翻訳ノート〈スモーキン・イン・シアトル – ライヴ・アット・ザ・ペントハウス 1966〉

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  4月29日発売以来、ウェス・モンゴメリー&ウィントン・ケリー・トリオが遺した歴史的未発表音源、〈Smokin’ in Seattle Live at the Penthouse〉(Resonance/ キングインターナショナル)が、米国のみならず、各方面で大きな話題を呼んでいます。

 ジャズギターの金字塔アルバム〈Smokin’ at the Half Note〉の僅か7ヶ月後のライヴ録音、ウィントン・ケリーは体調不良で降板したポール・チェンバースに代り、ロン・マクルーアをレギュラー・ベーシストに起用し、ウェス・モンゴメリーと共に9週間のツアーに出ました。この録音はツアー開始後まもなく、シアトルにあった人気ジャズ・クラブ《ペントハウス》から生中継されたラジオ音源を、世界の発掘男と呼ばれる名プロデューサー、ゼヴ・フェルドマンが熱血手腕によってアルバム化したものです。ウィントン・ケリー・トリオ、ウェス・モンゴメリー共に絶好調、理屈抜きにジャズの楽しさとが伝わってきて、’66年の西海岸にタイムトリップしてラジオを聴いているような気持ちになります。

 日本盤に付いている、原田和典さん書き下ろしの、とても判りやすくて興味深いライナーノートは必読! 
 そして《Resonance》の専売特許である貴重写真と豊富な資料の付録ブックレットの日本語訳は、CDに付いている応募ハガキを送るともれなく返送されるという楽しい趣向になっています。日本語版のスペシャル・ブックレットは同時リリースされて、これまた大ヒットを記録しているジャコ・パストリアスのNYでの歴史的コンサートのライヴ盤〈Truth, Liberty & Soul〉の付録資料とペアになっています。

 〈Smokin’ in Seattle Live at the Penthouse〉のブックレット資料翻訳は、不肖私が担当しました。現存する参加ミュージシャン、ジミー・コブ(ds)とロン・マクルーア(b)の証言、ケニー・バロン(p)によるウィントン・ケリー論、パット・メセニーのウェス・モンゴメリー礼賛文などなど、ジャズ史に興味ある者なら、あっと驚く秘話の宝庫。そして、メセニーのまっしぐらなウェス愛にすごく共感しました!翻訳中、マクルーアさんから、色々なお話を伺うこともでき、私にとって一層光栄な仕事になりました。公民権法が制定されたとはいえ、この当時、黒人であるウィントン・ケリーが白人ベーシストであるロンさんを起用すること自体が、大英断であったそうです。

511FHBodjqL._SY355_.jpg〈Truth, Liberty & Soul〉の翻訳は『ジョン・コルトレーン「至上の愛」の真実』や『マイルス・デイヴィス「カインド・オブ・ブルー」創作術』などのアシュリー・カーンの著作を初め錚々たるジャズ・ブックのベストセラーを手がけてこられたプロ中のプロ、川嶋文丸さんが担当されました。充実した内容もさることながら、翻訳のペエペエにとって、すごく勉強になりました!

 現在のジャズの世界で、異例ともいえる日本語版スペシャル・ブックレットの実現は、キングインターナショナルの敏腕A&Rディレクター、関口滋子さんの熱意によるものでした。関口さんの盟友である《Resonance》の名物プロデューサー、ゼヴ・フェルドマン氏が集めたジャズの貴重な歴史証言の数々を、「一人でも多くの日本のリスナーと共有したい!」という思いに駆られ、編集、制作をやってのけたのだそうです。「インターネットで気軽に何でも調べられるように思える時代でも、知り得ることのできなかった真実、関係者が語ったからこそ伝わる浮かび上がるドラマ。それらを一つの作品として、ポリシーを以って伝えようとするゼヴ・フェルドマン氏の仕事は、多少の困難があってでも、きっちり伝えて行きたい!」とおっしゃっています。 

  ゼヴさんがその仕事ぶりを絶賛してやまない関口ディレクターは、おっちょこちょいの私とはまるっきり対照的な女性といえるでしょう。普段は知的で物静かですが、仕事モードになると強力なパワーを発揮します。少女のように華奢で小柄な彼女のどこにこれほどのエナジーが秘められているかは不明ですが、面白い小冊子が出来あがりました。〈Smokin’ in Seattle Live at the Penthouse〉〈Truth, Liberty & Soul〉-2017年出荷分のどちらのアルバムにも梱包されている応募ハガキを送るともれなくもらえるそうです。発売後1ヶ月あまり、予想を遥かに越える応募ハガキが毎日どっさり届き、嬉しい悲鳴を挙げておられるようです。

 ジャズの現場に立ち会った人々の生々しい証言は、音楽の感動に新たな彩りを添えてくれます。興味の尽きないジャズ史の断片が垣間見えるブックレット、ぜひ読んでみてくださいね!(了)

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GW38周年記念ライヴ日記

 0503IMG_6778.JPG OverSeasは今月で開店38周年を迎えることが出来ました。これも一重に、今までご愛顧くださったお客様のおかげ、感謝の言葉もありません。本当にありがとうございました。

 38周年を記念して、大型連休中に4夜連続の特別ライヴを開催しました。

a0107397_434629.jpg 初日、5月3日中井幸一(tb)セクステット!トミー・フラナガン参加のJ.J.ジョンソンのグループが遺した名演目の数々、そしてカーティス・フラー&ベニー・ゴルソン・クインテットの名盤『Blues-Ette』に収録された名曲を、中井さん(左写真、左)とテナーの中務敦彦さん(左写真、右)の名コンビに、浪速のケニー・バレル=末宗俊郎さん(上写真、右端)のギターが一枚加わり、寺井尚之メインステム(宮本在浩 bass 菅一平 drums)ががっちりとリズムセクションを固めるという豪華なメンバーで演奏する趣向。トロンボーン奏者だけでなく、編曲家としても定評のある中井幸一書き下ろしアレンジの魅力と6名のプレイヤー達のアドリブ力が十二分に発揮された演奏になりました。

 この日聴きに来てくださったジャズ評論家、後藤誠氏の論評も素晴らしいものでした。

「50年代を代表する2大バンド、すなわちJ.J.Johnson-Bobby Jasper-Tommy FlanaganのクインテットとCurtis Fuller-Benny Golson-Tommy Flanaganのクインテットがレコードに残した名曲・名演を、絶妙のアンサンブルと切り詰めた構成で見事に再現した。」:後藤誠のジャズ研究室より

0504DSCN0017.JPG 5月4日  はベテラン・テナー奏者、荒崎英一郎さん(左写真)が、寺井尚之メインステム(宮本在浩 bass 菅一平 drums)をバックに、ワンホーンでハードにブロウするセッション。「38周年記念」ということで、普段とは全く違うプログラム、チャールズ・ミンガスの〈Boogie Stop Shuffle〉や〈Goodbye Porkpie Hat〉それに寺井尚之がまず演らないウェイン・ショーターの曲〈Night Dreamer〉!荒崎さんのプログラムを、しっかりとリハーサルして、カルテットで聴き応えのあるプレイを繰り広げました。

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 5月5日は、アルト奏者、岩田江さんとメインステムとの一大ビバップ・セッション、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーのバップ・チューンが次から次へ、メインステムの好サポートで岩田江の伸びのある美しい音色が、一層輝きを増しました。

 寺井尚之も愛奏するディジーの〈Con Alma〉や〈エンブレいさブル・ユー〉も、岩田さんのヴァージョンになると、また違い色合いになり、常連様たちは、聴き比べがとても楽しかったようです。

 初めて岩田さんのサウンドを生で聴いたお客様は、その美しさに驚いたようです。

0506DSCN0063.JPG 最終日5月6日は、寺井尚之メインステム(宮本在浩 bass 菅一平 drums)のスタンダード集、日頃はデトロイト・ハードバップ一筋の硬派ピアノ・トリオが、連休中だけ披露する〈セント・ルイス・ブルース〉や〈スターダスト〉など鉄板スタンダードのオンパレード!

 寺井尚之が定番曲の手垢を落とし、長年演奏され続けるスタンダード曲へのリスペクト溢れる、豪快なアレンジが揃いました。中でも聴きものは、寺井尚之がトニー・ベネットやナットキング・コールなどの名シンガーの歌唱をピアノでモノマネする〈As Time Goes By〉、キーやリズムがどんどん変わって、”なるほど~!”という決まりの節回しやビブラートがピアノで再現されるピアノ声帯模写、お客様のみならず、トリオのメンバーたちまでニンマリ!最後はエラ・フィッツジェラルド+トミー・フラナガン・コラボのパンチの聴いた転調で、楽しいGWライヴの幕が閉じました。

 私にとってもこの四日間の特別ライブは、リハーサルも含めて、本当に色々と学ぶところが多かった。 料理も音楽も、良い素材と丁寧な下ごしらえがあってこそ、技量が光る!と勝手に納得。特別なライヴに相応しい、特別なプログラムを持ち寄って、バンドとしてまとまりのあるライヴにしてくださった中井幸一、荒崎英一郎、岩田江のリーダー達には、惜しみない拍手と心からの感謝を捧げます。

 そしてメインステムのメンバー達、今回の出演者の平均年齢を下げていた、宮本在浩(b)、菅一平(ds)のリズムチ―ムは、ベテランたちに精気を吸い取られることなく、毎夜パワー炸裂で素晴らしかった!
 
 最後に、ご来店いただき、演奏を楽しみ、応援して下さった皆様に感謝、感謝。

 これからも皆で頑張って、次のアニバーサリーを一緒にお祝いできますように! 

 本当にありがとうございました!