“Let’s” Talk about Thad Jones(1)

 大阪も入梅です。ピアノに悩ましい季節到来。皆様いかがお過ごしですか?
 来月6月11日(土)の講座「トミー・フラナガンの足跡を辿る」に、トミー・フラナガンのサド・ジョーンズ作品集”Let’s”が登場します。
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 このアルバムは、デンマークの「ジャズパー賞」で頂いた賞金3万ドルでフラナガンが自費制作したもの、録音もデンマークです。スタンダード集ならいいけれど、レコード会社はなかなかサド・ジョーンズ作品集という企画を通してくれなかったのでしょうね。トミー・フラナガンのファンなら、どなたも大好きなアルバムだと思います。
21.jpgThad Jonesコルネット奏者、作編曲家、バンドリーダー(1924-86)

 スリル一杯で、エンディングまでドキドキしっぱなしの“Let’s”“Elusive”は”クール”でも”ホット”でもない悪魔的な魅力を感じるし、“To You”のようなバラードを聴くと、Mellowってこういうことなのかな?かと思います。とにかくサド・ジョーンズの作品はどれもこれも、軽やかなのに力強い!まるでトミー・フラナガンのマッスルみたいです。
 ではサド・ジョーンズとはどんな人なのか??
 サド・ジョーンズを身近に知るミュージシャンは、ハンク、エルヴィンのジョーンズ兄弟の一員である以上に、皆が口を極めて「天才」と言う。どれほどの天才かというと、モーツアルトやデューク・エリントンと比較して、「どっちの方が天才か?」という議論になるのです。そして、NYの仲間にサヨナラも言わず移住して、デンマークで客死したことを嘆く。(サドのお墓は故郷のポンティアックでなくコペンハーゲンにあるらしい。)
 ビッグバンド・ファンにとっては、朗々とした高揚感のあるコルネットでカウント・ベイシー楽団の忘れがたいソリストでありアレンジャー、そして伝説のビッグバンド、サド・メルOrch.のリーダーだ。ベイシー楽団時代に「複雑すぎて楽団のカラーに合わない」とお蔵入りになっていたアレンジを、サドメルでモダンに復活させて聴く者の心を根こそぎ掴んだ。
 ところがジャズ系ブログを閲覧すると、「愛すべきB級」なんて呼ぶ人もいる。きっと人気投票やブルーノート盤の売り上げ枚数のことを言ってるのかな?
 私の手元にはダウンビート誌のバックナンバーなど様々な資料が手元にあるのですが、どれもこれも、サド・ジョーンズの一側面だけクローズアップしたものばかり。
 これから講座まで少しずつ資料を整理して、公開しようと思っています。
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 今日はとりあえず、予告編として、トミー・フラナガンが’96年にコロンビア大のFM番組で語ったコメントを和訳しておきます。
『サド・ジョーンズの作風は、メロディがシンコペートしているという点で、セロニアス・モンクと似ている。
 もしサドの曲を演奏することができるなら、プレイヤーとして自分のスタイルを構築する道のりを順調に歩めているということだ。
 彼の作品自体に大きな力強さがあり、演奏すると、自然にその力が表れてくる。
 例えば、ビリー・ストレイホーンの”ラッシュライフ”は、テーマ1コーラスに全てが完結しているだろう。アドリブの必要なんてない。曲の中に必要なファクターが全部組み込まれているのだ。サドの作品も同じだ。だが逆に、リズミックな作品は、演奏するほどリズムに引き込まれてしまう。「もっとソロを取れよ!」と曲が誘いかけてくるんだ!ともあれ、サドの曲はどれも奥深く、全体を把握するのは大仕事だ。サドの曲に秘められた全ての音を理解するのは大変なんだよ。』
Tommy+Flanagan+TommyFlanagan.jpg ジャズ講座、『Let’s』は6月11日です。ぜひお越しくださいね!
CU!

スタンダード・ソング! 聴くもよし、弾くもよし 5/25に!

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 大阪は新緑の気候になりました。皆様いかがお過ごしですか?今日、環状線で大阪駅に行くとグランドセントラルな別世界になっていて迷子になりました!大阪に遊びに来られたら、ぜひJazz Club OverSeasにジャズを聴きに来て下さいね!大阪駅から20分ほどでお越しになれますよ。
 寺井尚之メインステムの新譜スタンダード集、“Evergreen”もたくさんダウンロードいただきありがとうございます!好評に付きEvergrenn第二弾準備中、どうぞご期待ください。
 来る5月25日(水)に、アルバム収録曲について、演奏者にもリスナーにも楽しい講座を開催。;曲の由来や裏話、そして譜面を見ながら音楽解説も行います。ジャズを演奏してみようと思われる方、どうぞお越しください!お申し込みはメールでもお電話でもどうぞ!
 <解説曲>
standard_Monroe1.jpg1. Chinatown チャイナタウン
2. As Time Goes By アズ・タイム・ゴーズ・バイ
3. Autumn Leaves  枯葉
4. I’m Thru With Love アイム・スルー・ウィズ・ラヴ
5. Fly Me To the Moon  フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン
6. My Funny Valentine  マイ・ファニー・ヴァレンタイン
7. My One and Only Love マイ・ワン&オンリー・ラヴ
8. White Christmas ホワイト・クリスマス
 <楽しいJAZZの講座の夕べ>

「スタンダードをより楽しむには」

【日時】5月25日(水)7pm~9pm 
【講師】トミー・フラナガン唯一の弟子、OverSeasオーナー、 寺井尚之
【受講料】¥2,500 (税込¥2,625)  要予約

関連HPはこちら。
「Evergreen」曲説ブログはこちら。

対訳ノート(31)Don’t Explain

 皆様、お元気ですか?先週はGW講座で連日名唱を聴きました!ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエ、のべ100曲が登場したことになります!
 スタンダード曲やブルースは言うに及ばず、ビバップ、シャンソン、ボサノバ、ステファン・ソンドハイムまで!ビリー・ホリディ、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエという3人の歌手を取り上げて、寺井尚之が絶好調の解説を聞かせました。(解説書があります。
 3人ともデビュー当時は美人歌手、でもきれいなだけでは終わらない。年齢を重ねるにつれ、それぞれのスタンスで、歌に新しい命を吹き込む姿に感動!聴きながら目を真っ赤にしているお客様が多く、私もウルウル・・・やっぱり皆で一緒に聴くといいなあ。講座やってよかった!
 今も、私の頭の中では、GWに聴いた色んな歌が響いています。「幸せ」にも「不幸せ」にも、本当に色んな切り口や表情があるんだ!
 今日は、講座で聴いた歌の中で、日本の歌謡曲と一番似ていた歌、ビリー・ホリディとカーメン・マクレエで聴いた“Don’t Explain”のことを書いてみたいと思います。
<私小説的ソング>
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  レディ・デイは、僅か44年間の壮絶な人生と歌が同一視されることによって、カリスマ化された。“My Man”では「何人もの女を操り、金を絞り上げ、時には殴るヒモ男でも、抱かれるだけで苦労を忘れる」可愛い女、”Fine and Mellow”では「恋をすると、賭け事や深酒に溺れる」破滅型の女・・・ビリー・ホリディには、歌の主人公と実像の境目が見つけられません。現実は必ずしもか弱い女性ではなかったとしても、それが名人芸!
 “Don’t Explain”は、男運に恵まれなかったホリデイを象徴する歌。ホリディの夫、ジミー・モンローが帰宅すると、ワイシャツの襟に口紅がついていたという実際の出来事を元にしてビリー・ホリディ自身が作った歌です。
 ホリディは”Don’t Explain”誕生秘話についてこんな風に語っています。
 「夫の襟についた口紅が目にとまった。すると夫が私の視線に気づき、延々と弁解を始めたの。私が最も耐え難いのは“嘘”、嘘をつかれるくらいなら、浮気されるほうがずっとまし!だから「風呂にお入んなさい!」と話をさえぎって言ったのよ。「Don’t Explain(言い訳はやめなさい)」って。
 その言葉(Don’t Explain)が、ずっと私のへっぽこ頭の中で響き続けていた・・・何とかこのいやな科白を忘れてしまいたい!そう思いつめるうち、醜い思い出が悲しい歌に変身して、知らず知らずに口づさんでいた。あっという間に歌が出来上がったのよ。それから、作曲家でブレーンだったアーサー・ヘルツォグが、私の歌うのを聴きながら、ピアノで音を拾い、歌詞を書きとめた。そして2,3箇所のフレーズを修正して、ソフトな感じに仕上げてくれた。」

 こういう現象を哲学者は「昇華」と呼ぶんですね!
HolidayMonroe.jpg ビリー・ホリディとジミー・モンローは1941年から44年まで結婚しています。モンローはトロンボーン奏者で、兄はハーレムのクラブ、ビバップの生地、”モンローズ”の経営者、クラーク・モンロー。ジミーは兄の店で演奏活動をしていましたが、ヘロインの密売容疑で逮捕され、ホリデイが多額の弁護費用を払う羽目になりました。男で苦労する彼女の姿と歌がシンクロして、この歌も大ヒットしたんですね。森進一の「おふくろさん」とか、昭和の歌謡曲もそういうのが多かった・・・
 「女を作ってもいい、一緒にいてくれるなら・・・」という切ない切ない歌、ホリディの歌には、男なしには生きていけない女の弱さや哀しさが漂います。
 「いい、悪いはどうでもいい。私にはあなたしかいない。」殿方は、そう言うホリデイに観音菩薩を観る。男性でなくても、「赦し」を感じるのは、私だけではないでしょう。歌詞はいくつかヴァージョンがありますが、要約するとこんな感じ。原歌詞を読みたい方はこちらをご参照ください。
ネット上で聴くことも出来ます。

<Don’t Explain>
Billie Holiday, Arthur Herzog
言い訳はいいの、
ただ、このまま一緒と言って。
帰ってくれて嬉しいの、
だから言い訳は止めて。
静かにして、
言い訳しても何もならない、
口紅の話はよしましょう、
言い訳は止めて。
人の噂に泣かされて、
あなたの浮気はお見通し、
いい悪いはどうでもいい!
一緒に居てさえくれるなら。
・・・
あなたは私の喜び、そして苦しみ
私の命はあなたのもの、
だから言い訳はやめて。

 しかし現実は違っていて、ビリー・ホリディ自身、夫がありながら、トランペット奏者のジョー・ガイと関係していた。この彼氏もモンロー同様、ヘロイン中毒、ホリディ自身がヘロインの虜になったのもこの時期でした。
 ビリー・ホリディは、トラブルを起こすホットな男ばかりを選んで付き合ってた。相手をわざと挑発して、自分からなぐられるような状況を作り出す癖があったと、伝記では言われています。
「恋すると、いけないことと、判っているのにしてしまう・・・」”Fine and Mellow”より。
<マクレエの凄み>
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 一方、カーメン・マクレエ晩年の”Don’t Explain”は、歌の印象が激変します。NYブルーノートのライブ盤“For Lady Day Vol1,2″はマクレエの最高作と言えるかもしれません。
 63歳のマクレエが歌う”Don’t Explain”に「女性のか弱さ」や「菩薩」の姿は、これっぽっちも感じられません。淡々としながら、恋に命を賭けた「覚悟」というか「凄み」が出ています。この歌が終わったら、主人公は夫をズドンと一発で殺して、自分も一緒に死のうとしているんだ!と、聞き手に確信させる瀬戸際の迫力があります。殆ど同じ歌詞を歌っているのに「女の性」が影を潜めて、人生の「覚悟」がクローズアップされるんです。
 マクレエはビリー・ホリディを愛して尊敬して、一挙一動をみつめながら成長した歌手、その結果、全く違う歌の世界を作り出した。本当に凄いことです。
 寺井尚之がトミー・フラナガンを見つめ続け、自分のスタイルで演奏していることを思うと、二つの『言い訳しないで』は、とても興味深く思えて仕方がありません。
CU

GW講座:Billie Holiday

 GW講座初日、初めてのお客様や常連様、ふらりとお立ち寄りくださったお客様、ビリー・ホリディの名唱を、一緒に聴けて幸せでした~!
 寺井尚之がいとおしむビリー・ホリディ像、トミー・フラナガンがこよなく愛したビリー・ホリディ、色んな姿、色んな歌の表情が見れました。
 トミー・フラナガンのハートをバクバクさせた美女、レディ・デイ、ライブはどんなんやったんやろう・・・昨日、ダグ・ラムゼイという米国のジャズ評論家のブログを数ヶ月ぶりに覗いてみたら、亡くなる直前の動画が紹介されていました。滅多にラムゼイのブログは観ないのに、とても不思議です。
 ホリディの十八番のひとつ”Travelin’ Light”は、今日も色々聴き比べましたね!このレディ・デイはとても美しい!国民的美少女、後藤久美子さんに少し似てるなあ。亡くなった年1959年、パリで撮影された映像です。ピアノは残念ながら、今日聴いたウィントン・ケリーではありません。

 明日のGW講座はサラ・ヴォーン!寺井尚之の解説にご期待ください!不肖私は、給食係&指し棒でお待ちしています。
CU

PIANO談義:トミー・フラナガン&ロジャー・ケラウエイ 連載(3)完結篇

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トミー・フラナガン(以下TF) (前回より続き) 私はわざわざ出かけていって、色々調べて、どうのこうの指図はしない。彼等は、そうしたいと思ってやっているのだからね。それが間違っていると助言するために生きているわけじゃない。もし本当に情熱があるなら、自分で道を見つけるはずだ。
<歴史に学べ>
(司):「道」ということをおっしゃいましたが、ジャズの見地から、ファッツ・ウオーラーやバド・パウエル、トミー・フラナガンを知らずして、正しい「道」は見つかるとお思いですか?
ロジャー・ケラウェイ (以下RK):「歴史の重要性」ということだね。僕は、やはり歴史を知る必要はあると思う。というのは、それはその人間の「演奏の深み」に関ってくるからだ。それがない人を聴いているから、そう言っている。どう説明してよいか判らないが、歴史を知らない人は、常に何かが足りない。ただし、歴史について完璧な知識があっても、演奏能力がないプレイヤーもいるがね。
(司):両方必要ということですね。
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RK:歴史を知って損はないよ。だから勉強なさい。私自身がジャズを演る上で、本当に深い教訓は、先人のスタイルから学んだものばかりだ。ただ腰掛けて、ルイ・アームストロングみたいにシンプルに、意味をもって演奏することができれば、どんなにいいだろう!僕は今でも、そうしようと努力している。ただ単に「伝統は必要だ」と云うだけでは、意味がない。
 「ポップ界では、音楽の事をよく知らなくとも何億と稼いでいるのだからそんなことは必要ない。」という社会と我々はずうっと戦ってきた。社会の判断はそういうもんだ。それが彼等の演奏の仕方だ。そして彼等は若い連中にこういう。「つまらないことに時間を掛ける必要はない。」と。
 ここで論じていることは、何に時間を費やすべきか?ということだろう。歴史を学ぶのに時間を費やせば、演奏の深みとなって報われる。本当の意味でピアノを演奏したいと思うのなら、楽器と演奏方法の関係を理解するため、クラシックもある程度勉強したほうがよいと僕は思う。即興演奏はそれからだ。お楽しみの前に仕事だよ。(笑)クラシックが楽しくないという意味ではないけれどね。
TF:シリアスなジャズメンはみんなクラシックが大好きだよ。ファッツ・ナバロも然り、バド・パウエル然り、我々も、昔はバッハなんか演ったものだ。音楽の歴史を知らずに、偉大なプレイヤーには成れない。それは間違いない。音楽は巡り巡っているから。良い音楽全てを愛せなければ本当に音楽を愛したことにはならない。それは、とてもためになることだ。
(司):私が十代後半の頃、ハービー・ハンコックがアイドルでした。彼は、当時25歳くらいだったと思うんですが、「良いジャズプレイヤーに成るにはどうしたらよいか?」と助言を求めたことがあるんです。そうしたら「時間がかかる、というくらいしかアドバイスできない。」と言われました。
RK:25歳にしては、かなり知的な言い方だなあ(笑)余り物事がわからない年頃なのに! 今のハンコックに同じ質問を一度してくれないかい?
TF:25年経っても、きっと答えは同じだよ!(笑)
RK:時間の長さより、中身の問題だ。人生とは経験だから。個人の体験、精神の旅路だ。経験を積めば積むほど、そのことについての知識は深まる。人間関係、ピアノ、料理・・・なんでもそうだよ。
<アート・テイタム礼賛>
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(司):理想や手本にする音楽家を持つことは必要でしょうか? 例えば、誰かをコピーしたりして、目標にする方がよいと思われますか?
TF:私は余りコピーというのをしたことがない。むしろ音楽的なコンセプトを見つける方に興味があった。最初はテディ・ウィルソンのファーストレコーディング、それからアート・テイタムに感動し、彼らの演奏を判断基準にした。そして、自分の目標を目一杯高くして、自分が完璧だと納得できるように努力した。昔も今も、アート・テイタムこそパーフェクトだと思っている。
RK:全く同感です。ピアニストたちに、お気に入りのピアニストのアンケートを取ったとしても、テイタムは「お気に入り」なんて範厨を超えた存在だ。超絶テクニックだけの問題じゃない、それはほんの一面で、演奏方法全体が完璧なんだよ。耳に聞こえることが信じられないほどだ。
TF:全く、何もかも、全てのものがそこにあるんだ!
RK:全てのハーモニー、あらゆるテクニックがどんなキーでも満ち溢れている。それに彼は、指を立てては弾かない。一度、彼が弾いているのを見たが、指を寝かせて弾いていた。どうやっているのか全く訳が判らなかった、どうやってあんなに澄み切った音が出せるのかも判らない。一度、ボストンのストリービルで弾いていたのを見たが、運指の指は平らだった。そして彼は盲目ですらあった。
TF:私は子供のとき、テイタムを間近で、丹念に観察したことがある。アフターアワーズの店(正規なナイトクラブ閉店後、朝まで営業する酒場)でね。子供はそんなところへ出入り禁止なんだが、今でもそこに行って、生で観れて良かったとつくづく思う。彼の弾いていたのは、ほとんどガラクタと言ってよいほどボロのアップライトだった。テイタムの前に彼の友人が弾いたとき、そのピアノがどれほどボロかということはよく判った。次に、テイタムがピアノの前に座ると、
ガラクタが瞬く間にグランドピアノのようにサウンドした。ピアノを変身させる事ができたんだ。凄かった。彼は大変音楽的だった。本当にひどい楽器からでも音楽を弾き出して見せた。
(司):しかし、伴奏者としてはどうでしょう?
tatum_artta_legendary_101b.jpgTF:彼は自分を聴く為に、チューニングを絞り込みすぎていて、演奏中、他の人の音が聞こえなかったんだよ。(笑)
RK:スラム・スチュワート(b)は、よくあれほど長く一緒に演っていたと思う。だって、ずっとイン・ツーで弾かなきゃいけないだろう。ベース奏者は演りようがないよね。四つで弾けないでしょ。ベースが何を演っているかすら判らない。
TF:でも彼はテイタムにとって完璧だったんだ。邪魔になることは一切しなかった。そこにベン・ウエブスター(ts)は、メロディだけを吹いた。
RK:我々はピアノから音楽を創造するテイタムのやり方全部が好きなんだろうね。思ったこともなかったが、私は彼のソロの方が好きだ。もし彼とピアノ2台で共演したとしても、テイタムは楽しめなかったろう。共演者を葬り去ったろうね。私はただ聴きたいと思うだけ。「伴奏」というのは、いい考えじゃない。伴奏はギブ・アンド・テイクだ。
TF:最近、テイタムが歌っているテープをある人がくれたんだ。
RK:テイタムが歌ってる、だって?
TF:うん、正に”アート・テイタムは歌う”さ。そこでは自分をとても上手に伴奏してるんだよ。(笑)ブルースを歌ってる、とってもシンプルで猥褻な歌詞のブルースを。歌の余白をピアノでうまく埋めている。他人のバックのようにせわしなくないんだ。彼の歌がうまく引き立つ様に、上手に綺麗にオブリガードを入れてる。だからそういうことも彼はちゃんとわかってたんだ。
(司):それでは、テイタムは自分の最もお気に入りの伴奏者であり、ソロイストであったわけですね。
RK:多分そうだ。テイタムは正にオールマイティだったんだ。
TF:同感だね!

(’95 7/20 ノルウェイ、モルデにて)
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
teddy_wilson_billie_holiday.jpg ピアノの巨匠達の「ピアノ談義」いかがでしたか?アート・テイタムのことを知りたい方はこちらのエントリーにどうぞ!
 「歴史」を勉強する話が出てきましたが、トミー・フラナガン自体がすでに「歴史」になっているのですから感無量です。
 話題に上ったトミーのアイドル、テディ・ウイルソン(p)は、5月3日のビリー・ホリディ講座に登場しますよ。
roger_tommy_2.JPG トミーがロジャー・ケラウエイさんやデューク・ジョーダンさんを誘ってOverSeasに遊びに来たとき(左の写真)、皆がピアノを弾いて下さったのですが、その時ケラウエイさんは、OverSeasのヤマハを弾いて、こんな風におっしゃったのを覚えています。
 「たまげたな!この小さなグランドは、何て良く鳴るんだろう!もっと大きなピアノみたいだ。」
 そうするとトミーはわが意を得たりという風に、ちょっと鼻を膨らませて、寺井尚之を指差して、社長みたいに言ったものです。
 「そうさ、こいつがちゃんとピアノのお守りをしとるからな。」

 あなたも「歴史」に倣うため、休日はGW講座にお越しになりませんか?
ぜひお待ちしていますね!
CU