第19回 Tribute to Tommy Flanagan Sat. Nov. 26, 2011

演奏:寺井尚之"The Mainstem" TRIO
Hisauki Terai- piano
Zaiko Miyamoto- bass
Ippei Suga-drums


本コンサートの3枚組CDがございます。ご希望の方はJazz Club OverSeasまでお申し込みください。

寺井尚之ーpiano 宮本在浩ーbass 菅一平−drums

<1部> 曲説へ

1. Minor Mishap /Tommy Flanagan マイナー・ミスハップ 
2. Beyond the Bluebird /Tommy Flanagan ビヨンド・ザ・ブルーバード
3. Rachel's Rondo /Tommy Flanagan レイチェルズ・ロンド
4. Medley: Embraceable You(Ira& George Gershwin)
      ~Quasimodo(Charlie Parker  エンブレイサブル・ユー~カジモド
5. Lament : J.J.Johnson ラメント
6. Bouncing with Bud/ Bud Powell バウンシング・ウィズ・バド
7. Dalarna  /Tommy Flanagan ダラーナ
8. Tin Tin Deo / Gill Fuller, Dizzy Gillespie ティン・ティン・デオ


<2部> 曲説へ

1. Thadrack  /Thad Jones サドラック
2. Smooth As the Wind/Tadd Dameron スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
3. That Tired Routine Called Love /Matt Dennis ザットタイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ
4. Mean Streets  /Tommy Flanagan ミーンストリーツ
5. Passion Flower / Billy Strayhorn パッション・フラワー
6. Eclypso  /Tommy Flanagan エクリプソ
7. Easy Living / Ralph Rainger, Leo Robin イージー・リヴィング
8. Our Delight /Tadd Dameron アワ・デライト

>

<アンコール> 曲説へ
 Like Old Times/ Thad Jones ライク・オールドタイムズ
With Malice Towards None /Tom McIntosh ウィズ・マリス・トワード・ノン


<1部>

1.Minor Mishap /Tommy Flanagan マイナー・ミスハップ 
  コンサートは、一番最初に録音されたトミー・フラナガンのオリジナル曲から始まった。
 ジョン・コルトレーン(ts)、ケニー・バレル(g)との共演盤、『Cats』('57)以来、フラナガンが長年愛奏した作品。
 Minor Mishapは「些細なトラブル」のこと。思えばトミー・フラナガンは「マイナー・ミスハップ」の達人だった。
大切な金のネックレスを落としたり、日本ではパスポートを失くしたり・・・大騒ぎをしたいた頃が懐かしい。
2. Beyond the Bluebird /Tommy Flanagan ビヨンド・ザ・ブルーバード
 「マイナー・ミスハップ」が最初のオリジナルなら、「ビヨンド・ザ・ブルーバード」は、最後のオリジナル曲。
 デトロイトでの青春時代へのノスタルジー溢れる同名アルバムのタイトル曲。
アルバムのリリース前に譜面を見せてもらった寺井尚之にとっても、思い出深い作品。

 転調を繰り返すことで、曲から立ち上る独特のブルージーな香りは、フラナガンのブラック・ミュージックならではのものだ。
3. Rachel's Rondo /Tommy Flanagan レイチェルズ・ロンド
 フラナガンが長女のレイチェルに捧げたオリジナル曲。明るい躍動感に溢れる曲想は美貌の長女に相応しい。レイチェルは現在カリフォルニア在住。トミー・フラナガンはレッド・ミッチェル(b)エルヴィン・ジョーンズ(ds)とのアルバム『Super Session』の録音が唯一遺されている。恐らく現在愛奏する者は寺井尚之だけかもしれない。
4.メドレー: Embraceable You(Ira& George Gershwin)
   〜Quasimodo(Charlie Parker)
 エンブレイサブル・ユー〜カジモド
  メドレーの達人、トミー・フラナガン未録音、幻の名メドレー。

 ガーシュインの名バラードの進行を基にしたチャーリー・パーカーのBeBop曲と原曲を一体に演奏することで、フラナガンはパーカーの芸術的真意を伝えた。

 このようなメドレー演奏を編み出したのはトミー・フラナガンだけだ。
 *関連ブログ

5. Lament / J.J.Johnson ラメント
 トロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの作品。  ’50年代後半にJ.J.ジョンソン5のレギュラーとして、数々の名盤を残した。フラナガンの友人、ディック・カッツ(p)はJ.J.ジョンソンの冷静で的確なリーダーシップは、彼が仕えたベニー・カーター(as)に学んだものだと指摘する。フラナガンのJ.J.ジョンソン評は「とにかくミスをしない。先の読めるクールな人」ラメントは『嘆きの曲』でありながら、センチメになり過ぎず品格を保っている。それがフラナガンの好みだったのか、ライブでは盛んに演奏し、 “ラメント”を聴くとBradley'sのフラナガンを思い出すというファンがいるほどだ。しかし自己アルバムでの録音は《Jazz Poet》('89)だけだ。その後も愛奏することによって、演奏ヴァージョンはどんどん発展していった。

 トリビュートで使うセカンド・リフはフラナガンが《Jazz Poet》録音後にライブで発展したもの。
6. Bouncing with Bud/ Bud Powell バウンシング・ウィズ・バド
 フラナガンが愛奏したバド・パウエルの代表曲。フラナガンはこんな言葉を残している。
 「バド・パウエルがオリジナルを通じて主張しようとしたのは、強力なリズムだ。息継ぎすらできないほど強烈なものだ。パウエルのフレーズには、まず大きな息を吸ってから、弾ききらなければならないようなものがある。パウエルとはそんな風に演奏し、作曲することができた音楽家なのだ。正しく天才だ。」
 だが、フラナガンが演奏すると、作品自体に柔らかい気品が生まれる。寺井尚之の演奏ヴァージョンはフラナガン流。
7. Dalarna /Tommy Flanagan ダラーナ
 フラナガンの初期の代表作《Overseas》('57)の中の印象的なバラード、 ダラーナとは録音地スェーデンの地名。サンタクロース村はここにある。
 フラナガンは《Overseas》以降、僅か一度しか録音していない。しかし 寺井が自己リーダー作のタイトル曲として録音し、それがフラナガンに 《Sea Changes》('96)で再録音を促すきっかけになった。録音直後フラナガ ンは寺井に電話をしてその事を報告している。同年のOverSeasでのコン サート(ピーター・ワシントン/b、 ルイス・ナッシュ/ds.)では、寺井の録音と全く同じ構成で演奏し、寺井のフレーズを挿入、満員の会場を沸かせた。
 

8. Tin Tin Deo/Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie ティン・ティン・デオ
 ディジー・ガレスピー楽団のアフロキューバン・ジャズの代表曲。作曲者のチャノ・ポゾはキューバ出身、少年院で音楽を習得した天才パーカッション奏者で、ガレスピー楽団で活躍し33歳の若さで、酒場で殺された。この曲は、譜面の読み書きができないポゾの口づさむメロディを、ガレスピーとフラーが譜面に起こしたと言われている。

 フラナガンは'60年代ディジー・ガレスピー楽団とツアーしており、その際Tin Tin Deoを演奏していたのかもしれない。
 '80年代以降は、ピアノ・トリオで、ダイナミックなアレンジで、ビッグバンドに匹敵するパフォーマンスを聴かせた。

  今夜のメインステムは、宮本在浩(b)のベースラインと菅一平(ds)のカラフルなドラミングで喝采を浴びた。。


<2部>

1. Thadrack  /Thad Jones サドラック
 『The Magnificent Thad Jones vol.3』で初演、37年後に、自費録音のサド・ジョーンズ集『Let's』に収録した。寺井尚之はヴィレッジ・ヴァンガードで初めてフラナガンの演奏を聴いた時の思い出をマイクで語ってからプレイを始め、トリビュート・ムードが盛り上がった。

 *サド・ジョーンズ関連ブログ
2. Smooth As the Wind/Tadd Dameron スムーズ・アズ・ザ・ウィンド
  Bebop流行の立役者作編曲家-ピアニスト、タッド・ダメロンの代表作。ブルー・ミッチェル(tp)のストリングス入りアルバム('61)のタイトル曲、勿論トミー・フラナガンも参加している。

 フラナガンは『ダメロン作品には予めオーケストラのサウンドが内蔵されているから演奏しやすい』と愛奏した。

*タッド・ダメロン関連ブログ
3. That Tired Routine Called Love /Matt Dennis ザットタイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ
Matt Dennis(1914-2002 )
 「エンジェル・アイズ」「コートにスミレを」など、多くの名曲を作ったマット・デニスの作品。優れた歌手でありピアニストであったデニス作品のメロディとハーモニーは、J.J.ジョンソンやマイルス・デイヴィスなどジャズ・ミュージシャンにアピールした。

 「恋は、おきまりのワン・パターンに決まってる。なのに君のような人に出会うと、またまた僕は・・・」ユーモラスな歌詞に沿うメロディはごく自然に聴こえるものの、果てしない転調が続く斬新な曲。

 トミー・フラナガンはJ.J.ジョンソン5時代に録音(『First Place』'57)、30年後、ピアノ・トリオの傑作『Jazz Poet』('82)に録音後、ライブを重ねるごとにヴァージョンアップして、今夜のドラマチックな構成に落ち着いた。それを再現できるのは、寺井尚之しかいない。
4. Mean Streets / Tommy Flanagan ミーンストリーツ
 『Overseas』('57)では“Verdandi”というタイトルで録音、エルヴィン・ジョーンズ(ds)のブラッシュ・ワークと共に歴史的名演と言われる。

 '80年代終盤、トリオにに抜擢されたケニー・ワシントンのフィーチュア・ナンバーになり、ケニーのニックネーム、“ミーン・ストリーツ”と改題された。

 トリビュートでは菅一平(ds)のフィーチュア・ナンバー!今回のドラム・ソロは今までの最高と、客席から盛大な拍手と歓声が巻き起こった。
5. Passion Flower / Billy Strayhorn パッション・フラワー
 フラナガンが若い時から愛して止まないビリー・ストレイホーンの作品。パッション・フラワーはストレイホーン自身が、最も愛奏したバラード。

 そして、フラナガン・トリオから現在に至るまで、ジョージ・ムラーツの弓の至芸が堪能できる十八番として最もよく知られている。宮本在浩のアルコの伸びの良さと、細部に神経が行き届いた繊細なソロは素晴らしかった。現在、怪我の為静養しているジョージ・ムラーツへの想いが込められていたのかもしれない。
 
6. Eclypso  /Tommy Flanagan エクリプソ
 フラナガンの代表曲、<エクリプソ>は、Eclypse(日食の意)とCalypso(カリプソ)の合成語。バッパーは言葉遊びが大好きだ。
 フラナガンは《Cats》、《Overseas》('57)、《Eclypso》('77)、《Aurex'82》、《Flanagan's Shenanigans》('93)《Sea Changes》('96)に繰り返し録音し、ライブでも愛奏した。

7. Easy Living / Ralph Rainger, Leo Robin イージー・リヴィング
 ビリー・ホリディの歌曲はトリビュートにははずせない。フラナガンは自他ともに認めるホリディの崇拝者で、彼女の歌い方を、自らの演奏に大いに取り入れた。フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之が涙で演奏したのが忘れられない。

 ビリー・ホリディがこの歌で演じるのは、男に溺れ、身を粉にして貢ぐ女だ。世間は馬鹿な女と笑うけれど、「溺れて正気をなくせば、生きることが楽になるから。」 女の業を、いじらしく清らかに歌い上げるビリー・ホリディ、フラナガンはその秘訣を会得し、寺井尚之にその道を教えてくれた。
6. Our Delight /Tadd Dameron アワ・デライト
 タッド・ダメロンがビバップ全盛期'40年代半ばにディジー・ガレスピー楽団の為に書いた作品。ビッグバンド仕様のダイナミズムを、ピアノ・トリオに取り入れるフラナガンの音楽スタイルがここでも顕著に表れる。

  「ビバップはビートルズ以前の音楽、そしてビートルズ以後の音楽である!」というのがダメロンを演奏する際の決まり文句。今夜は寺井尚之がそのままMCして大いに盛り上がりました。
 
 ピアノとベース、ドラムが入れ替わり立ち代りフィーチュアされるスリルが、フラナガンの流デトロイト・バップだ。

<アンコール>

 Like Old Times/ Thad Jones ライク・オールドタイムズ
 これもサド・ジョーンズの初期の作品。「昔のように」とは、デトロイトの“ブルーバード・イン”のことなのだろうか?デトロイト・ハードバップの聖地、“ブルーバード・イン”も、夜更けになると、必ず土臭いブルースで盛り上がるのが常だったとフラナガンは言う。

 フラナガンは、よくアンコールとして、この曲を演奏していた。その時にはポケットに隠し持つホイッスルを鳴らして、客席を大いに沸かせたものだ。

 今夜の寺井尚之も、同じホイッスルの一撃を放ち大喝采!往年のフラナガンを知る人たちには、 正しくライク・オールド・タイムズ!
With Malice Towards None /Tom McIntosh ウィズ・マリス・トワード・ノン

 フラナガンージョージ・ムラーツのデュオ・アルバム、『バラッズ&ブルース』に収録されている名曲。 “ウィズ・マリス”は、寺井尚之の十八番としても知られている。

 作曲はトロンボーン奏者、トム・マッキントッシュ(tb)、フラナガンは、その「ブラック(黒人的)な作風」を好み、マッキントッシュの作品を多く演奏している。
 
 この曲は敬虔なクリスチャンであるマッキントッシュが、讃美歌「主イエス我を愛す」を元に作ったもの。 「誰にも悪意を向けずに」というジャズ・ナンバーらしくないタイトルは、多くの犠牲者を出した南北戦争後、エイブラハム・リンカーンが演説で口にした名言だ。

 この曲の持つスピリチュアルな美しさと強いメッセージを感じるたびに、生前のフラナガンの素晴らしいステージを思い出す。



 今回もトリビュート・コンサートを応援いただき、本当にありがとうございました!次回は晴れやかな春、誕生月の3月にトリビュートを行う予定です。ぜひお越しくださいませ。


 なお、この19回トリビュート・コンサートの模様はCDになっております。遠方にて来れなかった皆様は、CDをぜひ聴いてください。(申し込み方法はメールでお問い合わせください。)

Tribute to Tommy Flanaganのページへ戻る
TOPへ