第9回 寺井尚之ジャズピアノ教室 発表会
reported by Tamae Terai

 1998年、師匠トミー・フラナガンが病気に倒れた事から、デトロイトバップ伝承の熱意に燃えた寺井尚之が開いたジャズピアノ教室、毎年1月と8月最終日曜日に開催される発表会も、早いもので9回目を迎えました。「トミー・フラナガンの音楽の遺産を守りたい!」という寺井尚之の熱意に応え、色々な地方から、様々な年齢、職業の生徒達が集まり日夜練習に勤しんでいます。
 当教室が他のスクールと一線を画している点は、「ジャズの曲をただ弾くのではなく、即興演奏としてのジャズを演奏すること。ガンガン弾くのではなく、ピアノ本来の美しいサウンドを出すこと。フィーリングや根性に頼るレッスンではなく、合理的に近道を通って目標を達成すること。」です。勿論寺井メソッドを学びたいと、他の楽器で学びたいミュージシャンにも門戸を開放しています。

 本発表会の出場資格は“自分で創ったアドリブをする事”です。今回の出場者全員が、各自の発表曲について、考えに考えた演奏解釈をして自分だけのバージョンを作ります。その成果を鑑賞する聴衆の熱心な鑑賞ぶりも定評のあるところです。加えて審査員である師匠、寺井尚之の一音も聴き漏らさぬ集中力と真剣な審査ぶりも、発表会の充実に一役買っているのでしょう。
 
 発表者達の頼りになるサポート役は、寺井尚之"フラナガニア"トリオに於ける寺井尚之のミュージカル・パートナー、河原達人(ds)と、今回初登場の宮本在浩(b)のお二人。各ピアニストの実力を100%引き出そうと、気合いを入れて待ち構えます。
 また、幾多のピアノの巨匠に絶賛を受けた、世界に誇る名調律師、川端定嗣氏が、今日も徹底的に調律を見守って、ベストプレイをサポートしてくれます。
発表者および発表曲目

(発表者名は、本名または本人の希望するニックネームです)

1:00 開会挨拶
1:05 生徒宣誓 (橋本生徒会会長)

<1> PM:1:10〜2:10
1.オーニシジュンコ
There Will Never Be Another You (Mack Gordon/ Harry Warren)
My One & Only Love (Robert Mellin/ Guy Wood)
2. さーや
On a Misty Night (Tadd Dameron)
But Beautiful (Johnny Burke / Jimmy Van Heusen)
3. 児玉勝利
For the Kat Man (Walter Norris)
4. イバラキMisty (Eroll Garner)
Satin Doll (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
<2> PM:2:20〜3:30
1.ハタ坊 
Oblivion (Bud Powell)
This Time It's Real (Sir Roland Hanna)
2.むなぞう
That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
Srictly Confidential (Bud Powell)
3.りんりん
Star Eyes (Don Raye / Gene De Paul)
Reflections (Thelonious Monk)
4.あー
Afternoon in Paris (John Lewis)
God Bless the Child (Arthur Herzog Jr./ Billie Holiday)
Bird Song (Thad Jones)
<3> PM: 3:40-4:45
1.アクビ
Minor Mishap (Tommy Flanagan)
But Beautiful (Johnny Burke / Jimmy Van Heusen)
Caravan (Juan Tizol, Duke Ellington)
2.橋本会長
Manteca (Dizzy Gillespie, Gill Fuller, Gonzales)
'Round Midnight (Thelonious Monk)
3.松本誠
A Child Is Born (Thad Jones, Sir Roland Hanna)
My One & Only Love (Robert Mellin/ Guy Wood)
Elusive (Thad Jones)


サポートメンバー

宮本 在浩(ベース)
Zaiko Miyamoto

河原 達人(ドラムス)
Tatsuto Kawahara

第9回寺井尚之ジャズピアノ教室発表会受賞者

★最優秀賞: 該当者なし
★構成賞:りんりん
 

★努力賞:イバラキ
 

★パフォーマンス賞:橋本会長
 

★新人賞:ジュンコ
 


★AD-LIB賞:あー
 

★ピアノ・タッチ賞:アクビ
 

★スイング賞:アクビ
 

(松本誠はすでにOverSeasのLiveに出演しているので、基本的に全ての賞から除外されています。)


発表会開催ご協力ありがとうございました!

録音、CD制作:モトドラ様
写真撮影:You-non様
記念品:グレイスピアノ サービス
ピアノ調律:川端定嗣様
 調律とピアノに関するお問い合わせはグレイス ピアノサービスへ!0725-33-9808
美しい花束:マダム・パノニカ


まずは選手宣誓!

発表会のオープニングに欠かせないのが、橋本生徒会長の「選手宣誓」!これがなければ始りません。

「師匠の厳しいレッスンに耐え抜いて来た我々は、誇りを持って正々堂々と戦う事を誓います!」
飄々としながらメリハリのある橋本会長の語り口が、発表者の緊張をほぐしてから、いよいよ演奏スタート!

<最初から高レベル!あっと驚く第一部>

 一番弟子、松本誠の司会で第一部開始。司会の腕は師匠をすでに上回っているかも知れません。


 最初の演奏者は、本日唯一の初出場者、オーニシジュンコちゃんです。今年1月の発表会を見学して即入門しました。僅か半年余りでメキメキ腕を上げ、課題曲2曲で出場という驚異的な上達度です。スリムで華奢なジュンコちゃんのどこに、強靭なエネルギーが潜んでいるでしょうか?
 まず一曲目は課題曲Tとして皆が練習する”There Will Never Be Another You”です。この曲のみアドリブの後半からが、演奏者の創作になります。ジュンコちゃんは真っ白のTシャツにジーンズという軽装で、終始クールな表情です。アドリブ後半部もとても初めて創ったものとは思えないコナれたもので聴きやすいフレージング、4バースチェンジも河原達人(ds)を相手に堂々と渡り合いました。客席の先輩達は、一緒に首を振り、無言の熱い応援です。エンディングの合図もばっちりと決まり鮮やかにフィニッシュ!
 課題曲Uのバラード、”My One & Only Love”では、更にクールな表情、安定感のあるしっとりした演奏に大喝采。後から聴けば、実はクールな表情は、緊張の余り、顔が引きつっていたからで、指もブルブルと震えていたそうですが、外野からは気づきませんでした。初出場とは思えないほど、安心して聴くことが出来ました。次回はどこまで成長しているのか?とっても楽しみです。


 前回はAnother Youの初々しい演奏が印象的だったさーやちゃん、今回は真紅のトップスで大人っぽい雰囲気、でも演奏内容は見た目の美しさ以上でした。一曲目はBebopの耽美派タッド・ダメロンの”On a Misty Night”、レッスン中に師匠と一緒に創り上げた演奏イメージは“レモンシロップのフラッペ”! つまりベトベトせずすっきりした甘さのアレンジ&サウンドを目指したのです。はじけるような倍音のハーモニーがあってこそ魅力の出る曲ですが、エコーズの演奏を聴いてじっくりと研究した成果が出ました。決めの高音もキラリと輝き、見事にレモンシロップと氷の清涼感を出しました。本当にうまくなったなあと実感。
 続く名バラード、”But Beautiful”は、哀しかったり、楽しかったり、狂おしかったり、とい恋の色々な表情を歌い上げる曲でフラナガンと寺井尚之の名演もあります、歌詞に添ってタッチの出し入れが要求される難曲ですが、出だしの微妙なフレージングの引っ掛けも大成功!うまくテーマを歌い上げて、師匠も絶賛の出来になりました。仕事の都合でしばしお休みですが、10月に早くも復帰が決定!次回も素敵なイメージで楽しいプレイが聴けそうです!

 次の出演者は、ピアノではなくテナーサックスの児玉さんです。早くから、表の路地で、楽器を暖めている音が聴こえていました。今回の発表曲は2年前、遥かベルリンからOverSeasにやって来て、忘れがたいコンサートとセミナーをしてくださったピアノの巨匠、ウォルター・ノリスさんが、児玉さんの誠実な人柄にインスパイアされて作曲した”For the "Kat Man"”、シンプルなメロディだけに演奏解釈の幅が広い作品で、寺井尚之−鷲見和広(b)のエコーズの愛奏曲ともなっています。
 審査員席でノートを取っていた寺井尚之が、伴奏の為、ピアノの前にスタンバイ、その間、河原達人(ds)と宮本在浩(b)が何かニヤニヤしています。あれっ?演奏中入場厳禁の入り口から、タキシードとブラックタイでピカピカに正装した男性が大股でバンドスタンドに歩み寄り、スマした顔で在浩さんからベースをバトンタッチ。ダンディなサプライズ・ゲストは鷲見和広!会場はヤンヤヤンヤの大歓声と拍手の嵐!児玉さんは驚きでサックスを手にしたまま、ヘナヘナと床に崩れ落ちそうになっています。やっと体勢を立て直してスタンバイ、するとピアノの席から眼鏡越しに「先に言うといてくれたら、わしもタキシード着てきたのに…」とつぶやきが漏れ再び爆笑。
 おなじみエコーズのバックで演奏が始ると、児玉さんは、背筋をスクっと伸ばして、大きな音で堂々をテーマを吹き、今までの発表会よりも格段にリラックスした様子。アドリブへのピックアップもばっちりで、4バースも堂々としたもの、鷲見さんのベースソロは、いつものエコーズのレパートリーをたくさん引用し、児玉さんの長年の応援への感謝を表す心憎い仕掛け!真心が溢れ、とても楽しいものでした。実は、遠方のジャズフェスティバルの仕事を断ってまで発表会に駆けつけてくれた鷲見さん、演奏後は、即ランニングとショートパンツの筋肉マン・スタイルに変身して更に注目を集めていました。

 さて一転してファッショナブルなムード、1部のトリはセンス抜群のイバラキさんの登場です。今日の服装はゴールドカーキを基調にした華やかで押さえの利いたスタイル、とっても大きな娘さんがいるようには見えませんね。肩を動かしやすそうなトップスとミディ丈のふんわりしたスカートに、足元はとっても柔らかそうなゴールドの靴、「オズの魔法使い」に出てくるドロシーちゃんの魔法の靴を思い出しました。
 選曲は大スタンダード2曲、エロール・ガーナーの代表作”Misty”をリラックスした表情で弾き始めると、会場にゆったりとした風が吹き抜けました。アドリブ1コーラスを弾き切りエンディングの合図も二重丸!
  そしてガラリと雰囲気が変わり、スインギーなエリントンナンバー、”Satin Doll”が始ります。いつもより少し速いテンポで出てしまいましたが、ベースとドラムにきっちりサポートされて、快調にグルーヴを繰り出します。おなじみリフで更に楽しさが高まり、後ろから見ると、客席の皆の背中がプレイに合わせて楽しそうにスイングしています。児玉さんもサックスを抱えたままでスイング!余裕のある演奏ぶりに会場はすっかり魅了されました。師匠は開口一番「靴ええですね!」とカウントが踏み易いお洒落な靴をまず絶賛、「日頃の猛練習が生きた!」とトリに相応しい演奏を賛美しました。今日、一番緊張せずに演奏出来たのは彼女かもしれません。もっともその代わりにお嬢さんのマキちゃんが緊張してしまったそうです。因みにマキちゃんの採点は「80点」でした。

<驚異的に伸びる!第二部>


 第二部の司会は、司会者デビューのさーやちゃん、初々しいですが落ち着いています。


 ところが、1番目の出場者テナーサックスのハタ坊君が行方不明…、これも演出のうちかしら?いえいえ、児玉さんに倣い外で楽器を温めていたのでした。待ち遠しがらせてから、フラナガニアトリオとの共演で演奏が始ります。
 ハタ坊は、ピアノの巨匠による格調高い2曲を選びました。まずはバド・パウエルの”Oblivion”、厳粛さとバップのダイナミズムが同居した名曲で、サックス奏者のヴァージョンは聴いた事がありませんでしたが、もともとホーン奏者の為に作られた曲に聴こえるほどスムーズで安定したプレイです。学生時代からジャズをやっているだけあり、アドリブも非常によくまとまっていました。
 続く”This Time It's Real”はサー・ローランド・ハナが、友人のフレンチホルン奏者の恋愛事件に霊感を得て作曲した作品で、現在はエコーズの愛奏曲です。演奏解釈は、金沢での大学時代から、OverSeasにエコーズを聴きに来てくれていたハタ坊君だから出来る素晴らしいもので、これを聴いて「自分も演奏したい!」という生徒達が沢山いました。私の大好きな作品のテナー・ヴァージョンを初めて聴かせてくれて本当にありがとう!


 男性が続き、寺井尚之ジャズピアノ教室の品格ある若頭、むなぞう君です。今日はお母様が応援に見え、橋本会長のお隣で鑑賞されています。とても上品で、原節子と、鉄腕アトムのお母さんに似ておられます。普段の仕事に、生徒会の世話役、そしてサッカー青年でもあるむなぞうくん、入門までピアノを弾いた事はなかったとはいえ、もう7年になるキャリアは立派なもので、むなぞう節と呼ばれるスタイルにファンが多いのも納得。生前のトミー・フラナガンと温かい交流があったむなぞうくんは、フラナガンが名バージョンを遺した2曲を選びました。1曲目は寺井尚之のトリビュート・コンサートでもよく演奏される”That Tired Routine Called Love”、弾き語りの名手、マット・デニスの作品ですから、鼻歌で歌えるメロディですが、転調地獄の難曲で、さすがの彼も征服するのに手間取りましたが、今日は左手のオブリガートもスムーズに決まり、フラナガンばりの細かいフレージングもスムーズに繰り出して、極上の仕上がり!演奏中に出た笑顔が印象的だったと宮本在浩の意見でした。
 続くバップチューン、”Strictly Confidential”は、安定感が増し、トリオとの呼吸もぴったり!日頃のレッスンはもとより、今までのプレイで一番スイングした演奏になったと感じました。師匠は今後の方針として、フォーム改造と、音に“命”を入れる為の稽古を宣言。ますますレッスンは厳しくなりそうです!お母様も「家で練習している時よりだいぶ良かった。」と同意見。9月はイタリアに行くむなぞう君、美しいものに接して、豊かなイマジネーションを更に磨いてください!


 次のピアニストは、りんりんちゃん、2001年に入門した時は、スリムでボーイッシュな美少女だったのに、今は立派な看護婦さんで、美しいレディになりました。りんりんちゃんと同じく柳腰美人のお母様も、根っからのジャズ好きで、彼女にとっては一番怖い聴き手でもあります。入門時から豪快なスイング感で注目されていましたが、「それだけではダメ!」と師匠の厳しい教えの甲斐あって、演奏が大変洗練され、容姿と同じく、品格と深みが加わりました。彼女が選んだ曲はビバップの薫り高い2曲です。
  華奢なシューズを脱ぎ捨て、素足でピアノに向かう一曲目はバッパーの愛奏曲、”Star Eyes”、彼女はバド・パウエル的な硬質のイメージを描き、ドラムの河原達人に、アーサー・テイラーばりのリムを使ったハードなラテン・リズムを要求、名手河原、これに見事に応え、メリハリの効いたテーマはコーラスを重ねるごとに心地よくスイング!星屑が広がるようなプレイです。
 大きな拍手の後、一呼吸おいてルバートから始ったのは、りんりんちゃんお気に入りセロニアス・モンクのバラード、”Reflections”、バラードにも甘口、辛口がありますが、これは甘みを抑えた辛口の曲想です。両手をうまくサウンドさせて、微妙なニュアンスを作り出し、アクを抜きながら、モンク音楽独特の美しさをすっきり浮かび上がらす技は正にフラナガン流、寺井尚之ジャズピアノ教室の極意です。エンディングまで美しく決まり、格段にグレードアップした新生りんりんのプレイが聴けました。11月に神戸異人館で華燭の典、新婚旅行は二人で世界旅行と羨ましいばかりですが、今後とも一層成熟したピアノを、お母様に負けず私も期待しています!!


 さて、生徒達の進化に驚愕した2部の演奏も、とうとうラスト!大学でクラシック・ピアノを学ぶあーちゃんは、まだあどけなさの残るお嬢さん、白いドレスが清楚で愛らしい!ジャズファンのお父様の影響で入門し、今日も兵庫県からご家族が応援に来られました。客席と演奏者に深々と一礼、マナーも素敵です。
 一曲目は、クラシックに強い影響を受けたジョン・ルイス(p)の端正な作品”Afternoon in Paris”、ピアノ歴の長い彼女にうってつけの選曲、対位法的なテーマのエレガンスが充分表現できて大満足の出来!
 2曲目は生徒会主催のビリー・ホリディ講座で大きな感銘を受けた”God Bless the Child”、ホリディ自作自演のヒット曲ですが、ありきたりのラブソングではなく、「神様は自分で稼げる子供だけ祝福してくれるのよ」という自虐的なアイロニーを感じさせる歌詞の難しい作品、あーちゃんは、とっても自然なアドリブフレーズでどんどん曲を歌い上げていきます。私もバックコーラスしたくなるような極上のヴァージョンになりました。
 最後は極めつけデトロイト・バップ!泣く子も黙るサド・ジョーンズの”Bird Song”です。まずテーマが至難の業、それを両手ユニゾンで弾き切る豪快な技を出し、アドリブ・コーラスを一気に弾き切りお見事!演奏中にみせた笑顔も素敵でした。彼女のタッチの美しさは、名調律師、川端さんも絶賛。師匠のライブも熱心に聴いているだけにテクニックだけでなく、演奏解釈が、飛躍的に進歩したあーちゃん、次回の演奏がとても楽しみです。


<大胆さと繊細さ、憧れの第三部>


 名演揃いの発表会も、終盤となりました。出番が終わった生徒達はとってもリラックスした表情で、ひたすら仲間の演奏を楽しみ、盗もうというモードになっています。むなぞうくんの落ち着いた司会でいよいよ演奏が始りました。


 まずは、入門以来メキメキと腕を上げ、前評判も一番のアクビちゃん、水森亜土のイラストから抜け出した様な愛らしい風貌で繰り出すダイナミックな演奏には、何ともいえない魅力があって、生徒の中にもファンが随分いるようです。スペイン語専攻の大学生だった彼女も現在は仕事で超多忙ですが、ネを上げる事なく、時間をひねり出して稽古も充分に足りています。今日はそんなアクビちゃんをいつも厳しく励ましてくれるお母様や、お友達が沢山客席で応援。大人っぽくブラックドレスでキメて、ペダルが足に吸い付くようにパンプスを脱ぎ素足でピアノに向かう姿が素敵です。
 期待で静まり返った会場、オープニングは、トミー・フラナガンの作、究極のハードバップ、”Minor Mishap”、聴き慣れたメロディに客席が吸い込まれました。選び抜いた音で畳み掛けるようなアドリブソロに成長の跡が見て取れます。
  一呼吸置いて始まるバラードは、これもフラナガンのおハコ、”But Beautiful”。左手の返しでうまくベースとサウンドして倍音のハーモニーが膨らみ、曲の持つ優しさと柔らかさが出ました。アドリブへの入り方も正にBeautiful! レッスン中には、師匠から終始「抜き」のある演奏が出来るように指導されましたが、見事に成果を出しました。
 ラストはジャクソン・ポロックを思わせるような鮮烈なルバートから始まり、一転して弾丸のようなテンポでひた走る”Caravan”、グルーヴ感を維持しながら、疾走する5コーラスのアドリブに客席では全員が体をスイングさせながら応援しています。割れるような拍手に、やっとアクビちゃんの顔がほころびました。大変緊張してしまって、日頃の実力の半分も出せなかったということですが、逆に言えば、それだけ稽古を積んだということです。アッパレ!アクビちゃん、かっこよかった!日頃の師匠のライブを聴き入る熱心な表情がとても印象的です。これからも胸のすくような快演を聴かせて下さい

 興奮気味の場内が静まると、悠然とバンドスタンドに向かう我等が橋本生徒会長、お料理上手で、明るい恋女房の美枝子夫人が応援に来られています。このところ「ラテンの橋本」という異名を取る会長、最初はディジー・ガレスピーのアフロ・キューバンの名曲”Manteca”です。マンテカとはスペイン語で“脂”という意味だそうですが、キューバ植民地の黒人労働者達にとって日常の仕事である「脂を絞る」という言葉は、彼らの生活と結びついた「ダンス」を意味するのだそうです。その言葉どおり、お祭りのようにダンサブルなラテンのパターンをクールな表情で繰り出す橋本会長、白いスラックス姿がアフロキューバンのムードにぴったりで、カッコイイの一言!サビになると鮮やかに4ビートに転換し、ベースもドラムも楽しそうに変化を楽しんでいます。切れ味鋭いインタールードもバッチリとキマって、会場は熱気に溢れました。
 歓声にも表情はクールなままで、次の曲は一転してブルージーなモンクの大スタンダード、”Round Midnight”、聴き慣れたテーマから、アドリブソロ、あの印象的なポーズをかけてドラマティックなエンディングへと向かう合図もパーフェクト!レッスンの時より格段上の出来栄えに外野の私は度肝を抜かれました。やはり、これがヴェテランの強み!素晴らしい演奏に大歓声!ピアノの椅子から立ち上がった橋本会長は、再び飄々としたオジサマに戻っていたのでした。


 いよいよラストは一番弟子の松本誠、ライブで活動している彼はすでに各賞から除外されており、エクシビション的な意味合いの出場です。当然最高のプレイが要求されますし、寺井尚之の日頃の指導は最辛口で非常に厳しいものがあります。このところは仕事が忙しく夜8時半からのレッスンにも全く来る事が出来ませんでした。
 一曲目の”A Child Is Born”は、サド・ジョーンズの作品とも、サー・ローランド・ハナの作品とも言われています。ハナさんは「私が創ったんだよ。」とはっきりおっしゃってました。まだこの教室がなかった’91年に18歳で入門した松本君も、もう2児のパパですから、この曲の解釈もそれなりに深いものがある筈です。ルバートから入る音色は、甘酸っぱい香りの漂う松本独自の魅力に溢れています。今日は誰も演奏していない3/4拍子で、聴衆の心をしっかり掴みました。流石に目の付け所がいいですね。左手の返しなど、あちこちに工夫が溢れ、とても新鮮な印象でした。
 バラードは、なんと当教室課題曲Uの”My One & Only Love”を選び、後輩達への応援歌としたのもニクい演出です。ルバートから始まりサビでインテンポ、更に倍ノリにして音色もカラーチェンジ、肘の使い方や首の振り方にフラナガンや寺井尚之のDNAを感じました。
 ラストは一転、サド・ジョーンズの超難曲、”Elusive”。「雲を掴むように訳のわからない」というタイトルどおりの難しいテーマを、トリオでのユニゾンするというアレンジに挑戦しました。リハーサルなしのぶっつけ本番は、向こう見ずとも言えましたが、盟友宮本在浩(b)と、ベテラン河原達人(ds)がうまくサポート、スリルたっぷりの演奏になりました。技量は傑出している松本誠ですが、師匠の講評はいつもどおり超辛口、同時に、「懐石料理のように、各セクションの分け目を感じさせる味付けの違いを目指せ!」と、高く深い目標を提示しました。我々のヒーローとして、これからも更に進歩を心から願ってます。

 心躍る皆の演奏を讃える意味でのフラナガニアトリオのミニライブは、課題曲TのAnother Youや、ブルース、リズム・チェンジの曲など、シンプルなジャズの楽しみがぎっしり詰まったもので更に感動!各賞の発表で大団円となりました。

いつも手弁当でご協力、ご協賛頂いた皆様、本当にありがとうございました。色々な人たちが集まって、ジャズをプレイする楽しみを分かち合う寺井尚之ジャズピアノ教室、生徒の皆さん、いつも元気をくれてありがとう! 今日見学をしていた皆さんも次回1月の発表会には、ぜひ私にレポートさせてください!さあ、明日からまたプラクティス、プラクティス!