Tommy Flanagan 2000年5月31日(水)〜6月3日(土)
by 寺井尚之
昨年の秋から体調が悪く、仕事をずっとキャンセルしていたトミー・フラナガン。てっきり今回のBlue
Noteも無理だと思っていたら、4月の終わりに電話が入り、「必ず行く」とのこと。5月24日にOverSeasにやって来たモンティ・アレキサンダーによれば、トミーの調子はかなり悪く、モンティもダイアナも無理しないように言ったが、本人が行くと言ってきかないとのことで、私もイヤな予感がしていた。昨年からジョージ・ムラーツやサー・ローランド・ハナからトミーは危ないと聞かされて心配していたので、電話の時も無理に元気ぶっていると感じ、さらに今回はダイアナも一緒に来るというのを聞いて、やはり良くないなと思っていた。
今回はBlue Noteだし、ウチではコンサートはできないし、昼に食事にでも来るぐらいやなと思っていたら、何と前々日の5月30日(火)に大阪入り(体調を考えてのことだろうが)。そして前日の5月31日(水)はOFFで、夜には急に、ウチに食事がてら私の演奏を聴きに来ることになった。正直、少々あわてたけど、私も寺井尚之、策がないわけではない。しかしながら、初めてでもなし、何度もこういう機会があったとはいえ、やはり平常心ではいられなかった。
初めてトミー・フラナガンの前で演奏した時は、何もできなかった。徐々に馴れてきたとはいえ、トミーは演奏が始まると、食事の手を止め、ジーッと凝視する。“気”がビシビシと自分の方へ突き刺さってくる。いつものようにトミー・フラナガンのオリジナル曲と、トミーがたぶん、私がまだネタにしていないだろうと思っている曲を並べた。案の定、"Black And Tan Fantasy"を演ると、「いつ調べたんだ?テープに録ったのか?」と訊いてきた。「いや、エリントンのを調べて工夫しただけです」ととぼけると、「そうか、すごくBeautifulだった」と珍しく褒めてくれた。またイヤな予感。絶対褒めない人がこんなことを言うと気持ちが悪い。
トミーは前回より顔色も良く、ちょっと体調もましになったとは思えたが、今回はマクロ・バイオテック療法とかで食事には塩は一切なし、酒もなし。最後のセットに呼び出して弾いてもらっていいかどうか迷っていると、本人はご機嫌で「演る」と言ってくれた。いつもの通り、ピアノの上に私の曲順メモをわざと残し、トミーを呼び出す。元気な時なら私のメモを見て、次の曲をそのまま演るところ。今回なら"Our Delight"か"Tin
Tin Deo"、これをこのまま演れば体調良し、ところがトミーが演ったのはミディアムテンポの"How High The Moon"。しかも少々指が回らない。長いブランクのためか?体調が悪くて瞬発力が鈍っているのか?前者なら少し時間が経てば大丈夫やけど、後者ならもう前みたいにはもどらないと心配した。
5月31日(水)OverSeasに寺井の演奏を聴きに来て、
ラストに1曲弾いてくれたトミー・フラナガン。
曲はミディアムテンポの"How HighThe Moon"。
その指先を食い入るように見つめる寺井。
6月1日(木)夜、Blue Noteへ聴きに行ってきた宗竹から電話が入る。「ヤバイっすよ。全然指回ってない、"Mean Streets"のソロでけへん、"Tin
Tin Deo"うら返った」・・・悲しい。話を聞いていると、ブランクよりも体調の問題みたいだ。
6月2日(金)、同じく聴きに行った山口さんから、すごく元気がなかったと聞かされる。家に帰って、もう弾けなかったら弾かなくてもいい、ただ生きてさえいてくれたら、と思う。座っているだけで自分にプレッシャーをかけられるのは彼だけなんやから。そのことに感謝しなければならないと覚悟を決める。
6月3日(土)、いよいよ自分で聴きに行く。曲順は次の通り。
<1st>
1. Ladybird
2. All The Things You Are
3. The Intimacy Of The Blues
4. Raincheck
5. Peace
6. Cherokee
7. Night And Day 〜 Dancing In The Dark
8. Sunset And The Mockingbird
9. Hackensack
10. Beyond The Bluebird
11. Let's
<2nd>
1. Bird Song
2. With Malice Towards None
3. Cup Bearers
4. A Child Is Born
5. Strictly Confidencial
6. I'll Keep Loving You 〜 Too Late Now
7. Sea Changes
8. Ruby My Dear 〜 Epistrophy
トミーはいつも前日に私が演った曲は絶対演らない。やはりすべて違う曲で来た。1曲目、2曲目と安全パイの曲で来る。やはり不安なのか?しかし内容は良い。1日、2日に聞かされた話と違う。3曲目、"The Intimacy Of The Blues"、来た!私にはできない曲で攻めてくる。すごい気合が伝わってくる。次の"Raincheck"、この曲はハード、体調が悪い時にできる曲ではない。だいぶんテンポを落としたが、やはり少し無理があるようで、この日の中で唯一の悪い出来。
久しぶりに"Peace"を演り、"Cherokee"へ。調子が上がる。ここで"Night And Day 〜 Dancing In The Dark"、これは絶品!彼ならではの気品。続いての"Sunset And The Mockingbird"は完ペキ、思わず体調を忘れた。"Hackensack"を元気よく仕上げ、"Beyond
The Bluebird"はすこぶる渋い。自分でもいけると踏んでの"Let's"が見事に決まる。4、8、10、11を除き、私が演っていないだろうとレパートリーを組んだみたいやけど、"Dancing In The Dark"以外はもう全部ネタにしてある。
楽屋で私に「ピアノのサウンド、どうだ?」と聞くので、「調律がめちゃくちゃ。どないなってまんねん?」と言うと、「初日にしか調律しないんだ」とのこと。他店のことやけど、考えられない。今回も去年のように体が悪いのに張り切りすぎるといけないから、1stセットだけで帰らないかんかなと思っていたら、すごく良さそうなので残ることにする。トミーも私たちが残ると聞いて大喜び。しかし、ほんとに師匠が病気で無理してると気をつかう。
2ndセットに入り、31日(水)の曲が効いてくる。おかげで"With Malice Towards None"が、"Strictly
Confidencial"が、"I'll Keep Loving You"が、"Ruby
My Dear"が聴けた。確かに、絶好調時に比べれば、指ははっきり言って回らない。しかし、1日、2日に話に聞いていたようなことにはならない。曲に向かう集中力のすごさが、今回は今まで以上にすごかった。渾身の気力を振り絞り、ピアノに向かう姿勢に感動した。目を見開き、後頭部に血管が浮く。きっと元のように元気になってくれると思う。
[2000年6月5日(月)]
[追 記]
昨夜、弟子の伊藤が来て、「6月1日(木)に聴きに行ったけど、すごく良かった」と言っていた。宗竹の話と違うなと思っていたら、「CDみたいじゃないけど、でも良かった」と言う。二流のプレイヤーはCDの方がええもんやけど、トミー・フラナガンのような超一流は常にLiveの方がもっともっとええもんや。聴くレベルが低い(でもバレんで良かった)。今回、自分が聴いた6月3日(土)は、良い時に比べれば50%。しかし、深い感動を与えるのは同じ。自分もあのレベルに少しでも近づきたいと思う。
[2000年6月6日(火)]
[追 記2]
コンサート終了後、お客さんが続々とサインをもらいに並んでいる。その中には私の弟子もたくさんいる。トミーも疲れているが、全員にサインをしていた。「お前、何人弟子がいるんだ?」と私に手を差し出す。上納金を寄こせという彼らしいジョーク。でも考えてみたら、花でも習字でも、ヤクザでも上納金のシステムがある。これはええことです。これをすればトミーもゆっくり楽に休める。上納金払おうかな。でもそれにはレッスン代を値上げせないかん。生徒の皆さんも賛成かな?
[2000年6月6日(火)]
店から電話で呼ばれてきた常連さんや寺井のピアノの生徒もいれば、
何も知らず偶然店にやってきた超ラッキーなお客さんも・・・。
特別編その2
OverSeasファンが見たトミー・フラナガン
6月1日のライブレポート
投稿日 6月2日(金)00時18分 投稿者
2回目のこ・ひらた?
わくわく、どきどき、Tommy Flanagan
trio のライブに行きました。えっ?はっ、うっ、ああっ、わあ〜〜〜、な、な、な、な〜んてきれいなんだろう!!!じ〜ん、じ〜ん・・・これが、これこそがピアノトリオなのね。幸せです。こんなすごいライブにおめにかかれるのは30分の1くらいの確立かもしれません。絶対聴き逃したら後悔します。 Blue Note行かれる方期待以上ですよ
投稿日 6月2日(金)01時20分 投稿者
Tak
6/1僕もBlueNote行ってきました。幸運にも入れ換えなしだったのでたっぷり聞くことができました。1stはど真ん中の一番前、2ndは真横から。Tommy
Flanaganは言うに及ばず、Peter Washington(B)、Kenny Washington(Dr)も素晴らしい!完璧なピアノトリオでした!明日以降行かれる方々、期待以上である事を請け負います。楽しんで来て下さい! フラナガニアを意識か!
投稿日 6月2日(金)02時18分 投稿者 motodora-akai
トミー・フラナガン・トリオ見てきました。1st、2ndとも選曲は、いつもオヴァ−シーズで聴いている曲が大半。意図的にそうしたとしか考えられない、と管理人さんと帰りに話してたんです。Tin Tin Deo,Our Delight,Black and Tan・・・等。With Malice・・・・のイントロでは鳥肌・・・2ndでトリオも本調子。ケニ−・ワシントンのブラッシングもいい音を出してました。ピーター・ワシントンのベースにかんしては、私の好みは宗竹さんの方が乗りもいいし、音色も美しいと思っていますが・・・・・・・・・・宗竹さあ――ん とっても期待
投稿日 6月2日(金)23時06分 投稿者 miki
こんばんは。非常に陽気な私です。
明日は、フラナガンさんの・・・に行きます。とっても楽しみで、頭はルンルンしています。行かれた方皆さんの感想を見るととっても、楽しみです。
先日のモンティーさんも、とっても良かったです。とっても力強い中に、思いやりのあるメロディだなって思いました。即、ファンになってしまいました。三村さん、あの時のCD入るといいですね。って、ちょっと遅い感想文ですが、熱があっても行ってよかったって、思いました。
それから、トミー・フラナガン愛好会広島支部の皆さんがんばってください。
広島出身の私は、広島時代にお知り合いになりたかったなあ。。。なんて思います かんどーです!
投稿日 6月3日(土)23時55分 投稿者 海松
6月1日BLUE NOTE へ行って来ました。かんどーです。本当に素晴らしかったです。フラナガン師匠の後ろの方の座席を陣取ったのですが、左手の動きが良く見えて、聴いても見ても神業でした。(右手も見たかったなぁ…)
SEA CHANGES,BEYOND THE BLUEBIRD,LIZA,OUR DELIGHT などあの曲もこの曲も目白押し状態。今もまだ余韻が残っています。
管理人さん、Mくん、ど真中の一番前にいらっしゃったので、さすがOVER SEAS関係者は意気込みが違う!と感心。私も見習います…。(…ちゃっかりサインを頂きました。スミマセン。ウフフッ宝物です!!)
10日の講座がいつも以上に楽しみです! 寺井さん太鼓判
投稿日 6月3日(土)23時32分 投稿者 管理人
管理人です。
今日もブルーノートにトミー・フラナガン様を聴きに行ってきました。
今日は2部だけ見たんですが、まるでOverSeasに来ているのかと思うほど知った顔だらけなのは木曜日と同じ。最前列のテーブルに座っていたのは、寺井さん夫婦とお母さん、児玉さん、熊本のジャニスのマスター白坂さん、寺井さんの生徒の松本君、TAKAさん、通りすがりさん、MIYAさん、そして僕など。他にもダラーナさんご夫妻、カリスマ三村さんと朝日放送アナウンサーの西野さん、名古屋から毎回ジャズ講座に来られているうら若き女性2人etc.etc...mikiさんのお姿は拝見しませんでしたが、1部に行かれたのでしょうか?
ずっと体調不良だったフラナガンさんをよく知るだけに「1部を見てしんどそうにしたはったら、辛いから2部は見んと帰る」と前から言っていた寺井さん達も、しっかり残っておられたので、さぞ1部も良かったんでしょう。帰り道で寺井さんが「まだまだ、あれやったら大丈夫や」とうれしそうにしておられました。これで来週のジャズ講座がますます楽しみになりましたね! With Malice Towards None
投稿日 6月3日(土)23時42分 投稿者 管理人
続きです。
今日も「With Malice Towards None」に一番感動したんですが、「次はトム・マッキントッシュの"With
Malice...."」とフラナガンさんがコールされた時、ワーッと拍手したのが見事にOverSeasのブラザー&シスターだけだったのが誇らしかったのでした。たぶん僕が今までOverSeasで一番数多く聴いているのがこの曲だと思いますが、やはり師匠の貫禄はすごいですね!木曜日に続いて本当に本当に本当に感動しました。 楽しかった〜!
投稿日 6月4日(日)01時24分 投稿者 MIYA
今日(ってもう昨日?)Blue Noteへ行ってきました。フラナガンの演奏を目の前で聴くのは今日が初めて。最高によかったです。あの強弱の付け方がほんと、貫禄ですね。いろんな人から体調のことをいろいろ聞いてたのですが、まだまだ!
ぜひ来年も大阪にきてほしいです。
それはそうと、かぶりつきで見てたんですが、めっちゃ指長いですね。2オクターブくらい届きそう・・・(ってそれはないか。) TF絶好調!涙、涙!
投稿日 6月4日(日)01時54分 投稿者 寺井珠重
大阪のある有名ライブハウスに行きました。うちのお得意様総勢20余名。どないなってんねん?でもOverSeasが一番敬愛するお方のLIVE、仕方ありません。演奏は絶好調。皆さん盛り上げてくださってトミーに成り代わりましてTHANK YOU!
で、LIVEの所見は寺井自らいずれお話する、とのこと。だから今は言いません。
とにかくTF復活万歳!NYに行く人は6月21日からJAZZ STANDARDという店にTF3出演しますので、行ってね。 トミー・フラナガンのLIVEで感激
投稿日 6月4日(日)11時50分 投稿者 児玉勝利
昨日のトミー・フラナガンのLIVE、本当に感激させられました。水曜日にオーバーシーズで見たトミー・フラナガンは何だかやつれたようで生気が余り感じられなかった。だから昨日のLIVEも心配していた。でも、昨日は別人のように活き活きしていた。特にRaincheck、そしCherokeeを演奏してくれたことで喜びも倍増。Raincheckではピアノソロだけでなく、ケニー・ワシントンのブラシュワークとの掛け合いにぞくぞくさせられた。また、Cherokeeは通常よりいくらかスローなテンポだと思うが、ピアノのじっくりと聴かせてくれるソロ、そしてパワー溢れるドラムに感激。ラストはLet'sでKOされてしまった。
僕は当初1部だけのつもりだったが、これだけの演奏をされては2部も聴かない訳にはいかない。ここで、悔やまれたのがサックスを手荷物預かりに預けてきたこと。ここは制限時間いっぱいまで2部を聴くことに決断。2部でもトミー・フラナガンの好調は変わらない。With
Malice Towards Noneの前奏はすばらしかったな。でも、僕は結局Epistorophyの途中でタイムアップ。最後まで聴きたかったな。 ドキンちゃん
投稿日 6月4日(日)12時39分 投稿者 miki
昨晩のライブは1部にお邪魔させていただきました。木曜日が入れ替えなかったそうで、ありえないとは思いながら2部も居座れたらって最後までうだうだしてました。(感想なんておこがましいと思いながらも)こういうのが洗練されたって言うのか、すごくさらっと心に入り込むメロディって言うか、無駄のない気負わなくていいって言うか、すごい感動です。日本語難しい。
小学生並な心臓でドキドキ、CDにサインして頂き、思わず奥様に握手を求めた私なのでした。だって、女性の感想として、やはりいつもそばにいて支えていらっしゃる方がすばらしいからだと思うのでした。これからも支えてほしいと、そしていっぱい聞きたいのです。だから、私は珠重さんも尊敬しているのでした。
それにしても英会話できない自分に悔じぃぃぃ
フラナガン(6/8 2nd Set)
6月9日2時38分 OverSeasに届いたメールより 投稿者
さしだ
いま フラナガンのライヴから帰ってきたところです。
本当は掲示板に書き込めればいいのですがパソコンの調子がいまひとつなので少し長くなりますがメールにて失礼させていただきます。
簡単に感想を言うとまさしく「大復活!」といった感じでした。曲目も前回のマイナー(Key)曲攻めからうってかわってフラナガン愛奏曲集といった感じでした。
1. CON MAN
2. ALL THE THINGS YOU ARE
3. ? すみません わかりませんでした スローの曲
4. CUP BEARERS
5. IF YOU COULD SEE ME NOW
6. SCRATCH
7. (DANCING IN THE DARK/SO IN LOVE)かな ? すみません
8. ELLINGTON MEDLEY
/INTIMACY OF THE BLUES
/PRELUDE TO A KISS
/CHELSEA BRIDGE
9. LET'S
なんと アンコール!
10. LIKE OLD TIMES
1曲目からトミーフラナガン節全開でした。10曲以上も演ってもらえると思っていなかったので本当に感激しました。しかも密度たっぷり。雨が降っていたので(多分)「シェルブールの雨傘」の引用なんかもありましたエリントンの THINGS
AIN'T WHAT THEY USED...が何度も引用されたのは 何か意味があったのでしょうか。スクラッチでの「だったん人の踊り」もぴったりはまっていました。
カップベアラーズ、コンマン、スクラッチ、インティマシー・オブ・ザ・ブルース、レッツ等などのテーマ部のキメも本当にかっこ良かった!そして
最後にベースをねかして ステージを降りようとするピーターににこっと笑って もう一曲やろうといってはじめたライク・オールド・タイムス!
本当に 楽しめた1時間半でした!
ちょっと残念だったのはIF YOU COULDの2ndリフに入ってからのベースの例のフィルインが
なかったのと、Cup.〜などの2beatの部分でしょうか(どっちも出来へんおまえがいうな!)すみませんm(_ _)m
ということで 大変感動しましたのでご報告まで 特別編その3 あの夜の寺井尚之
投稿日 6月11日(日)00時45分
投稿者 管理人
今だから話せますが、5月31日(水)、OverSeasにトミー・フラナガン夫妻がやってきた夜の1stセットでの、1曲目と2曲目の寺井さんの演奏は、それはそれはひどいものでした。「今からタクシーでそっちへ向かう」とフラナガン夫妻より店に電話があったのが午後6時45分頃だったでしょうか。7時に1stセットが始まったものの、寺井さんたら、もうほとんど窓の外を見っぱなしで、まったく気もそぞろな演奏でした。
それで1曲目が終わった時に僕が「寺井さん、窓の外ばっかり見て、まったく身が入ってませんやん」と言うと、寺井さんはマイクを持ったまま「いや、来やはったら曲を変えやなあかんと思て・・・」。曲名は忘れましたが、今回フラナガントリオと一緒に来日する予定だったフィル・ウッズの曲だったと思います。
そして7時16分、ついにフラナガン夫妻の乗ったタクシーが店の前に到着すると、寺井さんはピアノを弾いたまま珠重さんの方を振り返り、「おい、タクシー代払えよ」。まったく客をナメてましたが、僕ら客も演奏なんか全然聴いてませんでした(笑)。
そしてドアが開き、店にフラナガンさんが入ってきた瞬間、僕はBNで聴いたどの演奏よりも鳥肌が立ち、目には涙が溢れてきました。
その後の演奏は気合い十分。本来なら寺井&宗竹DUOの日でしたが、河原さん、松田さんも来て、1st
setは松田さんがドラムに入ってのトリオ、2nd setはほとんど河原さんが入ってのフラ
ナガニアトリオでした。ここで披露した曲を次の日、フラナガンさんがBNでオンパレードしてくれたのも最高にうれしかったです。でも、師匠の前での寺井さんの演奏は、やはりいつもよりだいぶ固いと感じました。
そして最後に1曲弾いてくれることなったフラナガンさんは、マイクを持ってこう言いました。
"Hisayuki has everything
I know, .........nothing left."
"No!"
と大きくかぶりを振る寺井さん。やがてフラナガンさん、宗竹さん、河原さんのトリオでミディアム・テンポの"How
High The Moon"が始まりました。
大雨の夜の出来事でした。幸せな、本当に幸せな夜でした。 特別編その4 NY特派員緊急報告
投稿日 7月3日(月)12時24分 投稿者
YAS竹田
「アルバート・”トゥティ”・ヒース、トミー・フラナガン・トリオに加入!」と、もう言ってしまって良いでしょう(
寺井さんは4月の段階で知っていたらしい)。彼らが出演したクラブ「JAZZ STANDARD」のプログラムにも"The
new Tommy Flanagan Trio"と書いてあります。アート・テイラー以来の大物ドラマーの参加で、トリオの音楽がどう変わっていくのかとても楽しみです。
私が観た25日の1stセットは「Mr.PC」で始まりました。続いて「More
Than You Know」をバースからゆったりと歌い上げます。久しぶりに見るフラナガンはかなり痩せていましたが、顔色は割と良く演奏の調子もまずまず。と思っていると次の「The
Balanced Scales/Cup Bearers」のメドレー、特に「Cup Bearers」では最後まで弾ききれないフレーズが目立ちます。さすがにひっくり返ったりしませんが
、以前より少しテンポが遅いのは本調子ではない事を本人が知っているからでしょうか?しかしミディアム・テンポの「Between
The Devel & The Deep Blue Sea」は彼らしいとても愛らしい演奏で、会場からため息がもれました。この後「先日亡くなったアール・グレイに捧げます」とアナウンスして「Blueish
Grey」(サド・ジョーンズの曲らしい)を演奏。ブルージーにきめてくれました。
フラナガンはいつもイントロをルバートで弾きます。それを聞く時私はいつもドキドキします。メンバーはステージに上がるまで演奏する曲目を知らされておらず(多分本人もその場で考えている)、それを聞き逃すまいと神経を集中させているからです。(ムラーツはよくベースでコードを探っていた)。イントロと違う曲が始まる場合もありますが、それは作曲家が同じであるとか、あるミュージシャンに関係しているといった”〜つながり”です。ところが、ルバートで「The
Sunset and The Mockingbird」を弾いた後に突然始まったのは「Liza」。ピーター・ワシントンも「エリントンものだと思ったのに」と笑っていました。フラナガンのアイドル、アート・テイタムの超絶演奏で有名なこの曲では、ベースとドラムが大きくフィーチュアーされました。特にピーターのソロは素晴らしく、フラナガンも満足そうです。先週サンフランシスコでのツアーから加わったトゥティは、かなりリラックスした雰囲気。時々はみ出したりしていましたが、そこはベテランの余裕で笑ってごまかしていました。(ルイス・ナッシュはこういう時客席で判るぐらいひきつっていた)。1stセットということもありますが、仕掛けのある曲が少なく、歌ものが多かったのは、不慣れなトゥティへの配慮かもしれません。
生フラナガンを聞いた回数では寺井尚之に負けない竹田が見たところ、はっきり言って今回の演奏はなんとか平均点です。あきらかに頭の中で鳴っているフレーズを弾ききれず、フラナガン自身がフラストレーションを感じているのが判るからです。今後、指が動かなくなった分少ない音で勝負する、いわゆる”枯れた”ピアニストになっていくのか?それともあの華麗なタッチが甦るのか?体調の回復が何より望まれます。
NY特派員追加報告
投稿日 7月10日(月)13時05分 投稿者 YAS竹田
先日、一緒に仕事をしたミュージシャン達と雑談していた時、この前のトミー・フラナガン・トリオのライブの話になりました。そのうちの一人が「ロン・カーターはグレイトやった」と言い出しました。「ピーター・ワシントンの間違いやろ」と私が言うと「いやロン・カーターやった。そんなん間違えるわけない」(実際の会話は英語)。そいつがジャズ・スタンダード行った6月28日のベースを弾いていたのは、本当にロン・カーターだったらしい。これは見たかったなあ、なんて言うと「ナントカ・トリオ」ばっかり企画するプロデューサーの思う壺ですが、でもやっぱりこんなゴージャスなトリオを見逃したのは残念です。27日はピーター・ワシントンが弾いていたらしいので、恐らくこの日だけのトラだったと思われます。どういう事情だったのか、今度フラナガンと話す機会があったら訊いといてください、寺井さん。
特別編その5 NY特派員報告 トミー・フラナガン・トリオ
投稿日 9月21日(木)16時22分 投稿者 YAS竹田
アルバート・”トゥティ”・ヒースをレギュラー・ドラマーに迎えたトミー・フラナガン・トリオが9月5日〜10日と12日〜17日、「Villege Vanguard」に出演しました。ヴァンガードに必ず2週続けてブッキングされるのはこのトリオだけで、人気の高さがうかがわれます。
前回6月の「The Jazz Standerd」でのフラナガンはまだまだ”病み上がり”状態。好調時とはほど遠いもので、特にアップ・テンポでは指が回りきらず、顔をしかめる場面が何度か見られました。また新加入のトゥティもガッツの感じられないプレイで、正直に言うと少々がっかり。おかげで、ピーター・ワシントンのうまさだけが相対的に目立った、という印象でした。さて、今回は・・・・・。
私がチェックしたのは15日金曜日のセカンド・セットです。ピーター、トゥティに少し遅れて控え室から現れたフラナガンは、6月よりも足取りがしっかりして、顔色も良いようです。
いつものようにルバートでイントロを弾いてから始まったのは「Sea
Changes 」でした。2週連続のギグの疲れも感じさせず、小気味良くスウィングしています。ドラムとの4バースも見事に決まり、この時点で私はフラナガン復調を確信しました。自分のCDの宣伝をした後「え〜と、次に何をやろうと思っていたか忘れた。じゃあ〜、これをやりましょう」と始めたのが「Beyond
The Bluebird」。本人も言っていましたが、彼がオリジナルを1セットに2曲、それも続けて演奏するのは珍しい。それから今度は「Sleepin'
Bee」「Liza」とスタンダードが続きました。「Liza」は6月よりもさらにテンポが速くなり、フラナガンが体調に自信を取り戻しているのが判ります。
そして次は「Naima」「Mr.PC」とコルトレーン・メドレー。「Naima」はアルバムに入っているものの、ライヴではほとんど演奏されない珍しい選曲です。続く「The
Sunset And The Mockingbird」では、ペダルを多用した美しいプレイに会場からため息がもれました。
珍しい選曲と言えば、最後の曲となった「Night in
Tunisia」もそうです。バッパーの必修科目であるこの曲を、意外にも フラナガンはリーダーとしてもサイドマンとしても一度も録音していないはずです。フラナガン・トリオがライヴで演奏したのも、聴いた事がありません。力のこもった演奏にヴァンガードは大いに盛り上がりました。当然アンコールの声がかかりましたが、「あと2日やっているから、また来てください。」と言ってフラナガンはステージを降りてしまいました。でも私は大満足です。
この日何よりも素晴らしかったのは、トゥティのドラミング!特に「Liza」でのブラシ・ソロには鳥肌が立ちました。使用しているセットはいわゆる三点セットですが、スネア・ドラムが極端に小さく薄いのが目立ちます。2枚あるクラッシュ・シンバルのうち一枚はシズル付き。ヒース・ブラザーズではシェイカーやタンバリンなどの小物も使用していましたが、このトリオでは純正ビバップドラマーとして、三点セットだけで勝負しているようです。
ピーター・ワシントン本人によると彼のアイドルは、ダグ・ワトキンスという事になっています。確かに重いビートはワトキンスを彷彿とさせますが、実はこの人はその時に聴いているベーシストの影響がわりと素直に出てきます。日によってポール・チェンバースそっくりだったり、デイヴ・ホランド丸出しだったりして笑わせてくれます。この日はいつになくダブルストップを多用していたので、おそらくジミー・ギャリソンあたりをパクッていたのではないでしょうか?使用していたアンプはGK、ピックアップはREARISTでした。
この日の演奏は、フラナガン自身が不調を判っていながら出来る範囲でやろうとしていた6月とは、明らかに音楽のレベルが違っていました。これでもう少し”切れ”が戻れば十年前の状態になると思われます。体調がどれぐらい良いか悪いかは本人でなければ判りませんが、プレイを聴いた限りではトミー・フラナガン復活!と言える一日でした。
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