去る11月17日に33回目となるトミー・フラナガンへの追悼コンサートを行いました。
生前のトミー・フラナガンの名演目をメドレーを含め20曲余り、寺井尚之(p)寺井尚之メインステム・トリオ(宮本在浩 bass 菅一平 drums)が演奏しました。
トミー・フラナガン・トリビュートは「フラナガンが築いた伝統を、習ったとおりにやる」コンサート、それは寺井尚之の生き方の表現なのかもしれません。
フラナガンが亡くなって早17年、フラナガンを師匠と仰ぐ寺井尚之も66才になり、こんな風に挨拶していました。
寺井尚之:「よう新聞で永代供養の広告を見ますけれども、あれは永久やのうて20年やそうです。トリビュート・コンサートは今回で17年目、そやから僕もあと3年はがんばろうと思てます。ありがとうございました。」
今回も大勢お越しいただき感謝あるのみです!
次回のトリビュートは2019年3月16日(土)、トミー・フラナガンの誕生日に予定しています。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
以下は、トリビュートで演奏したフラナガンの名演目の説明です。写真は「トミー・フラナガンの足跡を辿る」でおなじみの後藤誠先生です。後藤先生ありがとうございました。
1.Bitty Ditty(Thad Jones) ビッティ・ディッティ |
サド・ジョーンズ (1923-1986) |
フラナガンが’50年代中盤のデトロイト時代から作曲者であるサド・ジョーンズと愛奏した作品。ヒップ・ホップの流行で、日本でもよく知られるようになった”エボニクス”(黒人英語)は、”Bad!”= “Good!”で逆説的になる。つまり”Bitty Ditty”(ちょっとした小唄)の本当の意味は「とても難しい曲」なのだ。 「サドの作品は、よほど弾きこまないと、本来あるべきかたちにならない。」-トミー・フラナガン談 |
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2. Out of the Past (Benny Golson) アウト・オブ・ザ・パスト | |
テナー奏者、ベニー・ゴルソンがハードボイルド映画のイメージで作曲したマイナー・ムードの作品。ゴルソンはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズや、自己セクステットで録音、フラナガンはゴルソンの盟友、アート・ファーマー(tp)のリーダー作『Art』で、後にリーダー作『Nights at the Vanguard』などで録音し、’80年代に自己トリオで愛奏した。 人気ジャズ・スタンダードが多いゴルソン作品の内では知名度は比較的低いものの、フラナガンがアレンジした左手のオブリガードが印象的で、OverSeasで大変人気がある曲。 |
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3. Rachel’s Rondo (Tommy Flanagan) レイチェルズ・ロンド | |
フラナガンが美貌で有名な長女レイチェルに捧げたオリジナル曲。明るい躍動感に溢れる曲想は美貌の長女に相応しい。トミー・フラナガンはレッド・ミッチェル(b)エルヴィン・ジョーンズ(ds)とのアルバム『Super Session』の録音が唯一遺されている。恐らく現在愛奏する者は寺井尚之だけかもしれない。 | |
4.メドレー: Embraceable You(Ira& George Gershwin) ~Quasimodo(Charlie Parker) エンブレイサブル・ユー~カジモド |
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トミー・フラナガンを語る時、「メドレー」の素晴らしさははずせない。近年の調査から、「メドレー」は、戦後から’50年代前半のデトロイトで盛んに演奏された形態だったことが判る。 〈エンブレイサブル・ユー(抱きしめたくなる魅力的なあなた)〉というガーシュインのバラードの進行を基に作ったBeBop作品に、チャーリー・パーカーは、原曲とは真逆の醜い”ノートルダムのせむし男”の名前〈カシモド〉と名付けた。〈カシモド〉はいわれなき差別を受ける黒人のメタファーであったのかもしれない。だが、ヴィクトル・ユーゴーの原作では、カシモドは密かに愛する美貌のジプシーの踊り子と天国で結ばれることになるのだ。フラナガンは、この2曲を組み合わせたメドレーで、深く感動的な物語を語ったのだ。 *関連ブログ |
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5. Good Morning Heartache (Irene Higginbotham) グッドモーニング・ハートエイク | |
フラナガンのアイドルであり、同時に音楽的に大きな影響をうけた不世出の歌手ビリー・ホリディのヒット曲(’46)。フラナガンは「ビリー・ホリディを聴け!」と寺井尚之の顔を見るたびに言った。それから数十年、寺井のプレイはビリー・ホリディを彷彿とさせる。 | |
6. Minor Mishap (Tommy Flanagan) マイナー・ミスハップ | |
フラナガンがライブで最も愛奏したオリジナル曲のひとつで、曲の語意は、「ささやかなアクシデント」だ。その曲名の由来は、初収録した『Cats』(’57)での演奏の出来栄えに隠されたほろ苦い顛末にある。 | |
7. Dalarna (Tommy Flanagan) ダラーナ | |
『Overseas』に収録された幻想的な作品で、厳しい転調をさりげなく用いることによって洗練された美を湛える初期の名品。フラナガンが心酔したビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。ダラーナは『Overseas』が録音されたストックホルムから列車で3時間余り離れたスウエーデン屈指のリゾート地。 『Overseas』に録音後、フラナガンは長年演奏することがなかった曲だが、寺井尚之のCD『ダラーナ』に触発されたフラナガンは、寺井のアレンジを用い『Sea Changes』(’96)に再録した。「ダラーナを録音したぞ!」とフラナガンが弾んだ声で電話をかけてきたのが寺井の大切な思い出だ。 |
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8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller Dizzy Gillespie) ティン・ティン・デオ |
ディジー・ガレスピー |
第一部のクロージングは、ディジー・ガレスピーが開拓したアフロ・キューバン・ジャズの代表曲。この曲のように、ビッグバンドの演目を、ピアノ・トリオでさらにダイナミックに表現するのがフラナガン流。 現在はメインステム・トリオの十八番でもある。 |
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis) ザット・タイアード・ルーティーン・コールド・ラヴ |
マット・デニス |
作曲者マット・デニスは、フランク・シナトラのヒット曲を数多く作曲、自らも弾き語りの名手として活躍した。JJジョンソンは、’55年、セレブ御用達のナイト・クラブ”チ・チ”でデニスと共演後、この曲を《First Place》に収録、ピアニストはフラナガンだった。自然に口づさめるメロディーだが転調が頻繁にある難曲で、そのあたりがバッパー好みだ。それから30年後、フラナガンは自己トリオで名盤《Jazz Poet》(’89)に収録。その際、「私以外にこの曲を演奏するプレイヤーはいない。」と語った。録音後もライブで愛奏を続け、数年後には録音ヴァージョンを凌ぐアレンジが完成させた。トリビュート・コンサートでは、寺井尚之が受け継ぐ完成形で演奏する。 | |
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron) スムーズ・アズ・ザ・ウィンド |
smooth |
一編の詩のような曲の展開、吹き去る風のようなエンディングまで、文字通りそよ風のように爽やかな名曲。 ビバップの創始者の一人、タッド・ダメロン(ピアニスト、作編曲家)の耽美的な作品をフラナガンはこよなく愛した。〈スムーズ・アズ・ザ・ウィンド〉曲は、麻薬刑務所に服役中のダメロンがブルー・ミッチェル(tp)のアルバム「Smooth As the Wind」の為に書き下ろした作品で、アルバムにはフラナガンも参加している。 「ダメロンの作品には、オーケストラが内包されているから、弾きやすい。」-トミー・フラナガン |
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3. When Lights Are Low (Benny Carter) ホエン・ライツ・アー・ロウ |
ベニー・カーター |
フラナガンが子供の頃に親しんだベニー・カーター(as.tp.comp.arr)のヒット作。フラナガンは ’80年代終りにカーネギー・ホールでカーターの特別コンサートに出演している。尊敬するカーターに選ばれたことを意気に感じたフラナガンは、この曲を盛んに演奏、今夜のように<ボタンとリボン>を引用して楽しさを盛り上げた。 |