Jazz Poet →The Mainstem

 新春ジャズ講座に遂に待望の『Jazz Poet』が登場!寒い夜にも拘らず、沢山お集まり頂きありがとうございました。
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  1. Raincheck
  2. Lament
  3. Willow Weep for Me
  4. Caravan
  5. That Tired Routine Called Love
  6. Glad to Be Unhappy
  7. St. Louis Blues
  8. Mean Streets
  9. *I’m Old Fashioned (add)
  10. *Voce A Buso(add)

 ジャズ詩人”Jazz Poet”という言葉は、元々、雑誌”The New Yorker”でトミー・フラナガンの特集記事が出た時の見出しでした。”The New Yorker”は「知的で洗練されたNY」を具現する大人の雑誌。長年ジャズコラムを担当していたホイットニー・バリエットが名付け親。フラナガン夫妻は、コマーシャリズムの影響を受けない”The New Yorker”のバリエットの評論と、このニックネームをとても気に入っていて、自己プロデュースのこのアルバムのタイトルにしたんです。
 日本では、フラナガンの代表作は今も『Overseas』ですが、米国では『Jazz Poet』の方がずっと評価が高い。メジャーのレコード会社製作でないのに、ビルボード誌「最優秀ジャズ・アルバム」やグラミーにノミネートされ、ダウンビートやジャズ・タイムズの人気投票で一位になった。’90年代の新しいジャズ・ファンに、フラナガンのバップの香りと、気品ある演奏スタイルが受け容れられたのだと、ジャーナリストのM.J. Andersenは述べています。
 上のオリジナルLPのジャケット写真は、数あるトミー・フラナガンのポートレートの中でも最もトミーの個性が出ていて素敵ですよね。実はこのポートレートを撮影したのはジャズ写真家ではなく、リチャード・デイビス(!)というモード系フォトグラファー、落ち着いた錆色のプリントとパノニカの令嬢ベリットの特徴あるレタリング、すっきりしたジャケットデザインも、フラナガンの音楽スタイルにしっくり合っています。
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リチャード・デイビスの撮影したファッション写真はRichard Avedonをガサツにした感じ。Poetのポートレートの方がよく見えるのは被写体のせいなのかな・・・
 講座では、寺井尚之がトミー・フラナガンに頂いた原盤のLP、その後出たCD、フラナガンの意に反して発売されてしまった『Please, Requeat Again』というタイトルの日本盤のジャケット・デザインや曲順を比較しながら、タイムレス原盤LPには、フラナガンの配慮が隅々に行き届いていたことを実感できました!掲示板にむなぞうくんが書いていたけど、曲順は本当に大切ですね!
 エリントン楽団やマット・デニスなど、収録曲のオリジナル・ヴァージョンと『Jazz Poet』を聴き比べ、フラナガンがどの部分を取り入れてアレンジしているのか、録音後『Jazz Poet』の収録曲が、バンドスタンドでどのように発展していったのかを見つめていた寺井尚之の解説を聞いていると、フラナガンのアートはピカソやダ・ビンチに負けないほど、日々進化していると判り、面白かった~
 演奏は、どれもこれも肩の力が抜けていて、いとも容易に聴こえるけれど、実際は各メンバー(ジョージ・ムラーツ、ケニー・ワシントン)に卓抜した技量があり、レギュラーで活動しているからこそ出来るプレイであることが、講座で改めてよく判りました。
「灼熱の砂漠をエアコン完備の駱駝に乗って旅をしているように爽快なCaravan」という寺井尚之の名言に場内爆笑!
 来月の講座は『Beyond the Bluebird』をたっぷり解説いたします。当時のフラナガンを公私に渡って知っている寺井尚之だからこその、面白くてためになる解説が聞けますよ。2月12日(土)は予定を空けておいてくださいね!
 そして今週(土)は寺井尚之The Mainstemのライブです。『Jazz Poet』の名曲の数々を演奏予定!こちらも絶対聴き逃せません。こちらもぜひお待ちしています!
CU

Evergreen物語(4)恋は終わり、唄は続く: I’m Thru with Love

 お正月明け、やっぱり寒いですね!十日戎の賑わいから離れ、Evergreen物語を書いています。
 今日は第4曲目、“I’m Thru with Love”のお話ですが、昨年10月『Evergreen』の録音よりずっと前、対訳ノートに、マリリン・モンローの映画『お熱いのがお好き』に因むお話を、お調子に乗って沢山書きました。
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<A Song of Great Depression>
 “I’m Thru with Love”が最初にヒットしたのも、『お熱いのがお好き』の時代設定も1931年、アメリカは禁酒法時代、’そして世界恐慌(Great Depression)真っ只中です。
 米国では、成人男子の内、4人に一人が失業していたそうですから、今の不況よりも厳しかったかも知れません。大学を出た人たちが、教会が出してくれる食事を求めて列を成して並んでいたという時代。今頃の寒さに耐えるのは、さぞ厳しかったことでしょう。
 そして、不況の時代を反映した当時のポップ・ソングは、“Songs of Great Depression”(恐慌時代の歌)と呼ばれています。
 
 例えば”I’m Thru with Love”と同じくビング・クロスビーの歌った“Brother, Can You Spare a Dime”はこんな歌詞です。
「俺もひと旗上げようと、
鉄道やビル建設でがんばった。
今じゃパンをめぐんでもらうため
長い列に並ぶ始末。
なあ、ブラザー、
お前と俺は友達だろ、
10セント貸してくれ。」

 日本でも、小津安二郎の映画から、「大学は出たけれど」というのが流行語になっていたそうで、閉塞感は現代と共通しているように思えます。
 “Depression”には、「不況」と「絶望」、両方の意味がありますから、“I’m Thru with Love”は二重の意味で、”A Song of Great Depression”ですね!
<恋は終われど名演は続く>
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 “I’m Thru with Love”の作曲者J.Aリビングストンが、ポール・ホワイトマン楽団の専属アレンジャーであったことを考えると、恐らくは楽団のレパートリーであったのだろうと思います。そして楽団のスター歌手だったビング・クロスビーのブランズウィック盤が、’31年、ヒット・チャートの第三位にランクされています。
 クロスビーは、マイクの発達で、声を張り上げずにソフトに歌う「クルーナー唄法」のパイオニアですが、この頃はまだまだ、バンドシンガーらしい感じがします。ダンス・ミュージックで、露骨な「貧乏」感はないものの、「春にさよならを言おう。もう二度と恋はしない。」という男性の脱Love宣言は、時代が反映しているのかも。
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Evergreen_cover.JPG 寺井尚之が大好きなマット・デニスのヴァージョンは、クロスビーのヴァージョンが、もっと粋でモダンな雰囲気に磨き上げられています。25年の歳月を経た分、進化と発展があります。
 そして寺井尚之の『Evergreen』は、粋なマット・デニスに、バップの香りが更に加わった感じ!ビング・クロスビー、マリリン・モンロー、マット・デニスと、名作の系譜をずっと辿りながら、『Evergreen』を聴くと、楽しみが一層深まります。
 もうお聴きになりましたか?
CU

Evergreen物語(3) 名曲物語「枯葉」

 寒い日が続きますね!大雪被害のニュースを観ていると他人事とは思えません。海外から頂く新年の挨拶メールも、ヨーロッパ、NY、世界中大雪で大変みたいです。YAS竹田は大晦日ブルックリンの自宅で雪に埋まった車を掘り出している間に風邪ひいたとか…お大事にね!
 さて、今日のEvergreen物語は「枯葉」のお話。皆さんもご存知のように、「枯葉」はフランス生まれの曲が超スタンダードになった不思議な例ですね。ぜひダウンロードして聴きながら読んで下さい。
 なにしろ有名曲だけに、エピソードも枯葉のごとく積もり積もってどっさりあります。一昨年、ジャック・プレヴェールの深い追憶と哀しみに満ちたオリジナル詞や、日本の美学が感じられる中原淳一の歌詞、そして、ジョニー・マーサー作のライトタッチの英語詞を比較しながら「枯葉」のイメージにもお国柄があることを「東西枯葉事情」 に紹介しました。
<Mr.B と寺井尚之>
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 私が一番シビれた「枯葉」は、本家イヴ・モンタンの熟年ヴァージョンでしたが、バッパー寺井尚之の一番のお気に入りは、ビリー・エクスタイン72歳のラスト・レコーディング、『Billy Eckstine Sings with Benny Carter』です。散り行く枯葉の一片ごとに、人生の断片が垣間見えるような、年代もののワインのように深みのある歌唱です。
 ジャズ講座にお越しになると、寺井は、よくエクスタインを聴かせて、「まるで”水戸黄門の印籠”ですな。平伏したくなります!」と、突然アヴァンギャルドな断定をするので面食らうかも知れませんから説明しておきましょう。
BillyEckstineBand_ThompsonGillespieParker_Pittsburgh1944.jpg左からラッキー・トンプソン、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー、ビリー・エクスタイン
 ビリー・エクスタイン(1914-93)はアール・ハインズ楽団の歌手として出発しました。サラ・ヴォーン(vo)の師匠として有名ですが、Mr.Bの愛称で人気を博した男性版ブラック・ビューティの先駆け的スターです。やがて芸の幅を広げるために、トロンボーンなどの楽器をたしなむ内、ジャズの新しい潮流、Bebopの虜になり、アイドルの座に飽き足らず、自分で楽団を設立。それが伝説的ビバップ・ビッグ・バンド、「ビリー・エクスタインOrch.」です。歌手活動をして資金を注ぎ込みながらも僅か数年で経済的に破綻してしまったバンドですが、そのラインナップはチャーリー・パーカー(as)、ディジー・ガレスピー(tp)、ケニー・ド-ハム(tp)、アート・ブレイキー(ds)、デクスター・ゴードン(ts)など、Bebopのドリーム・チーム!つまりビリー・エクスタインのバリトン・ヴォイスの歌唱にはBebopのエッセンスが一杯!ですから、寺井には「水戸黄門の印籠」のように感じるわけなんです。『Evergreen』の「枯葉」は流麗なピアノ・サウンドに、エクスタイン的な渋さが聴こえてきますよ!
<Somethin’ Else>
220px-Somethin'_Else-jpg.jpg 「枯葉」を一躍ジャズ・スタンダードにしたアルバムと言えば、やはりキャノンボール・アダレイ(as)5の『Somethin’ Else』(’58)。キャノンボールはマイルズ・デイヴィス五重奏団のメンバーで、このアルバムも実質的にマイルズのリーダー作であることは明らかです。当時マイルズはコロンビアと専属契約関係にあり、BlueNoteレーベルでは、リーダーとしてクレジットできないという事情がありました。
 この「枯葉」の演奏解釈は、アメリカ版の「ひと夏の恋への惜別」よりも、ずっとブルーです。道端に山となって掃き寄せられた落ち葉を、追憶と後悔に喩えるプレベールのオリジナル歌詞に近い深みを感じます。
 その訳はきっとマイルズと、パリのサンジェルマンが生んだスター、ジュリエット・グレコとの恋に関係があるのだと思えてなりません。
<ジュリエット・グレコ>
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 ところで、ジュリエット・グレコはご存知ですか?私が子供の時はフランスの歌手もよく来日してTVに出ていたから、グレコも’70年代によく観ました。黒ずくめの衣装で厚化粧のシャンソン歌手のおばさんの印象だったけど、若い時の写真を見ると、清純そうな凄い美少女で、びっくりしました。
 グレコはマイルズよりひとつ年下、’27生まれのフランス人、母親はレジスタンス運動家で、大戦後インドシナに移住、彼女は祖母に育てられました。その美貌ゆえ、戦後、パリの文化人が集まる街、サンジェルマン・デプレの女王として、サルトルやボリス・ヴィアン、メルロ・ポンティといったフランスを代表する知識人たちに可愛がられ、カリスマ的な人気を得ます。女優として活躍すると同時に’49年に歌手デビュー、シャンソン界のスターとして現在も活動中。
 パリの知識階級の例に漏れず、彼女もナチ占領時代から大のジャズ・ファンでした。ナチはジャズを敵性音楽として禁止していたため、ジャズを聴くのも命がけ、占領下、パリの人々にとってジャズは「自由」を象徴するものだったのですね。だから、戦後、パリでジャズが大流行し、バド・パウエルやケニー・クラークなど、多くのバッパーがパリに移住したわけです。彼女がマイルスと恋愛関係にあったとは聞いたことがあったけど、2006年、英ガーディアン誌に掲載された、グレコののインタビューを読んで、「枯葉」はマイルズにとって、二人の恋を象徴する曲だったのではないかと強く感じました。
<マイルズとジュリエット>
 ガーディアン誌のインタビューによれば、二人の出会いはマイルズが始めてパリ・コンサートを行った1949年のこと。二人とも22歳、まだ歌手ではなく、サンジェルマンの女王と言われ、ぼつぼつ映画に出演し始めた頃です。フランス・ジャズ界の大物ギタリスト、サッシャ・ディステルに連れられて劇場の二階席から初めて観たマイルズの印象は、「ジャコメッティの彫刻のようで、本当に美しい男性だった。当時はまだクラシックな服装で、着こなしは完璧だった。」と語っています。
 コンサートの後、皆で一緒に食事に行き、彼女は英語を話せないし、マイルスはフランス語を話せないのに、瞬く間に恋に落ちたのだそうです。その時、ジャズは決して歌えないけれど「マイルズと一緒に歌いたい」と願った彼女は、その年に歌手デビューを果たし、2年後には、ジュリエット・グレコの歌う「枯葉」も大ヒットします。
 遠距離恋愛は続き、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」の音楽にマイルズが起用されたのも、グレコの後押しがあったからとも言われています。
 二人の破局は、グレコがNYの最高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアに出演した時に起こりました。公民権法成立以前、人種差別があからさまに行われていた時代です。彼女はその時のことを次のように語っています。
「私はスイート・ルームに泊まっていて、彼をディナーに招待した。部屋に入ってきた給仕長が、マイルズを見た時の表情はなんとも言えないものだった。おかげで散々な食事になり、彼は私から去ってしまったの。
 翌朝の4時、電話がかかって来た。彼は泣いていたわ。
『もう別れよう。この国で僕達はやって行けない。』
 その時、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと判ったの。一生忘れることが出来ない奇妙な敗北感を味わった。
 パリで一緒にいるときは、彼が黒人と意識することすらなかったのに、アメリカでは、肌の色の問題が露骨に私につきまとっていた。」

 母同様、地下組織と関わりを持っていたグレコは、恋人がコンプレックスに苦しんでも、それに負けるヤワな女性ではないはず。米国の黒人差別は、そんな彼女を震撼させるほどのものだったのでしょうね。
「別れてから、サルトルが、どうして私達が結婚しなかったのかとマイルズに尋ねたんですって。マイルズはこう答えたそうよ。『彼女を不幸せにするには、余りにも深く愛していたから。』プレイボーイの常套句みたいだけど、彼は人種差別のことを言っていたの。私を連れて米国に行けば、私が非難され、笑い者にされると判っていたから。」

 ジュリエットは「誰もが憧れるような、本当に素晴らしい恋愛」と言い、マイルズの伝記では「本当に愛したのはジュリエット・グレコだけ」とあります。実際、二人の親交はマイルズの死の直前まで続いたそうです。
「亡くなる数ヶ月前に、私の家に来てくれた。彼が客間でくつろいでいる間に、ちょっと私がベランダに出て庭を眺めていると、例の悪魔みたいな笑い声が聞こえてきた。私が振り向いてどうしたの?って訊いたら、あの人はこう言った。
『世界のどこにいようと、後姿だけで、すぐに君だと判るよ!』

 マイルズが初めてジュリエットの歌を聴いたのは、二人が別れた1957年のホテルのショウ、そこで彼女は「枯葉」を歌ったに違いありません。そして『Somethin’ Else』が録音されたのは翌年(’58)だったのです。
greco_astoria.jpg’57年、アストリアホテルに出演中のジュリエット。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
 先日、サンパウロのブラジル人ジャーナリストの方から、寺井尚之の演奏についてこんな感想を頂きました。
「あなたにはトミー・フラナガンの影響だけでなく、日本文化に裏打ちされた、寺井尚之という個性がしっかりある。だから好きなのです。」
 寺井尚之の「枯葉」、ぜひ聴いてみてくださいね!
見る人もなくて散りぬる奧山の 紅葉は夜の錦なりけり (古今集 紀貫之)
CU

Evergreen物語(2)変るものと変らないもの As Time Goes By

 Evergreen物語、第二話は”As Time Goes By”、「時の過ぎゆくままに」という邦題がついていますが、歌詞を読むと「時は過ぎても」という方がしっくり来るかもしれません。『Evergreen』で、寺井尚之のピアノはまるで歌詞が聴こえてくるようです。
<映画 Casablanca>
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 “As Time Goes By”は、何といっても、映画「カサブランカ」で有名になった曲。とはいえ、若いお方は「カサブランカ」(’43)なんて見たことも聞いたこともないとか・・・。「カサブランカ」は、芸術映画でもないし、史上最高の名作とも思えませんが、常にアメリカ映画ベスト100に入っている人気映画、何度観ても観飽きない。確かに戦意高揚映画であるかも知れないけれど、「スタイル」がある。だからこそ、ウディ・アレンなど、後に色んな映画作家がパロディにしたくなる力があります。人物描写は類型的だし、二人の男性に愛される美しいヒロイン、イングリッド・バーグマンのどっちつかずな態度も勘に触るかもしれませんが、結末が決まっていないまま撮影していたから仕方ない。日本語字幕には納得いかないヴァージョンもありけど、現代もよく使われる名文句が一杯なので英語の勉強にもなる。何よりもボガートの醸し出すダンディズムが最高!
casablanca_movie_image_ingrid_bergman_and_humphrey_bogart.jpg 舞台は、言うまでもなくモロッコのカサブランカ、第二次大戦中にナチを逃れ、アメリカ亡命を目指す人々が集まる酒場の主人リックは過去ある男、酒場ではリックを心から慕う黒人ピアニスト、サムが弾き語りをして人気を博している。ある夜リックの店にレジスタンス運動のリーダー、ラズロとやって来たのは、リックの昔の恋人、イルザだった。ナチはラズロを逮捕し収容所に送ろうとするが…、戦争に翻弄されるさまざまな人間模様が描かれます。酒場の主人といっても、ハンフリー・ボガート扮するリックはトレンチ・コートや白いタキシードが似合う苦みばしったいい男、カサブランカが帽子やトレンチが必要なほど寒いのかどうかはわかりませんが、とにかくカッコイイから気にしない!そして最後は愛するイルザをラズロと飛行機に乗せて自由世界へ逃がすんです。
 “As Time Goes By”はリックとイルザが愛し合ったパリの思い出の曲として、映画全編に流れる。とはいえ、この曲は映画の10年前に、ブロードウェイで余りヒットしなかったお芝居の為にハーマン・ハップフェルドが作詞作曲した既存の曲。ややこしい話ですが、「カサブランカ」の脚本自体が、未公演戯曲のリサイクルで、”As Time Goes By”はその段階で劇中歌に指定されていた曲だったのです。映画演劇の世界でも、リメイクやリサイクルは日常茶飯事なんですね。
Play-it-again-sam-casablanca.jpg 映画音楽を担当したマックス・スタイナーは撮影の途中で、ハップフェルドの作った”As Time Goes By”をカバーするのを止めて自作曲に差し替えようと提案します。でも撮影の事情で、差し替えが実現しなかったため、そのまま”As Time Goes By”をモチーフにして全編に使い、素晴らしい効果を挙げています。戦時映画のためなのか、脚本は戦況に合わせて書き換えられ、監督すら結末を知らずに撮影していたそうですが、出来上がってみれば、愛国心やロマン主義に訴えかける作品として大ヒット!アカデミー作品賞、監督賞、脚本賞をゲット!製作のワーナー・ブラザーズは、ピアニスト、サム役のドゥーリー・ウィルソンに”As Time Goes By”をレコーディングさせ、更にヒットさせたかったのですが、折りしもアメリカ音楽史上有名なレコーディング・ストライキの時代で、無念の涙を呑んだそうです。
<変われないもの>
 歌の内容は、「世の中がどれほど変ろうとも、絶対に不変のものがある。いつの世も恋する者の思いは一緒!」というロマン派。ですから、戦争や自由主義の弾圧といった映画のシチュエーションにぴったりだったんですね!
 でもよく考えてみれば、これは2011年という時代に、一層相応しい歌に思われて仕方ありません。自国の政治も世界情勢も刻々と変り、気候も変るこの時代だからこそ、「変らないものがある」事を思い出すと励まされます。
 寺井尚之メインステムは、A節の「キッス」や「溜息」を本当に上手に表現していますよ!
巨匠ビリー・テイラーも暮れに亡くなり、美しいタッチのピアニストは絶滅危惧種。でも、大事なことは変らない、と思いたいですね!

<As Time Goes By>
by Herman Hupfeld
原歌詞はこちら(対訳で省略したヴァースも付いています。)
これだけは覚えておこう、
いつの世もキッスはキッス、
愛の溜息も同じこと、
大事なことは変わらない、
時が流れても。

恋人たちの囁きは、
今でもやはり”アイ・ラヴ・ユー”、
必ずそうと決まってる、
これから何が起こっても、
変わらない事はある。

月の光や恋の歌は、
時代遅れにならないし。
情熱に燃える心、
嫉妬や憎悪も同じこと。
女には男、
男には妻がなくてはならぬ、
それを誰も否定できない。

歴史は今も繰り返す、
愛と栄光の闘いを。
行動か死を!と決起する。
でも、世界はいつの日も、
恋人達には優しいもの。
時が流れても。

 デトロイト・ハードバップ・ロマン派、寺井尚之の演奏するロマン派スタンダード・ナンバー!ぜひダウンロードして聴いてみて下さいね!
 昔の映画好きな私の性癖も「変われない」、時が流れても・・・
 Evergreen物語、次回は「枯葉」についてのお話を!
CU

Evergreen物語(1) 地図にない街、Chinatown

  明けましておめでとうございます。寒いお正月になりましたね。暖かくお過ごしになっていますか?
 寺井尚之メインステムの新譜 『Evergreen』は、もうダウンロードしてくださいましたか?お正月休みにぜひどうぞ!Amazon.co.jpからも配信中です。
Evergreen_cover.JPGのサムネール画像 というわけで、年始は『Evergreen』収録曲について連載しようと思っています。
 スタンダード集『Evergreen』の収録曲を考える上で、意外にも、寺井尚之が真っ先に思いついたのが、“Chinatown, My Chinatown”。ワールドワイドな配信形式ゆえ、アジア的な曲を取り上げたかったらしい。個人的には、テディ・ウイルソン(p)のクリアカットなヴァージョンや、『CHRIS CRAFT』でのクリス・コナーの絶好調の歌唱が印象に残っています。
 メインステムの演奏する「チャイナタウン」はどんな街?旅先で道に迷って日が暮れる。どきどきしながら暗い路地を抜けると、そこは色とりどりのランタンに照らされた街、不安な想いが吹き飛んで、急に心がウキウキするような、鮮やかな色合いのプレイですね。
<地図にない街 Chinatown, my Chinatown>
chinatown_old1med.jpg スタンダードとはいえ、この歌が流行したのは1910年、つまり明治42年、ジャンゴ・ラインハルトや白洲正子が生まれた年だそうです。100年前の歌、”Chinatown”は、スタンダードの骨董品と言えるかも知れません。
 作曲のジーン・シュワルツはハンガリー移民、作詞のウィリアム・ジェロームはアイルランド系二世、二人ともNYの少数派移民社会から出た音楽家です。当時、新天地を求めてNYにやってきた移民の人たちが最初に住む場所は、ロウワー・イーストサイドと呼ばれるチャイナタウンのある区域の劣悪な安長屋に居住するのが常だったといいます。左の写真は丁度その当時のチャイナタウンです。それならシュワルツ-ジェロームのコンビは、NYのチャイナタウンをモデルにしてこの曲を書いたのだろうか?
 一方、この歌とほぼ同時代にNYに暮らした永井荷風は、「あめりか物語」で、このチャイナタウン(支那街)を、悪徳や汚辱にまみれた荷風好みの「毒烟の天国」として、生々しく描写しています。
 確かに、NYの歴史関係のサイトを見ても、当時は、地下に怪しいトンネルを伝ってマフィアが横行し、レストランや酒場の裏には、阿片窟や売春宿が潜む危ない街であったそうです。
<Chinatownは夢の街>
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 ところが、この曲には、そんな毒々しい影はほとんどありません。心浮き立つメロディは、あくまでも色鮮やかなランタンに照らされる別世界を想像させてくれます。
 シュワルツ-ジェロームが作った”チャイナタウン”は、私達ひとりひとりの心の中にある夢の街のことなのではないでしょうか?現実の喧騒を忘れられる街、街角のレストランからは、見たこともない珍味やスパイスの香りが溢れて、街を歩くと自分とは違う顔立ちの人たちが微笑みかけてくれる。未知の冒険にも、なくしてしまった幸せや、懐かしい人たちにも再びめぐり合えるかもしれない。誰でも心の中に持っている秘密の街、それが”チャイナタウン”なのかも知れません。とてもシンプルな歌詞だから、『Evergreen』と一緒に歌ってみてくださいね!

Chinatown, my Chinatown
Jean Schwartz/William Jerome

Chinatown, my Chinatown,
When the lights are low,
Hearts that know no other land,
Drifting to and fro,

Dreamy, dreamy Chinatown,
Almond eyes of brown,
Hearts seem light
And life seem bright
In dreamy Chinatown.
チャイナタウン、マイ・チャイナタウン、
明かりが暗くなったなら、
あてもなく、
心彷徨う
この街を。

夢見る夢の、チャイナタウン、
アーモンド型の茶色の瞳、
心晴れ晴れ、
明るい人生、
チャイナタウンは夢の街。

 私もずっと前、YAS竹田に、マンハッタンのチャイナタウンで、田螺(タニシ)料理をごちそうになったことがあったっけ…小さな貝を懸命にほじくって食べてる間に、お店の前に長蛇の白人の列が出来ていてあせりました。神戸や横浜、長崎の中華街も江戸時代から歴史があるそうですよ!
 次回は”As Time Goes By”について書いてみたいと思います。
CU

今年もありがとうございました。!

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 今年もOverSeasをご贔屓にいただきありがとうございました。
 2010年は”エコーズ”結成20周年記念ライブで締めくくり!年末とあって、アドベンチャー・ワールドから路地裏に飛んできて下さった神奈川のお客様や、永遠の青年教授、お江戸のうだちゃんなど、サプライズなお客様もお越しになり、エコーズならではの、楽しいライブが聴けました。
 今日は店内の大掃除!拭き掃除していると、それぞれの椅子やテーブルに、ライブを楽しんでくださった皆様の思い出が浮かんできます。この一年、大変だったこと、辛かったことは、大掃除ですっきりふき取ってしまおう!
 年始は1月5日より通常営業させていただきます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 Interludeでは、これから、寺井尚之メインステムの新譜、Evergreen収録曲について連載予定です。
 配信用なので、ライナーノートがありませんから、スタンダード曲にまつわる、ちょっと面白い話が書ければいいなと思っています。
CU

或る夜のお客様:ウラジミール・シャフラノフ・トリオ

 クリスマス休日、皆様楽しくお過ごしですか?昨日はエコーズ!結成20周年とあり、沢山のお客様、どうもありがとうございました。
 年末とあり、終盤にお客様が続々お越しくださって、ラスト・セットは閉店時間を過ぎても続きました。その中に、「実際に来てみたら、やっぱしYoutubeの雰囲気と一緒やな♪」と、こんな人気ピアニストも!
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 クリスマス・コンサートのために来日中のウラジミール・シャフラノフさんが、トリオのメンバーと、澤野工房の澤野社長&澤野稔プロデューサーなど大阪ジャズのVIPに客席から『エコーズ』を盛り上げて頂いて嬉しかった~
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 澤野さんは、話し上手な紳士、噂どおりの素敵な方ですね!中央がフィンランドのベーシストのペッカ・サルマントさん、右がドラマーのレイスカ・ライネさん、ライネさんは無口だけれど雰囲気のある方だと思っていたら、フィンランドの国会議員であり俳優としても有名だと後藤誠さんから後で伺いました。
 シャフラノフさんは、ピアノ同様、お話も超マシンガン・トーク!70年代NYシーンやトミー・フラナガン、ジョージ・ムラーツなど思い出や、世界のジャズ事情など、早口でガンガンしゃべるパワフルな人!
 西宮のクリスマス・コンサートは完売しているそうですが、西脇の公演はまだ席があるそうです。
 こちらOverSeasも今夜の「Evergreen」発表イベントはまだ少しだけお席があります。24日、25日も併せてお越しください。
CU

Evergreen i-tune でダウンロード可能です。

 暖かな日曜日でしたね!
 昨日お伝えした寺井尚之メインステムの新譜『Evergreen』は、本日i-tuneで配信開始しました。
 下記リンクよりダウンロードできます。
http://itunes.apple.com/jp/artist/hisayuki-terai/id410428873
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 ぜひお聴きくださいませ!
CU

寺井尚之 新譜『Evergreen』ダウンロード発売開始!

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 去る10月末に録音した、寺井尚之のアルバム、『Evergreen』がようやく米国サイト、CD Babyから配信開始されています。
 演奏メンバーはメインステム・トリオ、寺井尚之のレギュラーメンバー、宮本在浩(b)菅一平(ds)ですが、通常のレパートリーと異なり、ほとんどが皆様よくご存知のスタンダード・ナンバーばかりのラインナップです。
<収録曲>

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1. Chinatown (チャイナタウン)Jean Schwartz
2. As Time Goes By (アズ・タイム・ゴーズ・バイ) Herman Hupfeld
3. Autumn Leaves (枯葉) Joseph Cosma
4. I’m Thru with Love  (アイム・スルー・ウィズ・ラブ)Joseph A. Livingstone, Matt Malneek matt dennis
5. Fly Me to the Moon (フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン) Bart Howard
6. My Funny Valentine (マイ・ファニー・バレンタイン)Richard Rodgers
7. My One and Only Love (マイ・ワン&オンリー・ラブ)Robert Mellin
8. White Christmas  (ホワイト・クリスマス)Irving Berlin

 今回はCDではなく、一曲ごとにダウンロード出来る形式のアルバムなので、一度スタンダード・アルバムを作ってみようということになったのだそうです。
 “枯葉“や”I’m Thru with Love“、”My Funny Valentine “など、これまで対訳ノートに綴ったことのあるスタンダード曲も入っていて、ちょっと嬉しい気分。
 ラストの”ホワイト・クリスマス”は、チャーリー・パーカーのBebopヴァージョンになっています。ぜひこの季節にダウンロードしてみてくださいね。99セントで聴けますよ!
 まもなくi-tuneなど、日本語配信各サイトでもダウンロード出来るようになる予定です。
<記念イベント:12月23日(祝)>
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 新譜発売を記念して、来る12月23日(木、祝)に、収録スタンダード曲にまつわる講座&ライブを開催いたします。
 12月23日(木、祝) 6pm開場、7pmスタート
 チャージ:2,625yen(税込)

 時節柄お忙しいとは存じますが、ぜひご参加お待ちしております!
CU

トリビュート・コンサートの曲説できました。


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 去る11月に開催したコンサート、「第17回Tribute to Tommy Flanagan」の曲目解説をやっとHPにUPしました。イベント続きで遅くなってしましまいた。毎度の事ながら、たいへん申し訳ありません。
 トミー・フラナガンの名演目がズラリとならんだ曲説、そのうち、世に言う大スタンダード曲と言えば、”エンブレイサブル・ユー”位のものでしょうか?それなのに、フラナガンの演奏は、どこ曲にも親しみを感じさせるものでした。それは、素材に対する理解と料理の仕方なのでしょうか?
 デューク・エリントン、トム・マッキントッシュ、サド・ジョーンズなど、フラナガンがレパートリーを選ぶ上で、”ブラック”であるかどうかというのが大きな判断基準になっています。フラナガンの愛でる”ブラック”とは、「スピリチュアル」な要素と音楽的な「エレガンス」が深く融合したものと捉えれば良いのかも知れない。ブラックと言ったって、ファンクやR&Bなど、後にデトロイトが生んだモータウンとは全く異なる潮流のものです。
TommyFlanagan.jpg 今回、曲説を書いていて、改めて気づいたのは、トミー・フラナガンのオーケストラ的な要素。Tin Tin DeoやOur Delight、Smooth As the Wind、エリントニアなど、本来は楽団仕様の曲を、ピアノ・トリオに翻案する際に、オーケストラ的な面白さが減るどころか、更にその醍醐味が増幅されているところが凄い!ピアノの技量に負けない編曲力があった人だとつくづく感じました。
 というわけで、今回もトリビュート・コンサートを応援いただき、心よりお礼申し上げます。
今後とも、寺井尚之The Mainstem:宮本在浩(b)、菅一平(ds)をどうぞ宜しくお願い申し上げます。
 コンサートの写真撮影は、後藤誠先生にお願いいたしました。上の演奏写真も後藤先生撮影です。ありがとうございました。
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