PIANO談義:トミー・フラナガン&ロジャー・ケラウエイ 連載(2)

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<お気に入りのピアノ>
(司):お二人は、どんなピアノを求めますか?お気に入りのピアノは?
ロジャー・ケラウェイ (以下RK):僕はブリュートナー(ドイツの最高級ブランド)だ。理由は、演奏曲の調性の有無に拘らず、あらゆる題材で、ちゃんとサウンドしてくれるから。ブリュートナーと対照的なのがベ-ゼンドルファーだ。無調の音楽だけでなく、前衛的なもの全てを嫌っているように思える。ベーゼンドルファーは、ショパンのような音楽を弾かないと、「キャーいやだ~!止めて!」てな風に鳴るんだよ。(笑)
トミー・フラナガン(以下TF):私はスタインウエイの方が好きだね。それもハンブルグ・モデルの。ハンブルグには特別な何かがある。ハンブルグモデル以外のスタインウエイは、僅かにノイズが出ることがある。だが普通の弾き方で、鍵盤をタッチしていくと収まる。ペダルを使ったとき、何かの拍子でそのゴーストのようなものをキープしてしまうのかもしれない。あんまりよく調べたことはないが、スタインウエイのある特定のモデルは、ゴーストが全然出ない。
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(司):もし演奏会場のピアノが粗悪だったり、気に入らなかった場合、どのように克服し、よい演奏をするのですか?
RK:私の場合は消去法だ。弾き始めると、自分とピアノとの感じ方が判ってくる。そうしておいて、弾き方を限定する。
TF:もし、一週間のギグがあり、始めから会場のピアノが気にいらないとする。しかし、そのピアノを一週間弾かなきゃいけないとしたら、ピアノに順応することはできる。嫌なところは避けて、長所を引き出してやるという対処法もある。
 例えば、ピアノがアップテンポについて行けず、良い音を出せなくても、バラードならましかもしれない。バラードはピアノの方に前かがみになって体重を掛けて弾くから。
RK:僕はその正反対の恐怖の体験もしたことがある、バラードが弾けないピアノ、アップテンポだけ良く弾けるんだ。トーンがサステインしてしまう。Oh,No!って感じだった。
TF:私もスェーデンでそんな経験をしたことがあるよ。サステイン・ペダルが止まらなくなってしまった。恐ろしいことだ・・・本番で、何人かに舞台に上がってもらって、弦を手で押さえてもらおうさえしたほどだ。(笑)演奏の真っ最中で、成す術無しだった。
(司): 数年前、ケラウエイさんが真新しいピアノを入れたクラブに出演されていた時に、「ああ、このピアノは実に若く、私は、実に年寄りだ。」とおっしゃったのを覚えてるんですが、楽器がちゃんと役割を果たすためには、ある種の成熟が必要だと思われますか?
RK:一般の人なら『どういう意味?』ということになるかもしれないな。例えばこういう話だ。『あなたをお迎えできて誠に光栄です。今日はあなたのために、新品のピアノを調達いたしました。』(笑)でも僕はこう言うだろう。『大変ありがとうございます。』そして『OH,NO!』と・・・何故なら弾き慣らされていないからだ。どんなに
長時間調律しても、だめになる可能性が大きい、ファーストセットの途中で調律が落ちてしまうかもしれない、あるいは一曲目の何音かを弾くだけで、調律がだめになるかもしれないから。
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<練習方法>
(司):練習はどのようにされますか?
TF:メンタルな練習をたくさんする。鍵盤でもある程度は稽古するが、頭の中でもっと練習をしている。
(司):練習に際して、なにか哲学的システムのようなものがあるんですか?
TF:いやそういうわけじゃない。頭の中の鍵盤を弾いてみて、出てくる音をイメージしてみる。鍵盤なしで、サウンドだけメージすることもある。
(司):グレン・グールドは、ピアノのない暗い部屋にこもり、ピアノコンチェルトをの通し稽古を心の中でひたすらしたそうですね。
RK:そうだね。ただ彼は、何でも暗い部屋の中でやったんだ。(笑)
TF:目を見開いてね。いや、冗談はさておき、そこまで極端ではないが、私は身体的なコンディションによって、きちんと構えて演奏する気になれない時がしょっちゅうあるので、座って考えるだけで同じ効果をあげようというわけさ。
RK:私は「書くこと」が練習、だからやはりメンタルだ。ただし、筋肉の活動性を保つためには、弾く方が大事だ。50歳を過ぎてそのことに気がついた、昨夜はしばらくぶりで演奏した。今夜の方が力強くプレイできるはずだ。技量、というか精神的な活力はあるのだから、肉体的問題というよりも持久力だね。
<若手へのアドバイス>
(司):お二人は教えますか?
TF:いいや。
RK:文字どおり「教える」という意味ではノーだ。訓練しなければならないのなら、ずっと規則的に生徒に付いて教えなくてはならない。私は楽旅も多いし、自分のプロジェクトで作曲もしなくてはならない。だから生徒に対してよくしてやる自信がない。クリニックは好きだよ。思ったことを何でも質問してくる人達と話をするのは好きだ。マスター・クラスというのかなあ。あれは面白い。
TF:私もクリニックはやったことがある。しかしロジャーが説明したように、自分の生徒
の上達ぶりを論評してやるとか、規則的にフォローできる時間がない。常に演奏旅行が割り込んでくるから。
(司):現在の新進ミュージシャンはどう思われますか?彼等に伝えたいことはありますか?
RK:今共演しているエリック・アレキサンダー(ts)とジョン・スワナ(tp)について考えてみるよ。まず、どの曲でも、彼等は若いってことだな、それは本当に素敵なことだ。トランペット奏者はいつも音数が凄く多いので挫折しているが、実はそんなに悪いことじゃない。僕は言うんだ。「一つの音だけ吹くようにしてみれば?」って。きっとできるはずだ。僕はそんなことすらできない。
 とにかく人生において、何か情熱を燃やすものを見つけなければ。もしそれが音楽なら、なお素晴らしい!僕は自分のやっていることに凄く情熱をもってるよ。クリニックでは、何よりもまず心構えを教えなければいけないとしょっちゅう思う。コード・チェンジをどっさり教えてあげれば、それを使っていろんなことはできる。しかし僕がみんなに伝えたいのは、「自分のやっていることが好きだ」ということ、だから「君にも自分のやってることを好きになって欲しい」という事だ。もし僕と同じことがやりたいというなら、大いに結構!でもそれが何であれ、情熱を抱いて欲しい。
TF:もし若手たちが、本当に良い演奏をしたいと願うなら、必ず進むべき道が見つかるだろう。本当に真剣なら、その道をつき進んで行くことが出来るだろう。いずれ、何か納得の行かない事にぶつかるかもしれない。そうしたら助言をしてくれる人のところへ行くといい。ロジャーでも私でも、誰でもいいさ。私達が力になれるのならね。私ならそんなふうにアドヴァイスする。
 私はわざわざ出かけていって、色々調べて、どうのこうの指図はしない。彼等は、そうしたいと思ってやっているのだからね。それが間違っていると助言するために生きているわけじゃない。もし本当に情熱があるなら、自分で道を見つけるはずだ。
(司):「道」ということをおっしゃいましたが、ジャズの見地から、ファッツ・ウオーラーやバド・パウエル、トミー・フラナガンを知らずして、正しい「道」は見つかるとお思いですか?
*続きは次回!お楽しみに~
 「私は教えない」と公言するトミー・フラナガンの弟子に寺井尚之がなった経緯は、だいぶ前に書きました。
GW講座は5月3日(火)~5日(木)開催。私の作った対訳とともに、ジャズの名唱をお楽しみください!
CU

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