ゴールデン・ウィークはケニー・ド-ハムを読もう!(3) ほんのり甘口編

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 ゴールデン・ウィーク特集、KDことケニー・ド-ハムが書いたレコード評の最終回は、私も大好きな歌手、カーメン・マクレエのアルバム。これはNYのヴィレッジ・ゲイトでのカーメンのライブ盤。私がピックアップした彼のレビューは、偶然にも、全てライブ・レコーディングでした。
 
ダウンビート誌 ’66 5/19号より。
womantalk1.jpgCarmen McRae『Woman Talk』(Mainstream 6065)
評点:★★★★★
=パーソネル=
Carmen McRae(vo), Ray Beckenstein(fl), Norman Simmons(p), Joe Puma(g), Paul Breslin(b), Frank Severino(ds), Jose Mangual(bongos)
=曲目=
1. Sometimes I’m Happy
2. Don’t Explain
3. Woman Talk
4. Kick off Your Shoes
5. The Shadow of Your Smile
6. The Sweetest Sounds
7. Where Would You Be Without Me?
8. Feelin’ Good
9. Run, Run, Run
10. No More
11. Look At That Face
12. I Wish Were In Love Again 

<1>は、ゆったりスイングするベースから始まり、客席は、手拍子や指を鳴らして呼応する。2コーラス目にドラムとピアノ、そしてフルートが加わり、ミス・マックレーがひそやかに唄い出す。3コーラス目は、いつもの彼女のスタイルにちょっとエラ・フィッツジェラルドの雰囲気を加味したスキャットを聴かせて終わる。
 <2>冒頭の8小節の最後の部分は、中東の名歌手、イーマ・スーマックを思い起こす。サビの部分でのカーメンの歌唱は、余りに素晴らしく、言葉で説明できない(Don’t Explain)ほどだ。…全てが彼女自身の人生経験から滲み出る歌唱だ。1コーラス目の最後までクライマックスは持続し、ラストの8小節で、陰影、ドラマ性、そして感情、全てが溢れ出す。ラスト・コーラスはアドリブ、あの最後の8小節は僕に素晴らしい心理療法を施してくれた。
 僕は<3>で歌われているような女性たちの座り方や話し方について、詳しくないけど、マックレーの歌は本物だ!…皆さん、よく聴きなさい!
続く<4>では、実際に、楽しいことにさよならする女の子たちの姿を見ることができる。ひょっとしたら、これを聴いてがっかりする夫たちも何人か居るかも知れないな。
 <5>になると、カーメンは、より力強く活気に溢れた歌い方で、巧みにクライマックスまで持っていく。
 <6>で、一層ステージは盛り上がる。緊張感とドライブ感、説得力で、クライマックスは一層高まる…なんとも奥の深い歌唱だ。
 <7>は、定石通りの手法と力強いフィニッシュを合体させたヴァージョン。
 <8>はアドリブで始まり、そのうちイン・テンポとなる。そして、濃いラテン・リズムとフルートで色合いをガラリと変える。ゴキゲンなグルーヴを感じる。
 <9>では、歌、フルート、ギターの心躍るスイング感が聴きもの。
独特のムード溢れる<10>には、彼女の想像力と、語り口の深さに心奪われる。“あなたのことで苦しんだりしない、もうこれからは…”いいねえ。
 <11> この素晴らしさ…僕には適当なほめ言葉も見つからない。彼女の歌は、真にパーソナルで、他の誰にもないものだ。皆、聴け!よく聴くのだ!(Listen, listen!)
<12> では、彼らが舞台のずっと前方に出て行きライトを浴びる感じ。彼らが退場する時も、音楽は背を伸ばして行進を続ける。伴奏陣も素晴らしい。リチャード・ロジャーズ&ロレンツ・ハート・コンビが、命を与えられ、最高に活き活きしている。(KD)

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
KDのレビューに割り当てられたレコードは、大物の作品はどちらかというと少なくて、レコードは廃盤でも、良く知られているアーティストのものを三篇選んでみました。KDはミュージシャンなのに、テクニック面の言及はしない。譜面の読めない一般のリスナーの視点から、非常に判りやすく書いている。これはすごいね!
 今回のレビューみたいに、好きなものを語る時の嬉しそうな様子は、寺井尚之と合通じるものがあって、特に親近感を覚えます。
 このカーメン・マクレエのアルバムで、KDが一番注目しているのは、歌詞解釈。これまでの三篇に共通するKD批評の指針は、歌、曲、そして一枚のアルバムに起承転結をもたらす構成の力だ。それは、同時に『寺井尚之のジャズ講座』の指針と非常に共通している。
  
 評論集は今回で一段落。今週のジャズ講座には、トミー・フラナガン・トリオの名作、エリントン~ストレイホーン集『A Day in Tokyo』(Tokyo Recital)が登場します。OHPには譜面も多数登場予定。

 皆、聴け!よく聴くのだ!(Listen, listen!)
CU

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