by Tamae Terai
1. Let's レッツ / Thad Jones 寺井尚之の新トリオThe Mainstem が初登場の今夜の幕開けは、デトロイト・ハード・バップの代表曲“レッツ”がトリビュート・コンサートに初めて登場した。 ビバップのグルーヴと超絶技巧を駆使し、フラナガンが天才と賛美するサド・ジョーンズ特有の“悪魔的な遊び心”が踊る曲! サド・ジョーンズ作品を誰よりも深く理解していたのは、フラナガンだ。彼が演奏すると、かつてのオリジナル・ヴァージョンよりも、一層サド・ジョーンズ特有の魅力が浮き彫りにされることは、自費で録音したサド・ジョーンズ作品集、『Let's』を聴いても良く判る。 The Mainstemの一糸乱れぬプレイに、会場からは感嘆の声が漏れ、新トリオの記念すべきトリビュート初演に相応しいプレイとなったのではないだろうか。 フラナガンは《Let's》('93)、 Flanagan's Shenanigans('93)に収録。 |
サド・ジョーンズ(1924-86) |
2. Smooth As the Wind |
Tadd Dameron 1917-1965 |
3. Strictly Confidential ストリクトリー・コンフィデンシャル/Bud Powell 天才バップ・ピアニスト、バド・パウエルの代表作。フラナガンがデトロイトからNYに出てきて間もなく、一流ジャズクラブ、<バードランド>にデビューしたのは、バド・パウエルの代役としてだった。 寺井尚之は、様々なパウエルのプレイを採譜した結果、トミー・フラナガンこそバド・パウエルを超えたピアニストだと、生前のフラナガン自身に強く主張したことがある。その研究の成果は、楽譜解説本 「バド・パウエル楽譜講座」として、若きピアニスト達の教科書となっている。 フラナガン流のバド・パウエル作品は、ホーン奏者のような「息遣い」と「間合い」で、ビバップの疾走感が一段と加速される印象を与えてくれる。 12月13日(土)開催のジャズ講座では、フラナガンのバド・パウエル作品集が収録された《I Remember Bebop》('77)が登場!ぜひお越しください。 フラナガンは《I Remember Bebop》('77)、 寺井は《Dalarna》('95)に収録。 |
バド・パウエル ('24-'66) |
52丁目にあった 当時のバードランド |
5.But Beautiful バット・ビューティフル/Johnny Burke, Jimmy Van Heusen 「恋は十人十色、可笑しかったり、哀しかったり、穏やかな恋も、狂おしい恋もあり…」と様々な恋のかたちを唄うバラード。元々はコメディー映画、“Road to Rio(南米珍道中)”の挿入歌。しかしフラナガンを愛する私達にとっては、上述の「Smooth As the Wind」(Blue Mitchell)やフランク・ウエスとのMoodsville -8、“Lady in Satin”の、ビリー・ホリディの名唱が忘れられない。 レディ・デイことホリディは、若き日のフラナガンが胸をときめかせるアイドルであっただけでなく、ミュージシャンとしても大きな影響を受けた。 フラナガンは寺井に対して、「ビリー・ホリディを聴け。」と、何度も諭した。 この曲の洒落た歌詞に登場する様々な恋の形容詞、言葉をそのまま楽器で表現できるのがフラナガンや寺井のピアノに共通する魅力だ。今夜の演奏には、その結果が見事に出ている。宮本在浩、菅一平のサポートも秀逸! '90年代にフラナガンがこの作品を愛奏した陰には、寺井が師匠に向かって、フランク・ウエス盤に収録されたイントロを「ジャズ史上最高のイントロだ!」と力説した結果、再録音されたという逸話がある。 寺井は《Dalarna》('95)に 収録。フラナガンは、上記作品以外にジャズパー賞記念ライブ盤《Flanagan's Shenanigans》('93- Storyville)で極めつけの名演を遺した。 |
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6.Rachel's Rondo レイチェルズ・ロンド/Tommy Flanagan 躍動感と気品に溢れるトミー・フラナガンのオリジナル曲。 レイチェルとは現在西海岸在住のトミー・フラナガンの長女。彼女がNYに現れると、現在でもその美貌がジャズメンの間で常に評判になる。今でもフラナガンのアパートにはレイチェルの写真が居間のあちこちに飾られている。フラナガンは《Super Session》('80)以外ほとんど演奏したことはないが、寺井が愛奏し続けている。 寺井は《Flanagania》('94)に収録。 |
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7. Sunset and the Mockingbird サンセット&ザ・モッキンバード/Duke Ellington いわゆる“エリントニア”(エリントンだけでなく、エリントン楽団関連のオリジナル作品群)は、フラナガンのレパートリーの根幹を成すものだ。エリントン独特の美しさと強さが感じられる名作だが、フラナガンが取り上げる迄は隠れた名曲だった。’70年代、NYのジャズ系ラジオ局の夕方の番組のテーマソングとして使用されていたのを聴き覚えてレパートリーに加えたとフラナガンから聞いたことがある。 '50年代、エリントンが楽団とフロリダ半島をツアー中、夕暮れの美しい景色に、今まで聴いたこともない美しい鳥の鳴き声を聴いた。それがモッキンバードだと知らされたエリントンが、車中で、瞬く間に書き上げた曲であると、エリントンは著書「Music Is My Mistress」に書いている。 '58年にエリントンが自費で録音し、唯一枚だけプレスして、英国女王に献上したLP《女王組曲》に収録され、エリントンの死後、一般にリリースれた。 晩年のライブ盤、《The Birthday Concert》('98)のタイトル曲とした。他にもソロ演奏が《 A Great Night In Harlem 》(2000)に収録されている。 |
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8.Tin Tin Deo |
Chano Pozo (1915-48) キューバ本国でも伝説的な音楽家、チャノ・ポゾはコンガでけでなく、様々なパーカッションをこなし、歌手でありダンサーだった。 NYハーレムで、麻薬の売人と、マリワナの品質のことで揉め事になり、乱闘の末に刺殺された。享年33歳。Tin Tin Deoの他、Mantecaなどの名曲を遺す。 |