第26回

=トミー・フラナガンを愛奏曲で偲ぶ


2017年11月18日
トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明
Tamae Terai

本コンサートの3枚組CDをご希望の方はJazz Club OverSeasまでお申し込みください。
Performed by "The Mainstem" TRIO


寺井尚之(p)

The Mainstem Trio :Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums
 
宮本在浩(b)
 
菅一平 (ds) 


<第31回プログラム>

<1部>

1. Beats Up (Tommy Flanagan)
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
3. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan)
4. Embraceable You (George Girshwin)- Quasimodo (Charlie Parker)
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)


<2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. Smooth As the Wind (Tadd Dameron)
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. Thelonica (Tommy Flanagan)- Epistrophy (Thelonious Monk)
5. Lament (J.J.Johnson )
6. Mean Streets (Tommy Flanagan)
7. I Cover the Waterfront (Johnny Green)
8. Our Delight (Tadd Dameron)

Encore: 1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
2. Ellingtonia: Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
Passion Flower (Billy Strayhorn)
Black and Tan Fantasy (Duke Ellington)


曲目解説

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」- トミー・フラナガン
トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガン物語、寺井尚之メインステムが心をこめて綴ります。

1st Set
1. Beats Up

 1957年に『OVERSEAS』に収録した初期のオリジナルで、リズム・チェンジのリフ・チューン。
 “Beat Up”の意味は「最悪」だったり、「すごく楽しい」だったり色々だ。
 『OVERSEAS』を録音したストックホルムのスタジオは、浸水被害の後でひどい状態だったとフラナガンは証言し、エルヴィン・ジョーンズは、差し入れのビールをたっぷり飲みながらのゴキゲンなセッションだったと回想している。
 『OVERSEAS』から40年後、『Sea Changes』('97)に再録音、

2.Beyond the Blue Bird

 《ブルー・バード》は、青年時代のフラナガンがサド・ジョーンズ(cor.tp)と共に、毎夜、デトロイトの黒人居住地で熱い演奏を繰り広げたジャズクラブ《ブルーバード・イン》のこと。若き日々へのノスタルジ−溢れる曲。
 フラナガンは、《ブルーバード・イン》と《OverSeas》の雰囲気はよく似ていると言ってくれたが、今もそうありたい。
 親しみやすいメロディでありながら、転調が多く、弾くのは大変むずかしい。左手による"返し"のメロディーは、デトロイト・バップの特徴だ。
 寺井尚之はアルバム・リリース前に、フラナガンに、この曲の演奏を許されたことを、今も誇りにしている。
3.Rachel's Rondo
 フラナガンの最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』('80)に収録したが、ライヴでは余り演奏することはなかった。

 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』('94)に収録している。フラナガン流の気品あるピアノのサウンドを活かした 秀作。
4.メドレー: Embraceable You - Quasimodo

 トミー・フラナガン伝説のメドレー。 ガーシュイン作の有名スタンダード・ナンバー〈エンブレイサブル・ユー〉(抱きしめたくなるほど愛らしい君)のコード進行を基にして、チャーリー・パーカーが作ったバップ・チューンが〈カジモド〉だ。カジモドとは、「怪物」のように醜い「ノートルダムのせむし男」の名前だ。原曲とバップ・チューンを絶妙な転調で結ぶ意表をついたフラナガンのメドレーは、本当の「美」とは何か?という問いを投げかけたパーカーに対する、フラナガンの回答だった。フラナガンがライヴで演奏した様々なメドレーは定評があり、その中でもこのメドレーは白眉と言える。だが、残念なことに、レギュラー・トリオによるレコーディングは遺されておらず、今はトリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。

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5. If You Could See Me Now


  フラナガンが愛した作曲家、タッド・ダメロンの作品。かつてフラナガンは「ダメロンの曲には、オーケストラのサウンドが組み込まれているので弾きやすい。」という名台詞を遺した。
 この曲は1946年に、当時売り出し中の新人歌手だったサラ・ヴォーンのためにダメロンが書き下ろしたバラード。トリビュートで用いたアレンジは、1981年にサラ・ヴォーンがカウント・ベイシー楽団とリメイクしたアルバムのヴァージョンにインスピレーションを受けたフラナガンのもの。
 寺井が悔やむのは、師匠よりさきに『Flanagania』に収録してしまったために、フラナガン自身がレコーディングをしなかったことだ。
 
6.Eclypso
 
  フラナガンのオリジナル作品中、最も有名な曲。『Overseas』('57)や『Eclypso』('75)を始め、繰り返し録音している。"Eclypso"は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
  寺井尚之にとっては、フラナガンからNYに招かれて、数週間、様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井の名前をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。
7. Dalarna

 『Overseas』に収録された美しいバラードで、印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。"ダラーナ"は、『Overseas』を録音したスウェーデンの観光地の名前だ。
 フラナガンは『Overseas』に録音して以来、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』('95)の演奏に触発され、そのままのアレンジで『Sea Changes』('96)に再収録している。

 
8. Tin Tin Deo

   フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに演奏するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。
 フラナガンの秀逸なアレンジは寺井尚之The Mainstemがしっかりと受け継いでいる。
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 2nd Set 
 1.That Tired Routine Called Love

  作曲者マット・デニスは弾き語りの名手として、また〈エンジェル・アイズ〉を始めとするフランク・シナトラの数々のヒットソングの作者として有名だ。デニスはナイトクラブに出演する際、一流ジャズメンをゲストに招き共演したが、彼の作品もまたジャズメン好みのものだった。JJジョンソンは'55年、超高級ナイト・クラブ"チ・チ"(右写真)でデニスのショウにゲスト出演しており、フラナガン参加アルバム《First Place》にこの曲を収録。約30年後、フラナガン自身は名盤《Jazz Poet》('89)に収録、録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを遥かに凌ぐアレンジに仕上がっていた、現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。
寺井は《Anatommy》('93)に収録。

 
 2. Smooth As the Wind
 1-5同様、フラナガンが愛奏したタッド・ダメロンの作品でブルー・ミッチェル(tp)のストリングス入り豪華アルバム('61)のタイトル曲、アルバムにはトミー・フラナガンも参加している。
 「ビバップ・ロマン派」と称されるダメロンらしい名曲。ハーモニーの色合いの絶妙な変化が、ピアノ・トリオのサウンドで表現される。OverSeasで最も人気のある曲のひとつ。

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 3. Minor Mishap
   人気盤『The Cats』で初演されたフラナガンのオリジナル。アルバムの人気とは裏腹に、ワンテイク録りの演奏内容は、フラナガンにとって到底満足の行く出来ではなく、そのためにMinor Mishap(ささやかなアクシデント)という曲名がついた。以来フラナガンは、初演をリヴェンジする如く長年愛奏し、強烈なデトロイト・ハードバップの魅力を聴かせた。 寺井尚之の名演目でもある。
 
 4.Thelonica - Epistrophy
 〈セロニカ〉は、セロニアス・モンクと、パノニカ男爵夫人の稀有な友情に捧げて作られたトミー・フラナガンのオリジナル、ジョージ・ムラーツ(b)、アーサー・テイラー(ds)とのトリオによるアルバム『Thelonica』はグラミ−賞にノミネートされた、。続く〈エピストロフィー〉はモンクらしいリズムが内包された作品で、フラナガンがOverSeasでの初コンサートで演奏した作品。
 
 
5.Lament
 
フラナガンがレギュラー・ピアニストを務めたトロンボーンの神様、J.J.ジョンソンの代表曲。 『嘆きの曲』でありながら、センチになり過ぎず品格を保っている。その辺りがフラナガンの美意識と一致したのか、ライブで盛んに愛奏し、アレンジが洗練されていった。ピアノ・トリオでの録音は、《Jazz Poet》('89)のみ。この演奏も素晴らしいものだが、トリビュート・コンサートでのセカンド・リフは録音後のアレンジで、寺井が大切に引き継いでいる。
 
6. Mean Streets
 OverSeasでは菅一平(ds)の名演目。元々『Overseas』('57)に"Verdandi"という曲名で収録。エルヴィン・ジョーンズのドラムソロをフィーチュアした。20年後、レギュラー・ドラマーに抜擢したケニー・ワシントン(ds)のフィーチュア・ナンバーとして盛んにライヴ で演奏した。その際、ケニーのニックネームだった"ミーンストリーツ"に改題し『Jazz Poet』に収録した。トリビュート・コンサートでは菅一平のドラムソロに毎回会場が沸く楽しい作品。
 8. I Cover the Waterfront

 トミー・フラナガンのアイドルだったビリー・ホリディのヒット曲。夜の波止場で帰らぬ恋人を想う切ない歌。
 「ビリー・ホリディを聴け!」生前のフラナガンは、若き寺井尚之にこう命じた。それほど、ビリー・ホリディはトミー・フラナガンの演奏解釈に大きな影響を与えたアーティストだったのだ。  フラナガンの薫陶を受けた、寺井のビリー・ホリディに対するイメージは、師匠のものより、幾分明るく可愛らしいもののように見える。
 この曲のイントロに、愛する女性から去っていくフーテンの寅でおなじみの「男はつらいよ」のテーマを挿入するのが寺井流。
 
  9.Our Delight
 
 フラナガンがライヴを最高に盛り上げるラスト・チューンとして愛奏した。タッド・ダメロンの代表作と言える作品だ。元々ビッグバンド用で、強烈なダイナミズムを持つ曲の持ち味を活かしながら、ピアノ・トリオでやってのけるところがフラナガンの特徴のひとつだ。だが、トリオでの録音はなく、ハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオでのレコーディングが存在するのみ。
 バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは、いま寺井しかいない。
 
 
   
 Encore
これがフラナガン流ブラック・ミュージックだ!
1. With Malice Towards None
 トム・マッキントッシュ(tb)の感動的な作品。メロディーは、賛美歌の「主イエス我を愛す」が元になっている。フラナガンが愛奏した作曲家、マッキントッシュは、ディジー・ガレスピー楽団や、ベニー・ゴルソン+アート・ファーマーの名コンボ『ジャズテット』に在籍、多くの楽曲やアレンジを提供したが、その“ブラック”な魅力を最大限に引き出したアーティストはフラナガンだろう。
 「誰にも悪意を向けずに」と言う少し変ったタイトルは、エイブラハム・リンカーンの演説の引用で、ワシントンDCにあるリンカーン記念館の壁面にこの言葉がレリーフ彫刻されている。
 
  晩年のトミー・フラナガンは、大規模なジャズクラブ《ブルーノート》に出演するためたびたび来日した。毎日移動のあるツアーよりずっと身体的に楽だったからだ。そんな時は、この曲が大好きなOverSeasの常連客が大挙してフラナガンを聴きに行くのが常だった。フラナガンがこの曲をコールすると、OverSeasの仲間達が大歓声が巻き起こす。するとフラナガンは、皆の顔を良く覚えていて、ちょっと得意げに、鼻を膨らませ、魂を揺さぶるような名演奏を披露したものだ。

 フラナガンはデュオで《Ballads & Blues》('75)、トリオでは《The Birthday Concert》('98)、フランク・モーガン名義の《You Must Believe In Spring》('92)にはソロで録音。 参加盤として《Dusty Blue / Howard McGhee》《Vibrations/Milt Jackson》('60)(Mallets Towards Noneというタイトルで) に収録。寺井は《AnaTommy》('93)に収録。
 
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2. Medley:Ellingtonia
  
 
  〈エリントニア〉もまた、フラナガン伝説のメドレー。
 '84年にフラナガンが初めて《Overseas》でコンサートを行なった時に演奏した長尺の〈エリントニア〉は、寺井の心に刻み込まれている。
 
 Chelsea Bridge 
フラナガンが《Overseas》('57)や、《Tokyo Ricital》('75)に録音している極めつけの名演目。ストレイホーンがホイッスラーの絵画に霊感を受け作曲したと言われている。
 若き日のフラナガンはOverseas録音直前に、偶然NYの街で憧れのストレイホーンに出会った。「私は今度、尊敬するあなたの作品をレコーディングさせて頂きます。」と自己紹介すると、ストレイホーンは楽譜出版社にフラナガンを伴い、自作品の譜面の束をごっそりと与えた。当時フラナガン27歳、ビリー・ストレイホーン42歳の運命的な出来事だ。
 
 Passion Flower 
 内面に激しさを秘めた神秘的なバラード、
 ストレイホーン作品には“花”に因んだものが多い。祖母の家の美しい庭で遊んだ幼い頃の記憶に起因していると伝えられる。パッション・フラワー('44作)は日本語ではトケイソウと言われ、欧米では磔刑のキリストに例えられる。この作品はストレイホーン自身が最も愛奏したものだ。差別の厳しかった時代に、黒人でゲイであり、エリントンの“影の存在”として、公の賞賛を受けることのなかった不遇の芸術家、ストレイホーンは、この花に自分自身の姿を見ていたのかもしれない。
 ジョージ・ムラーツ在籍時代のフラナガン・トリオでは、弓の妙技を披露するナンバーとして毎夜必ず演奏された。トリビュート・コンサートでは宮本在浩(b)のフィーチュア・ナンバー!

 フラナガンは《Positive Intensity》('75)に収録。
 
  Black & Tan Fantasy 黒と茶の幻想/Duke Ellington
  1920年代後半のエリントン楽団のヒット曲。
 晩年のフラナガンは、ファッツ・ウォーラーやアート・テイタムなど、ビバップ以前のナンバーを独自の演奏解釈で盛んに取り上げ、新境地を開拓した。これもその内のひとつだ。プリミティブなスリー・コード・ブルース形式で、ブラックな魅力に溢れている
 密かに心臓に動脈瘤を抱え、ステージで発作に襲われながら演奏した事もあるフラナガンがエンディングで葬送行進曲を弾くのは、シニカルな意味があったのだろうか。
 亡くなる前年、フラナガンが来店したときに、寺井尚之が聴かせたこのナンバーは、フラナガンよりもエリントン楽団のアレンジを多く取り入れたもので、滅多に褒めない師匠が、珍しく絶賛してくれた。
 フラナガン・ミュージックの“ブラック”な本質を露にするこの演目、だがトミー・フラナガンは録音することなく終わってしまった。ぜひ、寺井尚之にレコーディングしてもらいたいものだ。
 

トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:3枚組CDがあります。
OverSeasまでお問い合わせ下さい。

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