DALARNA
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●曲目 Recorded at Jazz Club "Over
Seas" , Osaka Sep.23&24. 1995 |
●ライナー・ノーツ by 岩浪洋三(ジャズ評論家) トミー・フラナガン賛歌第三弾、 ピアノの寺井尚之は大阪で、それも自分のライブ・ハウス「オーバーシーズ」を拠点にして活動しているが、一昨年から「アナトミー」(ハニルレコード)、「フラナガニア」(フラナガニア・レコード)と次々にアルバムを出すことによって、その名も全国的に知られ、ファンもふえてきている。早くも第三弾「ダラーナ」(フラアナガニア・レコード)が出ることになったが、これは彼自身も言っているように、「トミー・フラナガン賛美組曲の第三楽章」とでもいうべきものである。 彼は世界随一のトミー・フラナガン研究家であり、トミーが公認の唯一の弟子でもある。寺井はトミーのレコードはすべて集めており、そのほとんどの曲を採譜し、研究してきたというからただ者ではない。しかし、けっしてトミーのそっくりさんやエピゴーネンではない。聴き比べればわかるが、トミーを研究した後はみられるが、模倣ではなく、自分のヴォイシングとフレーズで演奏している。立派に自分の個性を確立しており、これからますますの活躍が期待される。さる95年9月にはNHK-FMの「セッション95」に出演し、その快演は好評を博した。その人気はますます全国区になっていくことだろう。 ぼくは大阪へ行く機会があると、よくオーバー・シーズへ彼のプレイを聴きに出かけるが、ライブでもレコードでも、彼のプレイはケレン味がなく、一音のミスも許さない厳格さと真摯さに溢れている。さる11月のはじめにも、ぼくが大阪梅田の大丸で開いているジャズ講座の会員(大半は女性)たち6、7名と懇親もかねてみんなで寺井尚之トリオを聴くためにオーバー・シーズに出かけた。寺井氏がちょうどこのアルバムの録音を終えたばかりでもあり、本アルバムに収録されている「ビッティー・ディッティー」や「バット・ビューティフル」も演奏され、ライナー・ノーツを書く上でも大いに参考になった。ジャズ講座の会員たちと聴きに出かけたのは二度目だが、ライブを聴いた人たちはみんな彼のピアノのファンになるようだ。彼のピアノは繊細で、流れるような美しいフレーズをもってアドリブが展開されるが、さすがトミー・フラナガンを師とあおぐだけあって、転調やハーモニーのあざやかさには際だったものが感じられる。 彼はもともと医者をめざして勉強にはげんでいたのだが、ある時、息抜きで入ったジャズ喫茶で聴いたジャズにいっぺんに心をとらえられて、医者の道を捨ててジャズの道へ入ったのだという。先に触れたように、自分のプレイに徹するミスを許さぬ厳格な態度、つねに理想のプレイを追求してやまぬまじめな姿勢をみていると、もし医者になっていたとしてもきっと名医になっていたに違いないと思う。 ところで、たびたび書いてきたように、彼はトミー・フラナガンを徹底して研究してきたピアニストでもあり、彼のレパートリーにはかつてトミーが録音したり、演奏してきたりした曲が多い。そのため、彼のピアノをよりよく知り、理解してライナー・ノーツを書くためにはトミーのピアノ演奏も聴いておく必要があるので、このところ中古レコード店に行くと、自分の持っていないトミーのレコードをせっせと買うことにしている。寺井氏のレパートリーや録音曲には必ずトミーのオリジナルや愛奏曲が入っているからである。今回の第三作「ダラーナ」もまさにそういったアルバムであり、アルバム・タイトル曲「ダラーナ」は傑出したトミーのオリジナルだ。先日中古屋で買ってきたトミーの「ジャズ・ポエット」には今回寺井尚之トリオが演奏録音している「ラメント」が収録されていて大いに参考になった。 なお、今回の演奏メンバーは前回と同じで、宗竹正浩(ベース)1967年2月2日生まれ、河原達人(ドラムス)1957年11月8日生まれ、が共演している。寺井尚之については前回のアルバムでも紹介したが、もう一度簡単に触れると、1952年6月6日の大阪生まれで、4歳からクラシック・ピアノを始め、18歳でジャズ・ピアノに転じた。彼が特に好んだのが、デトロイトを中心に活躍してきたトミー・フラナガンらのハード・バップである。とくにトミーのピアノの研究に熱中し、トミーに師事し、何度もトミーの家も尋ねて親交を結び、彼のピアノは急速に飛躍し、アメリカのプレイヤーたちも寺井尚之のピアノを注目するようになった。 そして、1979年に寺井氏は自分の店「Over Seas」を開店し、毎夜7時から9時半過ぎまでここで演奏するようになった。ジャズメンにとって毎夜演奏できる場所を確保しているのは大きな強みである。彼はここで演奏しながら腕をみがいているが、いっぽうですぐれたジャズメンをここに出演させてきた。その中にはジミー・ヒース、ジョージ・ムラーツ、アーサー・テイラー、ローランド・ハナ、デューク・ジョーダン、スタンリー・カウエル、エルマー・ギルらの外国プレイヤーがおり、95年12月にデューク・ジョーダンが出演したが、なんと6度目だという。さらに寺井氏は念願だった自己のレーベル“フラナガニア”を創設しており、前作「フラナガニア」と本作「ダラーナ」はこの自己レーベルからの発売である。 なお、共演の宗竹正浩は19歳で寺井尚之に師事し、現在も一緒に演奏することが多い。すぐれたリズム感と線の太い律動感のあるビートは魅力的だ。バスター・ウイリアムズが好きだという。 河原達人は18歳でドラムをはじめ、ずっと寺井のグループで演奏してきた。よく歌うドラマーで、スタンダードの場合、歌詞も覚えて演奏するという念の入れようだが、反面野性的で力強く奔放なドラミングを見せる。フィリー・ジョー・ジョーンズが好みだという。 ●<演奏と曲目について>
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