ライブ・レポート:アキラ・タナ at OverSeas

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 4月4日、寺井尚之の盟友、アキラ・タナのライブ開催しました。アキラさんの今回の滞在は約三週間、その間、様々なフォーマットで、関西、関東、北陸と、ほとんど休みなし、各地で大喝采を受けたようです。ツアー中は、ファンや熱烈なサポーターの皆さんが日々アップロードされる沢山の写真やコメントから、巨匠の演奏を生で観た感動だけでなく、皆に幸せを運ぶアキラさん独特の不思議な力も伝わってきました。この力は、ひょっとしたら、かつての日系社会を、僧侶として束ねた父、田名大正師と、短歌運動を通じて大きな人々の輪を作った母、田名ともゑさんから受け継いだものかもしれません。

 文字通り引っ張りだこの日程を繰り合わせて出演してくださったOverSeasでのコンサートには、なにかと行事の多い新年度4月の第一月曜にも拘らず、新旧のお客様で一杯、加えて、アキラさんの息子さんや、米国から観光を兼ねて日本にやってきた奥さんのマージさん達も!アキラさんがNYに住んでいた頃、お家でマージさんの手料理をご馳走になって以来、20数年ぶりの再会で、私も大感激!寺井尚之は、歳月を経てもちっとも衰えないマージさんの清楚な美貌に、もっと嬉しそう!

 とにかく開演前すでに、会場のムードが、一流アーティストを聴きに来た、というよりも、はるばるアメリカから来てくれた親戚に会いに来たよ、というような感じになるのは、アキラさんのライブならでは!共演する寺井尚之も、アキラさんとの共演のために、「さくら さくら」のアレンジを書き下ろし、宮本在浩(b)と共に、ダイナミックでユーモア溢れるプレイを繰り広げました。

12961216_1159891337367934_5407839327404241921_o.jpg 今回のプログラムは、これまでの4回のコンサートのうちで一番デトロイト・ハードバップ色が濃いものだった。日頃アキラさんが演ることのないフラナガンの愛奏曲は、仕掛けが一杯の難曲揃い。普通ならみっちりとリハーサルをしても、なかなかうまく行かないのですが、却ってアキラさんの集中力と底力を際立たせる結果となって大満足。加えて、アキラさんにゆかりの深いジミー・ヒースやJ.J.ジョンソンの曲、そして春に因んだスプリング・ソングと、彩り一杯のプログラム、スリル溢れるプレイの中に、ユーモア溢れる和気あいあいのインタープレイがポンポン飛び出すと、最高のタイミングで客席から掛け声が入ります。

 アンコールは、日本のうたで魅了する<アキラ・タナ&音の輪>に倣い、日本古来のスプリングソング「さくら さくら」、これが本当に素晴らしく、今も語り草の名演になりました。寺井尚之がアキラさんのために書き下ろしたスペシャル・アレンジは、寺井ならではのふくよかなピアノの響きと、ベースの弓をフィーチャーした、耽美的なルバートで、満開の桜の園を音楽で描いて見せた後は、一転、強烈なバップになだれ込む鮮烈な展開、寺井の研ぎ澄まされたピアノと、ザイコウの妙技、そしてアキラさんの緩急自在のビートで、桜吹雪が舞い散る夢のような世界になりました。素晴らしい演奏の源は、「桜の女王」だったアキラ夫人が来てくれたせいかも…

 手に汗握るスリルとユーモアが共存したプレイに、お客さん達は大笑いの連続。会場に家族的で温かい空気を満ち溢れてました。こういう空気を創り出すのも、アキラさんの稀有な才能の一つかもしれません。コンサートの後、これほど沢山の方に「次も絶対聴きに来ます!」と言ってもらうのも、アキラさんらしい!

otonowa01-720x405.jpg アキラさんが次回来日するのは10月、在米邦人、日系人の腕利きを率いる<アキラ・タナ&音の輪>で東日本大震災支援ツアーを行う予定。またOverSeasでアキラさんのプレイを聴くことができますように!

 音楽とは別に、アキラさんのご両親、田名大正、ともゑさんの軌跡と、日系米人の歴史を、これからもじっくり調べて、みなさんにお伝えしていこうと思っています。どうぞよろしく!

12901192_979036528850340_7937487507875822472_o.jpg写真:左から:寺井尚之、アキラ・タナ、宮本在浩、アキラ夫人Marjorieさん、アキラさんの親友、ギタリスト、樫本優さん/前列:アキラさんの愛息、Ryanさん、お母さまを連れて来てくれてありかとう!!

2016年4月4日 Hisayuki Terai piano trio featuring Akira Tana on drums, Zaiko Miyamoto on bass,

=曲目= 

<1st>
1. Eclypso (Tommy Flanagan)
2. Beyond the Blue Bird (Tommy Flanagan)
3. Mean What You Say (Thad Jones)
4. Sunset and the Mocking Bird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)
5. For Minors Only (Jimmy Heath)

<2nd>
1. Yours Is My Heart Alone (Franz Lehár)
2. They Say It’s Spring (Bob Haymes)
3. Bro’ Slim (Jimmy Heath)
4. Lament (J.J.Johnson)
5. Commutation (J.J.Johnson)

<3rd>
1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
2. A Sleepin’ Bee (Harold Arlen)
3. Elora (J.J.Johnson)
4. Passion Flower (Billy Strayhorn)
5. A Sassy Samba (Jimmy Heath)

Encore: さくら さくら /Sakura: Cherry Blossoms (Traditional)

翻訳ノート:ビル・エヴァンス『サム・アザー・タイム:ザ・ロスト・セッション・フロム・ザ・ブラック・フォレスト』

 bill1006950053.jpg 1968年、ビル・エヴァンス・トリオ(エディ・ゴメス-bass, ジャック・ディジョネット-ds)が、モントルー・フェスティヴァル出演の5日後、ドイツ南部の小さな村、通称<ブラック・フォレスト>にあるMPSスタジオで録音していたことは、これまで知られていませんでした。その幻の音源は、森の中で半世紀近い眠りにつき、やっと日の目を見ることに!

 『Some Other Time : The Lost Session from the Black Forest』のリリースを実現させたのは、ジョン・コルトレーン、ウエス・モンゴメリーの歴史的音源を世に出した実績のある<Resonance Records>で、日本盤が<キング・インターナショナル>から先行発売されたところです。

 エヴァンスは、もとよりライブ盤が多く、スタジオ録音自体が希少、ディジョネットがエヴァンス・トリオに在籍したのは僅か6ヶ月、このメンバーでの唯一のスタジオ録音であり、それも最高に趣味の良い音質に定評のあるMPSのレコーディングですから、ファンの興味は尽きません。

 日本盤もオリジナル盤も、音楽内容に相応しい豪華パッケージで、貴重な演奏写真やポートレートも一杯!日本盤には、岡崎正通氏が書き下ろされた明瞭で奥深い日本語ライナー・ノートが加わり、光栄な事に、それに続く英文ブックレットの翻訳を、A&Rディレクター、関口滋子氏の監修の下で担当させていただきました。

 「世界の発掘男」の異名を取るゼヴ・フェルドマンの熱血プロデューサー・ノート、共演者、エディ・ゴメス(b)とジャック・ディジョネット(ds)のロング・インタビュー、元MPSのスタジオ・マネージャーであったフリードヘルム・シュルツのMPS物語、人気ジャズ・ブロガー、マーク・マイヤーズによるビル・エヴァンス論など、充実した内容は、さすがです。

 私も、翻訳の過程で、これまで知らなかった欧米のジャズの歴史を色々学ぶことができました。ぜひご一聴、ご一読を! 

 ビル・エヴァンス・トリオ:『サムアザータイム:ロストセッション・フロム・ザ・ブラック・フォレスト』

日本盤好評発売中:キング・インターナショナルHP http://www.kinginternational.co.jp/jazz/KKJ-1016/