パーティ用特別ジャズ講座コーナー
今回のパーティ用特別ジャズ講座は、皆様からのリクエストにより、寺井尚之"フラナガニア"トリオの最新アルバムの『Yours
truly,』に収録されている曲を、師匠自らが解説するという、とっても贅沢なコーナーです♪
01. The Way You Look Tonight 今宵の君は
作詞:Dorothy Fields 作曲:Jerome
Kern
トミー・フラナガンが1975年頃からレパートリーとしていた曲だが、レコーディングはしていない。1990年、フラナガンがOverSeasに於いて日本で初めてのデュオのライブを行ったとき(ベースはジョージ・ムラーツ)、フラナガンが私に捧げてくれた曲。このときフラナガンは、テーマをDメジャーのルバートから入り、ムラーツにプレッシャーをかけた。そしてA.テイタムのイントロからスパッとFメジャーに転調してアドリブに入ったが、ムラーツは動揺せず見事に合わせて演奏した。
今回の私のアルバムは、そのときの返答としてトミーに対するメッセージを込めている(どんなメッセージかは、CDに入っている歌詞カードをご参照)。
【楽譜の解説】(AABA+4小節の構成)。最初のAは歌詞の意味を考えてルバートから入る。歌詞の“Low”の部分は、アート・テイタムの下降フレーズ。“Cold”は高いボイシングで表現。サビ部分からは、やさしさ・あたたかさをベース・ドラムスと共に表現している。ラスト・テーマはサビから入る。歌詞の“With Each Words”の部分は、カーメン・マクレエの“一語区切り”をヒントにしているが、ピアノは下降グリスで表現できないので、ピアノの内声とベースのユニゾンやシンバルのこすれる音と併せて表現している。
02. You're
My Everything ユー・アー・マイ・エブリシング
作詞:Mort Dixon, Joe Young 作曲:Harry
Warren
私が元にした歌詞のイメージはサラ・ボーンのバージョン。以前からムラーツとのデュオを想定して準備していた譜面を、今回の収録用に手直ししたもの。左手のカウンター・メロディ(かえし)に注目。
03. A
Thousand Years Ago 千年の恋
作詞:Earl Brent 作曲:Matt Dennis
この曲はマット・デニスしか録音していないはず。私は今回、貫一・お宮(註1)のイメージで演奏した。私とフラナガン、そしてそれを聴くお客さんとの運命的な出会いを表現したかった。好き嫌いの分かれる曲かな?
(註1)尾崎紅葉作『金色夜叉』の主人公。富のために他の男性と許婚した鴫沢宮に復讐するため、間貫一は高利貸しになって、金力でお宮と世間に復讐するというもの。かわいさあまって憎さ百倍、しかしその愛は純粋であり永遠なるものなのだ、という意味にも解釈できよう。
04. What Is This Thing Called Love? 恋とはどんなものだろう?
作詞・作曲:Cole Porter
「一目ぼれ」の気持ちを表現。バド・パウエルの3拍フレーズ6連発の奥義を入れている。当初は“I
Concentrate On You”を4曲目に考えていた。しかし気持ちが燃えなかったために変更。収録曲は、最初から曲順が決まっているが、映画の収録のようにばらばらの順番で録音する。バラードは先に演奏して、ハード・チューンは最後。この曲は、人差し指が棒状態になる直前に演奏したもの。
05. You
Make Me Feel At Home
ユー・メイク・ミー・フィール・アット・ホーム
作詞:Bob Russell 作曲:Matt
Denis
こちらもマット・デニスしか録音していないと思われる。デニスのバージョンは、ラストテーマのサビの途中から歌が入り、2番の歌詞に変えて歌っている。サビ途中から歌が入るのは、デニスとサラ・ボーンの得意技。私の録音は、映画『男はつらいよ〜寅次郎恋歌』(第8作)(註2)の「りんどうの花」のイメージで、アート・テイタムの下降アルペジオの技などが挿入されている。CDのエンディングでは、実はノイズが入ったが聴こえたかな?冷蔵庫の上のジョッキが振動でガチャガチャ…。
編者註:寺井師匠は、大学1回生の6月からプロ・ピアニストとして活躍していたため、1回生の頃から毎日スーツを着て演奏に行き、毎夜終電で自宅へ帰るという生活を繰り返していた。大学4回生の就職活動のとき、久しぶりに夕方自宅へ戻る途中、「りんどうの花」と同じ体験をする。夕暮れ時の家の明かり、そして家々からおいしい夕食の香りが漂う。「これが本来家庭のあるべき姿なのだ!」と思った寺井師匠は、大学卒業後いったんカタギのサラリーマンとなったが、結果的にいまは寅さんと同じになってしまった。
(註2)ご存知『男はつらいよ』シリーズの第8作。北海道で大学教授をしていたさくらの夫ひろしの父親は、退官して岡山の実家へ戻った。あるとき、ひろしの母親が死去したので葬儀を行っていたところ、たまたまフーテンの寅さんがその場に出くわした。そして、寅さんとひろしの父親が話す機会があった。この父親が語るには、以前学会で信州に立ち寄ったとき、とても印象に残る光景を目の当たりにしたという。それが「りんどうの花」のストーリーである。夕暮れ時、民家の明かりの中で、家族団欒で賑やかに食事をしている光景が見えた。その家の庭に「りんどうの花」が咲いているのを見たこの父親は、「これが本来家庭のあるべき姿なのだ」と感じた。勉強一筋で家庭をかえりみなかったが、実は“家庭の暖かさ”というものに対して強い憧れを持っていたのである。“家族の団欒”のイメージが「りんどうの花」とともに強烈に印象に残ったという。この話を聴いた寅さんは感動して、柴又の自宅へ戻ったときに、あたかも自分が体験したかのように、この話をしゃべる・・・というもの。
06. I Wished On The Moon アイ・ウィッシュト・オン・ザ・ムーン
作詞・作曲:D.Parker & R.Rainger
ジョージ・シアリングのバージョンが印象に残っているが、今回のイメージは、あくまでもビリー・ホリデイの歌詞の印象で表現している。
07. I
Only Have Eyes For You 瞳は君ゆえに
作詞:Al Dubin 作曲:Harry Warren
やはりカーメン・マクレエではなく、ビリー・ホリデイのメロディを使用。恋に目がくらんで《アホ》になっている様子を“ラテン・リズム”で表現している。
08. My
Ship マイ・シップ
作詞:Ira Gershwin 作曲:Kurt
Weill
トミー・フラナガンがかつてマスタートリオで残しているが、どう考えてもロン・カーターがイヤ。フラナガンになりかわって、自分でやり直したかった。イントロは、高原の泉から水が湧き出るイメージ。そこから川になるところは、4種類のディミニッシュコードでアート・テイタムをモチーフにして弾いている。海の波が押し寄せて返すところは、2種類の上下グリスでB.テイラーをモチーフにして演奏している。最初のソロはジョージ・シアリングのバージョンを参考にしている。弦をはじく音も注目。歌詞の“Gold”の部分は、サラ・ボーンの「ストリングス」とモンティ・アレキサンダーがヒント。そのあと歌詞の“Rubies”の部分は、短い上降グリスで弾いているが、これはナット・キング・コールがヒント。いろいろな演奏をモチーフにしている。フラナガンに聴いて欲しかった。一番良くできたと思う。
09. Love
Walked In ラブ・ウォークト・イン
作詞:Ira Gershwin 作曲:George
Gershwin
サー・ローランド・ハナとモンティ・アレキサンダーの得意曲。ボクシングで言うバンダム級のボクサー・ファイターのようなイメージで演奏している。歌詞の“not
a word spoken”(言葉がなくても)は、歌詞のとおりピアノがブレイクして、ドラムスがメロディを表現。また歌詞の“Hello”の部分では、その発音に聴こえるようメロディを工夫している。アドリブでは2回転調しているのがわかったかな?
10. Someone
To Tell It To 夢を告げる人がいなければ
作詞:Sammy Cahn 作曲:Jimmy
Van Heusen, Gill Fuller
この曲と同じく、ナット・キング・コールの名唱である“Stay As
Sweet As You Are”のどちらにするか迷った。メロディは、ベースが弓で歌い上げる。時々やらんと忘れてしまいそう。
11. Will
You Still Be Mine? ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン?
作詞:Tom Adair 作曲:Matt Dennis
マイルス一派のネタ。しかし、私の元ネタはあくまでマット・デニス。デニスは2回録音を残しているが、今回は2回目に録音した“Dennis Is Back”のバージョンの歌詞とコードをモチーフにしている。
今回の録音は、コンディションがうまく整わなかったし、レコーディングの時は右手人差し指の爪がはがれた。しかし、今までとは違った印象の作品に仕上がっており、なかなか良いのではないかと思う。2002年3月には、日本全国、北米、ヨーロッパで大々的に細々と売り出される予定です。
|