<ENCORE>

Ellingtonia エリントン・メドレー

1984年、OverSeasに於けるフラナガン・トリオ(アーサー・テイラー(ds)ジョージ・ムラーツ(b))の初コンサートで、寺井は初めてセロニアス・モンクとエリントンに捧げた2つのメドレーを聴き大きな衝撃を受ける。それは単に同じ作曲家の作品を順番に演奏するのでなく、作曲家達と作品に対する深い造詣と愛情、そしてそれを表現するテクニックを持つ者だけが創造できる壮大なスケールを持つ音楽作品だった。音楽史上燦然と輝くエリントン作品のメドレー、エリントニアは成熟したフラナガニアトリオが、皆さんに贈る大きな贈り物だ。
左デューク・エリントン一人於いて右ビリー・ストレイホーン
Lotus Blossom ロータス・ブロッサム/Billy Strayhorn
メドレーの幕開けロータス・ブロッサムは「睡蓮」の事。インド的な顔立ちから「ブッダ」と呼ばれたストレイホーンの作品、ピアニストとしてストレイホーン自ら愛奏した。ストレイホーンの死を悼みデューク・エリントン楽団が録音したアルバム<<And His Mother Called Him Bill>>の終りに、スタジオ録音終了後、テープが回っていると知らずデューク・エリントンが彼を想いながらソロで淡々と弾くこの曲が印象的だ。フラナガンも寺井尚之も録音はないけれど、今夜のコンサートに相応しい曲だ。

 

Chelsea Bridge チェルシーの橋/Billy Strayhorn
 フラナガンが《Overseas》('57)や、《Tokyo Ricital》('75)に録音している極めつけの名演目。ストレイホーンがホイッスラーの絵画に霊感を受け作曲したと言われている。ホイッスラーはヨーロッパ文化の影響を強く受けた世紀末の画家で、印象派的な作風はストレイホーンの音楽性と通じる。ロンドンのチェルシー地区とバターシー地区を繋ぐ「バターシー・ブリッジ」を描いた幻想的な作品が霊感の源であったのではないだろうか?橋下のテームズ河の流れと夜空、風の移り変わりを感じるサウンドは絵画同様、深く神秘的だ。
フラナガン参加の他名義のアルバムには《The Master》Pepper Adams('80)《Bennie Wallace》Bennie Wallace('98)があり、それ以外にヤマハの自動ピアノ用に録音したデューク・エリントンメドレーにも含まれている。


ホイッスラー筆(1872-77作)
「ノクターン:ブルー&ゴールド オールド・バターシーブリッジ」
Passion Flower パッション・フラワー/Billy Strayhorn
内面に激しさを感じさせる神秘的な美しいバラード、ストレイホーン作品には“花”に因んだものが多い。それは幼い頃に遊んだ祖母の家の美しい庭の記憶に起因していると伝えられる。パッション・フラワー('44作)は日本語ではトケイソウと言われ、一風変わった幾何学的な形から、欧米では磔刑のキリストに例えられる。 ストレイホーン自身が最も愛奏した作品で、この花に自分自身の姿を見ていたのかもしれない。フラナガン・トリオではジョージ・ムラーツ在籍時代、弓の妙技を披露するナンバーとして毎夜必ず演奏された。ムラーツ自身、リーダーとしてMy Foolish Heart('95)に収録している。
フラナガンは《Positive Intensity》('75)に収録。

教会のステンドグラスに配されたパッションフラワー

Raincheck レインチェック/Billy Strayhorn
ストレイホーンがLA在住中の'41年に、カリフォルニアの生活や気候から曲想を得たと言われている。レインチェックとは「雨天順延」という意味。“A列車で行こう”同様、軽やかなスイング感と気品に溢れた作品。フラナガンは《Jazz Poet》('93)に収録。

Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington
エリントン初期の作品でフラナガニアトリオの極めつけの演目。晩年のフラナガンは、ビバップ以前のナンバーを独自の演奏解釈で盛んに取り上げ、新境地を開拓中であった。これはその代表的なもので、プリミティブな黒人音楽の魅力に溢れている。'27年の作品で'29年に短編映画化され大ヒットした。密かに心臓に動脈瘤を抱え、ステージで発作に襲われながら演奏した事もあるフラナガンがエンディングの葬送行進曲に入るの聴くときは、いつも自分を引き合いに出しては笑い飛ばしていたトミー一流のブラックユーモアを痛いほど感じた。
生前最後にフラナガンがOverSeasに演奏を聴きに来てくれた2000年5月に、寺井がエリントン楽団のアレンジをより多く取り入れた独自のヴァージョンを披露すると、滅多に褒めない師匠が、珍しくその出来を褒めてくれた。その半年後サー・ローランド・ハナも寺井のこの演奏を絶賛してくれたが、ハナさんもまたフラナガンの死後丸一年2002年に、癌の為にこの世を去った。


短編映画“Black & Tan"の1シーン。ピアノに向かっているのはエリントン。

予告:次回のTribute to Tommy Flanagan
2005年3月26日(土)
In Memory of Tommy Flanagan

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