海外ジャズメンより:震災お見舞い(1) from Rufus Reid

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 I am in shock and saddened as the entire world is of this horrific tragedy to hit Japan. Our hearts go out with deep concern to everyone.
 My next concert will be dedicated to the welfare and safety of all the victims.
  Rufus Reid/Jazz Bassist/Composer

 今回の悲劇は、全世界にとって他所事ではありません。僕自身も大きなショックと悲しみに襲われています。僕達の心は被災された皆さんと共にあります。次の僕のコンサートは、被災された全ての方々への福祉と安全に捧げます。
 ジャズ・ベーシスト、作曲家:ルーファス・リード
 
 *ルーファス・リードは、1944年生まれの巨匠ベーシスト、作曲家。
 アーミー・バンドの一員として横田基地に駐留していたこともあって、大の日本贔屓。サド・メルOrch.、ジミー・ヒース(ts,ss)デクスター・ゴードン(ts)やフレディ・ハバート(tp)などとの共演で知られ、トミー・フラナガン(p)トリオとして80年代に来日しています。また日系人ドラマー、アキラ・タナとのコンビ、「タナリード」でも人気を博しました。
 ウィリアム・パターソン大学の学部長に就任以来、大先生の風格、作曲やアメリカ国内のコンサートが多く、来日の機会も減りましたが、一昨年冬、チャールズ・トリバー(tp)ビッグ・バンドでツアーしています。

東日本大震災 心よりお見舞い申し上げます。

 東日本大震災、被災地、被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
 金曜日午後の地震は、大阪震度3ということでしたが、阪神大震災以来揺れました。
 帰宅してから東北地方の様子をニュースで観て、言葉になりません。東北地方はジャズを応援してくださる人が多く、寺井尚之もずいぶんお世話になっています。
 関東の皆さんからも、スーパーに食糧がないとか、交通マヒで5時間かけて帰宅されたとか、滞在先の東京のホテルのエレベーターがストップし、22階の部屋に3回休憩して帰ったとか、色んなお話を伺いましたが、皆さんが、決してグチらずに、しっかり淡々と困難に立ち向かっていらっしゃる姿をみてクールやなあと尊敬するばかり。
 亡父や親戚の多くが電力会社に勤務しており、災害時のインフラ保守に命を賭けて従事されている方のご苦労も、察するに余りあります。
 非力な私が出来ることは、とにかく自分の仕事をしっかりやること。そう思いつつ、今週のトミー・フラナガンへのトリビュート・コンサートに向けて全力を尽くします。出口の見えない状況の中、お店を開けて音楽をお届けできることのありがたさをかみ締めながらがんばります。
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3/25(金)イベント:ジャズ・ヴォーカル、対訳を見ながら楽しもう!

 皆様、お元気ですか?
sakura_buds.jpg 今頃になると、大阪の街に漂うお相撲さんの鬢付け油の香りが恋しいです。今日もなかなか寒いですが、膨らんだ桜のつぼみが可愛い!米国南部のサウスカロライナ州、アイケンという小さな街に住んでいる、私の翻訳アドヴァイザーから、「オラが街の桜が咲いてきたぞ~」と桜メールをもらいました。
 南部生まれの彼のニックネームはWizard of Bop (バップの魔法使い)=略してWOP、長らく枚方に住んでいた常連様で、プロの翻訳家、バリトン・サックス奏者、英訳、和訳の両方で、壁に当たると“Hi, WOB, Help Me!”とメールして、いつもお世話になっています。
 私の歌詞対訳歴も、足掛け14年、最初は「寺井尚之のジャズ講座」でビリー・ホリディを特集したとき、PCなんて持ってなかったからワープロで作った。聴き取りで判らないところは、来日ミュージシャンが遊びに来たときに、ちゃっかり手伝ってもらったり、米人のお客さんが来たら、すかさず意味を教えてもらったり、色々アツかましくやりました。
 今は辞書にない単語や固有名詞も、ネット検索すれば、沢山の情報が瞬時に手に入る!翻訳者にとっては便利な時代になったけど、微妙なニュアンスを受け取るには、ネットだけではだめで、読んで書いて、聞いて話して・・・英語の力だけでなく、日本語力も、それに人生経験や想像力が必要かも知れません。
 歌詞対訳を作っていて一番楽しいのが、ビリー・ホリディとエラ・フィッツジェラルド、何故かと言うと、「歌詞の意味が判ってジャズ・ヴォーカルがすごく楽しかった~」と喜ばれることが多いからです。
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 そのハイライトと言えるのが、ジャズ史を代表する歌手、エラ・フィッツジェラルドの「カーネギー・ホール」と呼ばれる名盤、『Newport Jazz Festival: Live at Carnegie Hall』!
 「トミー・フラナガンの足跡を辿る」で、寺井尚之が三年前に解説していますが、ご要望にお答えして、来る3月25日(金)にアンコール講座を行います!
 エラ・フィッツジェラルドが糖尿病の合併症で視力を損ない休養を余儀なくされた後、意を決して出演したカムバック・コンサート、客席の熱気も凄いですが、名手トミー・フラナガンをバックにエラが会心の歌唱を繰り広げます。
 超一流ミュージシャンにひけを取らない、エラのアドリブの凄いこと!フラナガンのサポートの素晴らしいこと!音楽の歴史に残る名唱です。
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“ジャズ・ヴォーカルを対訳を見ながら楽しもう”
【日時】3月25日(水)7pm~8:45pm 
【講師】トミー・フラナガン唯一の弟子、OverSeasオーナー、 寺井尚之
【受講料】One Drink付 ¥2,500 (税込¥2,625)  要予約

 このコンサートは’73年、エラが歌うのは1920年代にソフィー・タッカーが歌い、サルトルの「嘔吐」に登場した古い歌から、マーヴィン・ゲイのリアル・タイムな反戦歌まで、エラが休養時に選りすぐった感のある名曲揃い。失恋から立ち直ろうとする「Good Morning Heartache」や、恋を謳歌するメドレー、歌舞伎の刃傷沙汰のような「殺人」をテーマにした「Miss Ortis Regrets」など、色んなドラマの集大成!それら全てを、エラは自分の言葉にして歌う。星野哲郎や阿久悠たちが時代を彩る昭和の歌謡曲に負けない共感を覚えるものばかりです。
 映画の字幕を観るつもりで、歌詞を楽しみながら、トミー・フラナガンとエラ・フィッツジェラルドの名コラボを、寺井尚之の名解説でお楽しみください!
 今週のジャズ講座は、’90年、Jazz Club OverSeasでもトミー・フラナガン・ソロ・コンサートを開催した同時期のソロ、『100Gold Fingers』や、フュージョンの大スター、グローヴァー・ワシントンJr.(ts)の『Then and Now』から、聴き応えのあるデュオ2曲、ヴァイブ奏者、ボビー・ハッチャーソンとの『Mirage』など、iスペシャル・ゲスト格の色んなフォーマットでのトミー・フラナガンが楽しみです。
 私はおいしいポークのあばら肉でバーベキュー作ってお待ちしていま~す!
CU
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Evergreen物語(7) :My One & Only Love

 いよいよ大スタンダード登場!今日のテーマは”My One & Only Love”、寺井尚之ジャズピアノ教室ではトニック・マイナーの原理を勉強する課題曲Ⅱでもあります。
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 ミュージシャンが「マイ・ワン」と犬みたいに呼び、時にはアドリブの途中で”Polkadots & Moonbeams”と間違える危険性をはらむ曲、私が出会ったのは、勉強するふりをしてラジオばかり聴いてた高校時代、FMラジオのジャズ番組で聴いたロレツ・アレキサンドリアの『The Great』というアルバムで、ピアノはウィントン・ケリーでした。後にトミー・フラナガン3とリメイクしていることからも、ロレツの十八番であったことが判ります。初めて聴いたロレツ・アレキサンドリアの声は、爽やかでセクシー、当時、英語はまるきり判ってなかったけど、最初の”The very thought of you…”と最後の”My one & only love”だけは聞き取れて、うまい歌手やん!ええ歌や!と、新鮮かつ単純すぎる感動を覚えました。その直後、TVの音楽番組で、司会の藤岡琢也さんが北村英二(cl)さんを紹介した言葉で、ワン&オンリーが「随一無比」を表す決まり文句と知ったけど、受験勉強には何の足しにもならなかった。
lorez_the great.jpg  <img src="http://jazzclub-overseas.com/blog/tamae/assets_c/2011/03/My_one_and_only_love_2-thumb-150×149-1929.jpg" width="150" height="149"

<One & Onlyじゃなかった歌詞>
 歌のお里は、映画や演劇ではなく純粋なポップソング、作曲はイギリス出身のソングライターで、バンドリーダー、ガイ・ウッド、最初はジャック・ローレンスが詞をつけた“Music Beyond the Moon”(’47)という曲だったんです。バリトン・ヴォイスのヴィック・ダモンが人気の出始めた頃レコーディングしたのですが、ヒットはしなかった。
 それから5年後、ガイ・ウッド同様イギリス出身で、同じように作詞作曲どちらも出来るソングライター、ロバート・メリンが歌詞をリニューアル、フランク・シナトラがレコーディングしたら、あっという間に大ヒット、ジャズ・スタンダードになって、今も歌い継がれているんです。つまりMy One & Only Loveは皮肉にもワン&オンリーではなかったというわけ。
 “Music Beyond the Moon”を”My One & Only Love”にしたらヒットしたのはどうしてなのか?必ずしもヴィック・ダモンよりシナトラの方がずっとスターだったから、だけではないように思えます。シナトラのシングル盤ではB面だったし、今もスタンダードとして、ジャズだけでなく、ロッド・スチュワートなど、多くのシンガー、ミュージシャンに受け継がれているというのは、やっぱり、歌詞とメロディとハーモニーが三位一体の魅力を醸し出すからではないでしょうか?
<ラブ・シーンが見える>
FullScale_17_e98ae.jpg 高名なジャズ評論家ベニー・グリーンに「戦後のバラードのうちで最も精巧に作り上げられたバラード」と言わしめた”My One & Only Love”、形式は一般的なA-A-B-A形式ですが、通常聴かせどころとなるサビ(B)の方が、変化に富んだAのパートよりも控え目で、不思議な緊張感を醸し出すところが、洒落た雰囲気の秘密なのかもしれません。
 同様に歌詞も、A-2のパートがパンチラインになっていて、聴く者の心を掴みます。「四月」とか「そよ風」とかラブソングの定番になっている言葉が並ぶA-1から、A-2に入ると、冒頭の“The shadows fall and spread…”から、一気に歌の情景にリアリティが生まれる仕掛けになっている。ところがネット上を閲覧すると、数多ある訳詩の殆どが、このシンプルな節を「周りの景色に長い影が落ちる」と解釈し、「夕暮れになると」とか「夜の帳が下りると」とか、単に「夕方」として日本語訳化されている。そうしてしまうと、リアリティがしぼんでしまい、ありきたりな印象になってしまうのが少し残念です。
 本当は、自分達のシルエットが、「実物よりも長く大きく広がって、恋の不思議なムードも同じように増幅されている」ということを歌っているんです。
 静かな夜、デートの帰り道に、抱き合う自分たちのシルエットが目に入る、思わず気分がたかまって唇を重ねる恋人達、二人の影は重なって…という映画の1シーンのような情景が、たった2つのシラブルから浮かび上がってくるという仕掛け!うまいな...そう思うと、再びロレツの爽やかな色気のある声を思い出しました。男の歌を女が歌う、その効果が最大限に発揮されていますね。
 寺井尚之にとっては、アート・テイタム&ベン・ウェブスターの名演が一番印象的で、Evergreenでも、その辺りが感じられるので、ぜひ聴いてみてください。楽曲や歌詞の良さが判ると、聴くのも楽しいし、演るのもまた楽しいですよね!演奏者たちのために自筆楽譜もお分けしていますが、マイワンはサンプルとして無料でダウンロードできますので、ぜひこの機会に!そして他の譜面もどうぞ!

<My One & Only Love>
曲: Guy B. Wood/ 詞:Robert Mellin
今回は敢えて原曲の歌詞も日本語の前に掲載しておきました。
Evergreen_cover.JPGのサムネール画像
The very thought of you makes my heart sing
Like an April breeze on the wings of spring
And you appear in all your splendor,
My one and only love.
The shadows fall and spread their mystic charms. 
In the hush of night while you’re in my arms,
I feel your lips so warm and tender, 
My one and only love.

The touch of your hand is like heaven, 
A heaven that I’ve never known.
The blush on your cheek  
Whenever I speak
Tells me that you are my own.

You fill my eager heart with such desire, 
Every kiss you give sets my soul on fire,
I give myself in sweet surrender,
My one and only love.

君への想いに心が躍る、
春の翼に乗って来る四月の風の如く。
やがて輝く君が現れる、
かけがえのない恋人よ。

二人の影は長くなり、
恋の不思議を映し出す、
しんとした夜更け、
君をこの腕に抱き、
交わす唇は温かく優しい、
かけがえのない恋人よ。

その手に触れるだけで夢心地、
初めて知る天国、
話しかけると、
紅く染まる頬が、
君の気持ちを教えてくれる。

君はハートを欲望で満たす、
キスした数だけ心に火がともる。
喜んで降参!
かけがえのない恋人に。


 もうすぐホワイト・デーですね!寺井尚之のEvergreenを聴きながら、二人で影法師を眺めるのはいかがですか?