第15回 Tribute to Tommy Flanagan 曲目


寺井尚之"The Mainstem" TRIO

 >演奏を聴きたい方には3枚組CDがあります。OverSeasまでお問い合わせ下さい。

寺井尚之ーpiano 宮本在浩ーbass 菅一平−drums



<1部> 曲説へ

1. Out of This World  (Johnny Mercer / Harold Arlen) アウト・オブ・ジス・ワールド
2. Smooth As the Wind  (Tadd Dameron) スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan) 
マイナー・ミスハップ
4. Embraceable You(Ira& George Gershwin) 
エンブレイサブル・ユー
〜Quasimodo(Charlie Parker) 
カシモド
5. Easy Living (Ralph Rainger /Leo Robin) 
イージー・リビング
6. Rachel's Rondo(Tommy Flanagan) 
レイチェルのロンド
7. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington) 
サンセット&モッキンバード
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)
 ティン・ティン・デオ


<2部> 曲説へ

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis) ザット・タイアード・ルーティーン・コールド・ラブ
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan) 
ビヨンド・ザ・ブルーバード
3. Mean What You Say (Thad Jones) 
ミーン・ホワット・ユー・セイ
4. Thelonica (Tommy Flanagan) 
セロニカ
 〜Mean Streets (Tommy Flanagan)
 ミーンストリーツ
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron) 
イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ
6. Eclypso (Tommy Flanagan) 
エクリプソ
7. Dalarna (Tommy Flanagan) 
ダラーナ
8. Our Delight (Tadd Dameron) 
アワー・デライト

<アンコール> 曲説へ
 Come Sunday (Duke Ellington) カム・サンディ
 〜With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 ウィズ・マリス・トワーズノン

Ellingtonia: エリントニア

 
Warm Valley (Duke Ellington) ウォーム・ヴァレー
〜Chelsea Bridge (Billy Strayhorn) 
チェルシーの橋
〜Passion Flower (Billy Strayhorn) 
パッション・フラワー
〜Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)
 黒と茶の幻想


<1部>

1. Out of This World (Johnny Mercer / Harold Arlen) アウト・オブ・ジス・ワールド
 第15回トリビュートのオープニングは、思わず引き込まれるようなヴァンプから始まるハロルド・アーレンの歌曲。
 
 前回の3月トリビュート直後、寺井が、ジャズ講座で「ハロルド・アーレン集/Tommy Flanagan3」を解説した時から、今夜のために、ずっと温めていた新曲。OverSeasのソロ・コンサートでフラナガンが聴かせてくれたことがある。ラテンと4ビートの間を自在に変幻するリズムとハーモニーの色合いが大好評だった。
 今日のヴァージョンは、フラナガン自身が使ったコード進行で。
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron) スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
 BeBop創始者の一人、タッド・ダメロンの代表曲。BeBopは、革新的なハーモニーと、急速のテンポで、時折荒々しい印象をもたらすが、タッド・ダメロンの作品には、他のBeBopと一線を画す独特の耽美性がある。トミー・フラナガンは、ダメロン作品群について「オーケストラ・サウンドを内包しており、非常に演奏し易い。」と語り、その演奏解釈は、「気品」と「美しさ」で余人の追従を許さない。

 この曲はOverSeasで最も人気のある「スタンダード」のひとつ。The Mainstemの完璧なアンサンブルで、心地よい倍音が会場いっぱいに充満し「美バップ」と呼ぶに相応しい音楽世界が展開した。

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3. Minor Mishap (Tommy Flanagan) マイナー・ミスハップ
 ハード・バップの魅力溢れるトミー・フラナガンの初期のオリジナル曲、『Cats』('57)以来、長年愛奏した数少ない作品のひとつ。"minor mishap"は、「(ささいなアクシデントだから)大丈夫だよ、」というニュアンスでよく聞く言葉。
 疾走感とクールさを併せ持つダイナミックな今夜の演奏に、トリオの充実ぶりが大きく感じられた。
4.メドレー: Embraceable You(Ira& George Gershwin) エンブレイサブル・ユー
   〜Quasimodo(Charlie Parker)
カシモド
 トミー・フラナガンを語る時、「メドレー」の素晴らしさ、深さを無視することは絶対に出来ない。生前のフラナガンはピアニストとしての技量を自慢することは決してなかったが、曲の特性を看破する編曲の才能については、インタビューでたびたび明言している。ガーシュインの名バラードの進行を基にしたチャーリー・パーカーのBeBop曲に、原曲を組み合わせて演奏することで、フラナガンはパーカーの芸術的真意を伝えた。
 このようなメドレー演奏を編み出した音楽家は他に知らない。
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5. Easy Living ( Ralph Rainger /Leo Robin) イージー・リビング
 ほどよく抑制されたタッチで冴えわたる切なく美しいバラード、"Easy Living"はフラナガンが亡くなった夜に、寺井尚之が涙で演奏したのが忘れられない曲。

 元々ビリー・ホリディの持ち歌、ホリディの音楽性に深い影響を受けたバッパー達が盛んに演奏しており、テーマのちょっとしたフレージングで、そのプレイヤーが「本物」かどうかが判ると寺井尚之は言う。トミー・フラナガンはホリディの崇拝者であり、彼女の歌を徹底的に研究した人でもあった。師匠の教えどおり、心の傷をそっと癒してくれるようなホリディの歌唱の美しさを、寺井はしっかりピアノで継承している。
 師匠を失った哀しみが、年月を経て昇華されたように清々しい演奏だった。
6. Rachel's Rondo(Tommy Flanagan) レイチェルのロンド
  レイチェルは、フラナガンと最初の妻、アンとの間に生まれた長女でカリフォルニア在住。フラナガン譲りの大きな瞳の美しい女性だ。ちなみにフラナガンには他に長男、トミー・フラナガンJr. 二女、ジェニファー、三人とも音楽家ではない。

 《Super Session》('80)に録音後、フラナガン本人は殆ど演奏せず、寺井尚之がしっかり自分のレパートリーにしてしまった作品。躍動感のあるメロディに、溌剌とした女性の美しさが感じられる佳曲で、OverSeasでは大変人気がある。
7. Sunset and the Mockingbird (Duke Ellington) サンセット&モッキンバード
 一度聴くと忘れられない印象的な作品。

 晩年のライブ盤、バースデイ・コンサート('98)のタイトルにもなったエリントン作品。'82年の来日時( with Rufus Reid、Billy Higgins)、すでにメドレーとして演奏している。

 NYのジャズ系FM番組のテーマ・ソングだったので、自然にレパートリーになったとフラナガンは語っていた。彼の自宅のオーディオときたら、ウォークマンとちっぽけなスピーカーとプレイヤー、それに小さなラジオだけだった。原曲はデューク・エリントンが英国エリザベス女王に献上したアルバム「女王組曲」の一曲でビッグバンド・ヴァージョンだ。

 エリントンの自伝(Music is my mistressでは、フロリダ半島をツアー中に聴こえてきた不思議な鳥の鳴き声に霊感を得て、ハリー・カーネイ(bs)の運転する車の中であっという間に書き上げたとされている。

 大自然の夕暮れや、モッキンバードのさえずりを想起させるサウンドは、,トミー・フラナガンや寺井尚之のような美しいタッチがあってこそのものと、今夜改めて感じた。

 
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie) ティン・ティン・デオ
 第一部のクロージングは、ディジー・ガレスピーが牽引したアフロキューバン・ジャズの代表曲。 
 土臭いキューバのリズムと哀愁を帯びたメロディの強さを薄めることなく、デトロイト・バップの品格で料理してみせるフラナガン流アレンジの白眉と言える作品。これを現在再現できるのは、寺井尚之しかいない。
 宮本在浩(b)と菅一平(ds)はリズム・チームとして、このセット最高の仕事ができたのではないだろうか?

 作曲者のチャノ・ポゾはキューバの首都、ハバナのスラムに生まれ、少年院で音楽を習得した天才パーカッション奏者。大戦後渡米、ディジー・ガレスピーOrch.に参加した。譜面の読み書きができなかったので、“ティン・ティン・デオ・・・”とコンガを叩きながら口づさむメロディを、ガレスピーとフラーが譜面に起こし、Orch.ヴァージョンにしてヒットした曲と言われている。チャノ・ポゾは、ハーレムの酒場で買ったマリワナの質が粗悪だったことから売人と喧嘩になり33歳の若さで殺された。


<2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
        ザット・タイアード・ルーティーン・コールド・ラブ

Matt Dennis(1914-2002 )
 「エンジェル・アイズ」「コートにスミレを」など、多くの名曲を作ったマット・デニスの作品。デニスはフランク・シナトラのヒット曲の作者としてよく知られている。優れた歌手でありピアニストであったデニスの歌曲は、斬新なメロディとハーモニーにぴったり寄り添う歌詞のマッチングで、思いがけない歌い上げの効果をもたらす。

 「恋なんて、いつも決まり切ったワン・パターンなもの、なのに君のような人に出会うと、またまた恋に落ちてしまうんだ・・・」ユーモラスな歌詞にぴったりと沿うメロディはごく自然に聴こえるのに、転調が果てしなく続く進行になっており、デニスの非凡な音楽性が如実に出ている名曲だ。

 トミー・フラナガンはJ.J.ジョンソン5時代に録音(『First Place』'57)、30年後、ピアノ・トリオの傑作『Jazz Poet』('82)に素晴らしいアレンジを遺した。その後のライブで、アレンジはどんどん高度になり、今夜お聴かせしたようななドラマチックな構成になった。あの醍醐味を再現できるのは、寺井尚之しかいない。
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan) ビヨンド・ザ・ブルーバード
 「青い鳥の向こうに」、いかにもトミー・フラナガンらしいネーミングだと改めて思う。「青い鳥」とは、言わずと知れたデトロイトのジャズクラブ“ブルーバード・イン”のこと。メーテルリンクの童話では、幸せの青い鳥は自分の家にいることに気づいて物語が終わるけれど、フラナガンの青い鳥はどこにいたのだろう?

 フラナガンには「ブラック・ミュージック」の独特のこだわりがあった。それは単に「黒人の音楽」ではない。フラナガンの言う「ブラック・ミュージック」は、西洋音楽の縛りから解き放たれ、ブラックな気品に溢れた芸術のことだった。この作品の持つ品格と深いブルースの心は、フラナガンが標榜したブラック・ミュージック以外の何物でもない。
 フラナガンがアルバム・リリース以前に、いち早く寺井尚之に写譜させたオリジナル曲。

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3. Mean What You Say (Thad Jones) ミーン・ホワット・ユー・セイ
 トミー・フラナガンの言う「ブラックな」作曲家の内で最も洗練されているのがサド・ジョーンズと言えるかもしれない。ハンク、エルヴィンのジョーンズ兄弟の真ん中で、デトロイト時代からの先輩格、フラナガンはサド・ジョーンズを、真の天才と呼び、自費でサド・ジョーンズ集、『Let's』を録音した。

 "Mean what you say"とは「(真意が伝わるように)ちゃんと言え。」という意味で、サド・ジョーンズの口癖だった。サド・メルOrch.やサド・ジョーンズ+ペッパー・アダムス5など、ジョーンズ自身の録音も多い。エンディングの「I Can't Get Started (結局言いだせなかった・・・)」にも、フラナガン流のウィットが感じられる。
 
4. メドレー:Thelonica (Tommy Flanagan) セロニカ
   〜Mean Streets (Tommy Flanagan)
 ミーンストリーツ
 トミー・フラナガンのふたつの名作をメドレーで。
 ソロで始まる“セロニカ”は、セロニアス・モンク(p)とパノニカ男爵夫人の稀有な友情に捧げられた。フラナガン作品の中でも、ダイヤモンドのような硬質の輝きと、無限の奥深さを持つ屈指の名バラード。
 続く“ミーン・ストリーツ”は、初期の名盤『Overseas』('57)で“Verdandi”というタイトルで録音、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のブラッシュ・ワークは歴史的名演と言われている。その後80年代終盤、レギュラーに抜擢した新鋭ドラマー、ケニー・ワシントンをフィーチュアし盛んに演奏した。“ミーン・ストリーツ”はケニーのニックネームだ。OverSeasの人気ナンバーでもあり、この日も菅一平(ds)に大きな声援と拍手が送られた。
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron) イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ
 タッド・ダメロンがサラ・ヴォーンの為に書き下ろしたバップ・バラード。80年代末から90年代初めまでフラナガンがライブ・シーンで盛んに演奏し、曲のインパクトのあるアレンジを確立していたが、寺井尚之がそのアレンジを手中に収め、自己アルバム『Flanagania』に録音してしまったため、フラナガン自身が演奏するのをやめてしまったというエピソードがある。

 「日本でダメロンを聴くなら寺井尚之」という定評どおり、トミー・フラナガンの気品と、ダメロンの独特のスイング感と美しさが堪能できる。宮本在浩(b)の秀逸なベースラインが光った。 
 
6. Eclypso (Tommy Flanagan) エクリプソ
 トミー・フラナガン・ファンにとって絶対に聴き逃せないナンバーが続く。『Overseas』('57)以来フラナガンが愛奏した“エクリプソ”は、勿論超スタンダード・ナンバー。
 「Eclypse(日食、月食)と「Calypso(カリプソ)」を組み合わせたバッパーお得意の合成語。今年の夏は今世紀最大の日食がニュースになったが、OverSeas最大の日食はフラナガンが亡くなった日だ。
 寺井尚之のトリルの妙技も冴えわたったこの夜、会場の外に出て夜空を見上げると半月が少し膨らんだ形の月が煌々と輝いていた。
7. Dalarna (Tommy Flanagan) ダラーナ 
 初期トミー・フラナガンのビリー・ストレイホーンへの傾倒ぶりが伺える印象派的バラード“ダラーナ”、フラナガンは『Overseas』に録音したものの、ライブで演奏することは長年なかったが、寺井尚之が自己アルバムのタイトル・チューンとして録音した翌年、『Sea Changes』('96)に再録、録音直後に、フラナガンがそのことを知らせて来たことを、寺井尚之は今でも誇りにしている。
 フラナガンは同じ年に来日、OverSeasでのコンサートで、寺井と全く同じアレンジで演奏してみせ、満員の会場を熱狂させた。

8. Our Delight (Tadd Dameron) アワー・デライト 
 2部のラストは文字通りBeBopの喜び(Delight)に溢れるショウストッパー。フラナガンのアレンジはビッグ・バンドのダイナミクスと、ピアノ・トリオならではの三位一体のムーヴメントが凝縮されて、どんどん変化するグルーヴ感がジェットコースターのようなスリルを与えてくれる。

 ピアニッシモから分厚く強烈なグリスまで、あくまでも美しいピアノの響きが、絶妙のベースラインと、ドラムのフィル・インで、会場全体を振動させる。

 「“ビバップ”とはビートルズの前の音楽…そしてビートルズの後も生き続ける音楽であります!」トミー・フラナガンのお決まりのMCが心の中でこだまする爽快な演奏だった。

<アンコール>

メドレー:Come Sunday (Duke Ellington) カム・サンディ
 〜With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 ウィズ・マリス・トワーズノン
 フラナガン的「ブラック・ミュージック」のエッセンスが味わえるアンコール・メドレーは、トリビュートならではの聴きどころ。
 
  最初はスピリチュアルなメドレー。
 「カム・サンデイ」はアメリカ黒人の歴史を表現した組曲『Black, Brown and Beige』中、Black(黒人奴隷時代)の主題歌としてエリントン楽団が初演。('43 カーネギーホール)  黒人達の祈りの歌の背後には奴隷解放(「日曜」)への切望がある。歌詞はエリントン作とされており、。奴隷解放100年記念式典や、ホワイトハウスでのコンサートなど、など、米国の記念イベントでも繰り返し演奏されている名曲。

 今夜の演奏から、マヘリア・ジャクソンの感動的な歌唱を思い出した

 次の「ウィズ・マリス・・・」はOverSeas の大スタンダード。寺井尚之の十八番としてもよく知られている。
 作曲はフラナガンが、そのブラックな作風を愛したトム・マッキントッシュ(tb)。敬虔なクリスチャンであるマッキントッシュは、讃美歌「主イエス我を愛す」がベースにこの名曲を作った。フラナガン・ファンでこの曲を知らない人は、おそらくいないだろう。

 この夜も、「ウィズ・マリス・・・」のメロディが始まると、フラナガンがOverSeasで演奏した時のように大きな拍手が湧いた。





トム・マッキントッシュ
(1927-)


                        ストレイホーン(左)とエリントン
メドレー:Ellingtonia: エリントニア
Warm Valley (Duke Ellington) ウォーム・ヴァレー
〜Chelsea Bridge (Billy Strayhorn) チェルシーの橋
〜Passion Flower (Billy Strayhorn) 
パッション・フラワー
〜Black & Tan Fantasy (Duke Ellington)
 黒と茶の幻想
 メドレーの幕開け、Warm Valley(温かき谷間)“”は、エリントンならではの官能的なメロディの作品('41)で、エリントンは、オレゴンの美しい山並みに、豊満な女性が横たわる姿を連想して作ったと語っているが、一説にはエリントン楽団の名アルト奏者ジョニー・ホッジスが本番前のウオーム・アップに吹いていたメロディを元に作られたとも言われている。

 確かにジョニー・ホッジスの感応的な音色が封じ込められているようで、壮大な音楽景観が楽しめる作品。

ジョニー・ホッジス
(1906-70))
  “チェルシーの橋”はビリー・ストレイホーンの傑作、そしてトミー・フラナガンの名演目のひとつ。『Overseas』('57)、『Tokyo Ricital』('75)と、繰り返し録音しているが、晩年のインタビューで「ビリー・ストレイホーン集」の録音企画の準備を進めていると語っており、新譜の録音までに亡くなってしまったことが、今更ながら残念に思われる。
 フラナガン同様、美術に造詣深かったビリー・ストレイホーンが印象派の画家、ホイッスラーの作品に霊感を得て作った曲と言われている。

 '75来日時、“Chelsea Bridge”の最初の2小節をフラナガンが弾き始めただけで、客席から物凄い拍手が沸いたという。その時、フラナガンは『Overseas』という自国ではほとんど注目されなかったアルバムが、どれほど沢山の日本人に愛されているかを実感したに違いない。
 
 今夜、The Mainstemがこの曲を始めると、やはり大きな拍手が湧き、そのエピソードが思い出された。

 
 同じくビリー・ストレイホーンの印象派的な作品、“Passion Flower”はビリー・ストレイホーン自身が最も愛奏したバラード。
 言うまでもなく、フラナガン・トリオ時代から現在に至るまでジョージ・ムラーツの十八番としてよく知られている。今夜は宮本在浩の弓の妙技で聴かせた。
 Black & Tan Fantasy
 晩年のフラナガンは、BeBop以前の楽曲を精力的に開拓していた。ひょっとしたら、自分のブラック・ミュージックの道筋を逆に辿ってみようと思っていたのかもしれない。その意味で、「ブラック&タン・ファンタジー」は非常に重要なナンバーだ。
 
 エリントン初期の作品で、禁酒法時代にハーレムで栄えたコットンクラブでヒットした。1929年に、エリントンとその楽団初の短編映画になり、更にヒットした。物語はチャンスを掴もうとするバンドリーダー(デューク・エリントン自身)を助ける恋人のダンサーがステージで倒れ、文字通り「黒と茶の幻想」の中で天に召される悲劇。楽団が出演し、ヒロインはコットン・クラブの花形ダンサーで、楽団のトロンボーン奏者ローレンス・ブラウン夫人だったフレディ・ワシントン。

 フラナガンが生前最後に寺井の演奏を聴きに来てくれた時、寺井は「Black & Tan Fantasy」を演奏した。寺井のヴァージョンは、フラナガンのものよりも、エリントン楽団のアレンジを多く取り入れていて、フラナガンは珍しく絶賛してくれた。

 強烈な印象を残す演奏はトリビュート・コンサートの結びにふさわしいものだった。

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