第26回

=トミー・フラナガンを愛奏曲で偲ぶ


2017年3月25日
トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明
Tamae Terai

本コンサートの3枚組CDをご希望の方はJazz Club OverSeasまでお申し込みください。
Performed by "The Mainstem" TRIO


寺井尚之(p)

The Mainstem Trio :Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums
 
宮本在浩(b)
 
菅一平 (ds) 


<第30回プログラム>

<1部>

1. Let's レッツ (Thad Jones)
2. Beyond the Blue Bird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
3. Rachel's Rondo レイチェルのロンド (Tommy Flanagan)
4. メドレー: Embraceable You エンブレイサブル・ユー (George Gershwin)
   〜 Quassimodoカジモド (Charlie Parker)
5. Sunset and the Mocking Bird サンセット&ザ・モッキンバード (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
6. Eclypso エクリプソ (Tommy Flanagan)
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo ティン・ティン・デオ (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

<2部>

1. That Tired Routine Called Love ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ (Matt Dennis)
2. They Say It's Spring ゼイ・セイ・イッツ・スプリング (Bob Haymes)
3. A Sleepin' Bee スリーピン・ビー (Harold Arlen )
4. Minor Mishap マイナー・ミスハップ (Tommy Flanagan)
5. Passion Flowerパッション・フラワー ( Billy Strayhorn)
6. Mean Streets ミーン・ストリーツ (Tommy Flanagan)
7. Easy Living イージー・リヴィング (Ralph Rangerl)
8. Our Delight アワ・デライト (Tadd Dameron)

Encore: With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)
      Like Old Times ライク・オールド・タイムズ (Thad Jones)


曲目解説

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」- トミー・フラナガン
トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガン物語、寺井尚之メインステムが心をこめて綴ります。

1st Set
1. Let's

 作曲者はフラナガンが天才と読んだコルネット奏者、バンドリーダー、サド・ジョーンズ。フラナガンが自主制作したサド・ジョーンズ曲集(右写真)のタイトル曲。
 サド・ジョーンズ作品は難曲が多いために、大多数が演奏するスタンダードは少ない。だがフラナガンは終生彼の作品を掘り下げた。

 「サド・ジョーンズ作品の中には、強力なパワーがあり、演奏すると、自然にそのパワーが発散するように作られている。彼の作品を演奏できるなら、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」トミー・フラナガン
 
 
2.Beyond the Blue Bird

 青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、デトロイトの黒人居住地で熱い演奏を繰り広げた場所《ブルーバード・イン》を偲んで作ったノスタルジ−溢れる曲。
 フラナガンは、《ブルーバード・イン》と《OverSeas》の雰囲気はよく似ていると言ってくれたが、今でもそうありたい。
 親しみやすいメロディでありながら、転調が多く、弾くのは大変むずかしい。左手による"返し"のメロディーは、デトロイト・バップの特徴だ。
 寺井尚之はリリース前に、フラナガンに、この曲の演奏を許されたことを、今も誇りにしている。
3.Rachel's Rondo
 最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』('80)に収録したが、ライヴでは余り演奏することはなかった。

 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』('94)に収録している。冴え渡るピアノのサウンドを活かす気品溢れる秀作。
4.メドレー: Embraceable You - Quasimodo

トミー・フラナガン伝説のバラード。 チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作の有名スタンダード・ナンバー〈エンブレイサブル・ユー〉(抱きしめたくなるほど愛らしい君)のコード進行を基に作ったバップ・チューンに、原曲と正反対の醜い「ノートルダムのせむし男」の名前を付けた。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたメドレーは、本当の「美」とは何かという問いを投げかけたパーカーに対するフラナガンの答えだ。フラナガンのメドレーはライヴでの最高の聴きどころで、これは数あるメドレーの内でも白眉だった。残念なことに、レギュラー・トリオによるレコーディングは遺されておらず、今はトリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。

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5. Sunset & the Mockingbird


   エリントン&ストレイホーンによる作品で、フラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ盤(右写真)のタイトルになっている神秘的な美しさを持った曲。エリントン・ミュージックはフラナガンの標榜する"ブラック・ミュージック"として、ひとつの理想形だった。この曲は、エリントンがフロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で不思議な鳥の鳴き声を聴いて、瞬く間に書き上げた曲とされている。(エリントンの自伝『Music is my mistress』より) 後にエリントンは、エリザベス女王に献上するために自費録音し、女王のために一枚だけプレスしたアルバム『女王組曲』にこの曲を収録した。エリントンの死後、このアルバムはリリースされ、この曲は、NYのFMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして使われた。フラナガンはラジオで聴き覚えて(!)レパートリーに加えた。 トリビュート・コンサートでは息を呑む寺井尚之のピアノタッチの至芸で。
 
6.Eclypso
 
  〈エクリプソ〉は、フラナガンのオリジナル作品中、最も有名な曲だ。『Overseas』('57)や『Eclypso』('75)を始め、繰り返し録音している。"Eclypso"は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
  寺井尚之にとっては、フラナガンからNYに招かれて、数週間、様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井の名前をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。
7. Dalarna

 『Overseas』に収録された美しいバラードで、印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。"ダラーナ"は、『Overseas』を録音したスウェーデンの観光地の名前だ。
 フラナガンは『Overseas』に録音して以来、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』('95)の演奏に触発され、そのままのアレンジで『Sea Changes』('96)に再収録している。

 
8. Tin Tin Deo

   フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに演奏するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。
 フラナガンの秀逸なアレンジは寺井尚之The Mainstemがしっかりと受け継いでいる。
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 2nd Set 
 1.That Tired Routine Called Love

  作曲者マット・デニスは弾き語りの名手として、また〈エンジェル・アイズ〉を始めとするフランク・シナトラの数々のヒットソングの作者として有名だ。デニスはナイトクラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招き共演したが、彼の作品もまたジャズメン好みのものだった。JJジョンソンは'55年、超高級ナイト・クラブ"チ・チ"(右写真)でデニスのショウにゲスト出演しており、フラナガン参加アルバム《First Place》にこの曲を収録。約30年後、フラナガン自身は名盤《Jazz Poet》('89)に収録、録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを遥かに凌ぐアレンジに仕上がっていた、現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。
寺井は《Anatommy》('93)に収録。

 
 2. They Say It's Spring

 フラナガンが“スプリング・ソングス”と呼び、春に愛奏した演目の一つ。
 作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟で、俳優、歌手、TV番組のホストとして人気を博した。
 この曲がヒットしたのは'50年代中盤で、歌っていたのはカリスマ的人気歌手ブロッサム・ディアリーだった。ディアリーは、J.J.ジョンソンのバンド仲間、ボビー・ジャスパー夫人であったことから、フラナガンはディアリーのライブをよく聴きに行き、この曲を覚えたそうだ。'70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に名演を遺している。 
 
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 3. A Sleepin' Bee
  これも、フラナガン的スプリング・ソング。Aペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。 トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽で、カリブの愛らしい娼婦の恋と冒険を描くブロードウェイ・ミュージカル「A House of Flowers」で、主演女優ダイアン・キャロル(右写真)が歌った。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にした可愛らしいラブ・ソング。フラナガンのバージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。トリビュートではそのアレンジで演奏。 

 
 4.Minor Mishap
   人気盤『The Cats』で初演されたフラナガンのオリジナル。アルバムの人気とは裏腹に、ワンテイク録りの演奏内容は、フラナガンにとって到底満足の行く出来ではなく、そのためにMinor Mishap(ささやかなアクシデント)という曲名がついた。以来フラナガンは、初演をリヴェンジする如く長年愛奏し、強烈なデトロイト・ハードバップの魅力を聴かせた。 寺井尚之の名演目でもある。
 
 
5.Passion Flower
 
作者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した作品。フラナガン・トリオ時代のジョージ・ムラーツの十八番。トリビュートでは宮本在浩(b)が素晴らしい弓の妙技を聴かせてくれる。 

 パッション・フラワー('44作)は日本語でトケイソウと呼ばれ、一風変わった幾何学的な形は、欧米で磔刑のキリストに例えられる黒人のゲイ、二重に差別を受ける自分自身を、この花に例えたのかもしれない。
 
 ムラーツは独立した後もこの曲を愛奏、リーダー作 My Foolish Heart('95)にも収録している。
 
6. Mean Streets
 OverSeasでは菅一平(ds)の名演目。元々『Overseas』('57)に"Verdandi"という曲名で収録。エルヴィン・ジョーンズのドラムソロをフィーチュアした。20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして盛んにライヴ で演奏した。その際、ケニーのニックネームだった"ミーンストリーツ"に改題し『Jazz Poet』に収録した。トリビュート・コンサートでは菅一平のドラムソロに会場が沸きに沸いた。
 
 8.Easy Living

恋に溺れると、生きてることが楽になる。私の人生はあなただけ・・・〈Easy Living〉は、悩みを抱える若きバッパーたちに大きな共感を呼んだ。
 フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之は涙でピアノの鍵盤を濡らしながらこの曲を弾いた。それから、16年の歳月が経ち、その哀しみは美しいピアノの響きの中に昇華されている。
 
  9.Our Delight
 
 ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。フラナガンはダメロン作品には「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」と言い、ライヴを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。
 
 
   
 Encore
1. With Malice Towards None
 フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュ(右写真)初期の作品。
 「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言で、メロディは賛美歌を基にしたスピリチュアルな曲。
 この曲が生まれた頃、マッキントッシュとフラナガンは住まいが近所で親しく行き来しており、フラナガンはこの曲の創作過程に立ち会って、自分のアイデアを盛り込んだ。この曲には、他にも多彩な編成で多くの録音があるものの、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈は傑出している。
 
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2. Like Old Times 
 
 
フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。ご機嫌なときはポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出して、ここぞのタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』('59)に収録されている。
 今夜のコンサートでは、やはり寺井も隠し持っていたホイッスルを鳴らし大喝采。トミー・フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。

 トリオの演奏は『Nights at the Vanguard』(Uptown)に収録されている。
 
 

トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
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