ジャズの巨匠  トミー・フラナガンの名演目の数々を!
The 22nd Tribute to Tommy Flanagan Concert

トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月、逝去した11月にOverSeasで開催する定例コンサートです。
曲目解説 寺井珠重


トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
OverSeasまでお問い合わせください。
Performed by "The Mainstem" TRIO

寺井尚之 宮本在浩 菅一平
Hisayuki Terai-piano Zaikou Miyamoto -bass Ippei Suga-drums

トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガンを偲ぶ楽しい集まり。


<第22回トリビュート・コンサート・プログラム>

<第一部>

1. The Con Man (Dizzy Reece)

2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)

3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)

4. Medley : Embraceable You (Ira& George Gershwin)
〜Quasimodo (Charlie Parker)

5. Sunset & the Mocking Bird (Duke Ellington & Billy Strayhorn)

6. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan)

7. Dalarna (Tommy Flanagan)

8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)



<第2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)

2. They Say It's Spring (Bob Haymes)

3. A Sleepin' Bee (Harold Arlen)

4. Eclypso (Tommy Flanagan)

5. Spring Is Here ( Richard Rodgers)

6. Mean Streets (Tommy Flanagan)

7. But Beautiful (Jimmy Van Heusen)

8. Our Delight (Tadd Dameron)


<Encore>

With Malice Towards None (Tom McIntosh)

Ellingtonia
Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
〜Passion Flower (Billy Strayhorn)
〜Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)

<1部>

1.The Con Man (Dizzy Reece):コン・マン

  
鮮烈なオープニング、「コン・マン」とは「サギ師 (confidence man)」のこと。スマートな手口で騙す、ダーティ・ヒーローのヒップなイメージは、どことなくバッパーと似ている。
 作曲者は、トランペッター、ディジー・リース。
 生前フラナガンがMCで、「作曲者は、トランペッター、ディジー…」と、わざと間をおき、客席から「ガレスピー!」と声がかかると、おもむろに「…リースの曲を演ります。」と、詐欺師ぶりを見せた。
 この夜は、寺井尚之のMCに、素早く「ガレスピー!」という声を頂いて、寺井尚之もにんまり!

2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan):ビヨンド・ザ・ブルーバード

  
デトロイト時代の若きトミー・フラナガン、サド・ジョーンズやエルヴィン・ジョーンズ達とレギュラー出演したデトロイトのジャズクラブ“ブルーバード・イン”を回想して作ったブルージーで気品溢れるデトロイト・ハードバップの名作。
3.Minor Mishap (Tommy Flanagan)

 最も初期のオリジナルで、転調を繰り返す難曲。初演は、フラナガンの初リーダー作、『Cats』(Prestige '57)だ。"プレスティッジ"の制作ポリシーは録り直しをしない低予算主義。フロントにジョン・コルトレーンを自ら指名し、意気込んで臨んだが、録り直しができないために、バース・チェンジの小節数が半端になる結果に終わった。文字通りMinor Mishap=“ちょっとした不幸な出来事”だったのだ。
 だが、フラナガンはその後も、愛奏を続け、デトロイト・ハードバップの疾走感を楽しませてくれた。
4. メドレー: Embraceable You (Ira and George Gershwin) エンブレイサブル・ユー - Quasimodo カシモド (Charlie Parker)
 
ガーシュインの甘いスタンダードナンバーと、そのコード進行を基にしたチャーリー・パーカーのバップ・チューンの組み合わせ。フラナガンが紡ぎ出した数々のメドレーの内でも最も感動的な作品。関連ブログ


5. Sunset & the Mocking Bird (Duke Ellington) サンセット & ザ・モッキンバード
 
晩年のライブ盤、バースデイ・コンサート('98)のタイトルになった印象的な作品。エリントンの自伝(Music is My Mistress)によれば、フロリダ半島でふと耳にした鳥の鳴き声を元に作った作品と言う。フラナガンは、それをラジオで聞き覚えてピアノトリオのヴァージョンに仕立て上げた。寺井はフラナガン譲りの美しいタッチで大自然を表現してみせる。
6. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan) レイチェルのロンド

 
フラナガンの長女、レイチェルに捧げた躍動感と気品溢れる作品。フラナガンは『Super Session』('80)に録音、その後、寺井尚之がフラナガン以上に愛奏、『Flanagania』('94)に収録している。
7. Dalarna (Tommy Flanagan) ダラーナ
  印象派的なフラナガンのバラード作品、、フラナガンは『Overseas』に録音したものの、ライブで演奏することは長年なかったが、寺井尚之が自己アルバムのタイトル・チューンとして録音した翌年に、『Sea Changes』('96)に再録、録音直後、フラナガンがそのことを知らせて来たことを、寺井尚之は今でも誇りにしている。
 フラナガンは同じ年に来日、OverSeasでのコンサートで、寺井と全く同じアレンジで演奏してみせ、満員の会場を熱狂させた。
  
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Dizzy Gillespie, Gill Fuller)
 トミー・フラナガン極めつけの名演目、キューバの哀愁、ラテンの土臭さと、ビバップの洗練が見事に融合し、何とも知れない魅力を醸し出す。寺井尚之The Mainstemは曲の力強さとフラナガン・アレンジの醍醐味を見事に再現してくれた。


演奏の合間にお客様と談笑する寺井尚之

<2部>


1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis, Ted Steele)ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ 
 暗さ知らずのラブソング、フラナガンのウィットに富む一面と、転調が一杯のこの曲を軽々と弾く技巧が堪能できる作品。名盤『Jazz Poet』に収録後、フラナガンのアレンジはどんどん進化した。トリビュートでは、フラナガンがライブで披露した進化ヴァージョンで。
2. They Say It's Spring (Marty Clark/Bob Haymes)ゼイ・セイ・イッツ・スプリング

 NYの街に春の到来を告げるフラナガンの演目、スプリングソングの一曲。J.J.ジョンソン時代の仲間、ボビー・ジャスパーの妻として交友のあったブロッサム・ディアリーの持ち歌であり、ジョージ・ムラーツ(b)とのデュオの名盤『Ballads & Blues』に収録した。同郷デトロイト出身のダグ・ワトキンス(b)も、フラナガンからこの曲を教わり愛奏したという。

 エンディングに宝塚歌劇団の「スミレの花咲く頃」を挿入するのが、関西人の寺井スタイル。
 曲についての詳しい解説はブログに。
3. A Sleepin' Bee (Truman Capote/ Harold Arlen) スリーピン・ビー
 They Say It's Springと対を成すエキゾチックなスプリング・ソング。ハイチを舞台にしたミュージカル“ハウス・オブ・フラワーズ”の中の曲、フラナガンは『ハロルド・アーレン集』に収録し、'96年OverSeasで演奏した。

 “ミツバチがお前の掌で眠るなら、恋は本物。”というハイチのエキゾチックな恋占いをテーマにしたラブ・ソング。フラナガンがOverSeasで聴かせたインタルードを使うダイナミックなヴァージョンは今回のトリビュートで好評を博した。
 曲についての詳しい解説はブログに。
4.Eclypso (Tommy Flanagan) エクリプソ
  恐らく最も有名なフラナガン作品。"Eclypso"は「Eclypse(日食、月食)と「Calypso(カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンは、こんな言葉遊びが好きで、そんなウィットがプレイに反映している。寺井尚之がフラナガンの招きでNY滞在した最後の夜に、ヴィレッジ・ヴァンガードで、フラナガンが寺井のために演奏した思い出の曲。
5. Spring Is Here (Richard Rodgers) 春はここに
 “春になっても、失恋した心は躍らない・・・”
 こちらは一転して、ほろ苦い味わいのスプリング・ソング。エリントン的な混合ディミニッシュ・サウンドがフラナガン譲りのタッチで響き渡り、幻想的なムードが漂う。

6.Mean Streets (Tommy Flanagan) ミーンストリーツ
 初期の名盤『Overseas』に“Verdandi"というタイトルで収録。このアルバムの立役者はエルヴィン・ジョーンズ(ds)とまで絶賛された。'80年代は、ケニー・ワシントン(ds)のニックネーム、ミーンストリーツに改題し、円熟期の代表アルバム『Jazz Poet』('89)に再収録。
 トリビュートでは菅一平のフィーチュア・ナンバーとして、大歓声が沸いた。
7. But Beautiful (Jimmy Van Heusen) バット・ビューティフル

 「恋は十人十色、可笑しかったり、哀しかったり…穏やかで、狂おしく…」 短い言葉で綴られる様々な恋の色合いを、ピアノのサウンドで豊かに表現していく。'90年代、フラナガンが盛んに愛奏したバラードだが、愛想の陰には、寺井尚之の言葉があった。寺井は、フラナガンがプレスティッジの『Moodsville8』(フランク・ウエス・カルテット)でのBut Beautifulのイントロを「ジャズ史上最高のイントロだ!」とフラナガンに力説したのだった。フラナガンは、寺井に言われるまで全く意識していないことだった。きっと、その後聴き返し、新しい霊感が湧いたのだろう。
 元々はビング・クロスビー&ボブ・ホープの喜劇映画、“Road to Rio(南米珍道中)”の挿入歌だが、フラナガンを愛する私達にとっては、上述のFウエス盤や、「Smooth As the Wind」(Blue Mitchell)、“Lady in Satin”の、ビリー・ホリディの名唱が心に残るスタンダード・ナンバーだ。

 寺井は《Dalarna》('95)に 収録。フラナガンは、上記作品以外にジャズパー賞記念ライブ盤《Flanagan's Shenanigans》('93- Storyville)で極めつけの名演を遺した。
8. Our Delight (Tadd Dameron) アワ・デライト
 タッド・ダメロンがビバップ全盛期'40年代半ばにディジー・ガレスピー楽団の為に書いた作品。ピアノとベース、ドラムが入れ替わり立ち代りフィーチュアされるダイナミックなフラナガンのアレンジは、ピアノトリオの醍醐味を満喫する事が出来る。
 フラナガンがライブのラスト・チューンとしてよく演奏した。
 「ビバップはビートルズ以前の音楽です。そしてビートルズ以後の音楽でもあります!」寺井尚之のMCは、フラナガンの決まり文句。絶妙のタイミングで喝采を下さったお客様たちに感謝!
 
 残念ながらトリオでのフラナガンの録音は残っていないが、フラナガンはハンク・ジョーンズとのピアノデュオ('78)で《Our Delight》のタイトル曲として収録。


Encore

1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 フラナガンが、アメリカ的だから、ブラックだからという理由で好む作曲家トム・マッキントッシュの名曲。
 題名は「誰にも悪意を向けずに」という、エイブラハム・リンカーンの名言。
 賛美歌を基調にしたシンプルなメロディと芳醇なハーモニーとブルース・フィーリング、聴く度に感動が湧き上がる。マッキントッシュ自身やミルト・ジャクソンなど、録音は色々あるものの、フラナガンの気品ある演奏解釈は傑出している。いわばデトロイト・ハードバップ的ソウル・ミュージックなのかもしれない。
2.Medley:Ellingtonia デューク・エリントン・メドレー
  フラナガンが初めてOverSeasに来演した時に演奏したデューク・エリントン・メドレー(エリントニア)はなんとエリントン作品11曲という壮大なスケールだった!
 寺井尚之が受けた大きな感動をトリビュートで!


Chelsea Bridge (Billie Staryhorn) チェルシーの橋
 
 『Overseas』や『Tokyo Ricital』に名演奏が遺されるビリー・ストレイホーン作品。印象派的な作風は例えばDalarnaのようなフラナガン作品の原点でもある。


Passion Flower (Billie Staryhorn) パッション・フラワー
 
同じくストレイホーン作品、“Passion Flower”は日本ではトケイソウと呼ばれる。フラナガンとの共演期から現在に至るまで、ジョージ・ムラーツ(b)の弓の名演奏が聴ける十八番。今回のコンサートでは、宮本在浩が、これまでで最高のプレイを聴かせ、鮮やかな化けっぷりで魅せた。

Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)黒と茶の幻想 
 禁酒法時代、ハーレムのコットンクラブからヒットしたエリントン初期の作品。そしてフラナガン最晩年の愛奏曲。
 亡くなる前年、来店したフラナガンは、エリントン楽団のエレメンツを多く取り入れていた寺井尚之のプレイを絶賛してくれた。滅多に誉めない師匠なのに、「何か嫌な予感がした。」と寺井は言う。
 葬送行進曲で閉じられるこの名演目は、やはりトリビュートの最後には欠かせない。
 相撲取りは引退する時「気力と体力の限界を感じ・・・」と言います。しかし私の場合、体力が衰え、気力が増すというのが厄介です。
 次回トリビュートはフラナガンの命日、11月16日にやりたいと思います。皆さん、どうぞ来てください!
今夜はどうもありがとうございました。
寺井尚之

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