【ENCORE】
ダイアナ・フラナガン未亡人より当夜届いた真紅の花束
Ellingtonia エリントン・メドレー

 1984年、OverSeasでフラナガン・トリオ(アーサー・テイラー/ds、ジョージ・ムラーツ/b)の初コンサートが行われた。
寺井は初めてセロニアス・モンクとエリントンに捧げた2つのメドレーを聴き、大きな衝撃を受ける。それは単に同じ作曲家の作品を順番に演奏するのでなく、作曲家達と作品に対する深い造詣と愛情、そして充分なテクニックを持つ者だけが創造できる壮大なスケールの音楽作品だった。
 音楽史上燦然と輝くエリントン作品のメドレー、エリントニアは成熟したフラナガニアトリオが、皆さんに贈る大きな贈り物だ。

OverSeasの初コンサートでMCをするフラナガン('84)
Lotus Blossom ロータス・ブロッサム/Billy Strayhorn
 メドレーのオープニング、ロータス・ブロッサムは「睡蓮」の事。デューク・エリントンの片腕と称されたビリー・ストレイホーンの作品で、ストレイホーン自ら愛奏した名作。彼の花に因んだ作品は、どれも例えようのない耽美的な美しさに満ちている。そこには、活き活きしたあでやかさと背中合わせの、はかなさが垣間見られ、一層いとおしさが増す。
この作品は、エリントン楽団が、ストレイホーンの追悼盤<<And His Mother Called Him Bill>>に、デュークが彼を想い、ソロで淡々と弾く感動的なヴァージョンが収録されている。
追悼コンサートに相応しい名作。

Chelsea Bridge チェルシーの橋/Billy Strayhorn
 フラナガンが《Overseas》('57)や、《Tokyo Ricital》('75)に録音した極めつけの名演目。ストレイホーンがホイッスラーの絵画に霊感を受け作曲したと言われている。’75エラ・フィッツジェラルドとの大阪での来日コンサートで、この曲が始まった途端に湧き上がった怒涛の様な歓声は忘れる事が出来ない。  
 若き日のフラナガンはOverseas録音直前に、偶然NYの街で憧れのストレイホーンに出会った。「私は今度、尊敬するあなたの作品をレコーディングさせて頂きます。」と自己紹介すると、ストレイホーンは楽譜出版社にフラナガンを伴い、自作品の譜面の束をごっそりと与えた。当時フラナガン27歳、ビリー・ストレイホーン42歳であった。
 18年後、フラナガンは、「スタンダードのアルバムを」という日本側レコード会社の要望を押し切ってストレイホーン-エリントン集の名盤《Tokyo Ricital》('75)を発表。NYの街角の偶然の二人の出会いはジャズの世界に大きな実りをもたらした。

Passion Flower パッション・フラワー/Billy Strayhorn
ストレイホーン作品に“花”に因んだものが多いのは、幼い頃に遊んだ祖母の家の美しい庭の記憶に起因していると伝えられる。パッション・フラワー('44作)は日本語ではトケイソウと言われ、一風変わった幾何学的な形をしており、欧米では磔刑のキリストに例えられる。ストレイホーンは自分自身の姿になぞらえたのだろうか? これもLotus Blossom同様ストレイホーン自身が最も愛奏した作品であった。フラナガン・トリオはジョージ・ムラーツ在籍時代、弓の妙技をフィーチュアするナンバーとして毎夜必ず演奏した。
ムラーツ自身独立後、リーダーとして録音したMy Foolish Heart('95)に収録している。今夜は宗竹正浩のアルコをフィーチュア、大喝采を受けた。
フラナガンは《Positive Intensity》('75)に収録。

Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington
晩年のフラナガンは、ビバップ以前のナンバーを独自の演奏解釈で盛んに取り上げ、新境地を開拓中であった。これはその代表的なもので、プリミティブな黒人音楽の魅力に溢れている。'27年の作品で'29年に短編映画化され大ヒットした。密かに心臓に動脈瘤を抱え、いつ発作に襲われても仕方のない状況で演奏を続けていたフラナガンがエンディングの葬送行進曲に入ると、いつも自分を引き合いにし、笑い飛ばしていたトミー一流のブラックユーモアを痛いほど感じたものだ。
生前最後にフラナガンがOverSeasに演奏を聴きに来てくれた2000年5月に、寺井がエリントン楽団のアレンジをより多く取り入れた独自のヴァージョンを披露すると、滅多に褒めない師匠が、珍しくその出来を褒めてくれた。その半年後サー・ローランド・ハナも寺井のこの演奏を絶賛してくれたが、ハナさんもまたフラナガンの死後丸一年で、癌の為にこの世を去った。
今夜のラストを飾るこの作品は、生きては死ぬ人間の、様々な感情や詩情をジャズのスイング感とブルースの中に凝縮した壮大な作品だ。

ダイアナ未亡人から贈られた赤い花束のせいで、フラナガニアトリオの演奏に一層情熱が溢れ、最高の演奏となった今夜のコンサート。トミー・フラナガンが遺してくれた大きな遺産を集まったフラナガン・ファンとともに堪能する事が出来ました!お越しくださったお客様に心より感謝します。
次回のトリビュートは2006年3月です。どうぞご期待ください!!