トミー・フラナガン・トリビュートで盛り上がった3月も終盤、締めくくりのFlanagania Reunion (3/31土)は残席僅か、必ずご予約ください。
最近、「トミー・フラナガンの足跡を辿る」のエラの出番が一段落して、久しく「対訳ノート」を書かなくなったら、対訳リクエストのメッセージをいくつかいただきました。ありがたいことです。久しぶりにビリー・ホリディの十八番、同時に、トミー・フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之がフラナガニアトリオで、号泣しながら演奏したのが忘れられない名曲、”イージー・リヴィング”について書いてみます。
<歌のお里>
“Easy Living”の歌のお里は、ジーン・アーサー主演の同じタイトルの映画だったそうです。普通の女の子が富豪の御曹司と結婚するという、シンデレラ的ロマンチック・コメディーで、そのときはオーケストラ演奏のみで、注目されることはありませんでした。
歌詞のついた「唄」として初演したのは、ビリー・ホリディで、白人優先の当時のレコード業界を考えると、余りもの的な新曲であったのかも知れませんが、テディ・ウイルソンOrch.と録音したBrunswick盤(1937)は大ヒット!それ以降、ビリー・ホリディの十八番として親しまれ、多くのハード・バッパー達の愛奏曲となりました。バッパーは、ビリー・ホリディのフレージングを愛しましたが、この歌には特別な共感を持っていたのかもしれません。
<バッパーに愛された理由>
<Easy Living>は、そのまま日本語にすれば「安易な生活」、「気楽な暮らし」、唄の主人公にとって「気楽な暮らし」とは、三食昼寝付のマダム主婦でも、独身を謳歌するキャリア・ガールでもない。惚れた男に尽くしても、愛されず、骨の髄まで絞り取られる暮らしこそが、Easyだと歌います。
世間から、バカとあざ笑われても、構うもんか!貢ぐことが「気楽な暮らし」と開き直るのです。
なんとアホウな可愛い女!初演のBrunswick盤のビリー・ホリディは、脚韻の踏み方もスパっとしていて、ネチネチぜず潔い。後期のこなれたヴァージョンになるほど、「悲しさ、はかなさ」が、強調されて、媚びたところがないのに、一層深くて愛らしい。
でも、ビリー・ホリディが歌の中で呼びかける「あなた」は、ほんとうに男性なのか?と聴くものは思う。ビリー・ホリディが歌う“Easy Living”には、普通のラブ・ソングとは少し違った味わいを感じるのです。
ひょっとしたらホリディが歌いかける「あなた」とは、人間ではなく、自らが深く依存していた「ドラッグ」や「アルコール」ではなかったのかしら・・・ヘロインに溺れ行く人生に悔いがなかったと宣言する壮絶なメッセージのようにも響きます。同時に「あなたは、どんな毒にすがって生きてるの?」と、ホリデイは優しく問いかける。つらいね。
“Easy Living”
<お気楽暮らし>
改行が誤っていますが、原詞はこちら
詞:Leo Robin 曲:Ralph Raingerあなたのために生きる、それは気楽な暮らし、
恋をすると、生きているのが楽になる、
だから私の人生はあなただけ、
それほどどっぷり浸ってる。あなたに捧げた年月を、
後悔なんかするもんか。
惚れているなら、
貢ぐ事など何でもない。
好きなあなたのためならば、
どんな苦労も厭わない。あなたのおかげで、
正気を失くしているのかも。
あなたは私を意のままに、
操っていると人は言う。
ねえ、あなた、
そこが一番いいのにねえ、
世間は判っていないんだ。あなたのために生きる、それは気楽な暮らし。
恋をすると、生きているのが楽になる、
私は惚れて、惚れ抜くの、
私の人生はあなただけ、
それが生きがい。
デクスター・ゴードン、ジミー・ヒース、キャノンボール・アダレイ、フランク・モーガン、チェット・ベイカー・・・ビリー・ホリディと同じものに溺れたハードバッパーたちが残す”Easy Living”の名演の数々を聴くと、ハードバップの高揚感と背中合わせになる、壮絶な”Easy Living”が聞えてきます。
ビリー・ホリディ解説本には、後期ビリー・ホリディの歌詞対訳を掲載しています。機会があればどうぞご一読を!