第10回
寺井尚之ジャズピアノ教室発表会
2006 1.29

1998年、師匠トミー・フラナガンが病気に倒れた事から、デトロイト・バップ伝承の熱意に燃えた寺井尚之が開いたジャズピアノ教室、生徒達の上達の成果が披露される、毎年1月、8月最終日曜日の発表会も、いよいよ10回目を迎えました。「トミー・フラナガンの音楽の遺産を守りたい!」という寺井尚之の熱意に応え、色々な地方から、様々に個性溢れる生徒達が集まり日夜練習に勤しんでいます。
 当教室が他のジャズ教室と一線を画している点は、「ジャズ曲をただ弾くのではなく、即興演奏としてのジャズを演奏すること。ガンガン弾くのではなく、ピアノ本来の美しいサウンドを出すこと。フィーリングや根性に頼るレッスンではなく、合理的に近道で目標を達成すること。」です。勿論寺井メソッドを学びたいと請う、ピアノ以外のミュージシャンにも門戸を開放しており、今回もフルートとサックスの演奏者が聴けました。

 本発表会の出場資格は“自分で創ったアドリブをする事”です。各自の発表曲について、ちゃんと演奏解釈をして自分だけのバージョンを作った演奏者だけが出場出来るのです。またその成果を聴く客席の熱心な鑑賞ぶりも定評のあるところです。加えて審査員である師匠、寺井尚之の一音も聴き漏らさぬ集中力と真剣な審査ぶりも、演奏の充実に一役買っているのでしょう。
 
 発表者達の頼りになるサポート役は、"フラナガニア"トリオで名演を繰り広げる寺井尚之の長年のパートナー、河原達人(ds)と宗竹正浩(b)のお二人。最高のサポートには定評があり、各ピアニスト達は大船に乗った気持ちで、アンサンブルの喜びを約束してくれる名手達が、気合いを入れて待ち構えます。
 また、幾多のピアノの巨匠に絶賛を受けた、世界に誇る名調律師、川端定嗣氏が、コンサートを通じて厳しく優しくピアノをチューンアップ、ベスト・プレイをサポートしてくれます。
発表者および発表曲目

(発表者名は、本名または本人の希望するニックネームです)

第1部
1. マツヒサ
There Will Never Be Another You (Mack Gordon, Harry Warren)
2. けんいち
There Will Never Be Another You (Mack Gordon, Harry Warren)
My One & Only Love (Robert Mellin, Guy Wood)
3. Rei from 千葉
There Will Never Be Another You (Mack Gordon, Harry Warren)
My One & Only Love (Robert Mellin, Guy Wood)
4. Maha
My One & Only Love (Robert Mellin, Guy Wood)
第2部
1. 児玉勝利
In a Mellow Tone (Duke Ellington)
2. オーニシ・ジュンコ
Out of the Past (Benny Golson)
I'll Keep Loving You (Bud Powell)
Picturesque (George Mraz)
3. さーや
I Only Have Eyes for You (Al Dubin, Harry Warren)
Love, Your Spell Is Everywhere (Edmund Goulding, Elsie Janis)
4. かおりん
They Say It's Spring (Bob Haymes, Marty Clark)
Pannonica (Thelonious Monk)
第3部
1. イバちゃん
I'll Close My Eyes ( Buddy Kaye, Billy Reid)
I Remember Clifford (Benny Golson)
2. むなぞう
Upper Manhattan Medical Group (Billy Strayhorn)
How Deep Is the Ocean (Irving Berlin)
3. あーちゃん
Smooth as the Wind (Tadd Dameron)
Ruby, My Dear (Thelonious Monk)
Scratch (Thad Jones)
第4部
1. アクビ
Upper Manhattan Medical Group (Billy Strayhorn)
Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
Day Dream (Billy Strayhorn)
Raincheck (Billy Strayhorn)
2. 橋本会長
Out of Nowhere (Johnny Green, Edward Heyman)
Nica's Dream(Horace Silver)
3. あやめ副会長
That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
Baubles, Bangles and Beads (George Forrest, Robert Wright)
I Didn't Know about You (Duke Ellington)
Our Delight (Tadd Dameron)


サポートメンバー

宗竹 正浩(bass)
Masahiro Munetake

河原 達人(drums)
Tatsuto Kawahara

第10回寺井尚之ジャズピアノ教室発表会受賞者

★最優秀賞: あやめ
★ピアノ・タッチ賞:あやめ

★パフォーマンス賞:橋本会長

★構成賞:アクビ
★AD-LIB賞:アクビ
★スイング賞:アクビ

★新人賞:けんいち


★努力賞:該当者なし


発表会開催ご協力ありがとうございました!

録音、CD制作:モトドラ様
写真撮影:You-non様
記念品:グレイスピアノ サービス
ピアノ調律:川端定嗣様
 調律とピアノに関するお問い合わせはグレイス ピアノサービスへ!0725-33-9808
美しい花束:マダム・パノニカ


まずは選手宣誓!

オープニングは今や当発表会の名物となった、橋本生徒会長の選手宣誓から。風邪でいつものバリトンの美声が損なわれていたものの、ジェスチュアーを交え迫力満点!「記念すべき第10回の発表会、私の太鼓腹でなく、師匠の太鼓判を押してもらった出場者は誇りを持って・・・!」と堂々且つ飄々とした名調子!会場は大きな笑いと拍手に包まれて、いよいよ演奏スタート!

<新しい息吹!第一部>


第一部は全員初出場の快挙となりました。演奏同様ソツのない語り口、あやめ副会長の司会で開始。

 初出場のマツヒサさんは寺井尚之や私と同世代の教育者、文武両道、ピアノの他にもマリンバやギターなど様々な楽器をたしなむ一方、強豪バレー部の監督として活躍しておられます。
 2004年入門し、今回Another Youで初出場を果たしたのは正に快挙で、私も大応援!毎日生徒の前で授業をしているのに、今日は「めっちゃくちゃ緊張してます。」と顔をこわばらせるマツヒサさん。ブルー&ホワイトのスキー・セーターにジーンズのラフな服装で、ピアノに向かいます。いつもより少し遅めのテンポでカウントを出してから馴染みのあるテーマが繰り出されましたが10小節目辺りで不幸にも躓いてしまいました。何しろトリオでの演奏自体初体験、あせる気持ちと裏腹に指が動かなくなってしまいました。優しく導くベース&ドラムス、小節とコードを教えながら伴奏ならぬ伴走する師匠、寺井尚之、アドリブは急遽ベースの先発となり、手に汗握る仲間の生徒達、「頑張れ!」という無言の声援が会場に溢れます。その応援を背中で感じたのか、マツヒサさんは、うまく態勢を立て直し、ラストテーマはいつものペースにカムバック、目出度くエンディングが決まって大拍手!練習ではうまく行っても、本番にアクシデントはつきもの。演奏後のマツヒサさんの爽やかな笑顔と、何が何でも出るのだ!というガッツを感じて、私も目頭が熱くなりました。 
 更にその夜の掲示板メッセージの感想に更に感動!次回は、絶対大丈夫!精一杯応援します!


 2番目の演奏者、けんいちくんは若干19歳、昨年のクリスマス・パーティではアイドルのトナカイ役、生徒会の一番の弟分として皆に好かれる人気者です。高校卒業後入門し、コツコツ稽古を重ねました。入門時のレッスン奮闘日記が生徒会HPに掲載されていますが、現在は飛躍的に腕を上げています。稽古の楽しみも、日記時代の何十倍も感じている様に見えます。演奏前は顔色が紅潮し、とっても緊張している様子でしたが、ピアノに向かうとスっとクールな表情になりました。小さな顔に、トリコロールカラーのアディダスのウォームアップ・ジャケットが良く似合っています。カウントからAnother Youのテーマがスムーズに繰り出されました。客席の生徒達も、テンポに併せて首を振りながら応援しています。左手もうまく入り、4バースも落ち着いたもの、最後まで丁寧に弾ききれて、稽古の成果が充分にでました。続くバラードは一曲目よりも更に安定した演奏ぶり。ベースの音ともよくサウンドし、ラストまで完璧に決まりました。とても初出場とは思えない演奏ぶりに会場は大喝采!演奏後「楽しかった!」と瞳がキラキラ、師匠も「日頃の演奏の80−90%の出来だった」と満足気。ライブやジャズ講座を聴く時も、いつも瞳が輝くけんちゃん、一生懸命稽古した実りは大きかった!今日は自分の演奏でお客様の瞳を輝かすことが出来て本当によかったですね!

 次はピアノの経験は充分、夜行バスで千葉からレッスンに通うレイちゃん、クラシック・ピアノ教師である彼女の入門のきっかけは少し変わっています。一昨年、偶然にジャズピアノ界きってのテクニシャン、スタンリー・カウエル(p)の演奏を聴き大きな衝撃を受けたレイちゃんは、持ち前の行動力で、彼が教鞭を取るNYの名門ラトガーズ大学に行き、カウエルに直談判、入門を請いました。するとスタンリーは「まず日本にヒサユキという良い先生がいるから、ジャズの基本を学んでいらっしゃい。」と勧めたのです。ですから、本教室では他の生徒の何倍も努力をしようと固く心に誓っています。今日は赤のセーターにジーンズ姿、お母様と新幹線で発表会にかけつけてくれました。流石にクラシックのキャリアが滲み出る美しい指使いで課題曲2曲を難なく、弾きこなします。演奏は持参のヴィデオキャメラでしっかり撮影し、今後の練習に役立てるとのことです。師匠は「発表会が彼女の目的ではないから、ビシビシ厳しくします。」とNYに向かって二人三脚の努力宣言、レイちゃんは「夜行バスの旅の疲れもレッスンで吹き飛びます。」と頼もしく語っていました。早くカウエル先生の元に行けるよう、これからも一層頑張って下さい!

 さて、第一部のラストは発表会初のフルート奏者、Mahaちゃん、幼い頃ロンドンで育ち、成長してからはアメリカ西海岸のファッション界で活躍したキャリアの持ち主です。美人なのに気取らない性格で、現在任されている高級ブティックでもファン・レターをもらう程の人気者、勿論、海外で培ったお洒落のセンスは抜群。今日もブラックドレスに白いファーのようにふんわりした愛らしいニットのベスト、それに合わせて、靴にもフワフワした飾りのついたエナメルのローヒールがとっても素敵!ヘアスタイルも服装に合わせてふんわりとまとめてくれました。エコーズのライブに良く来てくれるMahaちゃん、今日はベーシストの鷲見和広さんが応援に来てくれています。にこやかに深いお辞儀をすると、会場から「上品やわー」とため息、演奏曲は課題曲2のMy One & Only Love、優しいフルートの音色が流れます。レッスン中は、よくアドリブ・フレーズが小節からはみ出たりして師匠からNGが出ていましたが、今日はまったく躓く事なくテーマからアドリブに入りました。ソロもうまく吹き通し、このバラードの持つ女性らしい柔らかな魅力が溢れました。演奏後師匠も「今日はちゃんと出来ました!」と合格印!今後は海外出張のある仕事に付く予定ですが、フルートは何処にでも持っていけますから、稽古を続けて、素敵なセンスを演奏に生かし、OverSeasの華となって下さいね。

<熱狂の客席!第ニ部>


休憩が終わって、沢山のお客様で会場はごった返しています。司会の腕は、昨年のクリスマスパーティでも実証済みのアクビちゃんです。

 最初の出演者は、テナー・サックスの児玉さん、エコーズ愛好会会長でライブの大常連でもあり、演奏にも注目が集まります。ピアノの大巨匠ウォルター・ノリスさんとも親交を熱く、最近はノリスさんのオリジナルを演奏することが多かったのですが、今回は仕事が忙しくレッスンが充分に出来なかったので、デューク・エリントンのスタンダード曲、イン・ア・メロウ・トーンでの出演となりました。応援の鷲見和広さんは、「自分の演奏なら何千人お客さんがいても絶対緊張しないけど、今日は緊張でめまいがします。」と、先ほどのMahaちゃんの演奏以来、カウンターのところで立ったまま水をガブ飲みしてソワソワと落ち着きがありません。そんな鷲見さんの気持ちを知ってか知らずしてか、児玉さんも顔を真っ赤にしています。児玉さんがコールされると、鷲見さんが大きな口笛で大応援!イントロなしでテーマから大きなテナーの音色です。一層紅潮する児玉さんの顔と、息を呑む鷲見さんの真剣な表情に、私も思わず緊張してしまいました。しかし豪快にテーマを吹ききりアドリブへ、鷲見さんは、更に真剣な表情…ラストテーマに入ると堰を切ったように一層ボリュームが上り、力強いエンディングの吹き伸ばしで大団円!大きな拍手と、更に大きな口笛で賞賛を受けました。師匠は「今までの児玉さんの演奏の中で一番のベストプレイ!」と絶賛!激務で準備が充分に出来なくても、全力でやり遂げた児玉さんの姿勢に大共感!!演奏後にお水を飲む児玉さんのおいしそうな表情はずっと忘れられないでしょう。

 再びピアニストに戻って、前回新人賞に輝いたホープ、オーニシ・ジュンコちゃんの登場です。証券関係のお仕事なので、ライブドア・ショック以降、レッスンに間に合うのが難しいほど忙しくなりましたが、今回は渋い難曲を3曲引っさげて堂々の登場です。小柄でとってもスリムな彼女は細身のジーンズ姿、白のインナーの上にディープ・パープルのトップスがとても似合っています。
 一曲目は親しみやすいメロディと、大師匠トミー・フラナガン・ヴァージョンの左手のオブリガードのカッコ良さで、OverSeasの大スタンダードと成っているベニー・ゴルソンのオリジナル、アウト・オブ・ザ・パストから始ります。イントロからテーマへとうまく持って行き、難しい左手のオブリガートもばっちりクリア、アドリブ3コーラス弾ききって、客席から「うまいっ」とつぶやきが漏れました。
 2曲目は、バド・パウエルの名バラード、私も大好きなアイル・キープ・ラヴィング・ユー、ジャズのバラードには課題曲のマイ・ワン & オンリー・ラヴの様な甘いバラードと、この曲のように冴え冴えとした硬質の美しさを持つものがあります。ルバートから入りサビでインテンポ、レッスンでは師匠に「もっと情感を!」と口を酸っぱくして言われていましたが、今日はその成果が見事に出ました。
 ラストはジョージ・ムラーツのオリジナルでノー・グレイター・ラヴのコード進行を基にしたピクチュアレスク、ジュンコちゃんがよく聴きに来るエコーズのおハコですから、鷲見さんが固唾を呑んで聴いています。宗竹正浩、河原達人でのトリオのヴァージョンは初めてというのも、興味あるところでした。複雑なテーマもクリアで音が粒立ち、当教室の生徒らしさが出ました。譜面の書き方が几帳面でキレイと言う事で定評のあるジュンコちゃんですが、それを証明する折り目正しい演奏になりました。
 緊張していると言っていたけれど、全体を通して、レッスンの時より、本番の方が数段優れた出来栄えになったのには驚嘆!ご本人の弁では「ずっと練習不足だったので、前日と当日の朝に猛練習しました。」との事。毎日猛練習していたら、どれほど上達するのか計り知れませんね。師匠は「前回より遥かにレベルアップ!コピーもちゃんと出来るから、今後はノリをコピーして行こう。」と次回は、更に高レベルを目指します。

 続いての出場者はさーやちゃん、大阪芸大の編曲科出身の可愛いお嬢さんです。今日はブラックのパンツ姿でインナーのベージュにゴールドの刺繍が入ったエスニックなトップスが光彩を放っています。ピアノに向かう前に椅子の周りを一周してから腰掛けました。意外に緊張しているのかも知れません。彼女の選曲は、いつもキラメクような可愛らしさのある曲ばかりでさーやちゃんのイメージにぴったり!私のお気に入りです。
まずは、ビリー・ホリディのおハコで、アルバムYours trulyに寺井尚之が収録した 瞳は君ゆえに から。軽快なテンポで始り、きらめくフレージングもばっちりで、レッスンで散々稽古した「合図」もうまく通りました。
 2曲目は、名盤Blues-etteや Dalarnaに収録の、古いスタンダード、ラブ、ユア・スペル・イズ・エヴリウエアです。ルバートからイン・テンポ、いつもより少し速めで出ましたが、危な気なく弾きます。3コーラスのアドリブもクリアし大喝采でした。師匠からは「緊張していたようやけど、前よりずっとレベルアップした!」と講評がありました。自分の個性を演奏に表出していくさーやちゃんのヴァージョンには、音楽に不可欠なサムシングが感じられます。次にチャレンジするのもキラキラした可愛い曲ですから、一層魅力を磨いてくださいね。


 あっと言う間に時間が経って、いよいよ2部のトリを努めるのは、さーやちゃんより大学の一年先輩に当たるかおりんちゃん、ピアノの先生として忙しく教室を回る傍ら、ポップス畑のライブ・シーンで弾き語りとして活躍、当教室でのジャズピアノの勉強は、弾き語りの方でも、一段抜けたアレンジとピアノサウンドを与えてくれると、熱心に勉強をしています。栗色の髪の色とオリーブ・グリーンのトップスがとても良く似合って、美貌を引き立てています。そんな彼女が選んだのは、とっても粋な歌曲、ゼイ・セイ・イッツ・スプリング、勿論師匠やトミー・フラナガンのヴァージョンを聴いて選んだのですが、元々は弾き語りのブロッサム・デアリーのおハコでした。
軽快なヴァンプのイントロから始った彼女のピアノのサウンドは前回より飛躍的に美しくなっているのが判ります。インタールードもばっちりと決まり、今日パノニカ・マダムから贈られた何ダースものバラの花束にぴったりの演奏になりました。
 続いて、モンクの名バラード、パノニカよく弾きこなされていて危なげのない安定したプレイで、モンクの曲が隠し持つ、繊細な美しさを出す寺井門下らしい演奏解釈で、流石の出来でした。「レッスンの実力はこんなものではなかったけれど、、とにかく凄くレベルアップしている。」と師匠からも合格点。


<大躍進!第三部>


いよいよ実力が接近する後半戦に突入!司会は皆の緊張を和らげるような、ふわりとした魅力のさーやちゃんが務めました。


 一番目の演奏者は、たゆまぬ稽古と、シックなセンスで定評のあるイバラキさん、実は1部に出演したMahaちゃんのお母様、発表会初の記念すべき親子出演になりました。とはいえ、Mahaちゃんのお姉さんにしか見えない若々しさです。今日はプリーツが入ったブラックのプルオーバーにチャコール・グレイのスカート、シンプルな装いの中に大ぶりのコサージュと渋い光沢のストッキングで上手に華やかさを演出しています。足元は前回の発表会で師匠が絶賛した、ペダルとカウントに最高の柔らかそうなシューズです。沢山のお友達の中には、広島から車で駆けつけた方さえいらっしゃいます。大応援団が固唾を呑む中、にっこりとお辞儀をする姿がエレガント。一曲目は、歌ものスタンダード、アイル・クローズ・マイ・アイズ、出だしから軽快でテーマは歌詞がはっきりと聞こえてくる当教室流のプレイ、途中ミスをしたそうですが、全く慌てず完璧にカヴァーしたのは流石!リズムに乗りながら演奏する様子がとってもかっこいい!と、客席でも大好評でした。
 続く切り札は、ベニー・ゴルソンの名バラード、アイ・リメンバー・クリフォード、ルバートからインテンポとなり、アート・テイタム風のランなど、冒険的なフレーズが組み込まれる構成は、最後まで息を呑むような美しい展開です。合図も全てうまく通って、流石3部の発表者の風格ある演奏でした。師匠は「合図もバッチリ!音がサウンドが格段に綺麗になった。とにかく落ち着いている!」と講評。発表会では、最初から終始元気にふるまって、他の出場者を元気付けたり、ムード・メイカーの役割を果たしてくれたイバラキさんですが、実はひどい風邪で一週間食事も喉を通らず出場を諦めかけたと聞きました。音を聴き取る「音楽耳」の能力が急成長するピアニスト、これからもレパートリーをどんどん増やして下さい。

 次に登場したのは教室の若頭と言われているむなぞうくん。情緒の豊かさが聴く者の心を温めてくれるような演奏が一般のお客様にも大好評です。しかし、今回の発表会は少し状況が異なりました。
 スポーツマンでもある彼は、発表会の3週間前、サッカーの試合に出場し、なんと右手小指のじん帯を損傷!手術をしなければならなかったのです。ドクターと相談の上発表会出場を決行、それから発表会までは小指に鍵盤の幅より分厚い包帯姿で痛々しい稽古となりました。今日は包帯は取れましたが、勿論小指は使えません。本当にちゃんと演奏が出来るのでしょうか・・・?
 ピアニストの大切な指に怪我をしたむなぞうくんの一曲目は奇しくもU.M.M.G、フラナガンがこよなく愛した作曲家、ビリー・ストレイホーンが医療費を払えぬハーレムの同胞たちに、医療奉仕をした医師団(Upper Manhattan Medical Group)に捧げたという作品です。一般的には知名度が低く渋い曲ですが、複雑な音の組み合わせから生れるフワっと浮き立つような魅力で、OverSeasではとても人気があります。複雑なテーマが生み出す軽快なグルーヴに私の不安は一瞬にして吹き飛びました。それどころか、前回の演奏よりもずっとしっかりとスイングしています。滝の様に流れ落ちる風情の粋なヴァンプも余裕で繰り出し大喝采!
 2曲目は一転して静かなバラード、ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン、むなぞう君が個人的にも親しく接した大師匠フラナガンのライブで特に感銘を受けた思い出深いスタンダードです。本人は演奏後「イメージ通りの音にならなかった・・・」と眉を曇らせましたが、聴く側には彼のイメージがどんなものかがしっかり伝わって来るプレイでした。師匠は「4ビートのノリが実に良くなったし、怪我のおかげで却って指のフォームが矯正されて良くなった。」と怪我の功名を讃えられました。現在はピアノに向かう前のお辞儀から品格が漂い、ダーク・ブラウンのシャツに白いカラーがシックなジェントルマンですが、彼の発表会デビューがけんいち君と同い年だったのを思い出すと、更に感慨深いものがありました。


 いよいよトリは大学でクラシック・ピアノを専攻するあーちゃん、今回が4度目の出場となりますが、発表会を重ねる度に、実力を上げて育っていく様子には目を見張るものがあります。普段も感情が豊かなピチピチ乙女で、豊かな感性が良い意味で音楽に出ているピアニストです。今日の演奏曲もクラシックの稽古を充分に積んだ演奏家ならではの高難度の作品ばかりを揃えて登場しました。
 一曲目は、ビバップのエレガントな側面を代表する作曲家、タッド・ダメロンの代表作スムーズ・アズ・ザ・ウインド、何重にもなった玉手箱を開けていくように、どんどん音の世界が変わっていく万華鏡のような器楽曲で、曲の流れとピアノ・タッチのカラー・チェンジが要求される難度の高い作品です。その目くるめくようなサウンドを実現する為に、師匠が行ったレッスンがどんなに厳しいものだったか、「あーちゃんの音で、風のさわやかさが出るか?それやったら畑にポンと放ってある濡れムシロが汚い風でバタバタしとるだけやないか!」こんな師匠の高い要求に応えた彼女のサウンド、今日は爽やかな春風のタッチで、飾られた沢山のバラのつぼみも少し膨らんだように見えました。アドリブのフレージングにも稚拙さはありません。ジャズを良く知っている大人の言葉遣いが感じられます。途中のファッツ・ウォーラーばりのアドリブもいい感じで一緒に歌いたくなりました。
 次のバラードが彼女のセットのハイライト、ルビー、マイ・ディアー、セロニアス・モンクが少年時代の初恋の人、ルビーに捧げたということで、あーちゃんは徹底的にその女性のイメージを膨らませ、自分のヴァージョンを創りました。冒頭のルバートの部分から、鮮烈なタッチで表現される恋人ルビーのイメージ、真紅のバラや真っ白なユリの花が天井から降ってくるようなダイナミックなタッチ、白いセーターの襟元に飾られているコサージュにもそんな意味があったのかしらと感じました。彼女が敬愛する先輩、アクビちゃんも大きな瞳を凝らせて、真剣に見守っています。アドリブに入って一層、ルビーの姿ははっきり描かれます。青春の一時を輝かせてくれた、明るく、しっかりした黒人の少女、夢の中で永遠の美しさを讃えるモンクの詩情が彼女のプレイで大きく膨らんで、会場全体が圧倒されてしまいました。
 いよいよラストは、最高に手強い曲、サド・ジョーンズのスクラッチです。技術的にも理論的にも、常に絶体絶命の障害物競走をのような手強い、インディアナ・ジョーンズの冒険の様な作品ですが、うまく弾くと、鼻歌を歌っているような良い気分が溢れ、これ程軽快で楽しい曲はありません。発表会ぎりぎりに仕上げた作品ですが、見事に弾ききったあーちゃんは本当に凄かった。「コドモが創ったと思えないアドリブでしたね。今日の演奏を聴いて、皆さんびっくり仰天されたと思いますが、本当の出来はこんなものではありません。」師匠はちょっぴり自慢げに乙女の成長振りを自慢していました。難易度の高い3曲全てに、色々なタッチを実現し、鮮烈なヴァージョンを創り上げたあーちゃん、これからもめきめき進歩して皆を仰天させて下さい!

<お見事!円熟の第四部>

 さて、熱演名演が続く発表会も遂に最終ラウンドになりました。どんな演奏が聴けるのか、会場は固唾を呑んで見守っています。

 最初のプレイヤーは教室内にもファンが多いアクビちゃん、コンピューターに向かう会社の仕事は昼食時間も無いほどの激務、秋にはPCのキーボードの打ちすぎで手首関節亜脱臼と診断され、お医者様に「仕事辞めなさい!」と言われるほど体調を崩し、私達はとっても心配していました。ところが、頑張り屋のアクビちゃん、今回は最高に魅力的で最高に手強い、ビリー・ストレイホーン作品4曲をモノにして堂々の登場です。アクビちゃんが一番恐れる的確な聴き手であるお母様や、美人揃いのお友達が沢山応援に来ています。
 先ず1曲目は、先ほどむなぞう君も演奏したU.M.M.G.。この作品に取り組む演奏者が2人もいる事を、私はとても誇らしく感じています。今日のアクビちゃんは、ブラック&ダーク・ブラウンの長めのスカート姿で、いつもより大人っぽい雰囲気を漂わせています。レッスンでは素足でペダルを踏んでいますが、この演奏の為に選び抜いた黒のローヒールが素敵です。最初自宅で練習している時はお母様に「これ、フラナガンの演っているのと同じ曲?じゃないよね」なんて言われたそうですが、あっという間に、超大型画面で明るく浮揚するマルチカラーのサウンドを実現してしまいました。軽やかなスイング感、良く練られた音使い、変化のあるタッチ、宗竹、河原のトリオとも良くサウンドして、文句なしの演奏に会場も大拍手。毎回発表会で緊張し、思わぬミスをしてしまうのが悩みの種だったアクビちゃんですが、今回は終始落ち着いた表情で私も一安心。
 2曲目はフラナガンのおハコとも言うべきチェルシーの橋、この作品の着想源と言われるホイッスラーの絵画を見てイメージを高めたそうです。印象派的なフレーズに応援団の美女達もうっとり!両腕で大きく広げたエンディングまで観客の注意を逸らさない素晴らしい演奏になりました。
 3曲目は、アクビのストレイホーン集のハイライト、デイドリーム、官能的なジョニー・ホッジス(as)のサウンドが印象的なエリントン楽団屈指のバラードをどうピアノで処理するのかがレッスンの課題でした。ピアノが繰り出すうっとりするようなライン、肘を上手に使って下降するラン、甘い甘いウィスキー・ボンボンが口の中で溶けて、お酒のほろ苦さと一緒に宙に蒸発するようなイメージを見事に実現して行きます。カナリアの様なさえずりのエンディングまで、一気に弾ききったアクビちゃん、最高のパフォーマンスで魅せました。
 ラストは、入門時から弾きたい!と思っていた憧れの曲、レインチェックです。長い睫毛を伏せて間合いを計り繰り出したイントロ、速いテンポに引きずられる事無く、小柄な体をうまく使って、細かい音の塊を次々に繰り出していきます。長期間考え抜いたアドリブもミスタッチなし、大ネタのプレッシャーを跳ね返し、キレイに決めたグリスがお見事!スイング感も、アドリブの内容も前回の発表会からさらに大躍進!手強い曲ばかりずらりと並べて、完璧に弾いて聴かせた快挙に客席は大拍手、口を結んで一生懸命に手を叩くあーちゃんやけんいちくんの真剣さが印象的でした。師匠は「前回から大躍進、この難曲をミス無く弾ききったのは正しく快挙!これからレパートリーを貯めて更にランクアップだ!」とこの出来に満足しないよう手綱を引き締めました。小柄な体躯とは裏腹に大きなスケールと思い切りの良いプレイが身上のアクビちゃん、これからも伸び伸び個性を伸ばして成長してくださいね、

 若いアクビちゃんとは対照的に、ベテランのカッコ良さが漂う橋本会長がいよいよ登場です。今日はブラウン系のシックなブレザーに姿で、襟元の白いラインでアクセントを付けたセンスも素敵! ここ数年間は、バッパーが愛奏するラテン系の作品を好んで取り上げています。今日の一曲目も、古いスタンダード、アウト・オブ・ノーホエアをラテン&4ビートの組み合わせで軽快に演奏します。終始ブラシでリズムの変化を明確に提示してくれる河原達人と、宗竹正浩のビートに体全体で乗りながら、選び抜かれた音使いで、アドリブを繰り広げる橋本会長に、お客さん達の体も楽しそうにスイングしています。
 2曲目はジャズ・メッセンジャーズのヒット曲、ホレス・シルヴァー作、ニカの夢、これは、リズム・パターンに変化があり、それに乗ってカラーチェンジして行く、手強い曲です。おなじみのイントロから、私も大好きなテーマに入ります。2コーラスのアドリブで、ハード・バップらしいインパクトのあるリフもバチっと決まります。4ビートのグルーブ感も前回から格段に進歩している様子です。心も体も演奏を楽しんでいるという幸福感がピアノから伝わって来て、私も踊りたいほど愉しくなる演奏! ブラヴォー!橋本会長!!「橋本さんの今までの最高の演奏だった!」と師匠も大絶賛の演奏になりました。今回の橋本会長の演奏は、生徒達もさることながら、お母様達に特に好評であったことも付記したいと思います。

 いよいよ第10回発表会の大トリの出番となりました。一年ぶりの出場となるあやめ副会長です。昨年暮に待望のライブ・デビューを果たす傍ら難しい資格試験にも見事合格するという、教室きっての聡明で且つ勝ち組志向の、デキる女性です。カメラの前では夫君のYou-Non氏も、真剣な眼差しで見守っています。数週間前より風邪で体調を崩している様で、出番までは傍目にもぐったりした様子でしたが、ピアノに向かうと、生徒達の期待に応え、別人の如く生気を取り戻しました。ライブでのイブニング・ドレス姿と異なり、今日は白いハーフ・スリーブのニットと、パステル・カラーのチェックのスカート姿が爽やかです。
 オープニングはマット・デニス作、フラナガンの名演目があるザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴからです。ルバートから、美しいランで耳を引き付けておいて、テーマに入って左手のオブリガートを見事に入れます。リズムのノリも昨年のライブ以来、見違えるように良くなっています。一味違った音の選び方で一曲目から終始安定した演奏ぶり!体調の不安はあっという間に払拭しました。
 二曲目は、スタンダード・ナンバーの「ビーズと腕輪」、ヒット・ミュージカル<キスメット>の中の曲で、元々ボロディンのクラシック作品の翻案として作られた曲で、バブルズ、バングルズ&ビーズというのは、カーニバルなどで、沿道にまかれる縁起物のピカピカした飾りのことです。美しいランが縦横無尽に繰り出される綺麗なヴァージョンに仕上がって、実力のアップを強く印象付けました。
 ノリに乗ってきた演奏、続く三曲目はデューク・エリントンの渋く粋なバラード、アイ・ディドント・アバウト・ユー。タッチの美しさと、音使いのうまさで大向こうを唸らせる素晴らしい出来と成り、バラードが得意というあやめ副会長らしい出来になりました。このうまさは、やはり8年間のキャリアと、フラナガニアトリオ長年皆勤の成果に他なりません。ベテランの腕の違いを見せ付けて大喝采!名調律師川端さんが思わず身を乗り出して音色を聴き込んでいた姿が印象的でした。
 いよいよラストは大ネタ、タッド・ダメロンの極めつけ、アワー・デライト、速くスリリングなバップ・チューンのグルーヴ感も、昨年のライブから見違えるように良くなって、ライブで共演した河原達人(ds)もドラム・ソロでハッピーにソルト・ピーナッツを挿入して更に盛り上げます。終始メリハリの効いたプレイでスイング感も以前に比べて見違えるように良くなっています、グリスもばっちり決まって大団円!
 安定感のある流石の出来で、大トリの大役を見事に務めてくれたあやめちゃん、体調が悪いのにとってもお疲れ様でした!複数曲を演奏する上での間合いも、ライブ経験で会得したようです。あやめちゃんの次回のライブは4月15日、皆さんぜひ応援しに来て下さい!

審査と長時間の演奏にも関わらず、発表生以上に若々しい活力に溢れるフラナガニアトリオの演奏の後、各賞の発表が行われました。

全体を通して、今回は初級から上級まで、全員のミュージシャン達が停滞することなく大きく進歩している事を実感させてくれた発表会でした。
次回の寺井尚之ジャズピアノ教室発表会は8月27日。それまで、皆さんはプラクティス、プラクティス!「私もぜひ演ってみたい!」という方は、寺井尚之ジャズピアノ教室の門を叩いて見ませんか?

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