忘れられない微笑み <Too Late Now> 対訳ノート(20) 

 大阪の町の片隅にもコオロギが鳴き始め、秋の気配を感じます。皆さん、寝冷えしていませんか?
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 今週土曜日のジャズ講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」 は、ヘヴィー級作品、“Super Session”が登場します。’80年当時盛んに共演したベースの異才、レッド・ミッチェル、フラナガンが十代から共演した兄弟分ドラマー、エルヴィン・ジョーンズ!横綱級のミュージシャンの三つ巴で、『Minor Mishap』、『Rachel’s Rondo』などフラナガンの代表的オリジナルを含め選曲もヘヴィー級。
 その中で、今日吹く風のように爽やかな余韻を残してくれるバラードが、『Too Late Now』、一昨日のOverSeasでの演奏があまりに素敵だったので、この曲のことを書きたくなりました。
<歌のお里>
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 バートン・レイン作曲、アラン・ジェイ・ラーナー作詞のバラード、『Too Late Now』は歌って踊って恋をするミュージカル映画《Royal Wedding (邦題:恋愛準決勝戦 )》(’51)のサブ・テーマでした。主演フレッド・アステア、ジェーン・パウエル、アメリカで活躍する兄妹ダンス・デュオ・チームがエリザベス現女王のご成婚に湧くイギリスに渡って繰り広げるロマンチック・コメディです。主演のアステアは事実、妹のアデールとコンビで売り出し、妹はイギリス貴族と結婚したという実生活を連想させる映画でもあります。
 なぜ邦題が《恋愛準決勝戦》なのかというと、兄妹二人のロマンス故、人員が計4名なので「準決勝」になったというシンプルな理由が最高!気色の悪いカタカナの羅列ばかりの最近の洋画にも、素敵な邦題を付けてほしいな。
 作曲のバートン・レインは『カシモド』の名引用句としてOverSeasで人気高い『How About You?』や、寺井尚之が大好きなビリー・エクスタイン(vo)のオハコ『Everything I Have Is Yours』などで有名ですね!一方、アラン・ジェイ・ラーナーは脚本家と作詞家の二刀流で筋の通ったミュージカルを作る巨匠、《マイ・フェア・レディ》が余りにも有名です。
 《Royal Wedding》を観たいと思った方は、インターネット・アーカイブというサイトで、最初から最後まで観れます。(ただし字幕はないけど、あまり気にならないかも・・・)ネット社会恐るべし…
 『Too Late Now』はオープニング・タイトルの後半にも使われていますし、上のアーカイブで57分35秒くらいから、妹のエヴァに扮するジェーン・パウエルが歌うオリジナルを観ることができます。  ジャズで演るサイズより最後のA-3部分が2小節多い34小節で歌われています。
 それだけでなく、壁や天井をフレッド・アステアがダンスするシーンや、船上のジムの中のタップは、後のハリウッド映画で何度もリメイクされた歴史的名シーン、ダンサブルなソロを目指すドラマーは必見(16分すぎからは、ジムの中でのダンスシーンが。1時間6分くらいのところからは、壁や天井で踊る圧巻のアステアが。)。
<微笑みを忘れるにはもう・・・>
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 『Too Late Now』は、妹のエヴァと英国貴族、ジョン・ブリンデイル卿の愛のテーマとして、繰り返し流れます。人気ダンサーのエヴァは、アメリカでは次から次へとボーイフレンドをとっかえひっかえしている無邪気な天然プレイガール、でもロンドンに来て、今まで会ったことのない誠実で上品な貴族の青年と恋に落ち、奔放だったエヴァが一途な愛に目覚めたことを告白する歌だったんです。アレック・ワイルダーは著書「American Popular Song」の中で、”シンプルなA部と対照的なサビのB部は驚嘆に値する発明だが、決して小賢さはなく、一度聴くと、これ以外にはない!と思うほど完璧なものだ。”と論評しています。

<Too Late Now トゥ・レイト・ナウ>
Alan Jay Lerner / Burton Lane

あなたの微笑みを
忘れるには遅すぎる。
抱き合い踊ったひととき、
それを忘れて、
誰ともダンスは出来ないの。

忘れるには遅すぎる、
一言で私を喜びで満たす
あなたの声を。
あなたのいない私など、
思うことすら出来ないの。

離れている間は、
二人でしたことを、
指折り数えて思い出す、
優しく楽しい思い出が、
心の中にずっとある。

心の扉を閉じれない。
昔の私に戻れない。
だってもう遅すぎるから。

 作詞者が脚本も同時に担当しているだけあって、歌詞もストーリーに沿ったものになっています。とはいえ、対訳を作っていると、恥ずかしくなるほど甘い甘い歌詞です。ジャズ・ヴォーカルで演っているものは案外少ないし、決定版と言えるものを私はまだ聴いたことがありません。器楽奏者がうまく演ると、却って歌詞の良いところだけが抽出されるのかも知れません。
 歌詞のパンチラインは、冒頭2小節(2行)の”Too late now to forget your smile”に尽きると思う。このインパクトをずっと引っ張って、最後まで持っていくところが凄い。
 一瞬の微笑みで人生がガラリと変わる、そんなことがあるんだ・・・
 土曜日の講座は、人生を色々想いながら、楽しい解説でフラナガンの足跡を辿ろう。
 秋が深まりそうなので、私はチキンと茸を色々使ってクリーム煮を作ります。
 ジャズ講座は9月12日(土)6:30pm~ 受講料:2,500yen (ご予約はOverSeasまで。)
CU

「忘れられない微笑み <Too Late Now> 対訳ノート(20) 」への2件のフィードバック

  1. Milesさま、
    コメント反映されていました。よかったです。
    いつもほんとうにありがとうございます!

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