師匠トミー・フラナガンの名演目の数々を!
20th Tribute to Tommy Flanagan

トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明:Tamae Terai


Performed by "The Mainstem" TRIO


演奏 The Mainstem
左から:寺井尚之(p) 菅一平 (ds)  宮本在浩(b)

from left: Hisayuki Terai-piano, Zaikou Miyamoto -bass, Ippei Suga-drums,


<第20回トリビュート・コンサート・プログラムと曲目解説>

<1部>

1.Let's (Thad Jones)
 フラナガンが自主制作したサド・ジョーンズ曲集(右写真)のタイトル曲。<Let's>は、サプライズと強力なパワーを内蔵するサド・ジョーンズ作品の典型。難度の高いジョーンズ作品について、フラナガンはこんな言葉を遺した。
「彼の作品を演奏できるのなら、演奏者として順調な道を歩んでいる証だ。」

2. Beyond the Bluebird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
  
トミー・フラナガンが20代にサド・ジョーンズ達とレギュラー出演したデトロイトのジャズクラブ“ブルーバード・イン”を回想して作った。数少ないフラナガンのオリジナルの内、最後の作品。ブルージーで気品のある曲風は、フラナガンが求める「Black Music」の典型だ。フラナガンの自信作で、、“Beyond the Bluebird”リリース以前にフラナガンから異例の写譜を許された。
3. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan)
 フラナガンが、美貌の長女レイチェルに捧げた作品で『Super Session』('80)に収録。しかし、ライブで余り演奏することはなかった。
 一方、寺井はこの曲を大切にして長年愛奏、『Flanagania』('94)に収録、気品と躍動感に満ちた曲想で、OverSeasではとても愛されているオリジナルの1つ。

4.メドレー: Embraceable You (Ira and George Gershwin) エンブレイサブル・ユー - Quasimodo カシモド (Charlie Parker)


 
ガーシュインの甘いスタンダードナンバーと、同じコード進行でチャーリー・パーカーが作ったバップ・チューンの組み合わせ。“Embraceable You(抱きしめたくなるあなた)”のキーはF、“Quasimodo(ノートルダムのせむし男)”でE△へ転調し、ドラマチックな起伏を生み出す。これが転調の名手と言われる所以だ
。フラナガン的メドレーの真骨頂。関連ブログ


5. Sunset & the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)

   デューク・エリントンとビリー・ストレイホーン共作の白眉、フラナガン晩年のライブ盤、バースデイ・コンサート('98)のタイトル・チューンでもある。この曲が収められた<女王組曲>は、エリザベス女王に献上するため、デューク・エリントンが自費で録音し1枚だけプレスしたプライベートな作品だった。で、
 組曲は、エリントンの死後に、一般リリースされ、NYのジャズ系FMの番組の主題歌となり、フラナガンが聴き覚えたもの。
6.Mean Streets (Tommy Flanagan)
  ジャズで“Streets”といえば言わずと知れたビバップのメッカ“52丁目”のこと、“Mean Streets”は若くしてトミー・フラナガン・トリオのドラマーに抜擢されたケニー・ワシントンのニックネームだった。
 『Overseas』('57)では“Verdandi”というタイトルでエルヴィン・ジョーンズ(ds)のブラッシュ・ワークをフィーチャーし、'80年代終盤に改題して、ケニー・ワシントンのフィーチュア・ナンバーとなった。もちろんトリビュートでは菅一平(ds)のドラム・ソロで大喝采!
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)

  トミー・フラナガン初期のオリジナルとして『Overseas』に収録。頻繁な転調によってサウンドの色調を変化させる手法や神秘的な曲想に、ビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。
 『Overseas』以降、フラナガンが自身が演奏することはほとんどなかったが、寺井尚之がアルバム『ダラーナ』('95)をリリースしたのに触発され、寺井のアレンジを使って『Sea Changes』('96)に再収録した。
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Dizzy Gillespie, Gill Fuller)
 ディジー・ガレスピーとキューバ生まれの天才パーカッショニスト、チャノ・ポゾが生んだアフロ・キューバン・ジャズの代表曲、ラテンの土臭さと都会的な洗練美が融合する名作。フラナガンはジャズパー賞受賞コンサートのライヴ盤『Flanagan's Shenanigans』('93)に収録、ライブのラスト・チューンとして盛んに愛奏した。ビッグバンドのダイナムズムを損なうことなく、より繊細なピアノトリオ・ヴァージョンに仕立てあげるフラナガン・ミュージックの真骨頂。



<2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis, Ted Steele)ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ 
 「エンジェル・アイズ」「コートにスミレを」など、多くの名曲を作ったマット・デニスの作品は、斬新なメロディとハーモニーで、ジャズ・ミュージシャンのチャレンジ精神を刺激する。「恋なんて、お決まりのワン・パターン、なのに君のような人に出会うと、またまた恋に落ちてしまう・・・」というユーモラスな歌詞に沿うメロディは、非常に自然だが、実は果てしない転調が続く難曲。フラナガンはJ.J.ジョンソン・クインテット時代に初演、'80年代後半から自己レパートリーに加え『Jazz Poet』('89)に収録。録音後もライブ・シーンでアレンジに変更が加わり、ヴァージョン・アップしていった。その完成型はトリビュート・コンサートでしか聴くことが出来ない。

2. They Say It's Spring (Marty Clark/Bob Haymes)
 この曲をヒットさせたのは弾き語りで人気のあったブロッサム・ディアリーで、彼女の夫はJ.J.ジョンソン・クインテットのバンドメイト、ボビー・ジャスパーだった。それでフラナガンは彼女のライブに行って聞き覚えたのだと語っている。フラナガンは例年、春になるとNYのクラブに出演し、春に因んだレパートリーを<スプリング・ソングス>と紹介して愛奏した。NYに春を呼ぶ、フラナガン得意の<スプリング・ソングス>の一曲。
  曲についての詳しい解説はブログに。
3.A Sleepin' Bee (Harold Arlen)
 
上のThey Say It's Spring同様、これもフラナガンの<スプリング・ソングス>の一曲。「ティファニーで朝食を」で知られるトルーマン・カポーティ原作、ハロルド・アーレン音楽のミュージカル「A House of Flowers」(1954初演)中の一曲。「蜂が手の中で眠ったら、あなたの恋は本物」というハイチの不思議な言い伝えを元にしたスインギーなラブ・ソング。 
 フラナガンはハロルド・アーレン集に録音しているが、その後アレンジは大きく更新され、トリビュートで演奏されたかたちになった。
 
4. Eclypso (Tommy Flanagan)
  最も有名なオリジナル曲、"Eclypso"は「日食、月食(Eclypse)」と「カリプソ( Calypso)」の合わせた言葉遊び、そんなウィットがプレイにも反映している。NASAのサイトを見ると、フラナガンがスウェーデン楽旅に出る直前に北米で金環日食があったことが記されている。恐らくフラナガンはこれを観てタイトルを思いついたのだろう。
 寺井にとっては、フラナガンに呼ばれて初めてNYを訪れた際、別れの夜にフラナガンがヴィレッジ・ヴァンガードで寺井をコールして演奏してくれた思い出の曲でもある。
5. Passion Flower (Billy Strayhorn)
 ビリー・ストレイホーン作品は花を題材にしたものが多い。パッション・フラワーはトケイソウのこと。ジョージ・ムラーツ在籍中のフィーチャーナンバーとして、頻繁にライブで演奏され、ムラーツは独立後も愛奏し続けている。トリビュートでは宮本在浩の弓の妙技をフィーチャーして。

6. Elusive (Thad Jones)
  <Elusive>は「雲をつかむように捉えどころがない、表現しにくい、」という意味で、その名のごとく、サド・ジョーンズらしい悪魔的なスリルに溢れた曲。'50年代のデトロイトで、フラナガンはジョーンズと共に、この難曲を、いとも容易く演奏していた。デトロイト・ハードバップの中でも、最もハードルの高い曲だが、トリビュートではトリオが三位一体となって、素晴らしい浮揚感を生み出した。

7. Some Other Spring (Irene Kitchings)

 フラナガンのアイドルで、音楽的にも大きく影響を受けたビリー・ホリディのヒット曲。作曲者アイリーン・キッチングスの夫、テディ・ウイルソン(p)は有名になると新しい恋人を作り、彼女の元から去っていった。その実体験を元に作られた名曲と言われており、フラナガンは<スプリング・ソングス>として愛奏し、敬愛するビリー・ホリディへのオマージュとしている。
8. Our Delight (Tadd Dameron)
  タッド・ダメロンがビバップ全盛の'40年代半ばにディジー・ガレスピー楽団の為に書いた作品。フラナガンは、ピアノ、ベース、ドラムを互にフィーチュアして、ビッグバンドに負けないダイナミズムを表出。ビッグバンド用の作品をピアノ・トリオに置き換えるフラナガン・スタイルの典型。
 残念ながらフラナガン・トリオでの録音は残っておらず、ハンク・ジョーンズとのピアノ・デュオ('78)《Our Delight》に収録。


Encore

1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
  トミー・フラナガンが好んだ作曲家、トム・マッキントッシュの処女作。フラナガンはジョージ・ムラーツとのデュオ名盤『バラッズ&ブルース』に収録、「With Malice Towards None(誰にも悪意を向けず)」というタイトルは、エイブラハム・リンカーンの名言で、メロディーは、讃美歌「主イエス我を愛す」がベースになっている。
 マッキントッシュは、作曲の過程で、フラナガンに色々アドバイスを受けたとしたと証言していて、この作品には、フラナガンのアイデアが盛り込まれているようだ。そのためなのか、マッキントッシュ自身やミルト・ジャクソンなど、様々な録音のうちでも、フラナガンの気品ある演奏解釈は傑出している。OverSeasで特に人気のあるナンバーでもある。



 
2. Like Old Times (Thad Jones) ライク・オールド・タイムズ
 
『Motor City Scenes/サド・ジョーンズ』('59)に収録された。<Like Old Times(昔のように)>はフラナガンのライブのアンコールとして愛奏されたナンバー。
 ポケットに忍ばせたホイッスルを絶妙のタイミングで「ピューッ」と吹いて、喝采と爆笑を誘い、澄ました顔で演奏を続けていた姿がしのばれる。
 今夜は、寺井尚之も師匠に倣い、ホイッスルの一撃を放った。往年のフラナガンを知る人には、正に、ライク・オールド・タイムズ!サド・ジョーンズに始まりサド・ジョーンズに終わるトリビュート・コンサートとなった。

トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:
3枚組CDがあります。

OverSeasまでお問い合わせ下さい。

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