第14回 Tribute to Tommy Flanagan
解説:Tamae Terai

演奏&店内写真:後藤誠氏



2009 Mar. 28
Performed by "The Mainstem" TRIO
 Hisayuki Terai-piano Zaikou Miyamoto -bass Ippei Suga-drums
寺井尚之 宮本在浩 菅一平
 演奏を聴きたい方には3枚組CDがあります。OverSeasまでお問い合わせ下さい。


<第14回トリビュート・コンサート・プログラム>

<1部>曲説へ

1. 50-21 (Thad Jones)
2. Beyond the Bluebird (Tommy Flanagan)
3. Minor Mishap (Tommy Flanagan)
4. Medley : Embraceable You (Ira& George Gershwin)
 〜Quasimodo (Charlie Parker)
5. Lament (J.J.Johnson)
6. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan)
7. Dalarna (Tommy Flanagan)
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)


<2部>曲説へ

1. Bitty Ditty (Thad Jones)
2. They Say It's Spring (Marty Clark/Bob Haymes)
3. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis)
4. Medley: Thelonica (Tommy Flanagan) 〜Mean Streets (Tommy Flanagan)
5. Some Other Spring (Irene Kitchings / Arthur Herzog Jr.)
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
7. I'll Keep Loving You (Bud Powell)
8. Our Delight (Tadd Dameron)


<Encore>曲説へ>

With Malice Towards None (Tom McIntosh)

Ellingtonia
A Flower Is a Lovesome Thing (Billy Strayhorn)
〜Chelsea Bridge (Billy Strayhorn)
〜Passion Flower (Billy Strayhorn)
〜 Raincheck (Billy Strayhorn)


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<第1部>曲目解説
 1. 50-21 フィフティ・トゥエンティ・ワン  (Thad Jones)

 
今回のトリビュート・コンサートはトミー・フラナガンの思い出のジャズクラブ、“ザ・ブルーバード・イン”に因んだ作品から始まった。
 50-21は“ブルーバード”があったデトロイトのウエストサイドのタイヤマンという通りの番地、つまり洗練と気品でNY派と一線を画すデトロイト・ハードバップの生誕地の番号なのだ。現在も店舗はあるけれど残念ながら営業はしていないらしい。
 作曲者のサド・ジョーンズ(cor)は、このクラブのハウスバンドのスター・プレイヤーとしてフラナガンと共演し、NYに進出した。

 寺井尚之は、切り詰めた密度の高い音楽表現で、トリビュートに相応しい大きなスケールのプレイを聴かせた。

2. Beyond the Bluebirdビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)

 50-21が50年代の作であるのに対して、「ブルーバードを越えて」というこの作品は、サド・ジョーンズの死後、'90頃にフラナガン自身が作曲した名曲。

 幾多の天才を輩出したデトロイトの地と、ジャズクラブの理想形であった“ブルーバード・イン”へのオマージュが立ち上る。

 演奏から立ち上るブルーな曲の色合いは、ジーンズのそれではなくシルクの光沢を放つ。ブラック・ミュージック特有の転調はここまで気品と温かみを放つのだろうか?今夜の演奏から、フラナガンのデトロイト時代の思い出が湧き上がるような印象に捉われた。
 3. Minor Mishapマイナー・ミスハップ (Tommy Flanagan)

 
クールでありながら火の玉のように疾走するハード・バップの魅力が一杯の曲。トミー・フラナガンの初期のオリジナル曲で、レコードの初演は'57年の"The Cats"、以来、色んなフォーマットでたびたび録音しているが'80年代の録音ヴァージョンは、初演より遥かに高度な音楽表現を聴くことが出来る。

  フラナガンが初来演した時の名演は今も寺井尚之の心に残っている

 
  4. メドレー : Embraceable You エンブレイサブル・ユー (Ira& George Gershwin)
         Quasimodo カシモド(Charlie Parker)

 甘い恋のバラード、それを基にチャーリー・パーカーが書いたバップ・チューンの組み合わせはジャズの演奏スタイルとしては極めて異例で、トミー・フラナガンの深い音楽観を象徴する名演目だ。

 カシモドはホラー映画に出てくる『ノートルダムのせむし男」、批評家達は、元曲の「抱きしめたい人」のパロディと解釈しているが、本当はそうではない。カシモドとは苦悩する天才パーカー自身であり、一対のメドレーは肉体が朽ちた後に成就する魂のラブ・ストーリーだった。(詳しい説明はブログへ)

 生前フラナガンはライブのMCで「エンブレイサブル・ユーと、その骨格(framework)から作られたカシモドを・・・」と、必ずという言葉を使ってヒントを発している。
 
 フラナガンの強いメッセージを再発信した今夜の演奏はトリビュートに相応しいものだ。

  5. Lament ラメント(J.J.Johnson)
 
 哀歌(Lament)、作曲者J.J.ジョンソンは、誰を、何を悼んでこの美しい曲を書いたのだろうか?

 トミー・フラナガンはトロンボーンの神様、J.J.ジョンソン(tb)のバンドで'57-'59にレギュラーで共演しており、『ダイアル・JJ5』を始めとして数々の名盤を遺したが、J.J.ジョンソン5とフラナガンのLamentの演奏は残っていない。

 寺井尚之が挿入するセカンド・リフは、トミー・フラナガンのものだ。ライブではよく演奏していたものの、フラナガンが遺した唯一のレコーディング、『Jazz Poet』ではジョージ・ムラーツ(b)と紡ぎ合うハーモニーの美しさに息を呑む。

 この夜も研ぎ澄まされたピアノのサウンドと宮本在浩(b)の美しいベースラインに何層にもなったハーモニーが響き渡った。


 
 
 6. Rachel's Rondo レイチェルズ・ロンド(Tommy Flanagan)
 
 トミー・フラナガンには前妻アンとの間に二女一男をもうけた。アンは'80年に交通事故で他界しているが、三人の子供たちは家庭を持ち、晩年のフラナガンには5人の孫がいて、親しく付き合っていた。

 レイチェルは長女、フラナガンの子供たちは全員西海岸に住んでいるので会った事はないが、フラナガン家のアパートには、レイチェルの写真が沢山飾られている。聡明な大きな瞳と整った顔立ちが父親譲りで、ジャズメンの間でも評判の美人だった。

 レイチェルの学生時代の写真のように、瑞々しい躍動感と、爽やかな香りに満ちた作品は、'80年の『Super Session』以外演奏した記録はない。しかし、寺井尚之はこの曲の中に潜む、フラナガン的なコンセプトをより明確にして聴かせた。それこそフラナガンへの何よりのトリビュートになるはずだ。

  7. Dalarna ダラーナ(Tommy Flanagan)

 ダラーナはスエーデン中部の美しい地方の名前。トミー・フラナガンがJ.J.ジョンソンとスエーデンに楽旅した際に録音した初期の名盤『Overseas』に収録されている。

 親しみのあるメロディと幽玄なハーモニーの組み合わせは、その楽旅直前にフラナガンを大いに激励してくれたビリー・ストレイホーンの影響が感じられる。森と湖に囲まれたダラーナ地方の景観は、エリー湖に面する故郷の心象風景と共通するところがあったのかも知れない。

 『Overseas』('57)以降、フラナガンは全く演奏していなかったが、寺井のアルバム『ダラーナ』('95)を聴き、翌年『Sea Changes』('96)で再演。同年の、OverSeasのコンサートでは、寺井尚之の構成とフレーズをそのまま使って演奏し、寺井と満員の聴衆を大いに感動させた思い出の曲。

 
 8. Tin Tin Deo ティン・ティン・デオ (Chano Pozo,Gill Fuller,Dizzy Gillespie)

 アフロ・キューバン・ビバップの代表作でトミー・フラナガン極めつけの名演目のひとつだ ビバップ時代、ディジー・ガレスピー(tp)楽団で活躍したキューバ生まれの天才パーカッション奏者、チャノ・ポゾの作品で、文盲のチャノ・ポゾが口ずさむメロディをガレスピーとフラーが書き取った曲と言われている。

 ラテンとアフリカのエレメンツが融合した哀愁のあるメロディと複合的なリズムの名曲がフラナガンの手にかかると、曲の持つ品格が更に浮き彫りになる。The Maistemは三位一体となったレギュラー・トリオも持ち味を最大限に発揮して、息もつかせぬ大胆なプレイを聴かせた。
 

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<第2部>曲目解説
  1. Bitty Ditty ビッティ・ディッティ (Thad Jones)
 
今回はセカンド・セットもサド・ジョーンズの曲で始まった。この日(3/28)がサド・ジョーンズの誕生日だからだろうか?

 曲の意味は、「とても短い簡単なメロディ」だが、逆を言う口語表現で、実は超難曲だ。トミー・フラナガンが「エリントンと並ぶ天才」と賛美したサド・ジョーンズの作品はどれも、天使の清々しさと悪魔の超絶技巧が同居している。つまりトミー・フラナガンの洞察力と技量は、正にサド・ジョーンズ作品に相応しいものだった。『Motor City Scene』『Let's』『Nights At The Vanguard 』など録音も多い。寺井尚之は『Dalarna』に収録しており、ウィーク・デイにも愛奏している。

 
 
  2. They Say It's Spring ゼイ・セイ・イッツ・スプリング (Marty Clark/Bob Haymes)

 三月のトリビュート・コンサートのお楽しみは、トミー・フラナガンが春になるとスプリング・ソングスと呼んで愛奏した春の曲の数々。この曲は、フラナガン夫妻の友人だった弾き語りの歌手、ブロッサム・ディアリーの得意曲。
 NY生まれでパリ帰りのディアリーは、少女のように甘い声と、ウィットに富む知的な表現で、NYやロンドンでカルト的な人気と高い評価を得ていたが、今年の2月に84歳で他界している

 「このときめきは春のせいだと人は言う、本当はあなたに恋をしているからなのに…」、おしゃまな少女のように歌ったディアリーの音楽エッセンスを抽出したようなフラナガンの演奏はNYの街に春を呼んだ。

 
 寺井がOverSeasでこの曲を演奏すると、「ああ、もう春なんだね!」と、やはり客席が華やぐ文字通りスプリング・ソング。デトロイト・ハード・バップ・ロマン派の関西人、寺井は宝塚歌劇団のシンボル・ソング「すみれの花咲く頃」をエンディングに使い、客席に笑顔がこぼれた。

 曲についての詳しい解説はブログまで。


 3. That Tired Routine Called Love ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ  (Matt Dennis)
 

 “ゼイ・セイ・イッツ・スプリング”同様、暗さ知らずの恋の歌、こちらにはさらに都会的な三枚目の味わいがある、作者は「コートにスミレを」など多くの名曲を生んだマット・デニス。フランク・シナトラの音楽監督として有名だが、寺井は弾き語りの名手としてピアノの技量も非常に高く評価している。

 "トロンボーンの神様"JJジョンソンは、セレブ御用達の高級ナイト・クラブ“チ・チ”でデニスのショウにゲスト出演したのがきっかけで、名盤《First Place》にこの曲を収録、ピアニストは勿論フラナガンだった。鼻歌で歌えるメロディだが、演奏者には「転調地獄」の難曲。そこがジャズメンのプレイヤー魂を刺激する。

 フラナガンは後に名盤『Jazz Poet』('89)に収録、「私以外に今この曲を演奏する者はいない』と語り、 寺井尚之はフラナガンの言葉に挑戦するかのように『AnaTommy』に収録。

 やがてフラナガンは、ジョニー・グリフィン等同輩の共演者に「こいつはわしのレパートリーは何でも知ってるし、弾けるんだ。」と寺井を自慢気に紹介するようになった。

 今夜の寺井の演奏に耳を傾けるフラナガンのポートレートの鼻が少し膨らんで満足そうな表情になったのは気のせいだろうか。

  4.フラナガンメドレー:
Thelonica セロニカ 〜Mean Streets ミーンストリート (いずれもTommy Flanagan)
  
   トリビュートの醍醐味は寺井尚之ならではのトミー・フラナガン・メドレー。
 
 パノニカ男爵夫人とセロニアス・モンクの男女の愛情を遥かに超えた稀有な友情に捧げるThelonicaは、研ぎ澄まされた荘厳な美を持つ最高のバラードだ。

 続くMean Streetsはかつて<ヴァーダンディ>として『Overseas』('57)に収録、エルビン・ジョーンズ(ds)のブラッシュ・ワークが感動を呼んだ。
やがて'80年代終わりに弱冠20代だったケニー・ワシントン(ds) がフラナガン・トリオに加入('88−'89)してから、ケニーのあだ名、ミーン・ストリーツ(デキる野郎)に改題し愛奏した。こちらはフラナガニアトリオ時代に河原達人(ds)が、The Mainstemの現在は菅一平(ds)のフィーチュア・ナンバーとしてOverSeasでも大変人気のあるハード・バップ・ナンバー。今夜のドラムソロは菅一平が大きく成長したことを印象付けた。

 
パノニカ男爵夫人の詳細はブログまで。


 5. Some Other Spring サム・アザー・スプリング (Irene Kitchings / Arthur Herzog Jr.)
 会場の空気を一変させる色合いのピアノで始まったのは、フラナガンが大きな影響を受けた歌手ビリー・ホリディの名唱で知られるほろ苦い味のスプリング・ソングだ。

 精一杯尽くしたのに、年下の夫は他の女性と駆け落ちした。絶望の中に微かな希望の光を見出すという歌。女心の機微がThe Mainstemの演奏から伝わってきて、昔フラナガンが聴かせてくれたNYの春の寒さを懐かしく思い出した。

 曲や歌詞についての詳しい説明はブログへ。
 
6. Eclypso エクリプソ (Tommy Flanagan) 

  フラナガン・ファンなら「エクリプソ」が嫌いな人はいないだろう。この不思議な言葉は“Eclipse”(日食や月食)と“Calypso”(カリプソ)の合成語、恐らくはフラナガン自身の造語だろう。フラナガンは言葉遊びが大好きで、駄洒落を言うと「おまえはヒップだな!」とすごく喜んでくれた。

 この曲はフラナガンが最も繰り返し録音したオリジナル曲で、『Cats』、『Overseas』('57)、『Eclypso』('77)、『Aurex'82』、『Flanagan's Shenanigans』('93)『Sea Changes』('96)など、'50年代から晩年まで録音の記録が残っており、時代やメンバーによって色々なバージョンが楽しめる。

 寺井が'88年にフラナガン夫妻の招きでNYを訪問した時、フラナガン・トリオはヴィレッジ・ヴァンガードで、毎夜火の出るようなハードな演奏を繰り広げていた。フラナガンは寺井を息子のように扱い、滞在期間はあっという間に過ぎた。帰国前夜の最終セットのアンコールで、フラナガンが寺井に捧げてくれたのがこのエクリプソで、満員の聴衆が寺井に拍手を贈ってくれたのが昨日のことのようだ。
 
  7. I'll Keep Loving You アイル・キープ・ラヴィング・ユー (Bud Powell)

 硬派のバラードで作曲家としてのバド・パウエルの真骨頂を示す名曲。ブラック・ミュージックのスピリチュアルな特質が昇華されて静謐な美を作り出している点は、先に演奏したフラナガン作品、Thelonicaと共通している。
 
 「いつまでも愛し続よう」そんな想いが、客席にこだまするような演奏になった。
 
  8. Our Delight アワー・デライト(Tadd Dameron)
 
 「アワー・デライトは、タッド・ダメロンがBeBop時代にディジー・ガレスピー楽団作った曲であります。
 “ビバップ”とはビートルズの前の音楽です…(少し間をおいてから、)そしてビートルズの後も生き続ける音楽であります!」

フラナガンは必ずこう言って、この曲をラストに演奏した。このMCに大拍手が沸くと一層プレイは爆発した。

 ビッグバンド・ナンバーもフラナガンの手にかかると、3人だけのピアノ・トリオで、ビッグバンド以上の醍醐味が味わえる。寺井尚之、宮本在浩、菅一平が、入れ替わり立ち代り妙技を見せてピアノの強烈なグリスで一気にクライマクスに持っていく展開は正にジェットコースターのようなスリルだ。

 The Mainstemのトリビュートに対する気迫が出た名演に拍手は鳴り止まなかった。
 
 

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<アンコール>解説
 With Malice Towards None ウィズ・マリス・トワーズ・ノン (Tom McIntosh)

  
賛美歌「主イエス我を愛す」のメロディを元にトロンボーン奏者トム・マッキントッシュが作曲したこの作品は、フラナガンージョージ・ムラーツの至高のデュオ・アルバム、『バラッズ&ブルース』に収録されている。(『バラッズ&ブルース』5月のジャズ講座に登場!)OverSeasでは非常に人気があり『ウィズ・マリス』と呼ばれて親しまれている。

  「誰にも悪意を向けずに」というジャズ・ナンバーらしくないタイトルは、多くの犠牲者を出した南北戦争後に、エイブラハム・リンカーン大統領再選就任演説で口にした名言だ。

 敬虔なクリスチャンで牧師の敬虔もあるマッキントッシュの「ブラックな作風」をフラナガンは高く評価し、自らの演奏で、そのブラックな特質を見事に表現した。

 フラナガンの演奏地がどこであろうと、OverSeasの常連達が見守る場所では、この曲に大拍手が沸き、最高の演奏を聴かせてくれたものだ。

 現在は日本人の寺井尚之が、この作品のブラックな美しさを見事に表現している。
 
 
 Ellingtonia
エリントニア  
ビリー・ストレイホーン・メドレー

 
 トミー・フラナガンがOverSeasに初来演した時に聴かせてくれたEllingtonia、それは今も寺井尚之の心に鮮明な印象を残す。
 トリビュート・コンサートのアンコールに登場するEllingtoniaは、The Mainstemが皆さんに贈る音楽の大きな花束だ。

デューク・エリントン(左)と、片腕のビリー・ストレイホーン(右)

デューク・エリントンビリー・ストレイホーンの伝記はブログまで
 トミー・フラナガンが 子供の頃から親しんだエリントン楽団は、BeBopの全盛時代になると時代遅れと見做す者が多かったがフラナガンはエリントン・ミュージックの真価を見抜き、NYで懸命にエリントンの演奏を聴き音楽の奥行きを広げて行った。

 『Overseas』を録音した北欧ツアーの直前、偶然NYの街で出会ったビリー・ストレイホーンから、激励の言葉と共に、彼の楽曲の譜面の束を接手渡されたフラナガンの喜びはどれほどだったろう?

 今回のエリントニアは、そんなフラナガンの人生に想いを馳せたくなる素晴らしいメドレーとなりました。
 A Flower Is a Lovesome Thing フラワー・イズ・ア・ラブサム・シング (Billy Strayhorn)
 
 “どこに咲こうと、どこで育とうと 花とは愛らしいもの” 花に因んだ作品が多い耽美派ビリー・ストレイホーンの作品の内でも、最も初期のもので、思春期に書いた歌と言われている。だが、花とは様々な肌の色や志向を持つ人間のメタファーであることは明らかだ。どんな人種であろうと、どれほど貧乏でも、ゲイであろうとストレイトでも、人間は愛すべきもの、生きる値打ちがあると美しいメロディに乗せて訴えかける。トミー・フラナガンは草花や動物が好きで、OverSeasを訪問する際も、カラーやユリといった清楚な花をプレゼントに持ってきたり、NYでは庭仕事が出来ないと残念そうに言うこともあった。

  With Maliceの後に聴くエリントニアの冒頭にこの曲を聴くと、寺井尚之がフラナガンの心の代弁者であることが実感される。
 
 〜Chelsea Bridge
 
チェルシーの橋  (Billy Strayhorn) 

 '75年京都でのトミー・フラナガン・トリオの秘蔵テープで、この曲が始まった時の日本のファンの大拍手を聴くだけで心が揺さぶられる。きっとその時のフラナガンも同じ気持ちで演奏しただろう。
 『Overseas』や『Tokyo Ricital』に録音が残るフラナガン極めつけの名演目。
 〜Passion Flower パッション・フラワー (Billy Strayhorn)

  パッション・フラワーはトケイソウのことで、磔刑のキリストに例えられる花だ。トミー・フラナガン3にジョージ・ムラーツが加入していた頃、毎夜ベースのフィーチュア曲として聴いた。

 現在もムラーツがOverSeasに来演すると必ず弓の妙技を聴かせてくれる。今夜は宮本在浩(b)が渾身のプレイで大喝采を浴びた。
 
 〜 Raincheck レインチェック (Billy Strayhorn)

 今回のトリビュートのクロージングは意表を付いたRaincheckだった。「レインチェック」は野球場などで雨天順延の繰り延べ切符のことで、「また次の機会に」という意味だ。ビリー・ストレイホーンが大戦中、LAに滞在していた時に作曲したと言われており、爽やかで軽やかなスイング感と気品が溢れる。トミー・フラナガンは『Jazz Poet』に名演を遺した。

 
 一糸乱れぬ呼吸とダイナミクスで、最後まで三位一体のトリオ演奏を繰り広げたThe Mainstemの2度目のトリビュート出演に相応しいラスト・チューンだった。
 

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  第14回目のトリビュート・コンサートは、春の香り一杯の楽しい一夜のお祭りとなりました。2001年にフラナガンが亡くなった時には、こんな集いをすることが出来るとは夢にも思いませんでした。

  今回のThe Mainstem Trioは、個人プレイに溺れることなく、チームのまとまりを一番にして、山あり谷ありのバップ曲を一丸で上昇下降するベスト・プレイ!大輪の花のような名曲の数々をコンサートという大きな花束にまとめて、私たちに手渡してくれました。

 きっと集まってくださったお客様たちの楽しい心が、春を呼び名演を生んでくれたのに違いありません。

 次回のトリビュート・コンサートは11月に開催いたします。ぜひ再び多くの皆様とご一緒に、トミー・フラナガンを想う楽しい夜になりますように!
皆様に心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 tamae