Evergreen物語(6) My Funny Valentine

 発表会も終わり早くも2月、デパートはバレンタイン一色ですね!だからということはないのですが、折良く“My Funny Valentine”の物語を書いてみます。
 実は3年前の2月にも、“My Funny Valentine”について書いています。ちょっとユニークなこのラブ・ソングが、シェークスピアのソネットに似ていることを見つけたのがきっかけでした。詳しいことは3年前のエントリーに書いています。
 その時、色んな方に訳詩を誉めていただいて、一層嬉しくなったのを覚えています。その節は励ましていただきありがとうございました!
<”Valentine”は人名?>
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 歌のお里、ブロードウェイ・ミュージカル “Babes in Arms”は劇団を舞台にした青春ドラマ、、劇中劇でヴァレンタイン(ヴァル)という名前の男性が作ったという設定になっているこの曲を、ヒロインのスージーが、彼の名前を「a valentine=恋人」という言葉に引っ掛けて歌うことで、ヴァレンタイン君への愛を示す設定になっているんです。ややこしいね!そのためか、色々な「訳詩」のブログを拝見すると、歌自体をValentineさんへのラブ・ソングだと解釈している人が多いみたいです。
  映画ヴァージョンの”Babes in Arms”では、当時のドル箱スター、ミッキー・ルーニーが主演しているため、ヴァレンタイン君の役名が”ミッキー”に替わり、この曲は出番はありません。
<ロジャーズ&ハート>
rodgers_hart.jpg   作曲リチャード・ロジャーズ、作詞ロレンツ・ハート、二人は高校時代の親友、25年に渡るコンビ活動で、28本のショウ、映画8本、550以上の歌を作った黄金コンビです。1942年にコンビ別れしてから、ロジャーズはさらに華々しく活動を続け、「オクラホマ」や「サウンド・オブ・ミュージック」など、現在もリメイクされる作品を作りました。一方のロジャーズは酒に溺れ、2年後、失意のうちに48歳で亡くなりました。
 “My Funny Valentine”のお里である、”Babes in Arms”(’37)は、脚本も含め、コンビが全てに渡り共作した最初のミュージカルです。不思議な魅力のある歌詞にぴったりのメロディ。ターンバックで、最初のアイデアを、オクターブ上げて、ハーモニーを豊かにすることで、色合いが一変、歌詞にぴったり沿いながら、最高に盛り上がります。アレック・ワイルダーは「音楽の新しいアイデアは、歌詞によってもたらされることが多い」と言い、この歌も「歌詞が最初に作られ、曲を後付けした作品」と断言しています。(American Popular Song p.206)
 皮肉っぽさと切なさが同居する都会的な魅力で、当時、ナイトクラブの歌手は、皆がこの歌を愛唱した。あんまり頻繁に歌われすぎるので、あるNYの一流クラブでは、歌手の出演契約書にMy Funny Valentine禁止条項を入れたほどだったそうです。
<自分宛てのラブソング>
 ソネットという十四行詞の形式になっている”My Funny Valentine”、私の推理どおり、本当にシェイクスピアにヒントを得たのかどうかは判りませんが、興味深いのは、この曲のヴァース(滅多に歌う人はいない、私が知ってるのはエラ・フィッツジェラルドのソング・ブックだけ。)が、シェイクスピアを思わせる古語で書かれていることです。
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Verse
我らが素晴らしき旧友をご覧あれ、
そは美の大行進、
さて我が血の巡り悪き友よ、
君、おのが姿を知らず、
空ろな額、乱れた毛髪、
美しき心を覆い隠す、
気高く、真摯、誠実だが、
いささか間抜けな男・・・

 額が薄くもしゃもしゃのバーコード頭、中身は素敵なのに、みかけが良くない「友」とは、ロレンツ・ハート自身ではないのかな?そして冒頭の麗しい「我らの友」とは、皆に好かれ尊敬された彼の幼馴染、相棒であったリチャード・ロジャーズを指しているように思えてなりません。
<ビタースイートなチョコの味>
 “上から目線”で相手の欠点ばかり言いながら、最後には「そのままでいておくれ!」と本心を吐露してしまう歌の主人公はとても切ない。相手も、そして自分自身も一生「そのまま」ではいられないことに気づく年齢なら、この歌はもっと深く、もっと切ない。
 「もしも私を想っているなら」と言うけど、本当に相思相愛なのかしら?「感じの良い巨匠」として名高いリチャード・ロジャーズとは対照的に、人付き合いが下手で、眉目秀麗でないホモノセクシャル、アル中だったロレンツ・ハートに、何となく親近感を覚える。
 色んな人がこの歌を取り上げるけど、ジャズに限らず、上手い歌手や演奏者なら本当に美しく響く歌です。そしてこの曲の持つ独特の切なさは、私が年を取るに従って、一層苦く感じられます。
 Evergreenでは、寺井尚之のタッチとハーモニーが、皮肉から切なさへのドラマを美しく語ってくれます。ぜひダウンロードして聴いてみてください!

My Funny Valentine

Richard Rodgers/Lorenz Hart
(原詞はこちら)
私のおかしな恋人さん、
優しく楽しい恋人さん、
心から私を微笑ませてくれる。
そのルックスに笑っちゃう、
どうも写真には向いてない。
でも、私が一番好きな芸術品。
スタイルはギリシャ彫刻に負けるかな?
口元も弱いかな?
その口を開けて話しても、
スマートでもない。
でも、私を想ってくれるなら、
些細なところも変えないで、
どうぞこのままいて欲しい。
あなたとの毎日が私のヴァレンタインデイ。

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 皆様にも幸せなヴァレンタインデーを!
CU

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