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寺井尚之ジャズピアノ教室とは? 発表会の趣旨
開始早々から60名近い人々であふれかえった店内 第1部開演! 次はSAMIさんです。保育園の保母さんですが、一般のピアノ教室に通ったり、アマチュアバンドでも活動歴があります。当教室に入門後も、進歩が早くわずか数ヶ月で発表会出場権を獲得しました。少女のように小柄で華奢なSAMIさんに20歳の娘さんがいると聞いたときは絶句しましたが、スポーツマンタイプの優しい旦那様が元少年合唱団と聴きまたびっくり。可憐な外見に似合わず伸びのある豪快なプレイが彼女の身上です。今日もベース、ドラムをバックにはっきりしたフレーズがよくスイングし、将来有望な逸材です。宗竹正浩さんも、発表会後印象に残った演奏者の一人に彼女の名前を挙げていました。 続いては、看護婦2年目で忙しい日々を送っているりんりんです。彼女はお母様がジャズファンで子供の時から家庭にジャズが流れる環境に育ちました(お母さんは演奏にウルさいから今日は応援に来させなかったそうで、かわいそう…)。スリムで物静かな彼女のプレイを一言で言うなら「Funky!」で、教室では異色のプレイヤーです。ブルーノートが自然にどんどん入る彼女のフレーズを聴いていると新鮮で楽しいです。今日もブルージーな三連フレーズを繰り出すとすかさず河原達人がリムショットで応えて楽しい演奏になりました。彼女もまた宗竹、河原両氏の最も印象に残った演奏家の一人でした。最後のお辞儀も深々と綺麗で次回が楽しみな演奏家です。 寺井一門の最初の課題曲である『アナザー・ユー』の発表が終わり、第2の課題曲『マイ・ワン&オンリー・ ラヴ』で発表するのは、かよっぺ。京大病院の事務局からはるばる堺筋本町まで通ってきます。最近上達への壁を一つ越えた感のあるかよっぺは、躍進振りが目覚しい上り調子です。発表会までに一番早く仕上げて安定した演奏をしていたのが彼女でした。普段からとても心の優しい女の子で、その優しさがタッチやプレイからにじみ出るようになったのは一重にレッスンの成果だと思います。今日もまずまずのプレイでしたが、常日頃に比べると「こんなもんじゃない!」と声を大にして言いたいものです。演奏前は緊張しないと言っていたかよっぺも応援に来ていたお母様も、自分の余りの緊張ぶりにびっくりしていたようです。でも、あのエラ・フィッツジェラルドだって、もの凄いアガリ屋だったそうですから、緊張することを楽しんで!これからも心安らぐ演奏を聴かせてください。 初出場組の最後は、新人ながらセロニアス・モンクの名曲『パノニカ』を選んだ田中有希さん。細身で美形なので、いつもノーメイクの自然体。本業は一級建築士で、教わったことを忘れない記憶力と、曲の構造についての理解力がずば抜けており、『パノニカ』のレッスン初回に、理論的に完璧なアドリブフレーズをサラリと書いて持って来たのには師匠も舌を巻きました。今日もキリっとした演奏ぶり、一息で弾くフレーズもピシっと決まり、きついテンションのモンキッシュなフレーズも出て新人とは思えません。後で素敵なご主人にインタビューすると「家で弾いている時よりもずっと良かった!」とのことでした。 1部のフィナーレを飾るのは、OverSeasの常連さんなら誰でも知ってる児玉勝利さん。ご存知のようにテナーサックスでの出場です。今日はギャラリーが大変多く、楽器の置き場所もないので1時間近くサックスを抱きしめていなければなりませんでした。児玉さんは当店のアイドル、サー・ローランド・ハナへの敬意を込めて、ハナさんの作った美しく難しいラヴソング『ジス・タイム・イッツ・リアル』に挑戦です。バックを務めるのはもちろんフラナガニアトリオです。寺井尚之の美しいイントロが始まりました。最初少し躓いたものの、日頃のレッスンよりもずうっと良い出来!過去の発表会と比べてもベストの出来になりました。 衝撃の第2部 再びピアニストの発表に戻り、次は西川紀子さん。和歌山から通ってくる彼女は各方面から引っ張りだこの美人司会者で、今日も司会をお願いしたのですが、演奏に専念したいからと断られてしまいました。今日は俳優みたいなご主人も応援に駆けつけています。彼女が選んだのは、サド・ジョーンズの名曲『サドラック』。シンとしたOverSeasに流れる重厚なイントロは、ほろ酔い気分の末宗俊郎先生(ギタリスト)が「やっぱ2部はちゃうなあ!」と呟くほどのカッコ良さ。アドリブに入るとジャック・ルーシェを連想するようなクラシカルなフレーズが飛び出し、4バースで河原達人が気配り溢れるチェイスを聴かせました。彼女は前回スケジュールの都合で出場できず、初めてのトリオ演奏がこの難曲、それでも難なくこなせたニシカワちゃん、次回の発表が楽しみです(司会もちょっとやって欲しかった)。ご主人からは、「目で見た感じを含めて、もっとお客さんを惹きつけるプレイをせよ!」と厳しい指摘。自称のんびり屋のニシカワちゃんは、この発表会のおかげで更に意欲が沸いたそうです。 次に登場するのはプロのピアニスト、川原和子さん。毎夜エスカイヤクラブで演奏する彼女はライブに来ることが出来ないので、専らフラナガニアトリオのCDを聴いてトレーニングしています。寺井尚之に師事してから、あちこちで「ピアノの音が綺麗になった」と褒められていると嬉しい話を聞きました。ここからピアニストの発表曲が2曲になります。1曲目はマット・デニスの知られざる名曲で、フラナガニアトリオのアルバム『Yours truly,』に収録されている『ユー・メイク・ミー・フィール・アット・ホーム』です。やはりプロ、安定感のあるこなれた演奏です。2曲目も同じアルバムで好評だった、コール・ポーター作品『恋とはどんなものでしょう?』。カクテルピアニストにあるまじきバップのワイルドなフレージングも飛び出してスリリングな演奏になり、大喝采を浴びました。師匠の講評では、「ギャラのアップする演奏」についてのワンポイントアドバイスが聞けました。 本日の会計を担当している数学者宮崎英利君はカウンター席で観戦、いつものクールなポーカーフェイスは影をひそめ、表情が硬くなっています。秀才宮崎もやはり人並みに緊張するのかと、何となく安心しました。阪大数学科3回生の彼は大学軽音の名門、阪大軽音スイング部に在籍、ビッグバンド、コンボに大活躍中のピアニストです。前回は『マイ・ワン&オンリー・ラヴ』での出場でしたが、今回は一気に番付を上げ、2部のトリでの出演です。選曲はデトロイトバップの王道を行く、タッド・ダメロンとサド・ジョーンズ作品で、トミー・フラナガンの18番でもある2曲、『スムーズ・アズ・ザ・ウインド』と『バード・ソング』。演奏前はコチコチでしたが、一旦弾き始めると宗竹正浩の優しいフォローもあって途端にリラックスした様子は、やはり恐るべし…。『スムーズ・アズ・ザ・ウインド』では途中のカラーチェンジも難なく決まり、続く『バード・ソング』では至難のテーマも端正に弾き切ります。アドリブも伸び伸びスイング、やはりベースとドラムの名サポートのおかげでしょうか?軽音で演奏の場数を沢山踏んでいる強みかもしれません。フラナガンのフレーズが沢山飛び出し、録音エンジニア、モトドラ赤井氏も大喜び。今までのどのレッスンよりも良いプレイを聴かせてくれて嬉しかった。BRAVO! 宮崎! この素晴らしいプレイで会場に衝撃が走りました。同年輩であるきんちゃんの大学の応援団グループもそわそわしています。休憩中は宮崎君のプレイの話で持ちきりです。そんな中で丸椅子に腰掛けて俯いてため息をつくきんちゃん、前回の「緊張してませんよー、ハハハ」という高笑いはどこへ行ったのでしょう…。 緊張の第3部 第3部2番手は浪速のハリー・ポッターこときんだいご君。関学理学部の3回生、ジャズ研で3管セクステットを率いて活動中の彼のキーワードは「Bop」。お人形のようにあどけない顔立ちですが、世界一かっこいいバッパーを目指し現在週2回レッスンに通って来る熱心な生徒です。彼の良いところは、Bopの素晴らしさを仲間に伝え、学内でも音楽理念の実現に務めていること。寺井尚之のライブでも、ハンサムな相棒ベーシストの銀太君を伴い真剣に芸を盗む姿がよく見られます。今日も6人の大応援団、半分は可愛い女の子なので、河原達人は「もうこれ以上女の子を連れてきたら、伴奏せん!」なんて嫉妬しています。前回初出場で、『アナザー・ユー』を演奏していたのに、今回は並み居る先輩達をごぼう抜きにして番付を一挙に上げ、師匠に志願して堂々3曲演奏することになりました。でもこんなに緊張しているきんちゃんを見たのは初めて、いつもの実力が出せるのでしょうか? しかし、講評できん、むなぞう、その前の宮崎のバッドボーイズ3名は、聴いてくれたお客さんにきちんとお辞儀をするマナーを忘れていると師匠からキツーイお灸を据えられました。ステージの上でも下でも挨拶はとても大切です。トミー・フラナガンがOverSeasに来たら、ホール係から調理場のスタッフ迄全員に自分から「HELLO!」と挨拶をしてましたよ。 続いてバッドボーイズとは対照的に、3番バッターのm.mさんは、ピアノに座る前からパーフェクトなお辞儀とスマイルを見せてくれました。黒のノースリーブのロングドレスでエレガントなm.mさんはクラシックのピアノの先生で、コーラスの伴奏などコンサートの経験が多い方ですから当然かもしれません。今日は友人の女性と貫禄のある紳士のご主人が応援に駆けつけておられます。彼女も前回は『アナザー・ユー』での出演ですから、きんちゃんと共にハイスピード組です。私よりも年上なのに頭がとても柔軟で、いつもキビキビしているm.mさんが選んだのは、フラナガニアトリオのアルバム『フレグラント・タイムズ』に収録されている2曲、ビリー・ホリディのおハコ『クレイジー・ヒー・コールズ・ミー』と、モンクの『エピストロフィー』でした。恋人に首っ丈の思いを告白する可愛い女の恋の歌である『クレイジー・ヒー・コールズ・ミー』は、m.mさんにぴったりの明るいラヴソングです。レッスンに来られてから彼女のピアノの音色は明るくて可愛い音になりました。名調律師川端さんも音の美しさに驚愕!でもリラックスしたいつものレッスンだと、もっと素晴らしいんです。そして拍手の終わる前のダレないタイミングを見計らう曲間もパーフェクト、インパクトの強い超ハードな『エピストロフィー』でガラリと雰囲気が変わりました。客席の皆の背中がますます前かがみになって演奏に集中するのがわかります。ベースソロのバッキングも、伴奏者であることが納得できるうまさです。ビバップの魔力を楽しむようにm.mさんの指先から楽しさが伝わってきます。エンディングではビリー・ストレイホーン、スタンリー・カウエルが得意とする、現代音楽のテクニック、左右対称のミラー奏法が出て、とてもカラフルな演奏になりました。ご主人も大拍手です。 さて3部のトリはみれどちゃん。教室の皆はみれどちゃんと呼んでいますが、師匠は「どれ美」と間違えたままです。ファッションセンス抜群、今日もビーズのトリミングのある短めのジーンズに♪がプリントしてあるパステルカラーのブラウスをはおって素敵です(カメラマン注:イヤリングも♪やった)。彼女は素晴らしく勘の良い生徒で、上達する度にぶち当たる音楽的な壁も易々と飛び越えていくので、師匠を驚かせる生徒です。いつも明るいみれどちゃんですが、発表会直前に体調を崩し、今日もユンケルを飲んできたと言うので私は心配でした。最初の曲は寺井尚之やトミー・フラナガンのお気に入りのオープニングナンバー、サド・ジョーンズの『ビッティ・ディッティ』です。「かんたんなうた」という意味のタイトルは、演奏者にとってブラックジョークとしか言いようのない超難曲です。みれどちゃんはフラナガントリオの『ナイツ・アット・ザ・ヴァンガード』を思い出すイントロから始めます。音色がとてもクリアです。ややこしいテーマもばっちり弾き切ることが出来、バンザイ!前のプレイヤー達の緊張が積み重なって彼女の肩に圧し掛かっているようで、ちょっとリズムが不安定になった所を、名手宗竹−河原コンビがビタっとフォローしたのには感心しました。続いてトミー・フラナガンのオリジナル曲『ビヨンド・ザ・ブルーバード』、これも難曲です。しかし共演者のサポートに気持ちが落ち着いたのか、ぐっと良いプレイが出来て私も嬉しかったです。恐らく世界中でこの曲を愛奏する者は寺井尚之だけという『ビヨンド・ザ・ブルーバード』ですが、みれどちゃん、これからも愛奏し続けて青い鳥を超えてくださいね。 名演の第4部〜アウトコーラス さて、次は副生徒会長で、後輩達にもあやめ姉さんと尊敬されるあやめちゃんです。彼女の趣味はお稽古事で諸芸百般とはいえ、レッスンに賭けるあやめちゃんの意気込みは並々ならぬもので、これほど情熱を持って音楽に取り組めるのは本当に素晴らしいことです。当然トミー・フラナガンと寺井尚之のピアノ演奏に対する造詣も深く、今年3月に催された「トミー・フラナガン追悼コンサート」の時に彼女が書いたコンサートレポートは、読者に大きな感動を与えました。児玉さん同様、OverSeas来店回数はトップクラス、レッスンにライブにOverSeasで費やす時間は門下生の内で一番長いでしょう。熱意と努力を注ぎ込んだ今日の演奏曲は、トミー・フラナガンと寺井尚之のレパートリーの中核を成す3曲です。曲自体に強いオーラがあり、しっかりしたイメージを描けなければ演奏者を突き放してしまう強い素材です。彼女は寺井尚之の演奏を生でも録音でも数知れぬ程繰りかえし聴き、人一倍練習することで、しっかりと曲を手中に収めました。ヴォーカリストでありながら、歌詞の無い器楽曲ばかりを選んだのは、ピアニスティックなアプローチを追求するためでしょうか?彼女の出演が近くなると、エメラルドブルーのドレスも素敵な夫君you-non君の若々しいお母様と、とっても可愛い妹さん達応援団が駆けつけて来ました。1曲目は、おそらくフラナガニアトリオのレパートリーにおいて人気No1.の『ウイズ・ マリス・トワード・ノン』。今日はカメラマンも手伝ってくれている夫君you-non君の後姿にも力が入っています。あやめちゃんがピアノに向かうと、後輩たちの間にも緊張が高まりました。聴きなれた『ウィズ・マリス〜』、心に染み入るメロディがしっかりしたタッチの美しい音色で響きます。むなぞうくんも、「あやめさんの音色が印象に残った」と感想を述べていました。左手の返しもうまく決まって、安心して聴けるプレイです。結婚式でも共演できたフラナガニアのメンバーとの息もぴったりで予想通り素晴らしい演奏になりました。 さて、応援に駆けつけた盟友宮本在浩(b)とも離れた席で一人、ここまでの発表会の展開を淡々と見守るのは生徒達のヒーロー、一番弟子の松本誠です。今回は出張の多い仕事、長女・奏(かな)ちゃんの誕生、また仕事中に手首を痛めたり、善くも悪くも、なかなか練習時間が取れなかった松本君。ピアノ教室が開講される前から師事していた松本誠ですが、師匠に対していつの時も一番謙虚な態度の弟子が彼です。また自分が音楽に対して注ぎ込む努力も情熱もピアノの上でしか表しません。他の生徒さん達には決して勧められませんが、いつも自分のレッスンを録音せず、メモも取らず、澄んだ大きな瞳で師匠の指先を見つめ、ひたすら全身を耳にして淡々とアドバイスどおりにピアノを弾きます。レッスンを横で見ていると、実技指導と言うよりも禅問答、テレパシーでレッスンをしているようで大変興味深いものがあります。1月の発表会では些細なミスから実力を出し切れず、外野としては非常にフラストレーションが溜まりましたが、今日はどんなプレイを聴かせてくれるのでしょうか? 師匠が宗竹−河原両氏に渡す、各生徒の演奏構成を細かく書いた演奏の台本とも言うべき構成表も、この松本君だけには用意されません。一人前のピアニストとして、自分で共演者に意図を伝えないといけません。 最後のフラナガニアトリオは、寺井尚之が得意とするダメロンの『レディバード』から始まり、デューク・エリントンの名品を3曲。ハナさんのご託宣「エリントンを忘れるな!」に対する答えなのでしょうか?今度はエリントン作品に挑戦する生徒が増えるかもしれません。マダムの差し入れてくれたシュークリームを食べながら演奏を楽しむ生徒達の顔、顔、顔。賞を取れた人も取れなかった人もこれがゴールじゃありません。うまく行った人もこれで安心してはいけません。緊張して実力が出せなかった人も今日の発表会がこの世の終わりじゃありません。今日から再び始まる師匠と生徒達の、広大なデトロイトバップ探検の旅、私も外野席から応援していますからね。 次回の発表会は2003年1月26日、名エンジニアのモトドラ氏、プロも驚く名司会の管理人氏、本当に今日はありがとう御座いました。次回もどうぞ宜しくお願いいたします。 |
ニューヨーク在住ベーシストのYAS竹田さんより YAS竹田 追伸 5月に東京転勤となり、泣く泣く教室を去っていかれたM岡さんより |