by Tamae Terai
1.I Didn't Know About You アイ・ディドント・ノウ・アバウト・ユー/Duke Ellington
〜Minor Mishap マイナー・ミスハップ/Tommy Flanagan
アイ・ディドント・ノウ・アバウト・ユー: トリビュートの幕開けは、イントロとして、フラナガンに大きな影響を与えたデューク・エリントンのバラード、「君を知らずに、どうして恋の意味など判るだろう。」という歌だが、師匠なき後も、フラナガンの録音を聴くたびに新しい発見をする寺井尚之の気持ちを託す。 |
デューク・エリントン |
マイナー・ミスハップ: ハードバップのタイトな魅力と繊細さを併せ持つアップテンポの曲。タイトルは、小さなトラブルがあった時“大丈夫、大したことないよ”という意味のことば。 ジョージ・ムラーツとアーサー・テイラーを率いたフラナガン・トリオのOverSeasでの初ライブ('84)での演奏曲。 フラナガンは《Cats》('57)《Super Session》('80)自己名義以外に《Aurex '82》《Home Cookin'》Nisse Sandstrom('80)に、寺井は《Flanagania》('94)に収録。。 |
’84,OverSeasで初めてコンサートをした トミー・フラナガン |
2.Beyond
The Bluebird ビヨンド・ザ・ブルーバード/Tommy
Flanagan 「ブルーバードの向こうに」というタイトルのこの作品は、デトロイトのジャズクラブ<ブルーバード>から巣立ち巨匠と成ったフラナガンが、その人生を回想する趣の作品となっている。青い鳥が生んだデトロイト・バップが、海を越え、日本で寺井尚之というピアニストとOverSeasというジャズクラブを生んだ事を想いながら聴くと、一層感慨が深くなる。自然な親しみやすいメロディで、デトロイトのお家芸である左手のカウンター・メロディが印象的だが、転調が多い難曲。 フラナガンは同タイトルのアルバム('91)、《Flanagan's Shenanigans》('93)、他名義アルバム《After Hours》Scott Hamilton('96)、《Mirage》Bobby Hutcherson('91)、《Bennie Wallace》('98)に収録、寺井は《Fragrant Times》('97)に収録。 |
Bluebird Inn の外装。 オーナーの一人、 クラレンス・エディンスと |
3.Smooth
As The Wind スムーズ・アズ・ザ・ウィンド/Tadd
Dameron '40年代、Bebop全盛期の立役者として活躍した作編曲家ピアニスト、タッド・ダメロンがアレンジを担当したブルー・ミッチェル(tp)のストリングス入りアルバムのタイトル曲。唯美主義者、ダメロンの特質を端的に示す作品で'80年代にフラナガンが最も愛奏した曲。レコード以外に、'87年ヨーロッパ楽旅の際、オランダのラジオ番組でストリングスをバックに繰り広げたフラナガン・トリオの名演や、'88年にリンカーン・センターでチャーリー・ラウズ(as)と共演したタッド・ダメロンへのトリビュートコンサートも伝説的である。 フラナガンは《Positive Intensity》('75)と上述の《Smooth As The Wind》Blue Mitchell('60)に参加。寺井は《Flanagania》('94)に収録。 |
|
4.Embraceable
You エンブレイサブル・ユー/Ira&
George Gershwin 〜 Quasimodo カジモド/Charlie Parker フラナガンの音楽スタイルの特徴の一つにメドレー演奏の素晴らしさをがある。「抱きしめたくなる貴方」という甘く美しいガーシュインのバラードに続くのは、そのコード進行を基にしてチャーリー・パーカーが作ったヒップなバップ・チューン<カジモド>、カジモドはヴィクトル・ユーゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」の主人公の名前、カジモドは、地位も金もない教会の鐘突き男、せむしで片目で外見は醜いけれど、汚れない魂を持っている。チャーリー・パーカーのネーミングには、単なるジョークと言うよりも、うわべだけで人間を判断する社会への強烈なアンチテーゼを感じる。フラナガンのメドレーは、ウイットに富み、アドリブフレーズの端々に深い意味のある引用フレーズが挿入され、この上なくドラマチックで楽しいものである。 寺井尚之は’88年ヴィレッジ・ヴァンガードで毎夜演奏されていたフラナガン・トリオこのメドレーに深い感銘を受け、フラナガニアトリオのデビュー盤《Flanagania》('94)に収録したが、当のフラナガンは、それ以来ふっつりと演奏するのを止めてしまった、いわくつきの作品。 寺井は《Flanagania》('94)に収録。 |
|
5.Lamentラメント/J.J.
Johnson ラメントは『哀歌』と訳せばよいかも知れない。フラナガンが’50年代共演したトロンボーンの神様、作編曲家としても名高いJ.J.ジョンソンの作品。今夜の演奏でのセカンドリフはトミー・フラナガンのもの。 フラナガンはJazz Poet ('89)、共演盤としてはThe Last Recordings / Attila Zoller、 Commitment / Jim Hall ('76)に収録。寺井尚之フラナガニアトリオはDalarna('95)に収録 |
6.Rachel's
Rondo レイチェルのロンド/Tommy
Flanagan フラナガンが愛する長女レイチェルに捧げた溌剌として優雅な作品。レイチェルは現在家族と西海岸に在住し、時々NYのダイアナ未亡人を訪ねてやってくる。フラナガンのアパートには美しいレイチェルの幼い頃からの写真が沢山飾られており、娘に対する愛情が偲ばれる。フラナガンは《Super Session》('80)に収録しているが、ライブでの演奏は残念ながら聞くことは出来なかった。この曲をレパートリーに入れ愛奏しているのは恐らく寺井尚之以外にはないだろう。 寺井は《Flanagania》('94)に収録。 |
7.Sunset
& The Mockingbird サンセット&ザ モッキンバード/Duke
Ellington エリントン音楽もフラナガンのレパートリーの根幹を成している。この作品もエリントン独特の美しさと強さが感じられる名作だが、フラナガンが取り上げる迄は余り演奏されていなかった。 エリントンがフロリダ半島をバスでツアー中、美しい日没に、かつて聞いた事のない美しい鳥の鳴き声が響いた。それがモッキンバードだと知らされたエリントンが、その場で書き上げた印象的な作品で、'58年にエリザベス女王に献上した《女王組曲》の中の一曲。70年代、NYのジャズ系ラジオ局の夕方の番組のテーマソングとして使用されており、フラナガンはそれを聴き覚えてレパートリーに加え、晩年のアルバム、《The Birthday Concert》('98)のタイトル曲とした。他にソロ演奏が《 A Great Night In Harlem 》(2000)に収録されている。 |
8.Our
Delight アワ・デライト/Tadd
Dameron タッド・ダメロンがビバップ全盛期'40年代半ばにディジー・ガレスピー楽団の為に書いた作品。ピアノとベース、ドラムが入れ替わり立ち代り、フロントに登場するダイナミックなフラナガンのアレンジは、ジェットコースターの様なスリルに溢れ、正にピアノトリオの醍醐味を満喫する事が出来る。 微妙な呼吸が必要とされるこのアレンジは、レギュラーで活動するユニットでなければ、絶対にその良さを引き出すことはできない。フラナガンは自己トリオのライブでこの曲を盛んにプレイした。その際の決まり文句は「ビバップはビートルズ以前の音楽、そしてビートルズ以後の音楽である!」で、NYやOverSeasでは、客席から盛んな拍手が沸いたものだ。残念ながらトリオでのフラナガンの録音は残っていないが、フラナガンはハンク・ジョーンズとのピアノデュオ('78)で《Our Delight》のタイトル曲として収録。 寺井は《AnaTommy》('93)に収録。 |