのお話をしたのです。もしも、そうでなければ、こういう演奏にはならなかったのです。その数週間後、私は再び、その高感度の状態を再現する事になります。私にとって、1964年のあの午後の体験は、自分の限界を一段階超えて、新しい段階にステップアップする契機となりました。私が求めていた上達は、そのようにして不意に訪れました。
 
 私は、音楽の勉強は生涯続くものと感じています。宗教的な精進と、とてもよく似たところがあります。何千年間にも渡り、宗教は信者に、より高度な思想を得るように啓発して来ました。それには、宗派の文化を伴い、様々なリズム・パターンや、メロディのくり返しによる儀式的な音楽を使用します。神秘的な効果で、人々に聖的なるものへの崇拝へと誘導するわけです。
 また一方で、音楽は霊感を与えたり、予言的なメッセージを伝えるだけでなく、より一層の成長によって得られる、一段上の知的な思考を表現するものでもあります。だから、音楽は国境に関係なく、どの人間にも感銘を与えるのだと信じています。

 しかし、音楽はどこから来たのでしょうか?何故我々は演奏したいと思うのでしょうか? はっきりとした答えはありませんが、考える価値のある問題には違いありません。音楽は人生同様謎に満ちています。しかし、音楽は我々の存在を正当化する一助となり、人生に意義を与えてくれます。

2003年の教室の記念写真に写っている人たちの多くが、今回のCDのジャケット写真におられますね。
皆さんの第11回の発表会の演奏も、心から楽しみにしていますよ!

お元気で!
 
ウォルター・ノリス