師匠トミー・フラナガンの名演目の数々を!
20th Tribute to Tommy Flanagan

トリビュート・コンサートはトミー・フラナガンが生誕した3月と、逝去した11月に開催する定例コンサートです。
曲目説明:Tamae Terai


Performed by "The Mainstem" TRIO


菅一平 (ds) 寺井尚之(p) 宮本在浩(b)

from left: Ippei Suga-drums, Hisayuki Terai-piano Zaikou Miyamoto -bass


<第20回トリビュート・コンサート・プログラム>

<1部>

1. Bitty Ditty ビッティ・ディッティ (Thad Jones)
 Bitty Ditty (ちょっとした小唄)というタイトルに、作曲者サド・ジョーンズの茶目っ気が感じられる。実際はタイトルとは真逆で、変則小節、転調だらけの難曲だが、聴く者には、どこまでも爽やかで楽しく響く。それがデトロイト・ハードバップというものです。トミー・フラナガン'80-'90年代の愛奏曲。
2. Beyond the Bluebird ビヨンド・ザ・ブルーバード (Tommy Flanagan)
  
トミー・フラナガンが20代にサド・ジョーンズ達とレギュラー出演したデトロイトのジャズクラブ“ブルーバード・イン”を回想して作った。数少ないフラナガンのオリジナルの内、最後の作品。ブルージーで気品のある曲風は、フラナガンが求める「Black Music」の典型だ。フラナガンの自信作で、、“Beyond the Bluebird”リリース以前にフラナガンから異例の写譜を許された。日本で初演したのは寺井尚之だ。

3. Thelonica~Minor Mishap セロニカ~マイナー・ミスハップ (Tommy Flanagan)
 トミー・フラナガンのオリジナルをメドレーで!“セロニカ”はセロニアス・モンクとパノニカ夫人の友情に捧げた作品、極上の日本酒のようにすっきりとした味わいが二人の間柄をよく表現している。ジャズのオリジナルの中では五指に入る難曲だ。
 “Minor Mishap”(ささやかなる不幸)は、'58年、ジョン・コルトレーン(ts)、イドリース・スリーマン(tp)、ケニー・バレル(g)達とのアルバム『the Cats』で初演以来、フラナガンが何度もレコーディングしている。

4.メドレー: Embraceable You (Ira and George Gershwin) エンブレイサブル・ユー - Quasimodo カシモド (Charlie Parker)


 
ガーシュインの甘いスタンダードナンバーと、そのコード進行を基にしたチャーリー・パーカーのバップ・チューンの組み合わせ。“Embraceable You”のキーはFで、“Quasimodo”になるとE△へと、絶妙の転調を施すことで起伏を生みだす。これが転調の名手と言われるゆえんだ。フラナガンが紡ぎ出した数々のメドレーの内でも最も感動的な作品。関連ブログ


5. Sunset & the Mockingbird (Duke Ellington, Billy Strayhorn)


  晩年のライブ盤、バースデイ・コンサート('98)のタイトルになった印象的な作品。エリントンの自伝(Music is My Mistress)によれば、フロリダ半島でふと耳にした鳥の鳴き声を元に作ったと言う。フラナガンは、それをラジオで聞き覚えてピアノトリオのヴァージョンに仕立て上げた。A1(10) A2 (10) B(8) A3 (10)と変則な小節数も、聴くものには、全く自然で、心に響いてくる。寺井はフラナガン譲りの美しいタッチでエリントン的な大自然を表現してみせる。
6. Eclypso (Tommy Flanagan)
 恐らく最も有名なフラナガン作品。"Eclypso"は「Eclypse(日食、月食)と「Calypso(カリプソ)」の合成語。トミー・フラナガンは、こんな言葉遊びが好きで、そんなウィットがプレイに反映している。寺井尚之がフラナガンの招きでNY滞在した最後の夜、フラナガンが寺井のために演奏してくれた思い出の曲。
 5月の金環日食を観たら、この曲を思い出してください!
7. Dalarna ダラーナ (Tommy Flanagan)

 『Overseas』に収録されている初期の有名なオリジナル。フラナガン作品の例に漏れず、厳しい転調を用いて独特の曲想を作り上げている。録音後、フラナガンは長年演奏することがなかったが、寺井尚之が『ダラーナ』を録音したのを受けて、『Sea Changes』('96)に再録、寺井のアレンジをそのまま使っている。

 
8. Tin Tin Deo (Chano Pozo, Dizzy Gillespie, Gill Fuller)
 トミー・フラナガン極めつけの名演目、キューバの哀愁、ラテンの土臭さと、ビバップの洗練が見事に融合し、何とも知れない魅力を醸し出す。ディジー・ガレスピー楽団がTin Tin Deoを録音したのは'51年のデトロイトだった。
 深いビートと、カラフルなドラミング、現在は寺井尚之The Mainstemの十八番でもある人気曲。


<2部>

1. That Tired Routine Called Love (Matt Dennis, Ted Steele)ザット・タイヤード・ルーティーン・コールド・ラヴ 
 弾き語りの名手で、フランク・シナトラの音楽監督を務めたマット・デニスの作品。ユーモラスな暗さ知らずのラブソング、フラナガン好みの転調一杯の名演目だ。フラナガンは'80年代終わりから、'90年代前半にかけて、この曲を盛んに愛奏し、名盤『Jazz Poet』に収録後も、アレンジはどんどん進化していった。トリビュートでは、フラナガンがライブで披露した進化ヴァージョンで。

2. They Say It's Spring (Marty Clark/Bob Haymes)
 NYの街に春の到来を告げるフラナガンの演目、スプリングソングの一曲。'90年代、フラナガンは春にNYでジャズクラブ出演をするのが常で、その際には春に因んだスプリングソングを必ず数曲聞かせてくれた。この曲は、J.J.ジョンソン・クインテット時代の盟友、ボビー・ジャスパーの妻で、弾き語りの人気歌手、ブロッサム・ディアリーのライブで聴いたのがきっかけで、ジョージ・ムラーツ(b)との名デュオ・アルバム『Ballads & Blues』に収録した。
  曲についての詳しい解説はブログに。

3. Rachel's Rondo (Tommy Flanagan) レイチェルのロンド


 
フラナガンの長女、レイチェルに捧げた躍動感と気品溢れる作品。フラナガンは『Super Session』('80)に録音、その後、寺井尚之がフラナガン以上に愛奏、『Flanagania』('94)に収録している。

 曲の構成はA1(8) A2(8) B(8) A3(8)、これもまた、トミー・フラナガン好みの厳しい転調のある作品だ。

4. Celia  (Bud Powell)シリア
 バド・パウエルが脳疾患にも拘らず、盛んにレコーディングを重ねていた1949年、愛娘のシリア・パウエルに捧げ『Jazz Giant』に収録した作品。A1(8) A2(8) B(8) A3(8)形式、8小節のインタールードが付く重厚な作品。批評界ではパウエルの『Jazz Giant』の評価は低いそうだが、フラナガンはこのLPを書斎に飾り愛聴していた。'89年NY、リンカーン・センターで開催されたバド・パウエルへのトリビュート・コンサートでのフラナガン・トリオの名演奏のアレンジで。.
 
5. If You Could See Me Now (Tadd Dameron)

 タッド・ダメロンがサラ・ヴォーンの為に書きおろした美しいバップ・バラード。フラナガンは'80年代終盤から、'90年代前半にかけて愛奏し、サラ・ヴォーンのフレーズをセカンドリフとして、印象的なアレンジを施した。寺井尚之は同アレンジで『Flanagania』に録音している。
6. Mean Streets (Tommy Flanagan) ミーンストリーツ
 
初期の名盤『Overseas』に“Verdandi"というタイトルでエルヴィン・ジョーンズ(ds)が人気を博した。40年後、ケニー・ワシントン(ds)フィーチュアし愛奏。円熟期の代表アルバム『Jazz Poet』('89)にケニーのニックネームを冠して再収録。

 テーマは13小節で、アドリブになると、A1(8) A2(8) B(8) A3(8)形式になる。また、『Jazz Poet』以降セカンドリフが変更された。
7. I'll Keep Loving You アイル・キープ・ラヴィグ・ユー (Bud Powell)

 Celia
同様、『Jazz Giant』に収録されたバド・パウエル作品。フラナガンはライブ盤、『Nights at the Vanguard』に演奏を残している。フラナガンがNYに出てきて僅か数週間で一流クラブ“バードランド”に出演できたのは、バド・パウエルの代役としてであった。すでに脳を病んでいたパウエルとは親しく交際することはできなかったけれど、フラナガンは中学生でパウエルの楽曲を完全コピーして、そのまま弾くことができた。
8. Our Delight (Tadd Dameron)
 これもフラナガンが愛奏したダメロン作品。A1(8) A2(8) B(8) A3(8)形式。囁くようなピアニッシモから、強力なグリスで爆発するフォルテッシモ、縦横無尽にスイングするバップの激しさと繊細さを併せ持つ名作で、宮本在浩(b)、菅一平(ds)の聴きどころも一杯!フィナーレに相応しい!


Encore

1. With Malice Towards None (Tom McIntosh)
 フラナガンが、ブラックだからという理由で好む作曲家トム・マッキントッシュの名曲。
題名は「誰にも悪意を向けずに」という、エイブラハム・リンカーンの名言から名付けられた。
 メロディは、賛美歌「わが主イエス、我を愛す」を基にしたもので、スピリチュアルでシンプルなメロディから、色彩豊かなハーモニーが湧き出る。マッキントッシュ自身やミルト・ジャクソンなど、録音は色々あるものの、フラナガンの気品ある演奏解釈は傑出しており、OverSeasの大スタンダード曲になっている。
2.Medley:Ellingtonia
  フラナガンが初めてOverSeasに来演した時に演奏したデューク・エリントン・メドレー(エリントニア)はなんとエリントン作品11曲という壮大なスケールだった!最もアメリカ的で最もブラックな名曲の数々。
 
寺井尚之が受けた感動をトリビュートで伝えたい!

ビリー・ストレイホーン(左)とデューク・エリントン(右)コンビによる作品群は、音楽芸術に於ける最高の共同作業と言われた。
A Flower Is a Lovesome Thing  ア・フラワー・イズ・ア・ラブサム・シング
 
花をこよなく愛したビリー・ストレイホーン青年時代の作品。
  「どこで育とうと、  どこへ行こうとも、  花は愛らしきもの」

  花を賛美する耽美性の裏には、黒人であり、ゲイであったために、人知れぬ苦労をしたストレイホーンの「平等」への強い思いが感じられる。後年、ストレイホーンは、エリントンと共に、キング牧師の展開した公民権運動を強く支持した。
Chelsea Bridge (Billie Staryhorn)
 
 『Overseas』や『Tokyo Ricital』にフラナガンの名演奏が遺されるビリー・ストレイホーン作品。印象派的な作風はDalarnaのようなフラナガン作品に影響が感じられる。

Passion Flower (Billie Staryhorn)
 
同じくストレイホーン作の“Passion Flower”は、フラナガン・トリオ時代から現在に至るまで、ジョージ・ムラーツ(b)の十八番としてよく知られている。宮本在浩はトリビュート直前に弓の毛替えをして、スケールの大きなアルコ・プレイを披露、お客様を魅了した。

Black and Tan Fantasy (Duke Ellington) 
 禁酒法時代、ハーレムで栄えたコットンクラブでヒットしたエリントン初期の作品。そしてフラナガン晩年の愛奏曲。フラナガンのブラック・ミュージックの原点と言えるだろう。

 亡くなる前の年、フラナガンは、エリントン楽団のエレメンツを多く取り入れた寺井の「Black & Tan Fantasy」を絶賛した。
 テーマは A1(12) B1(8) B2(8) 、アドリブはBブルース。
 

デューク・エリントン
(1899-1974)

トリビュート・コンサートの演奏を演奏をお聴きになりたい方へ:
3枚組CDがあります。

OverSeasまでお問い合わせ下さい。

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