=トミー・フラナガン生誕89周年を愛奏曲で偲ぶ


第34回トリビュート・コンサート 2019年3月16日
トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明
Tamae Terai

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Performed by "The Mainstem" TRIO


寺井尚之(p)

The Mainstem Trio :Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums
 
宮本在浩(b)
 
菅一平 (ds)


<第34回プログラム>

 <1部>

1. 50-21 (Thad Jones)
2. Beyond the Blue Bird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
3. Rachel's Rondo レイチェルのロンド (Tommy Flanagan)
4. メドレー: Embraceable You エンブレイサブル・ユー (George Gershwin)
   〜 Quassimodoカジモド (Charlie Parker)
5. Sunset and the Mocking Bird サンセット&ザ・モッキンバード (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
6. Eclypso エクリプソ (Tommy Flanagan)
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo ティン・ティン・デオ (Chano Pozo, Gill Fuller, Dizzy Gillespie)

<2部>

1. Minor Mishap マイナー・ミスハップ (Tommy Flanagan)
2. They Say It's Spring ゼイ・セイ・イッツ・スプリング (Bob Haymes)
3. A Sleepin' Bee スリーピン・ビー (Harold Arlen )
4. Elusive イルーシヴ (Thad Jones)
5. Passion Flowerパッション・フラワー ( Billy Strayhorn)
6. Mean Streets ミーン・ストリーツ (Tommy Flanagan)
7. Easy Living イージー・リヴィング (Ralph Rangerl)
8. Our Delight アワ・デライト (Tadd Dameron)


Encore: With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)
      Like Old Times ライク・オールド・タイムズ (Thad Jones)


曲目解説

「演奏するからには、しっかり準備をして、そこに或る思いを込めたい。」- トミー・フラナガン
トリビュート・コンサートは、トミー・フラナガン物語、寺井尚之メインステムが心をこめて綴ります。

1st Set
1. 50-21
 フラナガンが「天才」と呼んだコルネット奏者、サド・ジョーンズの作品。
 〈50-21〉はフラナガンがサドとレギュラー出演したデトロイトのジャズクラブ“ブルーバード・イン”の番地だ。
 このジャズクラブはデトロイトのウエストサイドの黒人居住地内のタイヤマン地区にあった。 当時の米国は人種隔離社会で、黒人ミュージシャンが白人客しか入れないジャズクラブで演奏することも珍しくなかった。しかし“ブルーバード・イン”は黒人客主体の一流ジャズクラブとして非常に特別な場所だった。
 黒人の街の番地を冠した曲名も、フラナガンがこの作品を愛した理由なのかもしれない。フラナガン終生の愛奏曲。


『レッツ』

2.Beyond the Blue Bird
  上の〈50-21〉でサド・ジョーンズが謳った《ブルーバード・イン》を偲び、フラナガン自身が作ったノスタルジックな曲。
 かつてフラナガンは、《ブルーバード・イン》と《OverSeas》の雰囲気はよく似ていると言ってくれた。
 親しみやすいメロディながら、転調が多く、弾くのは大変むずかしい。左手で主旋律に呼応する"返し"のメロディーを入れるスタイルは、デトロイト・バップの特徴だ。
 寺井尚之はリリース前、フラナガンに、この曲の演奏を許されたことを、今も誇りにしている。

『ビヨンド・ザ・ブルーバード』
3.Rachel's Rondo
 最初の妻、アンとの間に生まれた美しい長女レイチェルに捧げた作品。フラナガンは『Super Session』('80)に収録したが、ライヴでは余り演奏することはなかった。

 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏し、『Flanagania』('94)に収録。冴え渡るピアノのサウンドを活かす気品溢れる秀作。

『スーパー・セッション』

4.メドレー: Embraceable You - Quasimodo

 トミー・フラナガン伝説のメドレー。 
 チャーリー・パーカーは、ガーシュイン作の有名スタンダード・ナンバー〈エンブレイサブル・ユー(抱きしめたいほど愛らしい君)〉のコード進行を基にして作ったバップ・チューンに、醜い「ノートルダムのせむし男」の名前(カジモド)というタイトルを付けた。この2曲を絶妙な転調で結びつけるという意表をついたメドレーは、パーカーが、この曲名で投げかけた問い対するフラナガンの答えだ。
 フラナガンのライヴの呼び物だった数あるメドレーの内でも、このメドレーの完成度は最高の一作。残念ながら、レギュラー・トリオによるレコーディングは遺されておらず、今はトリビュート・コンサートでその素晴らしさを偲ぶしかない。

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『チャーリー・パーカー/カジモド
ザ・ダイアル・セッションズ』

5. Sunset & the Mockingbird

   エリントン&ストレイホーンによる作品で、フラナガン67才のバースデイ・コンサートのライヴ盤(右写真)のアルバム・タイトルにもなっており、89回目の生誕日に演奏することも感慨深い。
 エリントン・ミュージックはフラナガンにとって、黒人音楽(ブラック・ミュージック)の理想形だった。
 この曲は、エリントンがフロリダ半島をハリー・カーネイ(bs)運転の車で移動中、夕焼けの中で不思議な鳥の鳴き声を聴いて、瞬く間に書き上げた曲とされている。(エリントン自伝『Music is my mistress』より) 
 そしてこの曲は、エリザベス女王に献上するために自費録音してたった一枚だけプレスしたアルバム『女王組曲』に収録され、エリントンの死後、NYのFMラジオのジャズ番組のテーマ・ソングとして使用された。フラナガンはそのラジオ番組から聴き覚えて(!)レパートリーに加えたという。 
 トリビュート・コンサートでは息を呑む寺井尚之のピアノタッチの至芸で。
 

『サンセット&ザ・モッキングバード
−ザ・バースデー・コンサート』

6.Eclypso
 
  〈エクリプソ〉は、フラナガンのオリジナル作品中、最も有名な曲だ。『Overseas』('57)や『Eclypso』('75)を始め、繰り返し録音している。"Eclypso"は「Eclipse(日食、月食)」と「Calypso (カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンを含めバッパーは、言葉の遊びが好きで、そんなウィットがプレイにも反映している。
  寺井尚之にとっては、フラナガンからNYに招かれて、数週間、様々なことを学んだ最後の夜《ヴィレッジ・ヴァンガードで寺井の名前をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。

『エクリプソ』

7. Dalarna


 『Overseas』に収録された美しいバラードで、印象派的な曲想にビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。"ダラーナ"は、『Overseas』を録音したスウェーデンの観光地の名前だ。
 フラナガン自身は『Overseas』以降、めったに演奏しなかったが、寺井尚之のアルバム『ダラーナ』('95)の演奏に触発され、そのままのアレンジで『Sea Changes』('96)に再収録している。

 

『シー・チェンジズ』

8. Tin Tin Deo

   フラナガンは、ビッグバンドの演目を、コンパクトなピアノ・トリオ編成でダイナミックに演奏するのを得意にしていた。この曲は、哀愁に満ちたキューバの黒人音楽と、ビバップの洗練されたイディオムが見事に融合したブラック・ミュージックだ。
 ディジー・ガレスピー楽団がこの曲を初録音したのはデトロイトで、フラナガンの親友、ケニー・バレル(g)が参加した。フラナガンにはその当時の特別な思い出があったのかもしれない。
 フラナガンの秀逸なアレンジは寺井尚之The Mainstemがしっかりと受け継いでいる。
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収録アルバム
『フラナガンズ・シェナニガンズ』
 2nd Set 
 1. Minor Mishap
  名盤の呼び声高い『The Cats』(Prestige)で初演されたフラナガンのオリジナル。アルバムの人気とは裏腹に、ワンテイク録りの演奏内容は、フラナガンにとって到底満足の行く出来栄えではなく、そのためにMinor Mishap(ささやかなアクシデント)という曲名がついた。
 以来フラナガンは、初演のリヴェンジをするように長年愛奏し、強烈なデトロイト・ハードバップの魅力を聴かせた。 寺井尚之の名演目でもある。

 
『ザ・キャッツ』
 
2. They Say It's Spring
 フラナガンが“スプリング・ソングス”と呼び、春に愛奏した演目の一つ。
 作曲者、ボブ・ヘイムズは人気歌手ディック・ヘイムズの弟で、俳優、歌手、TV番組のホストとして人気を博した。
 この曲がヒットしたのは'50年代中盤で、歌っていたのはカリスマ的人気歌手ブロッサム・ディアリーだった。ディアリーは、J.J.ジョンソンのバンド仲間、ボビー・ジャスパー夫人であったことから、フラナガンはディアリーのライブをよく聴きに行き、この曲を覚えたそうだ。'70年代にジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に名演を遺している。 
 
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『バラッズ&ブルース』
 
3. A Sleepin' Bee

  これも、フラナガンのスプリング・ソング。Aペダルの軽快なヴァンプが春の浮き浮きした気分にぴったりだ。 トルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽で、カリブの愛らしい娼婦の恋と冒険を描くブロードウェイ・ミュージカル「House of Flowers」で、主演女優ダイアハン・キャロルが歌った。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの言い伝えを元にした愛らしいラブ・ソング。

 フラナガンのバージョンを基に、すっきりと切り詰めた寺井尚之のアレンジをフラナガンは大いに褒めてくれた。トリビュートではそのアレンジで演奏。 

 
「ハウス・オブ・フラワーズ」
 
4. Elusive
 elusiveは「雲をつかむように捉えどころがない、表現しにくい、」という意味のことばで、その名のごとく、サド・ジョーンズらしい悪魔的なスリルに溢れた曲。'50年代のデトロイトで、フラナガンはジョーンズと共に、この難曲を、いとも容易く演奏していた。デトロイト・ハードバップの中でも、最もハードルの高い曲だが、トリビュートではトリオが三位一体となって、素晴らしい浮揚感を生み出した。   

サド・ジョーンズ(1923−86) 
 
5.Passion Flower
 
ベーシスト、宮本在浩をフィーチャーして、フラナガン・トリオでジョージ・ムラーツ(b)が弓の妙技を聴かせた名演目を!
 
 パッション・フラワー('44作)は日本語でトケイソウと呼ばれ、一風変わった幾何学的な形は、欧米で磔刑のキリストに例えられる。作曲者ビリー・ストレイホーン自身も愛奏した曲だ。ストレイホーンは、トケイソウの花に、黒人として、LGBTとして差別を受け、苦しむ自分の姿を見た のかもしれない。
 
 ムラーツは独立した後もこの曲を愛奏、リーダー作 My Foolish Heart('95)にも収録している。
 
フラナガン&ジョージ・ムラーツ

6. Mean Streets
 この曲は元々〈Verdandi(ヴァーダンディ)〉というタイトルでエルヴィン・ジョーンズのドラムをフィーチャーし『Overseas』('57)に収録されている。
 20年後、フラナガンが、当時新進気鋭の若手ドラマーだったケニー・ワシントンをレギュラーに抜擢したのを機に、ワシントンのニックネームである〈Mean Streets〉に改題し、彼をフィーチュアして盛んにライヴで演奏し『Jazz Poet』にも収録した。
 トリビュート・コンサートでは、菅一平のドラムソロをフィーチャーして、毎回会場を沸かせている。
 
『ジャズ・ポエット』
 
8.Easy Living
 恋に溺れると、生きているのが楽になる。私の人生はあなただけ・・・ビリー・ホリディの名唱で知られる〈Easy Living〉は、悩み多き若きバッパーたちに大きな共感を呼んだ。
 フラナガンが亡くなった夜、寺井尚之は涙でピアノの鍵盤を濡らしながらこの曲を弾いた。それから、18年の歳月が経ち、その哀しみは美しいピアノの響きの中に昇華されている。
 
ビリー・ホリディ(1915-59)

 
9.Our Delight
 
 ビバップの立役者の一人、ピアニスト、作編曲家、タッド・ダメロンの代表作。
フラナガンは、ダメロン作品を 「オーケストラの要素が内蔵されているので非常に演りやすい。」 と言い、ライヴを最高に盛り上げるラスト・チューンとして盛んに愛奏した。それにもかかわらず、レコーディングはハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオしか残されておらず、バップの醍醐味が炸裂するスリリングなフラナガンのアレンジを再現できるのは寺井しかいない。
 
 
   
 Encore
1. Like Old Times  
 
フラナガンがアンコールで頻繁に演奏した作品。ご機嫌なときはポケットの中から小さなホイッスルをこっそり取り出して、ここぞのタイミングで、ピューッと吹いて会場を多いに湧かせた。サド・ジョーンズ名義の『Motor City Scene』('59)に収録されている。
 今夜のコンサートでは、やはり寺井も隠し持っていたホイッスルを鳴らし大喝采。トミー・フラナガンが元気だった「昔のように」楽しい空気が満ち溢れた。

 トリオの演奏は『Nights at the Vanguard』(Uptown)に収録されている。

トム・マッキントッシュ
(1927-2017) 
2. With Malice Towards None
 フラナガンが、真の「ブラック・ミュージック」として愛奏したトム・マッキントッシュ(右写真)初期の作品。
 「誰にも悪意を向けずに」という題名は、エイブラハム・リンカーンの名言で、メロディは賛美歌を基にしたスピリチュアルな曲。

 この曲が生まれた頃、マッキントッシュとフラナガンは住まいが近所で親しく行き来しており、フラナガンはこの曲の創作過程に立ち会って、自分のアイデアを盛り込んだ。この曲には、他にも多彩な編成で多くの録音があるものの、フラナガンのスピリチュアルな演奏解釈は傑出している。
 関連ブログ
 
『ナイツ・アット・ザ・ヴァンガード』
 

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