by Hisayuki & Tamae Terai
1.
U.M.M.G. アッパー・マンハッタン・メディカル・グループ/Billy Strayhorn フラナガンが心から敬愛した作編曲家ビリー・ストレイホーンの代表作の一つで、エリントン音楽の特徴である“粋”と浮揚感に溢れた作品。 U.M.M.G.は、Upper Manhattan Medical Group(北部マンハッタン医療団体)の略称、デューク・エリントンの主治医であり、親友だった黒人医師アーサー・ローガンが主催する医療ボランティア団体に捧げた曲。 9.11.NYのテロの時、フラナガンは自宅付近を散歩中に事件を目撃していました。その少し後のテロかどうか判断が付かなかったクイーンズの飛行機事故で、フラナガンの主治医が亡くなりました。フラナガンが亡くなったのはそのすぐ後です。10年来患っていた大動脈溜が死因ですが、この主治医が生きておられたら、少しは命が延びたかもわかりません。今回は、このお医者さんに捧げました。(寺井尚之) フラナガンは、《Tokyo Recital》('75)に収録。 |
2.Beyond
The Bluebird ビヨンド・ザ・ブルーバード/Tommy
Flanagan デトロイトのジャズクラブ<ブルーバード>で修行したフラナガンが、巨匠となって若き日を回想する趣の作品。<ブルーバード>はデトロイトの精鋭によるハウスバンドが、一流ゲストと共演する形式のライブだったので、フラナガンはNYに進出する前から、NYミュージシャンの間では高く評価されていた。 フラナガンによれば、<ブルーバード>はお客さんがミュージシャンを温かく応援したクラブでOverSeasと非常に雰囲気が似ているという。 青い鳥が生んだデトロイト・バップが、海を越え、日本で寺井尚之というピアニストとOverSeasというジャズクラブを生んだ事を想いながらこの曲を聴くと、一層感慨が深くなる。自然な親しみやすいメロディと、デトロイトのお家芸である左手のオブリガードが印象的だが、転調が多い難曲。 楽譜をもらったのは'91春、初演アルバムの発売前。以来ヴァージョンは進化し続けてます。(寺井尚之) フラナガンは同タイトルのアルバム('91)、《Flanagan's Shenanigans》('93)、寺井は《Fragrant Times》('97)に収録。 |
3.Strictly
Confidential ストリクトリー・コンフィデンシャル/Bud
Powell 天才バップ・ピアニスト、バド・パウエルの代表作。'56にNYに出てきた若き日のフラナガンが初めての一流クラブ出演は<バードランド>でのバド・パウエル・トリオの出演日にパウエルが現れなかった為、ドラムのエルヴィン・ジョーンズが急遽フラナガンに代役を頼んだのがきっかけだった。<パウエル派>とは呼ばれないフラナガンだが、寺井尚之はトミー・フラナガンこそバド・パウエルの後継者、いやパウエルを超えた人だと、フラナガン自身に強く語ったことがある。2005年9月に開催したバド・パウエル楽譜講座で、寺井の本曲とフラナガンの演奏について、素晴らしい解説も聞けたが、今夜はピアニストとしての名演が聴けた。 フラナガンは《I Remember Bebop》('77)、 寺井は《Dalarna》('95)に収録。 |
4.Embraceable
You メドレー:エンブレイサブル・ユー/Ira& George
Gershwin 〜 Quasimodo カジモド/Charlie Parker フラナガンの音楽スタイルの特徴の一つにメドレー演奏の素晴らしさをがある。「抱きしめたくなる貴方」という甘く美しいガーシュインのバラードに続くのは、そのコード進行を基にチャーリー・パーカーが作ったヒップなバップ・チューン<カジモド>、カジモドはヴィクトル・ユーゴーの小説「ノートルダム・ド・パリ」の主人公の名前、カジモドは、地位も金もない教会の鐘突き男、せむしで片目で外見は醜いけれど、汚れない魂を持っている。チャーリー・パーカーのネーミングには、単なるジョークと言うよりも、うわべだけで人間を判断する社会への強烈なアンチテーゼを感じる。フラナガンのメドレーは、ウイットに富み、アドリブフレーズの端々に深い意味のある引用フレーズが挿入され、この上なくドラマチックで楽しいものである。 寺井尚之は’88年ヴィレッジ・ヴァンガードで毎夜演奏されていたフラナガン・トリオこのメドレーに深い感銘を受け、フラナガニアトリオのデビュー盤《Flanagania》('94)に収録したが、当のフラナガンは、それ以来ふっつりと演奏するのを止めてしまった、いわくつきの作品。 寺井は《Flanagania》('94)に収録。 |
5.Good
Morning Heartache グッドモーニング・ハートエイク/Irene
Higginbotham / Ervin Drake/ Dan Fisher フラナガンのアイドルであり、音楽的に大きな影響をうけた不世出の歌手ビリー・ホリディの大ヒット曲、年下の夫テディ・ウイルソン(p)が他の女性と駆け落ちするという裏切りに会ったアイリーン・ウィルソン(p)が自分の心を託した作品と言われている。エラ・フィッツジェラルド(vo)の《Live At Carnegie Hall》での名唱はフラナガンの伴奏が大きな役割を果たしている。 ただ惨めなだけの失恋の歌ではなく、深い悲しみと向き合う強い意志のある歌。寺井尚之にとっては、フラナガンを失った悲しみを乗り越えて、彼の音楽を守ろうという決意が感じられる。 フラナガンは《The Magnificent》('81)に収録。エラのバックで、Ella Fitzgerald Newport Jazz Festival Live at Carnegie Hall('73) |
6.Medley:
Thelonica セロニカ/Tommy
Flanagan 〜Mean Streets ミーンストリーツ/Tommy Flanagan トリビュートならでは、フラナガニアトリオならではの究極のフラナガン・メドレー! |
|
清清しい美しさを持つ<セロニカ>は、ジョージ・ムラーツ(b)、アーサー・テイラー(ds)のトリオによる不朽の名盤『セロニカ』のタイトル曲となったフラナガンのオリジナル。セロニアス・モンクとパノニカ・デ・クーニングスウォーター男爵夫人との間の終生変わらぬ類稀な友情に捧げられた名曲。恐らく現在演奏するのは寺井尚之しかいないし、トリビュートでしか聴けない硬派のバラード。 ドラマー河原達人をフィーチュアする<ミーンストリーツ>は、元々《OVERSEAS》('57)に、<ヴァーダンディ>と
いうタイトルで収録されている。エルビン・ジョーンズのハードなブラッシュ・ワークが鮮烈だ。後に'80年代終わりに弱冠20代のケニー・ワシントン(ds)
がフラナガン・トリオにレギュラーとして加入した際、ケニーのあだ名、ミーン・ストリーツ(凄腕野郎)に改題された。ケニーのレギュラー時代('88−'90)に尤も良く演奏された作品。フラナガニアトリオでも河原達人のフィーチュア・ナンバーとしてファンに愛されている。 |
7.Sunset & The
Mockingbird サンセット&ザ モッキンバード/Duke
Ellington エリントン音楽はフラナガンのレパートリーの大きな支柱のひとつ。この作品もエリントン独特の力強い美が感じられる名作だが エリントンがフロリダ半島をバスでツアー中、美しい日没に、かつて聞いた事のない美しい鳥の鳴き声が響いた。それがモッキンバードだと知らされたエリントンが、その場で書き上げた作品で、'58年にエリザベス女王に献上した《女王組曲》の中の一曲。70年代、NYのャズ系ラジオ局の夕方の番組のテーマソングとして使用されており、フラナガンはそれを聴き覚えてレパートリーに加えた。'84来日時に演奏している。その後、晩年のアルバム、《The Birthday Concert》('98)のタイトル曲として収録。他にソロ演奏が《 A Great Night In Harlem 》(2000)に収録されている。 |
|
8.Tin
Tin Deo ティン・ティン・デオ/Chano
Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie ビバップ時代ディジー・ガレスピー(tp)楽団で活躍したキューバ生まれの天才パーカッション奏者、チャノ・ポゾの作品。文盲であったので彼の口づさむメロディを、ガレスピーと側近のギル・フラーが採譜してこの名曲が出来上がった。フラナガンはテーマが持つ土着的なラテン・リズムと哀愁を帯びたメロディから、より一層デトロイト・バップの品格が際立つ名ヴァージョンを作り上げた。 寺井とフラナガンのアレンジは少し異なるが、いずれもセットの締めくくりとしてなくてはならない演目である。 フラナガンは《Flanagan's Shenanigans》('93)《The Birthday Concert》('98)に、寺井は《AnaTommy》('93)に収録。 |