セロニアス・モンクの真実

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 子供の時、NHKの音楽番組で観たセロニアス・モンクの衝撃は忘れません!人里離れた山奥に住む仙人がチャイナ帽とメガネをかけてる!コワイ顔つきで「ど・れ・に・しようかな…?」と逡巡するように鍵盤を叩く様子は、それまで観たリヒテルやアシュケナージと全く違う世界。見た目もサウンドもなんかカッコイイ!”Blue Monk”演奏後のインタビューで発した言葉。「私は常に鍵盤にない音を模索しています。」ゲージュツ家や!子供をジャズの世界に引っ張り込むのに充分な殺し文句でした。
 セロニアス・モンクが、警察署長という黒人エリートの息子として生まれ、6歳でピアノを始めたハーレム・ストライドの達人であり、ショパンやラフマニノフを演奏した人であったこと。先日の芸術史をしっかり踏まえたうえで、従来の音楽理論を革新した人であったと知るのは、それから何年も経ってからでした。
<虚像×実像=リアリティ>
picture-10.pngニカ男爵夫人とモンク
 セロニアス・モンクの奇行は、自分の音楽をアピールするためのパフォーマンス、そして自己武装の鎧として始まったものだった。ファッションや言動を含め、全てをアートにしてしまう、ヴィジュアル系アーティストの先駆者であったのかも知れません。でも、モンクには、レデイ・ガガのようなイメージ戦略チームもなく、マイルス・デイヴィズを大きくした石岡瑛子のようなアート・ディレクターも雇わず、全てを自分でプロデュースした。
monk200305_033b_depth1.jpg 世俗を超越したポーズとは裏腹に、モンクには、妙に人間臭い、というか「カワイイ」エピソードが多い。例えば、エスカイヤ・マガジンの歴史的記念写真、”A Day in Harlem“(’58)の撮影時、「大人数の中、どんな服を着れば一番目立つか?」と、迎えの車を待たせ、衣装選びに延々と時間をかけたとか・・・
 インタビュー中、トイレに行って帰って来なかったり、意味不明の言葉を吐く一方、大尊敬している巨匠たち、デューク・エリントンやコールマン・ホーキンスの前では、常識ある一般人として丁寧に会話をしていたと、エディ・ロックたち、ジャズ・ミュージシャンは証言しています。
 ディジー・ガレスピーと
 やがて、モンクは、自由でいるために身に付けた鎧に囚われてしまう。最後には精神を病み引退。それは彼の最愛の弟子、自分の作品の「理想の演奏者」であったバド・パウエルを失ったためだったのでしょうか?パウエルが脳を病んだのが、モンクをかばい警官に殴打されたためだったのでしょうか?あるいは、自分が成し遂げた革命的音楽理論が足かせになり、袋小路に突き当たってしまったせいなのか?色んな伝記や資料を読んでも、その辺りは亡羊としてはっきりしません。
monk_nellie_trane.jpgネリー夫人、ジョン・コルトレーンと。モンクはコルトレーンにとって、多くのことを隅々まで懇切丁寧に教えてくれる師匠だった。
 モンクに寄り添い、彼を最もよく理解した人たち、妻のネリーや、守護神パノニカ夫人、以心伝心の完璧な共演者であったチャーリー・ラウズ、みんなモンクの秘密を持ったまま、お墓に入ってしまいました。
 自由に成るために創造したものによって潰される、まるでギリシャ悲劇のように、抗いがたい宿命が恐ろしくもあります。
 最近話題のジャズ本、”バット・ビューティフル”(ジェフ・ダイヤー著、村上春樹訳)、ハルキストのドラマー、河原達人さんは、「もしセロニアス・モンクが橋を造っていたら」という章がとても気に入ったそうです。この本が、これまた虚実混合であることも象徴的なのかも知れません。
 虚実を併せた矛盾の中にモンク・ミュージックの真実があるということ、日曜日にOverSeasで開催する「映像で辿るジャズの巨人」で、寺井尚之の解説を聞きながら、セロニアス・モンクの黄金カルテットの演奏をご覧になると、より実感されると思います。
 日曜のお昼、よかったらぜひご一緒にDVDを見ませんか?
<映像で観るジャズの巨人達>
【日時】2月5日(日)12pm~2:30pm (開場 11:30am)
【会場】Jazz Club OverSeas E-mail : info@jazzclub-overseas.com 

CU

「セロニアス・モンクの真実」への4件のフィードバック

  1. 藤岡先生、コメントありがとうございました。コルトレーンにとってモンクは、マイルスと正反対で、判らないところは、譜面に書いて、徹底的に教えてくれる師匠だったそうですね!寺井尚之にとって、トミー・フラナガンとサー・ローランド・ハナが対照的な師匠だったのと似ている印象を持っています。

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