George Mraz Quartet
ジョージ・ムラーツ(b)カルテット
1999年11月22日(月)
●GEORGE MRAZ ジョージ・ムラーツ bass
オスカー・ピーターソン、サド・メルオーケストラ、サー・ローランド・ハナ達との輝かしい経歴の中でも、15年にわたるトミー・フラナガンとの名コンビは伝説的。バンド全体が浮き上がるような美しいハーモニー感覚、研ぎ澄まされたソロが聴く者を魅了する。正に今が“旬”のベースの大巨匠。
● RICHIE BYRARK リッチー・バイラーク piano
ムラーツとは学生時代からの音楽仲間。人気、実力を兼ね備えた名手。完璧な耳の持ち主といわれ、ムラーツにとっては絶好のパートナーである。
●BILLY HART ビリー・ハート drums
スタン・ゲッツからセシル・テイラーに至るまで、いかなるジャズのフォーマットも使いこなす、豊富なキャリアとテクニックを持つベテラン・ドラマー。
● RICH PERRY リッチ・ペリー tenor sax
サド・メル・オーケストラ出身、ムラーツの高度な音楽的要求に応えるNY実力派。曲名
<1stセット>
1. Three Views Of A Secret 作曲:Jaco Pastrius
2. Picturesque 作曲:George Mraz
3. Pepper 作曲:George Mraz
4. The Peacocks 作曲:Jimmy Rowles
5. Nardis 作曲:Miles Davis
6. Passion Flower 作曲:Billy Strayhorn
<2ndセット>
1.Spring Is Here 作曲:Richard Rodgers
2.Falling Grace 作曲:Steve Swallow
3.San Felice 作曲:George Mraz
4.Medley: Haunted Heart 作曲:Arthur Schwartz
〜My Foolish Heart 作曲:Victor Young
5.Medley: Denzil's Best 作曲:Denzil Best
〜Nardis 作曲Miles Davis
6.Passion Flower 作曲Billy Strayhorn
ジョージ・ムラーツと寺井はジョージがトミー・フラナガントリオのレギュラーベース奏者だった80年代からの長い友人で、寺井の理想のベーシストがジョージ。一番可愛いクリスマスカードを送ってくれるのも彼。だからジョージがトミーのトリオから独立して以来、彼のバンドのコンサートをOVER SEASでやることは、私達とお客さん達にとって待ちに待ったイベントでした。ジョージもやる気満々、リハーサル嫌いのジョージがメンバーより一日早く来日して時差ボケを直し、大阪に着くなり「タマエ、サウンドチェックは何時からできる?」と訊いてきた時には、思わず「WWWhat?!」と訊きなおしてしまったくらいでした。ジョージがチョイスしたメンバーはつわもの揃い。全員が満員のファンの暖かく熱狂的な拍手に応える素晴らしいプレイを展開してくれました!狭い会場にアコースティックな生の音が充満し、音楽的にも高密度な熱いライブとなり、私の一生忘れられない名演がまたひとつ増えました。
フロントのテナー奏者、リッチ・ペリーは、サドメルなどNYの一流ビッグバンドで活躍してきただけあって、強烈に難しい譜面もなんなくこなす業師。ドラムのビリー・ハートもウルサ型最右翼のスーパーテクニシャン。勉強に来た並み居るドラマーたちの口はあんぐり!またジョージの長年の盟友で、ビル・エバンス派No.1のスターピアニスト、リッチー・バイラークは、しばらくぶりに見ると<バットマン・リターンズ>のペンギンを思わせる風貌に変わっていましたが、プレイは相変わらず凄かった。タッチの美しさは息を呑むよう、太い体で足をぶらんぶらんさせて弾く独特の演奏スタイルは強烈なインパクトでした。日本のピアノの先生達が見たら真っ青になりそうな弾き方ですが、出てくる音はハンパじゃありませんでした。この方演奏終了後のディナーの時に、なんと味噌スープを5杯お召し上がりになり、調理場をよろこばせました。
さてリーダーとしてのジョージですが、選曲はスタンダード曲の少ないかなりシブいものです。おまけにベースがリーダーとくると、「こりゃおもろないわ・・」となるのが普通ですが、なんのなんの、最初から最後までスリルあるクールなステージでした。
<曲目について>
1stセット〜
2曲目の“Picturesque”はジョージの作品でスタンダード曲No Greater Loveのコード進行を使った曲。寺井が以前採譜してジョージに添削してもらったことのある作品。3曲目の“Pepper”はジョージのサドメルOrch.時代の盟友であり、チェコから来たジョージに英語を教えてくれた、最高のバリトン奏者ペッパー・アダムスに捧げた曲。ペッパーのブリブリのバップフレーズのフィーリングがそのまんま!ファンなら思わずにやりとする作品でした。4曲目の“The Peacocks”はジミー・ロウルズ(p)の作品で、大変ミステリアスな難曲。トミー・フラナガントリオ時代のレパートリーでもあり、その頃NYで寺井がジョージの車の中でジョージが4重録音して自主制作した秘密のテープを聴かせてもらったこともあります。そのトラックが後に<JAZZ>というアルバムに収録されたのです。5曲目の“Nardis”、このエヴァンスの十八番がこのセットでは一番有名かな。バイラークの面目躍如!6曲目の“Passion Flower”、これはアンコール。アルコが例えようもなく美しいこの曲も、元はフラナガン時代のジョージのフィーチュアナンバーでした。ジョージがOVER SEASへ遊びに来たときに寺井と一緒に演ったこともあります。「ヒサユキに捧げる」と前置きしたこの名演にOVER SEASのファン達は全員感涙にむせびました。2ndセットのオープニングはこれもエヴァンス派のスタンダード“Spring Is Here”。2曲目はベーシスト、スティーブ・スワロウの曲で“Falling Grace”。3曲目の“San Felice”は現在のジョージのガールフレンドの名前(とてもいい人らしい)。4曲目はアーサー・シュワルツの“Haunted Heart”と、ビクター・ヤングの“My Foolish Heart”のメドレー。クライマックスにメドレーを入れて唸らす構成力は明らかにトミー・フラナガンの影響でしょう。5曲目もメドレーで、デンジル・ベストの “Denzil's Best”からマイルスの“Nardis”へ。フラナガン時代からの長年のファン達の声援に応えて、最初“Denzil's Best”(フラナガンの名盤『エクリプソ』の中にも収録されたジョージの十八番であり、当店の超スタンダード)をジョージがいきなり演ろうとしたのですがこれは残念、エヴァンス派のバイラークが曲を知らなかったので急遽変更したのでした。次のアンコールは1stセットと同じでしたが、これはバイラークがもう一度演ろうと強く主張した為です。でも演りかたはまったく違いました。
終わった後ラテン民族の大阪人達、また東京、埼玉、横浜などから駆けつけたファン達は総立ちのスタンディングオベイション。終演後メンバー達も「お客さん達が自分たちの音楽に実に造詣深かった。」と大満足の一夜でした。
Over Seasの常連さん、Dalarnaさんのホームページでもこの日のライブレポートを読むことができます。こちらも読んでいて楽しくなる素晴らしいレポートです。読みたい方はこちらへどうぞ。
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