reported by 寺井珠重
寺井尚之ジャズピアノ教室が他のピアノ教室と異なる点は、何よりも、本当のジャズ、きちんとした即興演奏が出来る様にトレーニングをするところにあります。ですから、ただお気楽にジャズ曲を弾こうと思ってやってくると入門時に止められます。レッスンも寺井尚之がマンツーマンでびっちり指導するので結構厳しい。些細なミスや悪癖、そして考えの足りない所は絶対に師匠に見逃してはもらえません。 そして、この発表会の出場資格は“アドリブが出来る”ということ。どんなに読譜力があり指が動いても、自分でアドリブを作れなければ出場資格はありません。ここでのアドリブとは、その場のアドリブでなくても初心者なら曲の構造に従ってあらかじめ自分で作ったもので構いません。ただし、もちろん人のコピーは駄目、教室で学んだ音楽理論に基づき、創造できなければ出場不可です。前もって考えたものだったらアドリブじゃないのでは?と思う人もおられるかも知れません。しかし「即興演奏を学ぶのは、言葉を学ぶのと同じ。だから最初は前もって言うべき言葉を考えろ。そして上達すれば自然にスラスラしゃべれるようになる」というのが寺井尚之ジャズピアノ教室の教育理念です。OverSeasに馴染みの深いサー・ローランド・ハナも『即興演奏とは作曲活動である。ブラームスやベート−ベンもその意味に於いて優れた即興演奏家である。』と同様の意見を述べています。私は幸運にも日常の生徒達のレッスンを横で聴ける光栄に浴していますが、生徒達が何時間もかけて練りに練ったフレーズを弾くと、最初はなんとなくしっくり来ないのが、師匠がその生徒の譜面をたった数箇所変更するだけで弾くと、あれあれ譜面が魂を得てスイングし、本当のジャズのフレーズに聴こえてしまうから面白い。 プロもアマチュアも、音大なら1年以上かけて教授する音楽理論のエキスを短時間で習得し、やっとピアノに座ったら、まず自分に合った椅子の高さを発見することから始まるこの教室。毎月曜、木曜にこつこつと研鑚を重ねてきた皆さんの演奏を、この発表会でついに楽しむ事が出来るのです。今回も13名の出場生徒達の演奏をサポートしてくれるのは、寺井尚之“フラナガニア”トリオの宗竹正浩(b)と河原達人(ds)、2人とも第一級のミュージシャンです。なお、この発表会にはリハーサルはありません。宗竹、河原両氏がぶっつけ本番でサポートします。テナーサックスで入門している児玉さんには、師匠の寺井尚之もバックを務めます。そして司会と写真撮影は当HPの管理人こと高橋雄一氏、キビシーつっこみ発言がHP上で冴え渡る管理人の司会は決定時、生徒諸君の間に戦慄と期待を巻き起こしました。録音担当は前回同様モトドラ赤井氏、この日のために高価なピンポイントマイクを調達して下さって、万全のサウンドエンジニアリングを期しています。この日の演奏はCD-Rに録音して出場者に頒布されますが、大きな労力を要する仕事にもかかわらず、収益はフラナガニア基金に寄付して下さるとのことで、感謝のしようもありません。このお二人も発表会運営の為のチケット代\2000を払っての応援ですので、ピアノ教室の生徒達はお二人に足を向けては寝られません。 発表会は生徒のグレード別に3部構成になっていて、演奏は目の前に陣取る寺井尚之が真剣かつ綿密にチェックし、演奏内容はその場で審査解説されます。全出場者の発表後にフラナガニアトリオのLIVEを楽しんだ後で、各賞の受賞者が寺井尚之から発表されます。賞の種類もこの教室ならではのユニークなものです。演奏の構成力を称える構成賞、(弾くことは別として)最も優れたアドリブフレーズを考えた演奏者にはAD-LIB賞、そのAD-LIBを一番うまく表現できた演奏者に与えられるテクニック賞、演奏中共演者に自らの音楽的意図を一番うまく伝達した演奏者に与えられるパフォーマンス賞、そして努力賞、最優秀賞という6つの賞です。前回は殆どの賞を一番弟子の松本誠君が独占しましたが、今回はこれらの賞を誰が受賞するのか、始まる前は興味津々でした。 さて今日は開始前から出場者の応援団多数、またいつもOverSeasを暖かくサポートしてくれる名調律師川端さん、常連のANNさん、広島よりジャズ講座の発起人ダラーナさんも来店し、店内はかなりの混雑、司会の準備万端整って定刻1時から発表演奏が開始されました。 第1部は基礎クラスの生徒さん達の課題曲演奏です。教室では循環フレーズの弾き方を勉強した後、歌詞付きの譜面で、ミディアムの<ゼア・ウイル・ネヴァー・ビー・アナザー・ユー>と、バラードの<マイ・ワン&オンリー・ラヴ >という2つの課題曲を演奏しながら、楽曲へのアプローチの仕方を学びます。最初の4名がミディアムのラブソング、『こんな素敵な夜や、素敵な出会い、素敵なキッスはきっとあるけれど、貴方の様な人は他にはいない!』という<アナザー・ユー>を演奏します。この歌詞はシンプルですが奥が深い。軽いラブソングともとれますし、朗々とした愛の賛歌にも、また今は亡き最愛の人への鎮魂歌とも解釈できる歌詞です。さて4人はこれからどう歌い上げるのでしょう?
トップバッターの重責を担うのは、関学ジャズ研の金大悟君こと金ちゃん、若いのにバップを礼讃し、いつも寺井師匠を楽しい質問攻めにする情熱に溢れたスリムな美少年。今日は大学で共演しているベーシスト君が金ちゃんより先に応援に駆けつけました。演奏前に「あがってる?」と私が訊くと「ハハハ、ぜーんぜん!」と頼もしい返事。今迄のざわめきは消え、しんと静まり返ったOverSeasに聴き慣れた<アナザー・ユー>のメロディがソフトに始まりました。金ちゃん快調です。レッスン通り、ピアニッシモの綺麗な音でメロディとコードが綺麗にサウンド、宗竹正浩がストレートな2ビートでわかりやすく道筋をつけてあげると、金ちゃんはスムーズにテーマからアドリブに移行して大喝采、ベースソロからピアノードラムの4バースチェンジもばっちり決まってあっという間に演奏が終わり、見事にトップバッターの責任を果たしました。若さ溢れるフレッシュなプレイ、でかした金ちゃん!“発表順はヘタなもん順”なんてHPで管理人さんが書いていましたが、全然ヘタじゃなかったです。 続いて同じ曲で出場するのは師匠と同い年の渋い中年M岡さん、入門直前の前回の発表会は客席で鑑賞でしたが、練習の甲斐あって今日は晴れて出場者です。M岡さんは、とても頭脳明晰で柔軟思考、難しい音楽理論もやすやすと理解し、レッスンの進歩が非常に早く、礼節にも溢れたピアニストです。日頃横で聴いていると、入門して1年程のピアニストとは思えないような渋いフレーズを作って来るので驚きます。私がレッスンを聴くのが楽しみなプレイヤーの一人ですが、1週間前から緊張でよく眠れないとこぼしていました。外見は銀座の高級クラブで何十年も弾いているプロの様な風格すら漂っています。緊張のせいか4バースで少し躓いたものの、サイドのしっかりとしたサポートでうまくミスをカバーして最後まで持っていきました。危機管理ばっちりのM岡さん、リハーサルなしの初めてのトリオ演奏でここまでやれたらばっちりです。貫禄満点の演奏姿もカッコ良かった! 3番目は、ご自身ピアノの先生でもあり、コーラスの指導もしているプロのピアニスト、m.mさんです。ご家族やご親戚にも音楽家の多いミュージカルファミリーの一員であるm.mさんはいつも少女の様に若々しくて活力に溢れており、私はいつも彼女から元気をもらってます。今日はロングスカートでドレッシーな出で立ち。プレイも溌剌としていて、彼女のアドリブからは、愛する喜びに満ちた楽曲の性格と、トリオで演奏する演奏者自身の喜びがよく伝わって来ました! m.mさんは演奏前後のパートナーに対する挨拶や、客席に対するお辞儀も、折り目正しく姿勢が良くてとても美しいと思いました。 4番目は昨年12月のパーティで、素敵な司会をしてくれたみれどちゃん。今日はピタピタジーンズとオレンジ色のモヘアのセーターがとてもお洒落で、今日のベストドレッサー賞と言えます。彼女のテーブルには女性の応援団が4名も来てとても華やかです。日頃は皆がつまずくような箇所をスイスイとクリアしてみせ、師匠が舌を巻くスーパー弟子のみれどちゃんも、今日は凄く緊張しているようですが、それがまた可愛い。演奏は緊張しながらもソツなくこなして、アドリブをスムーズに弾き切り応援団も大拍手! あっという間に4人の音楽的な個性がそれぞれ出た<アナザー・ユー>の楽しい聴き比べが終わりました。 1部のトリは大学生の宮崎君、大阪大学で数学専攻だからか、ややこしい音楽理論も簡単に習得、今回は『自分の演奏はまだ人には聴かせられん』との理由で一人だけでやって来ました。テスト中なのか数学のノートも持ち込んでいます。彼だけが演奏曲に<マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ>を選びました。美しいタッチと安定したリズム感、1部の最後を飾るのに足る素晴らしい演奏でした。この宮崎君と金ちゃんは大学でもジャズ研で活動中なので、司会者から「今度は大学で一緒に演っているメンバーで発表会に出たらどう?」と言われると2人とも口をそろえて「NO! フラナガニアのメンバーと演りたいです」と答えていたのが面白かったです。 とんとん拍子で終わった第1部。教室が始まって間がなかった前回の発表会の第1部よりも、予想通りかなりレベルの高い内容になりました。管理人さんの司会はフレンドリーでリラックスしており、いつもHP上で展開される痛快毒舌は全くなし。文章を書く人はしゃべるのが不得意、という定説を覆し意外なほどトークがスムーズで、出演者の緊張を和らげるのがとっても上手です。また休憩中は経費節減のため、今まで弟子たちの演奏に没頭していた寺井師匠が慌てて厨房に入り、大忙しでお客様のためにコーヒーをわかします。こんな発表会も他にはないでしょうねえ! さて、いよいよ2部の開始時間が近づきました。ざわめきの中で1番目の児玉さんはテナーのウォーミングアップに余念がありません。演奏曲は、サー・ローランド・ハナの書いた神秘的な美に溢れた難曲<エニグマ>。OverSeas水曜日でおなじみの寺井-鷲見DUOの愛奏曲でもあり、毎回欠かさず聴きにくる児玉さんは彼らの演奏ヴァージョンの展開について、ご自分の「LIVE日誌」で克明に論評しています。休憩中にギタリストの末宗俊郎氏が拍手に迎えられて入って来ましたが、実はこの時、猛スピードでOverSeasに向かっているミュージシャンがもう一人いたのです。それは誰あろうその児玉さんのアイドル、ベーシストの鷲見和広氏。関西のジャズメンの中でも一番ひっぱりだこの鷲見さんは、多い時は1日3本のギグを掛け持ちしている売れっ子です。でも今日はこの時間帯の仕事のオファーは全て断り、自分の最も熱心なリスナーである児玉さんを応援するために駆けつけました。本番直前に駆け込んで来たこのサプライズゲストを見て、児玉さんは一瞬パニック状態。何で教えてくれなかったの!と青ざめています。御免なさい、児玉さん…これで動揺して児玉さんが吹けなくなったらどうしよう…一瞬私もパニック状態となりましたが、寺井尚之の美しいイントロが流れ出すと、ええいままよ、と肝っ玉が据わった児玉さんは、豪快なテナーの音で、今までのどのレッスンの時よりも首尾よく無事にこの難曲を吹き終える事ができました。かぶりつきに陣取って聴いていた鷲見さんはMDと手帳片手にレポートを取る体勢でしたが、ただただ呆然と聴き惚れていた様子でした。バックを務めた宗竹正浩がこの発表会で一番強い印象を受けたのが、この児玉さんの演奏だったそうです。後日いつもの“聴く−演る関係”が逆さまになった「鷲見和広のLIVE日誌:2002年1月27日児玉勝利カルテット」がHPに掲載され、大好評を呼びました。 ドラマチックなシーンが展開された後は、エスカイヤ・クラブ等でプロピアニストとして演奏している川原和子さん、自分のギグが忙しく中々師匠のLIVEに来ることは出来ませんが、最近演奏する場で、音が綺麗になった!とか、誰に習っているの?と訊かれるほど本教室の効用が現れているようで、レッスンには毎回熱心に通っています。前回は<マイ・ワン&オンリー・ラブ>を演奏して好評を博しましたが、今日はデトロイトバップの代表曲、サド・ジョーンズの名曲<50-21>に挑戦しました。第1部の生徒さんは、いつも師匠にピアノのソフトタッチを厳しく言われているので音が控えめでしたが、プロの川原さんになると、やはりタッチのコントロールが見られます。左手の返しも鮮やかに決まり難なくエンディングまで安心して聴ける演奏でした。 続いてはピアノ歴3年足らずの、むなぞう君の登場です。最初OverSeasに来たきっかけが家庭教師に通う帰り道だったといいます。日英伊3ヶ国語に堪能で、OverSeasのコンサートでは送迎部長としても頼りになるスタッフです。現在は大阪大学大学院生としてヴェネチアの歴史を研究中。彼はクラシックのトレーニングは皆無ですが、トミー・フラナガンや寺井尚之に対する造詣が深く、今ではジャズのアドリブが縦横無尽に出来る生徒で、寺井尚之は教室の話題になると、いつも彼の話をしては自慢しています。可愛い風貌に似合わず失恋の歌ばかり選ぶ彼、今日はトミー・フラナガンがアルバム‘BEYOND THE BLUEBIRD’で演っていた、<イエスタデイズ>を選びました。彼の場合は仕上がりがとても早かったので、この演奏も安心して楽しみながら聴く事が出来ました。いつも左手のフォームを師匠に注意され、クラシックの基礎がないことを嘆くむなぞう君ですが、<イエスタデイズ>という素材をぐっと自分の手元に引き寄せて料理してみせる解釈力の深さに感服。そして、アドリブフレーズを聴いていると、この演奏家が、アート・テイタム-バド・パウエル-トミー・フラナガンという系譜の線上に位置している事を明らかに示す折り目正しい音使いで、とても楽しかったです。発表会後むなぞう君の演奏が特に出席者の間で好評であったのもうなずけます。 さて、第2部のトリを締めくくるのは、この発表会の実行委員長の橋本生徒会長です。橋本生徒会長はピアノ教室というものが出来る以前から寺井尚之の自宅でレッスンを続けていました。元々はテナーサックス奏者ですが、現在はピアノ一筋。音楽理論の精通度はかなりのもので、譜面の書き方は並みのプロミュージシャンをはるかに凌いでいます。前回は、発表会の運営のため練習する暇がなかったせいか思わぬミスをしてしまった橋本生徒会長ですが、今回は寺井尚之がアルバム、<ダラーナ>でも演奏している美しい曲、<ラブ・ユア・スペル・イズ・エブリウエア>を選びました。この曲は誰でもすぐ口ずさめる覚えやすいメロディですが、弾いてみると大変な曲です。でもさすが生徒会長、今回は万全を期していたようで、大変クールな演奏を展開しました。寺井バージョンの左手の返しもうまく決まって私も大変嬉しかった。客席で奥さんやご友人たちの応援があったから成功したのかも知れませんね。 静まり返った雰囲気の中、あっという間に第2部の演目も終了。客席のゲスト、末宗俊郎氏(g)は、「橋本さん、うまいわあ、なかなか順番どおりに実力ある出演者になっとる!」とウィスキー片手に大納得。寺井師匠はまたまた厨房に入ってドリンクサービスに大忙しです。 休憩の合間、第3部に出演する中級以上の生徒さん達を冷やかしに回ると、もう大変!皆物凄く緊張している様子。何しろ今までの生徒達の演奏が軒並みに素晴らしかったので、大きなプレッシャーを感じているようです。昼前から緊張してると言う、幾分引きつった表情のいくら子ちゃん、冨士子ちゃんは言うに及ばず、他店でヴォーカリストとしての出演歴も多々ある海松副生徒会長さえ、緊張で頭痛がすると言っているありさまです。トリの松本君は淡々と受付業務に専念していますが、心境はいかに… いよいよ定刻どおり3時25分、第3部の発表が始まりました。司会者に「これからいよいよ“OverSeas3大美女”が登場します!」とコールされたトップバッターは某大企業でバリバリ仕事をしているキャリアガールのいくら子ちゃん。彫りの深い色白美人です。今日は真っ黒の衣装にスカーフでアクセントを付けてます。年末から1月にかけては仕事が一番忙しい時期で練習もままならず、師匠は最後まで「いくら、だいじょうぶかなあ…あいつのんびりしとるから…」と心配していました。曲は師匠の新作アルバム‘ユアーズ・トゥルーリー’からオープニングナンバーの<今宵の君は>です。スタンダードですが、小節数が多い楽曲で、退屈せずに聴かすには“うまさ”が要求される手強い素材です。ソロ・ルバートが始まり、いくらちゃんの緊張振りが伝染したのか私も益々ドキドキします。6小節目の歌詞"When the world is cold(世間が冷たく、落ち込む時も)"の"Cold"の所で、トム&ジェリーの漫画映画でトムが凍りつく時に入るような“キョン!”というハーモニーがうまくサウンドして、良かった!ホッとしました。それからは緊張の氷が溶けたようにスイング、アウトコーラスには今までいくらちゃんのレッスンでは聴いた事のないグリスが出て、やった!やった!の大歓声!よかったネ、いくらちゃん。 第3部の2番手は、いくらちゃんと同じように9番テーブルでブルブル震えていた冨士子ちゃんです。昨年末の<OverSeasパーティ>ではスレンダーな肢体にトナカイのコスチュームをまとい、その可憐さでパーティクイーンとなった彼女、今日もハーフスリーブのニットにチューブ型のロングスカートで、ポパイの恋人オリーブの様な可愛いらしさです。曲はメドレーを得意としたトミー・フラナガンの名演目、ガーシュイン作の名曲<エンブレイサブル・ユー>から、その進行を基にチャーリー・パーカーが作ったバップ・チューン<カジモド>のメドレーです。華やかで聴き栄えする選曲ですが、難しいよ、これは。彼女は準備怠りなく仕上がりがとても早かったのですが、こんなに緊張していて大丈夫かなあ? そんな私の不安をよそにロマンチックで美しいルバートから安定したプレイを聴かせてくれました。<カジモド>に入ると師匠でさえ本番で時たま突っかかる場所も見事にクリア! 同じ音楽的枠組みの中で美しいバラードから、動きの激しいBOPチューンへ変貌するこのメドレーの色使いがうまく表現され、デトロイトバップの上品さが良く出ました。また、瞳がつぶらで、顎の線がすっと尖った冨士子ちゃんが共演者に送る合図は非常に明確で、とても伝わりやすかったようです。 さて、いよいよ海松あやめ副生徒会長の出番です。生徒の中でも一番ヴァイタリティに溢れ研究熱心なあやめちゃんは元々ヴォーカリストで、弾き語りで仕事がしたいと入門しました。勉強熱心NO.1で寸暇を惜しんでライブを聴きに来店し、師匠に質問する姿にはいつも頭が下がります。今回の発表会準備の実務をオーガナイズしてくれたのも彼女です。またジャズへの熱意が元で、長年OverSeasの常連である美青年YOU-NON君と出会い、今春ゴールインするのも私達には喜ばしいことです。レッスン時は会社帰りでドレスやタイトなスーツ姿が多く、「そんなキツいもん着てたら肘が動かへん、ゆるい服着ろ!」と師匠に注意されるからか、今日はゆったりとしたカジュアルなカーディガン姿で演奏に対する気迫充分と見ました。発表曲は2曲、BOPチューンの中でも最も気品に溢れる作品<スムーズ・アズ・ザ・ウィンド>と、弾き語りの名手マット・デニスのユーモラスな作品<ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラブ>です。前者は色とりどりの扇が開くような滑らかな美しさと変化を出さなくては曲の良さが出ません。後者は小節数が多くて転調地獄の恐怖の曲で、いずれも大変な熟練を必要とする題材です。練習に練習を積み重ねてきたあやめちゃん、今日もスムーズに終了しました。<タイヤード…>ではグリスや途中で入る2拍4拍のアクセントでカラーチェンジも鮮やかに決まり聴衆の皆さんは舌を巻いていましたが、いつものあやめちゃんの実力はあんなものではありません。本当はもっと弾けるのです。とはいえ、このハードな2曲は、寺井尚之でも苦労する演目。難なく弾きこなせたのは本当に凄いことでした。 さあ、やっと大トリの出番がやってきました。寺井尚之の一番弟子、松本誠の登場です。前回は各賞を殆ど総ナメにしてしまったため、今度はゲスト扱いにして賞の選外にしようという案も出たほど傑出したピアニストです。お父さんがジャズファンである彼は、OverSeasで子供の時からトミー・フラナガンやサー・ローランド・ハナ等の名演の数々に生で触れ、高校2年生から寺井尚之の師事を受けて来ました。その松本君も27歳。寺井が最も厳しく叱咤する息子の様な存在です。他の出場ピアニストの演奏に際しては、寺井が個々のヴァージョンのイントロや、リズム、ソロ・オーダー、エンディング等の構成を示す演奏の台本ともいうべき構成表を、ベーシストとドラマーに予め渡してサポートの仕方を指示していましたが、この松本誠にはそんなお膳立ては一切なし。松本君だけは、一人前のミュージシャンとして、ごく短時間のうちに自分で共演者に演奏展開を伝えなければなりませんでした。口頭で演奏構成を簡潔明快に共演者に伝達するところからもう演奏が始まっているとも言えます。また今日の松本君は数多くのレパートリーの中でも、難曲中の難曲3曲を選びました。 1曲目はバド・パウエルの最もストレイトアヘッドなバップチューン、<ストリクトリー・コンフィデンシャル>です。目をつぶって聴くと寺井尚之と間き違えるとまで言われる松本誠によるこのヴァージョンは、寺井の重厚さに対し、あくまでも軽快、ハーモニーの動きが爽やかでふんわりとした<ストリクトリー〜>に仕上げ個性を出しました。続いてセロニアス・モンクの美しいバラード、<ルビー・マイ・ディアー>、これは寺井のヴァージョンよりもモンク色が濃く出ました。バラードの組み立て方はやはり寺井と非常に似ています。味わいは寺井よりも淡い感じ、香りで言えば、寺井が濃厚な香水であるのに対し、松本誠はあっさりとした柑橘系のオーデコロンと言えば感じが伝わるでしょうか。最後はビリー・ストレイホーンの名曲<レインチェック>です。これは師匠でも調子が悪ければミス続出になる曲ですが、何とか成功しました。今日の松本君は最初にちょっと躓いたものの、宗竹正浩と河原達人を向こうに回し、堂々とした演奏を展開、見事にトリの大役を勤め上げました。でも何日も前から大きく期待していた私としては、ちょっと不満足。宗竹正浩、河原達人と共演できる折角の機会なのですから、もっと実力を発揮して、師匠をギャフンといわせる演奏をして欲しかった。でもこの選曲ならばきっちり弾けただけでも本当はもの凄い事。やはりその健闘ぶりを讃えましょう。 全員の発表が終了した後、師匠の寺井尚之と今まで素晴らしいサポート役に徹していた宗竹正浩、河原達人のフラナガニアトリオが演奏、特別司会は末宗俊郎(g)でした。<エクリプソ>や<ウィズ・マリス・トゥワーズ・ナン>、<チュニジアの夜>などOverSeasのスタンダードに加え、「今日は誰もやらなかったから」と極上のブルースも演奏し、会場全体がうっとり。最後は<キャラヴァン>で超ハードに締めくくり、さすがは師匠という演奏を披露しました。最後に寺井尚之より総評、各賞発表と賞品の授与が行われました。でも私は出場者全員に一等賞をあげたいと思いました。 5時間に渡る長時間の発表会でしたが、出場者もゲスト達も全員が、本当に熱心に楽しみながら各人の演奏を聴く姿勢に、私は何よりも感動しました。この素晴らしいミュージシャンシップ、リスナーシップが新たな進歩に連なるに違いありません。 次回の発表会は8月25日、きっと今回よりももっと素晴らしいプレイが聴けると確信しています。エンジニアのモトドラさん、司会とカメラマン兼任の管理人さん、本当にありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします。 この日集まった生徒達と寺井師匠で記念撮影 今回発表できなかった生徒も次回は発表できるよう頑張ろう! |
Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) Q1.お名前(本名でなくてもけっこうです) |