新春ジャズ講座の前日に、ジャイブ音楽とエディ・ロックさんについて書いたのですが、エントリーを修正しようと思ったら、ドジを踏んで大部分を消してしまい、ほんとのジャイブになっちゃった・・・、皆さん、どうもすいません。
十日戎の昨日のジャズ講座、ほんとに楽しかったですね!サザン・オールスターズの名付け親という、ポップス界のVIPまで参加してくださって、お客様の盛り上がりも「繁盛亭」か「鈴本演芸場」かというくらい…新春にふさわしく、笑う角には福来る!
楽しい余韻が残っているうちに修正版を書いておこう。
右から:Jivin’ With the Refugees From Hastings Street, Alone Too Long:ジャケットだけでも水と油、一見無関係に見えるけど・・・
昨日は、トミー・フラナガンの、硬派のソロ・ピアノ作品2枚、『アローン・トゥー・ロング』と>『ディグニファイド・アペアランス』、ドラマー、エディ・ロックさんのお笑い系アルバム、『ジャイヴィン・ウイズ・ザ・リフュジーズ・フロム・ヘイスティングス・ストリート』他一枚が登場!
私は専ら、ロックさんのアルバムのジャイブな対訳に専念していて、ソロ・ピアノのレコードは、ほんとに久々に、昨夜皆さんと一緒に聴きました。実は、ひょんなことから、あの2枚のソロ・アルバムを制作した方から数年前にお話を伺ったことがありますが、企画自体にさほど長い打ち合わせはなかったそうです。でも、あの2枚のアルバムは、それまでのフラナガンの音楽人生を振り返るような壮大な内容であったんですね。制作者の方は、そのことはご存じなかったようです。昨日の解説で、「そうか!」と大納得しました。あの2枚はアート・テイタム(p)やビリー・ホリディ(vo)、コールマン・ホーキンス(ts)・・・、フラナガンの心に生きる偉人達の肖像画が並ぶ美術館のような作品だったこと、そして、フラナガンのプレイは、「偉大な人たちのレパートリーを上手にカバーしました」というレベルを遥かに超えたものだった・・・ダ・ビンチ・コードみたい!芸術家が作品に秘めた凄い秘密を知り、興奮しました。
中でも、印象的だったのが、アート・テイタムへのオマージュ、”Like a Butterfly”。フラナガンが生まれる前にヒットしたポップ・チューン(’27)で、テイタムのおハコです。本当のタイトルは”Lust Like a Buttterfly that’s Caught in the Rain” (雨中をさ迷う蝶のように)
これをフラナガンは、(テイタムみたいに華麗に弾こうと思えば弾けるのに)音数を絞り込み、見事に表現しています。ひらひらとさ迷う蝶の羽の鮮やかな色彩、雨粒がしっとり落ちる様子、そして雨が呼ぶ埃の匂い・・・羽が濡れると飛べなくなり、命もなくなる...そんな蝶のはかなさ、美しさが、ピアノの音色やフレーズに凝縮されています。質感、色彩、香りから、哲学的な死生観までを、簡潔な表現の中に凝縮する・・・それって俳句でしょ!日本文化でしょ!美しくはかない蝶を描き出すトミーのピアノに感動しながら、「日本人でよかった」と何故か思う・・・
昨日のアルバムは、シリアスな作品なんだけど、決して「芸術祭参加」みたいに四角四面にならないのがトミー・フラナガン。それは何故?その答えが次のジャイブ・アルバムの中にあった!
<ヘイスティングス通りからの避難民とジャイブろう!>
“Jivin’ With the Refugees From Hastings Street “はLPしかないので、お聴きになった方はほんの僅かと思います。歌手(!)エディ・ロック(ds)さんを盛り上げるのは、若い頃コンビを組んでいた、オリヴァー・ジャクソン(ds)と、コールマン・ホーキンス・カルテットの盟友たち、やはり美声の持ち主メジャー・ホリー(b)と、フラナガン(p)で全員がデトロイト出身!加えて、ジャズ史家、ダン・モーガンスターンさんがサイレンを鳴らす係で出演!
これだけ書けば、「ハハーン、単なる珍盤か!色もんやな・・・」とソッポを向く人が多いでしょう。おまけに、「ルート66」など、キング・コールやファッツ・ウォーラーなどの往年のヒット曲が一杯・・・最後にトミー・フラナガンはエレクトリック・ピアノを弾いていると来れば、殆ど聴かずにパスするかも・・・
左からフラナガン、コールマン・ホーキンス、メジャー・ホリー(b)、エディ・ロック(ds)
加えて、我々日本人ファンが更に敬遠するのはタイトルが長いこと!ジャケットは可愛いのですが、タイトルが長い!日本語にするならば、“ヘイスティングス・ストリートからの難民とジャイブを!”、「それなんやねん?」て感じだもんね。だけど、このタイトルは怖い怖いブラック・ユーモアです。 ヘイスティング・ストリートというのは、フラナガン達が育ったデトロイトの歓楽街にある通りの名前。モータウン・レコードの総帥、ベリー・ゴーディも、若いときこの辺りのジャズクラブを本拠としていました。その反面、ヘイスティングス・ストリートはアメリカ史の人種抗争のマイル・ストーンです。自動車産業の街、昔のデトロイトは非常に激しい人種隔離政策で知られる土地でした。 ’43年に、白人労働者がブラック・ワーカーの急激な増加に猛反発して起こしたヘイト・ストライキがきっかけで、大規模な人種暴動が起こり、商店が略奪され、街は破壊され、多数の死傷者を出したことがあります。暴動を鎮圧するはずの警察は、黒人たちを滅多打ちにし、多数の死傷者を出しました。中でも、最も沢山の人が亡くなったのが、「ヘイスティングス・ストリート」だったんです。余談ですが、ダン・モーガンスターンさんはホロコーストからの避難民です。
デトロイター達が繰り広げる愉快なジャイブ音楽、ジャイブはただの冗談音楽じゃなくってブラック・ミュージックのエッセンスが一杯!そして裏には、黒人の「負」の遺産が隠れていることをタイトルで表している。これがほんまのブラック・ユーモア!
聴いてみると、今は超一流のモダン・ジャズのプレイヤーに成長したミュージシャンたちが、若い頃親しんだ音楽を、最高のグルーヴで楽しく演っている。すごくきっちりした演奏で、ユルいところが全くない!遊び心一杯で粋なんです!!
’43のデトロイト人種暴動で街は破壊された
<エディ・ロックさんのジャイブ人生>
OverSeasでエディさんと言えば、サー・ローランド・ハナ3でのCaravanのドラムソロが伝説ですね!NYのジャズ・ミュージシャンの間ではエディさんの「キャラヴァン」は極めて有名で、知らない人はいないんじゃないかしら?なのに、批評界では過小評価もいいところ。頑固な職人気質が原因なのかも知れません。
エディさんはその昔、デトロイト、ミラー高校の後輩ドラマー、オリヴァー・ジャクソン(ds)と、ボードヴィルのコンビを結成して、唄って踊ってドラムを叩くショウで人気を博しました。トントン拍子にNYのアポロ劇場に進出したまではよかったんですが、丁度ロック&ロールが台頭。ボードビルは流行遅れとなり、二人は落ち目に。NYで宿代が払えなくなり、あわやホームレスになりかかります。
その二人を救ったのがドラムの神様、ジョー・ジョーンズ、二人を自分の常宿に居候させてくれた。エディさんは、靴磨きなどをしながら、ジョー・ジョーンズの内弟子として、師匠のカバン持ち、荷物運びをしながら修業した苦労人なんです。大劇場のスターだったエディさんが靴磨きするには、相当の苦渋を飲んだことでしょう。それを、「株で人を騙して儲けた金も、靴磨きで稼いだ金も、金に違いはない。それで飯を食うのが先決だ。」と師匠パパ・ジョーに諭されて、目からうろこが取れたとか。だからエディさんの芸には、なんともいえない味わいがあるんですね!
おかげで、ロイ・エルドリッジ(tp)に気に入られて、エディさんはドラマーとして超多忙になり、コールマン・ホーキンスのコンボでフラナガンたちとチームを組むのですが、ザッツ・アナザー・ストーリー。講座本第5巻の付録を読んでみてください。
エディさんの修行生活が、ドラムに味わいを与えるように、このアルバムで、最高のブギウギ・ソロや、爆笑もののホイッスルを入れるトミー・フラナガンのジャイブ・スピリットは、シリアスな作品をやっても、決して退屈になったり尊大にならないフラナガン音楽の隠し味だったんですね!
CU
昨日は、ノートを取ったり、曲を聴くのに必死で、あまり理解できなかったこともあったのですが、珠重さんのこの、blogを読ませていただいて、何だか切なくなりました。
パパ・ジョーさんの言葉で、「株で人を騙して儲けた金も、靴磨きで稼いだ金も、金に違いはない。それで飯を食うのが先決だ。」に、何とも言えぬものを感じました。涙です。
どんなに辛いブラックな歴史があったとしても、やはり私は、このデトロイトバップというジャズに出会えて幸せだと思います。
フラナガン大師匠の切ない音楽や、表現はいろんな歴史や人生が感じられ、単なるジャズの稽古を遥かに超えた、ハードバップの痕跡を緻密に探っていく旅なのだと感じました。
ありがとうございました!!
スズコちゃん、HPの奥地に、ようこそおいでやす!
フラナガンの演奏するエリントニア、お笑い系ジャイブ、どちらも、大師匠の心の音楽、ブラック・ミュージックだったことを判ってもらえて嬉しいな!
これからは、エコーズのニャーも、ロックさんやメジャー・ホリーさんのように、絶妙に入りそうですね。
ありがとうございました。