第8回Tribute to Tommy Flanagan
by Tamae Terai

【第2部】

1.That Tired Routine Called Love ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ/Matt Dennis
  ユーモラスなラヴソングでありながら手強い難曲。作曲者マット・デニスは、フランク・シナトラのヒット曲の作者として有名、自らも弾き語りの名手として活躍した。デニスは、自分のショウには、好んで一流ジャズメンをゲストに招き共演した。若きフラナガンがレギュラーとして共演したJ.J.ジョンソンがこの作品をレパートリーに入れたのも、’55年、有名ナイト・クラブ“チ・チ”でデニスと共演したのがきっかけだった。ひねりのあるバッパー好みの彼の作風はジャズメンのチャレンジ精神を刺激する。本作品も、自然に口づさめるメロディだが転調が頻繁にある難曲。フラナガンはJJジョンソンのリーダーアルバム《First Place》でサイドマンとして初録音、30余年後に自己の名盤《Jazz Poet》('89)に収録した。録音後にもライブで愛奏し、数年後には録音ヴァージョンを遥かに凌ぐアレンジに仕上がっていた、現在は寺井尚之がそれを引き継ぎ演奏し続けている。
寺井は《Anatommy》('93)に収録。。

2.With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワード・ノン/ Tom McIntosh

<ウィズ・マリス…>はフラナガンが愛奏する作曲家、トロンボーン奏者のトム・マッキントッシュの作品で、OverSeasでは最も人気のあるナンバー。賛美歌の「主イエス我を愛す」を基にした作品で、「誰にも悪意を向けず」と言う題名はエイブラハ ム・リンカーンの奴隷解放宣言の一節である。
 OverSeasで、フラナガンがこの曲をコールすると、常連達から大歓声が巻き起こった。するとフラナガンは、少しだけ鼻を膨らませて、魂を揺さぶるような名演奏を披露したものだ。
フラナガンは《Ballads & Blues》('75)はデュオで《The Birthday Concert》('98)ではトリオで収録、過去に,サイドマンとして録音した《Dusty Blue / Howard McGhee》や《Vibrations/Milt Jackson》('60)(Mallets Towards Noneというタイトルで)と聴き比べるとフラナガンの演奏解釈の素晴らしさがより実感できる。寺井は《AnaTommy》('93)に収録。


Ballads & Blues
4.Smooth as the Wind スムーズ・アズ・ザ・ウィンド/Tadd Dameron
  '40年代、Bebop全盛期の立役者として活躍した、ピアニスト、作編曲家タッド・ダメロンの作品。Bebopでも、極めて優美な作風を持つダメロンの作品群は、フラナガンのレパートリーには欠かせない。本作品はダメロンがアレンジを担当したブルー・ミッチェル(tp)のストリングス入りアルバムのタイトル曲。
 唯美主義者、ダメロンの特質を端的に示す作品で'80年代にフラナガンが最も愛奏した曲。レコード以外に、'87年ヨーロッパ楽旅の際、オランダのラジオ番組でストリングスをバックに繰り広げたフラナガン・トリオの名演や、'88年にリンカーン・センターで行ったタッド・ダメロンへのトリビュートコンサートも伝説的である。
フラナガンは《Positive Intensity》('75)と上述の《Smooth As The Wind》Blue Mitchell('60)に参加。寺井は《Flanagania》('94)に収録。


Positive Intensity
3.Minor Mishap マイナー・ミスハップ/Tommy Flanagan
 <マイナー・ミスハップ>は、ハードバップの魅力に溢れるソリッドな作品。タイトルは“些細な不幸”という意味だが、“こんなトラブル、大したことない”という場合に日常よく用いられる。
 フラナガン・トリオのOverSeasでの初ライブ('84)での演奏曲。
 フラナガンは《Cats》('57)《Super Session》('80)自己名義以外に《Aurex '82》《Home Cookin'》Nisse Sandstrom('80)に、寺井は《Flanagania》('94)に収録。

Super Session
5. If You Could See Me Now イフ・ユー・クッド・シー・ミー・ナウ/Tadd Dameron
 この作品はダメロンがサラ・ヴォーンの為に書き下したバラードで、寺井尚之のアレンジはフラナガンのライブでのヴァージョンが基になっている。
 「あなたに今の私が見えるなら…」というタイトルは、寺井から天国にいるフラナガンへの呼びかけだ。これも又寺井が《Flanagania》('94)に録音し、フラナガンはトリオで一生レコーディングしなかった幻の演目である。
 フラナガンはハンク・ジョーンズ(p)とのデュオアルバム《More Delights》('78)に収録。
 
Tadd Dameron
6.Rachel's Rondo  レイチェルのロンド /Tommy Flanagan
 レイチェルとは現在西海岸在住のトミー・フラナガンの長女。彼女がNYに現れると、現在でもその美貌がジャズメンの間で常に評判になる。今でもフラナガンのアパートにはとレイチェルの写真が居間のあちこちに飾られている。フラナガンは《Super Session》('80)以外ほとんど演奏したことはないが、躍動感と気品に溢れる作品で、寺井が愛奏し継承している。
寺井は《Flanagania》('94)に収録。
7.I'll Keep Loving You アイル・キープ・ラヴィング・ユー/Bud Powell
 ずっとあなたを愛し続けよう」というタイトルが付けられてたバド・パウエルの作品。静謐な美しさに溢れる清清しい硬派のバラード、「トミー・フラナガンに捧げたトリビュート・コンサートにふさわしい愛の曲。
フラナガンは、オムニバス盤『I Remember Bebop』('77)に、キーター・ベッツ(b)とのデュオで名演を遺している。寺井尚之は『Dalarna』('95)に収録。

Bud Powell
(1924-1966)
8. Our Delight アワ・デライト/ Tadd Dameron
 タッド・ダメロンがビバップ全盛期'40年代半ばにディジー・ガレスピー楽団の為に書いた作品。ピアノとベース、ドラムが入れ替わり立ち代り、フロントに登場するダイナミックなフラナガンのアレンジは、ジェットコースターの様なスリルに溢れ、正にピアノトリオの醍醐味を満喫する事が出来る。
 微妙な呼吸が必要とされるこのアレンジは、レギュラーで活動するユニットでなければ、絶対にその良さを引き出すことはできない。フラナガンは自己トリオのライブでこの曲を盛んにプレイした。その際の決まり文句は「ビバップはビートルズ以前の音楽、そしてビートルズ以後の音楽である!」で、NYやOverSeasでは、客席から盛んな拍手が沸いたものだ。残念ながらトリオでのフラナガンの録音は残っていない。
フラナガンはハンク・ジョーンズとのピアノデュオ('78)で《Our Delight》のタイトル曲として収録。寺井は《AnaTommy》('93)に収録

Anatommy

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