ANATOMMY
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●ライナー・ノーツ by 岩浪洋三(ジャズ評論家) トミー・フラナガンに捧ぐ 大阪によく知られたジャズ・クラブ、Over Seas(オーバー・シーズ)がある。ピアニストの寺井尚之の店であり、彼は日本ではこの店でしか演奏しないという。このジャズ・クラプの名前から有名なトミー・フラナガンの名盤「Overseas」を思い起こす人は立派なジャズファンと言える。寺井尚之は大のトミー・フラナガンの賛美者であり、23年にもわたってトミーのピアノを研究してきたという。それで自分のジヤズクラブもOverSeasと名付けたのであろう。 その寺井尚之がついに念願のトミー・フラナガンに捧げるアルバムを録音する日が来たのである。それがこの「Anatommy」一アナトミー一であり、アルバムの制作を依頼したのは韓国のハニル・レコードである。ハニル・レコードの記念すベき第一作ということだが、トミー・フラナガンも「OverSeas」はアメリカ人にとっては海外に当たるスエーデンのメトロノーム・レコ一ドヘの録音であった。寺井尚之の場合も海外は韓国のハニル・レコードヘの録音である。共に海外のレーベルヘの録音ということで不思議な因縁を感じてしまうのである。 寺井尚之のトミー・フラナガンに対する傾倒ぶりは並ではないのである。僕もトミーの演奏は好きなほうだが、僕など足もとにも及ぱない。彼は300枚を越えるリーダー作や参加アルバムのほとんど全ソロを採譜し、研究してきたという。それでいて、本アルバムを聴けばすぐにわかるが、寺井尚之のピアノはトミーから影響は受けていても、決して模倣者やエピゴーネンではないのである。トミーのピアノ・プレイを消化して自分のスタイルを作り上げて弾いているのは立派である。 アルバム・タイトルもちょっと凝っていて面白い。よく眺める必要がある。anatomyという英語はデューク・エリントンが音楽を書いたオットー・プレミンジャー監督の映画「ある殺人」Anatomy ofMurder」のタイトルを思い起こさせるが、解剖学といった意味である。しかし、本作のタイトルには“M”が1つ多い。Anatommyとなっているのである。これは元の英語とトミー・フラナガンのTOMMYに引っ掛けた粋な新造語というわけだ。寺井尚之のトミー・フラナガンヘの思い入れを表現したタイトルでもある。 ところで、アメリカのジャズ雑誌ダウン・ビート誌の12月号で発表された読者の人気投票によると、ピアノの部門で318票とって第1位に選ばれたのはトミー・フラナガンであった。ケニー・バロン、マッコイ・ターナー、オスカー・ピーターソンを押さえての第1位である。トミーに捧げるアルバムが作られるのもグッド・タイミングといえるだろう。日本でもトミーのファンは多いし、トミーのオリジナルや彼の愛奏曲を中心にしたこのアルバムはトミーやピアノ・トリオのファンに大いに歓迎されるにちがいない。 ここでアルバムのリーダー、寺井尚之のプロフィールを紹介しておこう。1952年6月6日の大阪生まれで、トミー・フラナガンの唯一の弟子でもある。4才からクラシックのピアノをはじめ18才でジャズに転向した。彼は1950年代の後半に栄えたトミー・フラナガンを中心としたデトロイトのハード・バッパーたちに傾倒してきた。とくにトミーの研究に関してはニューヨ一クのアメリカのミュージシャンたちも一目置いているという。79年から大阪で自分のジャズ・クラブ OverSeasを開き、ここを本拠地にして、ジャズ一筋の演奏を行って今日に至っている。つねに本格的なジャズプレイに徹しているのでファンの支持も高いが、日本ではここ以外ではほとんど演奏しないので、大阪以外では余り知られていなかったのだが、本アルバムによって、広くその実力を認められるようになるだろう。卓越したテクニックと美しいタッチによるスィンギーなプレイはジャズの伝統を生かしたもので、聴くものの心を躍らせるものがある。またユーモアやウィットのセンスも彼の得難い魅力のひとつであろう。 彼がトミー以外で影響されたミュ一ジシャンとしてはジョージ・ムラーツ、ローランド・ハナ、バド・パウエル・スタンリー・カウエル、ジミー・ヒースらの名を挙げている。またこれまでに共演したミュージシャンにはジョージ・ムラーツ、レッド・ミッチェル、ルーファス・リード、ミッキー・ロッカー、ヴィクター・ルイス、アキラ・タナ、ジミー・ネッパー、ラルフ・ムーアらがいる。名手寺井尚之が本アルバムで世界に向けて紹介されるようになるのは日本のジヤズ界にとっても大きな収穫と言えるだろう。 なお、本アルバムを制作したハニル・レコードHANIL RECORDは大塩直哉が韓国のソウルに創立したレコード会社で、HANILが“韓日”を意味するように、韓日の架橋になるレーベルを目指すという。レーベル名のSOGUM(ソグム)は韓国語で塩を意味するという。本アルバムにつぐ第二作には韓国のナンバーワン女性歌手、パク・ソンヨンが寺井尚之トリオのバックで歌うアルバムを予定しているという。大変楽しみである。 ここでトリオを構成するミュージシャンにも触れておこう。べ一スの鷲見和広は1967年2月27日の鳥取生れ。18才のとき大阪に移り、20才からべ一スを始めた。大阪のテレビやラジオでも活躍し、その才能は広く認められた。90年からは寺井尚之とレギュラー活動を始め、ジョ一ジ・ムラーツに傾倒し、その研究を始めた。寺井とのコンビネーションもぴつたりで、大阪のトップ・べ一シストとしての評価を得ている。これまでの海外共演者にはトミー・フラナガン、デュ一ク・ジョ一ダン、ロジャー・ケラウェイ、ジュニア・マンスらがおり、傑出した技巧と快適なビートの持ち主である。 ドラムスの河原達人は1957年11月8日の大阪生まれ。18才でジャズをはじめ、ずっと寺井尚之のグループで活動を共にしてきた。力強いビートと共によく歌うドラミングが高く評価されている。歌ものでは歌詞まで憶えているぽどの研究熱心という。共演者にはトミー・フラナガン、ジョ一ジ・ムラーツ、デューク・ジョ一ダンらがいる。 ■曲目について
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